京都大作戦2019 ~倍返しです!喰らいな祭~ @京都府立山城総合運動公園 太陽が丘特設野外ステージ 2019 6/29

10-FEETが毎年京都で開催している恒例イベント「京都大作戦」。今や後続が断たないアーティスト主催フェスの先駆けであり、夏フェスの始まりを告げる存在でもあり、10-FEETを慕う多くのアーティストにとっての夢の舞台でもある。

 

毎年スペシャの特番で見ているだけだった自分がこのイベントに行こうと思ったきっかけは、一昨年の3日目の模様を見たからだ。一昨年の最終日は、マキシマム ザ ホルモンの途中で激しい雷雨に見舞われ、公演の中断を余儀なくされた。何とか再開できたものの、音出し終了時間まであとわずか。そのわずかな時間をホルモン、ROTTENGRAFFTY10-FEETで何とかリレーし、終演までこぎつけることができた。あの時、転換中も声を上げて応援していた会場を見て、胸が熱くなったのを覚えている。

 

本当は去年初めて行く予定だったのだが、未曾有の大雨に出くわして2日とも中止。しかし、去年の出演者が再び勢揃いし、今年は4日間の開催に。出演者がそうであるように、自分自身もリベンジを兼ねての参戦となった。

 

 

 

ヤバイTシャツ屋さん〈源氏ノ舞台〉

 

MOBSTYLES田原氏の前説を終え、4日間の口火を切るべく登場したのはヤバイTシャツ屋さん。源氏ノ舞台に立つのは初めてだ。お馴染の気の抜けるSEをバックに3人が登場すると、

 

「ここからまた新しい10年が始まります。1番手、任せてください」

 

と胸を張って宣言し、「Tank-top of the world」へ。休む間もなく「あつまれ!パーティーピーポー」「Universal Serial Bus」「かわE」となだれ込み、キラーチューンの応酬に歓声が上がる。

 

京都大作戦201!9!」

 

と微妙なコール&レスポンスを決めると、こやまたくや(Vo,Gt)は初年度から観客として京都大作戦に来続けていた、と古参アピール。そして

 

「アーティストの中では10-FEETの次に大作戦のこと知り尽してます。知り尽してるってことは、どうすればお客さんが盛り上がるかも知ってるんです!」

 

と強気に叫ぶと「L.O.V.E タオル」へ。もりもりもと(Dr.)は指揮者のようにスティックを振って観客を煽り、しばたありぼぼ(Ba,Vo.)が歌う部分では目の前に立ったこやまに

 

「セイセ…前立つな」

 

と突っ込んで爆笑を誘う。「とりあえず噛む」では縦乗りでグラウンドを揺らし、「無線LANばり便利」の大合唱にはこやまも満足そうだった。終盤、

 

「ちょっとだけ個人的な話をしてもいいですか」

 

と切り出したこやまは、

 

「2008年にここで10-FEETのライブを見たせいで人生狂わされました。衝撃を受けて、僕もバンドをしなくちゃいけないと思って、一緒に行った友達と10-FEETコピーバンド組んで。大学で今の仲間を見つけて、このバンドを組みました。そして今、このステージに立ってます。今めちゃくちゃ幸せです!」

 

と語る。11年前、ここで10-FEETに影響されたこやま少年は、バンドを組み、やがてオリジナル曲を作るようになり、それがたくさんの人に認められて、今では10-FEET直属の後輩になっている。ドラマのようなストーリーだが、遡れば10-FEETだって、Hi-STANDARDに影響されているし、大規模なアーティスト主催のイベントとしてAIR JAMの存在は切っても切れない。

 

バンドの歴史は、そうやって連綿と今日まで繋がっている。次はこの会場にいる誰かが、ヤバTのコピーバンドを組んで(というか実際、高校生や大学生でヤバTのコピーをしている人はかなり多い)、やがてヤバTとの共演や京都大作戦のステージを目標に掲げて成長していく。そんな新しいドラマの始まりを告げるかのようなアクトだった。

 

最後の「ハッピーウェディング前ソング」では、こやまとしばたがドラムの前に集まり、ジャンプして締めたのだが、その時の3人は、まるで少年少女のような無邪気さを纏っていた。

 

 

 

・四星球〈源氏ノ舞台〉

 

京都大作戦にコミックバンドがやって来たぞー!」

 

と元気よく現れた四星球。4日間の開催を祈り、楽器隊がてるてる坊主で登場するのだが、顔面が白塗りのモリス(Dr.)は遠目から見るとゴールデンボンバー樽美酒研二みたいだ。

 

「みんなリベンジ言うてるけど、僕ら去年呼ばれてないんですよ。この苦しみわかるか!?」

 

と、北島康雄は勝手に時を巻き戻し、京都大作戦2018の開催を宣言。

 

「平成最後の京都大作戦、いきますよー!」

 

と無理矢理すぎる幕開けだ。そうして「クラーク博士と僕」が終わると、まさやん(Gt.)が

 

「俺らいつも「時間がない時のRIVER」やってるけど、そろそろ本当のRIVERが弾きたい」

 

と不服そうにぼやく。それを受けてバンドは、「RIVER」に乗せて「クラーク博士と僕」を歌うというマッシュアップみたいな妙技を繰り広げる。歌詞のはまりっぷりに、思わずメンバーも観客も「すごい」と感嘆する。

 

「鋼鉄の段ボーラ―まさゆき」では、まさやんがダンボールで舞妓を作るつもりがマイケルジャクソンになってしまったことを告白。罰として、ギターソロの時に観客に耳を塞がせて下を向かせるのだが、前半部分で北島が

 

「もういいよー!」

 

と言ったので、後半の部分はちゃんと聴いてもらえていた。しかも舞妓もちゃんと作ってある。こういう所も含めて、彼らの笑いは誰かを貶めるものではないし、観客もそれをちゃんとわかっているから受け入れている。

 

「言うてますけども」では前日にスタバで打首獄門同好会と間違えられたエピソードで会場を笑わせる。更に「ぶっ生き返す!!」や「金色グラフティー」をやる振りを見せて曲に戻るというしつこさを発揮。どんなライブでも、いくらでも応用の効かせられるナンバーだ。

 

さらに「Mr.Cosmo」ではいつものようにUFOを呼ぶが、BRAHMANTOSHI-LOWにやられてUFOはボロボロに。それでも構わず北島は五重塔を持ち出すと、嵯峨野さやさや「たんぽぽ」に乗せて客席の中へ移動(選曲は京都を意識してか)し、PAテントの後ろまで駆け回った。

 

このように、挙げればキリがないほど、四星球のライブは盛りだくさんだ。35分の間に、これだけのギミックが仕込まれている。普段はおちゃらけているが、彼らのライブにかける情熱は真剣だ。だからこそ、最後に

 

「40になるまでに10-FEETの一つ前をやります!」

 

と願望を叫んで放たれた「SWEAT 17 BLUES」は、何だかこっちまでジーンときてしまった。最後はモリスが牛若ノ舞台まで運ばれて終了。北島は

 

「SHIMAが待ってるよー」

 

と最後まで配慮を忘れなかった。

 

 

 

昼過ぎにはDragon Ashの櫻井誠がプロデュースする桜井食堂でチキンカレーを食した。ほどよい辛さでおいしかったし、これぞチキンカレーって味だった。隣に出店していたACIDMAN浦山一悟のラーメンも食べてみたかったので、次に見かけたらぜひ食べたい。

 

 

 

・ハルカミライ〈牛若ノ舞台〉

 

ついに京都大作戦初登場となるハルカミライ。定刻になり、先に楽器隊が登場。少し遅れて橋本学が登場し、彼は早速客席に足をかける。この辺はDPFと同じだ。というか、結論から言うとセットリストはDPFと同じだった。

 

しかし先週と明らかに違ったのはダイバーの数。その数は普段ならよく見える橋本がどこにいるかわからなくなるほどで、「君にしか」「カントリーロード」の時点で既に最前列はカオスな空間となっている。しかし

 

「振るはずだった雨、降らせてやったぜ」

 

と手にしたペットボトルの水を目の前にぶっかけるなど、やんちゃっぷりは健在。

 

「正直ちょっとは降るかなーと思ってたんだけど、晴れたな!俺達スーパー晴れバンドだけどよ、ここにいるお前ら全員、晴れ男、晴れ女だぜー!」

 

と盛り上げると、「ファイト!!」「俺達が呼んでいる」で更にヒートアップ。ダイバーも増え続けていくし、関大地(Gt.)も客席に飛び込んでいる。

 

「さっきそこの女の子がさ、ダイブしたら前見えないんだよねって愚痴ってたからさ、あんまりダイブすんなよー」

 

とか言いながら再び「ファイト!!」をかますと、客席中央に移動した「春のテーマ」では壮大なシンガロングを響かせた。

 

10-FEETが自分たちの曲を聴いてくれたことに感謝を告げると、

 

10-FEETだけじゃない。色んな人たちのプッシュがあってここに立たせてもらっています」

 

と橋本は語る。そんな期待を一身に背負うかのように、「世界を終わらせて」を高らかに歌い上げると、「Tough to be a Hugh」「エース」で勢いづける。

 

先週はよく見えなかった小松謙太(Dr.)は橋本より先に上半身裸になり、全身でドラムを打ち鳴らしているし、須藤俊(Ba.)は時々客席に歩み寄りながら、ステージ上で跳ねるように動き回っている。

 

「出れたよー!」と初出演を喜んだ橋本は、

 

「いつか10-FEETを対バンに呼びたい!いや、俺らが呼ばれたい!次はライブハウスで会おうぜ!」

 

と再会を誓い、「アストロビスタ」みんなで歌うと、最後は

 

「俺たちを見つけてくれてありがとう」

 

と優しく語りかけ、ライブを終えた。

 

楽しい時間は早く過ぎるとはよく言うが、今日のハルカミライのライブは、30分以上あったんじゃないかと錯覚するほど濃密だった。先週のDPF終了後、SiMのMAHはブログで

 

「先輩でよかった。同世代でこんなライブされたらバンド辞めたくなってる」

 

と彼らを称賛していた。もはや彼らは同世代ナンバーワンどころか、先輩すら食う勢いで突き進んでいる。源氏ノ舞台に呼ばれるのも時間の問題だろう。

 

 

 

東京スカパラダイスオーケストラ〈源氏ノ舞台〉

 

フェス界きってのお祭り男集団、東京スカパラダイスオーケストラ。今や様々なボーカリスト、バンドとジャンルレスにコラボを続ける、まさに「Paradise Has No Border」を体現し続けるバンドだ。

 

いきなりのキラーチューン「DOWN BEAT STOMP」で幕を開けると、直前までステージに立っていたBRAHMANTOSHI-LOWを召喚。グレーのスーツに身を通し、任侠感が凄まじい彼を迎えて「野望なき野郎どもへ」を披露。

 

直前のステージではBRAHMANスカパラホーン隊を呼び込んだりしていたし、こうした持ちつ持たれつなコラボが繰り広げられるのもフェスならでは。

 

瞬く間に彼らの代表曲となった「Paradise Has No Border」では10-FEETメンバー全員が登場。自由に振る舞ったり、キメに合わせて扇のポーズをとったりと楽しそうだ。そんな両者だが、KOUICHI

 

「欽ちゃん、一回どこうか」と茂木欣一(Dr.)のドラムセットを横取りし、NAOKI

 

「川上!…さん、貸してもらっていいですか」と川上つよし(Ba.)のベースを拝借したところで始まったのは「HONE SKA」。

 

TAKUMAと一緒に茂木と川上も楽しそうにステージ上を動き回っている。わざと呼び捨てにする冗談が通じるほどの、2バンドの絆の深さが伺えた。TAKUMAだけが残ったところで、久々の「閃光」も披露。

 

スカパラは今年で30周年になりました。この30年の間に10-FEETみたいな楽しい友達もできたけど、苦しい時期もたくさんありました」

 

谷中敦(B.Sax)は語る。そもそもスカという当時では斬新だったジャンルを世に広めたのは彼らだし、様々なアーティストをフィーチャリングゲストに迎えることで活躍の場を広げてきた歴史も、彼らの挑戦的なスタイルを表現している。

 

そんな30年の光を集めて歌われた「Glorious」は、彼らならではの説得力に満ち溢れていた。フロントで歓声を受け止める谷中も実に頼もしい。

 

最後は鮮やかなソロ回しが耳を引く「ペドラーズ」で締め括り、後半3バンドへのバトンを繋いだ。

 

 

 

マキシマム ザ ホルモン〈源氏ノ舞台〉

 

2013年に「予襲復讐」で知って以来、ずっとライブを見たかったマキシマム ザ ホルモン。ダイスケはん(キャーキャーうるさい方)も完全復活し、2年ぶりに京都大作戦に帰ってきてくれた。何を隠そう、ここからのホルモン、ロットン、10-FEETの流れは、伝説として語り草にもされている2017年と同じ流れ。これには否応なしにテンションが上げられる。会場の入りも今日トップクラスだ。

 

SPACE COMBINEのSEに乗せて4人が貫禄たっぷりで登場すると、待ってましたと言わんばかりに腹ペコで溢れ返った会場は大爆発。凶悪なサウンドが一音鳴らされる度に身体が昂る。

 

「恋のメガラバ」で勢いよくスタートすると、もうそこからは彼らの独壇場だ。源氏ノ舞台には際限なく人が押し寄せ、前も後ろも関係なく踊り狂っている。それが終わると、一糸乱れぬヘドバンタイム。これはもう笑うしかない。今日ってホルモンの野外ライブでしたっけ?

 

丘から聴いていても、上ちゃん(4弦)のバキバキのベースラインが響いてくるし、マキシマムザ亮君(歌と6弦と弟)の歌は狂気的かつメロディアスだ。

 

「ずっと言いたかったことを言ってもいいですか。京都大作戦にようこそー!」

 

とブチ上げた4人は、「maximum the hormone Ⅱ ~これからの麺カタコッテリの話をしよう~」でハードなサウンドだけでなく、随所に挟まれるデジタルロックな一幕を乗りこなす。ナヲ(ドラムと女声と姉)は前に出てきてダイスケはんと一緒にポーズをとったりするなど、フロントに負けない存在感を放っている。

 

「「F」」では一音目から悲鳴のような歓声が上がり、フリーザ様が降臨したこともあってグラウンドは戦場と化す。ホルモンじゃないと見られない景色だ。

 

「このステージに来るまで2年かかりました」

 

と誰かのMCを拝借して源氏ノ舞台に帰ってこれた喜びを語ると、不謹慎なネタを披露したり、珍しく喋った上ちゃんを一蹴したりと自由奔放。しかし「G’old~en~Guy」で本編に戻ると、2号店のDANGER×DEERのフレーズを用いて「包丁・ハサミ・カッター・ナイフ・ドス・キリ」で再び会場を狂乱の渦に落とし込む。

 

最後の曲の前に行われた恋のおまじないで、ダイスケはんは

 

「来年の京都大作戦の成功も願って恋のおまじないやりませんか!?」

 

と叫んだ。どうしても苦しかった一昨年、昨年のことばかりが思い出されがちな京都大作戦だが、ホルモンは未来を見据えていた。この舞台に立つことを目標にしている人もたくさんいるし、この場所で会う約束をしている人もたくさんいる。毎年悪天候に怯えながら、きっと京都大作戦は来年以降も続いていく。ロックバンドはいつだって前を向いている。

 

セキュリティも一緒に体を反って、明日や来週、来年への願いを込めたおまじないが掛けられたところで、「恋のスペルマ」が盛大に鳴らされ、ホルモンのライブは幕を閉じた。

 

それにしても、家族連れもたくさんいるのに「スペルマ」というワードを連発するのが実に彼ららしい。会場の腹ペコ達は、最後には「復活おめでとう」という満たされた表情で源氏ノ舞台を後にし、牛若で待つSHANKへと走っていっていた。

 

 

 

ROTTENGRAFFTY〈源氏ノ舞台〉

 

少し雨がぱらついてきたのが気になる中、10-FEETと同じく京都出身で、10-FEETと同じくらい京都を愛するバンド、ROTTENGRAFFTYが登場。

 

N∀OKI(Vo)が開口一番、

 

「粛清された夢の続きをおっぱじめようぜ!」

 

と言って歌い出したのは、もはやこの会場で歌えない人はいないのではないかと思わせるほどの必殺アンセム「金色グラフティー」。

 

10-FEETの思いはここ、太陽が丘に」

 

と歌詞を変えて歌われ、いきなり訪れたクライマックスに、会場は狂気狂乱。雨なんて気にならない、と言わんばかりにあちこちでモッシュ・ダイブが炸裂する。

 

NOBUYA(Vo)とN∀OKIの戦うような掛け合いがボルテージを引き上げていく「PLAYBACK」で会場を揺らすと、「D.A.N.C.E.」では座らせてからの大ジャンプ。一瞬の隙も油断もないグルーヴが京都大作戦を包んでいく。

 

続いて

 

「俺らの町の歌歌ってもいいですか!」

 

から「響く都」へ。ロットンの京都愛が歌詞だけでなく、和風なメロディにも込められている。

 

すると一転、サイレンが鳴り響く中、KAZUOMI(Gt.)が

 

「ここにいる全員、音で殺す。音で、ぶち殺す」

 

とけしかけると、「零戦SOUNDSYSTEM」へ。一音一音が、この会場で、この時間にならされるべき説得力を持っていた。

 

「京都のバンドは10-FEETだけちゃうぞ!俺らを忘れんな!」

 

というN∀OKIの言葉からは、京都出身のバンドとして源氏ノ舞台に立てる喜び、しかしだからと言って負ける気はサラサラ無い、という対抗心の両方を内包していた。

 

先週のDPFでも感じたことだが、アーティスト主催フェスだからといって、どのアーティストもただ主催者を持ち上げるためにライブをするような真似は絶対にしていない。ともすれば主催者に食って掛かろうという、貪欲な熱意を抱えている。今日のロットンは、特にその熱が前面に出たライブだった。

 

「一人残らずかかってこい!」

 

と始まった「THIS WORLD」ではKAZUOMIがギターを放棄して客席に突っ込んでいく一幕も。グラウンドではもちろん、ステージ上でも限界突破のパフォーマンスが繰り広げられていく。いったいどこまで突き抜けるのか。

 

彼らが何故ここまで本気で、命を燃やさんとする勢いでライブをするのか。その理由が少しわかった気がしたのが次のMCだった。

 

「俺たちも気づけば1999年にデビューして、たくさんの屍を越えて、20年目を迎えました。後ろに道はないから、これからも前に進んでいきます」

 

屍を越えて、とは、おそらく近いところで言えば松原裕氏のことだろう。氏も大好きだったという最後の「「70㎝四方の窓辺」」は、涙なしでは見れなかった。

 

彼らは人生の短さを知っている。知っているというよりは、この20年で思い知った、という表現の方が正しいだろうか。そんな彼らでないと歌えない歌が、太陽が丘を包み込み、ロットンの2年ぶりのステージは幕を下ろした。雨は知らぬ間にどこかへいったようだ。

 

 

 

10-FEET〈源氏ノ舞台〉

 

色とりどりのタオルが会場を埋め尽くす中、開口一番に

 

「ありがとう」

 

と呟いたTAKUMA(Vo,Gt)。

 

「行くぞー!行くぞー!!行くぞー!!!」

 

とたっぷり溜めてから「蜃気楼」へ。DPFの時はダイブしたり聴き入ったりと三者三様の聴き方をしていたが、今日はダイバーが少ないように感じる。みんな、この会場で彼らの歌が聴ける日を心待ちにしていたのだろう。

 

続く「VIBES BY VIBES」でスイッチが入ると、NAOKI(Ba.)は踊るようにステージを舞い、KOUICHI(Dr.)の刻むビートにも熱が入る。フェスでは珍しい選曲に歓声が上がった「LITTLE MORE THAN BEFORE」では死ぬのが怖い、と弱さを隠さない。こうした一糸纏わぬ感情を曝け出すのが彼らのスタンスだ。

 

「時間がない時のRIVER」をサクッと決めると、

 

「友達呼んでいいですか!?」

 

スカパラホーン隊を招き入れ、「hammer ska」を披露。スリーピースでも十分なほど重厚なサウンドにホーンセクションが追い打ちをかけ、さらに武装強化されたサウンドが鳴り響く。

 

会場内のポカリスエットブースでもたくさん流れていた新曲「ハローフィクサー」を経て「1sec.」で後半戦へ差し掛かると(今日は中断とかはしなかった)、

 

「開催できて嬉しいです」

 

とTAKUMAは安堵の表情を見せる。続いて

 

「忙しい人らばっかやのに、スケジュール空けといてくれてほんまにありがとう」

 

と去年の出演者全員に感謝を告げた。日程こそ違えど、去年出る予定だったアーティストほぼ全員が今年も続投してくれたことで実現した4日間開催。これもひとえに彼らの人柄あってこそだ。

 

「今日ばっかりは、今まで一番、大人げも、恥ずかしさも、プライドも捨ててやる」

 

と叫び、「その向こうへ」へ。続いて呼び出したのはROTTENGRAFFTYのNOBUYAとN∀OKIだ。京都×京都のバイブスがバッチリ交錯したところで、本編ラストは「ヒトリセカイ」が届けられた。

 

アンコールではKOUICHI

 

「この感じ、久しぶりやわ」

 

の言葉で、そういえばこの場所でアンコールを行うのも2年ぶりなのか、と気づく。「SHOES」「RIVER」では京都大作戦ではお馴染のドクター長谷川のトランペットが加わり、さらにカラフルなサウンドが届けられた。

 

「2年前を思い出すあの曲を」

 

の振りから最後にドロップされたのは「DO YOU LIKE…?」。2年前のライブで1曲目に届けられていた曲だった。先週のDPFでTAKUMAは、

 

「忘れたくて仕方がないことを、ええ感じの気持ちで今日は思い出してみようかなって気持ちにさせてくれるのも、音楽のええところや」

 

と語っていた。この曲で、2年前のあの日を思い出して、「そんなこともあったな」って笑い合えたら、それもまたいいな、と思った。

 

全体を通して、DPFと似たようなセットリストだったが、不思議なことにこの会場で聴くとこんなに一曲一曲が胸に刺さるのか、と感慨深くなった。それだけ10-FEETはこの場所にかける思いが段違いだし、そんな彼らから放たれる音も言葉にしがたい厚みを持って鳴らされていたのだな、と改めて気づかされた。これが主催者の底力だ。

 

 

 

これにて初日は終幕。源氏ノ舞台はまだぬかるみが残っていたものの、結局雨はほとんど降らず、それどころか昼間はかなり暑かった。おかげで日焼け対策を怠っていて顔がヒリヒリするのだが、何はともあれ、本当に晴れてよかった。

 

あと、噂には聞いていたが、本当にゴミが落ちていなかった。落ちていても、みんな拾って所定の場所へ捨てに行っていた。今更言うまでもないが、お客さんと10-FEETとの信頼関係があるからこそ、このような景色が生まれているのだろう。

 

心残りだったのは、源氏と牛若が意外と離れていたこともあってあまり牛若に足を運べなかったこと。それと鞍馬の間にも行けなかった。次はぜひ足を運んでみたい。

 

何よりも、どのバンドからも、10-FEETへの愛をひしひしと感じたことが素敵だった。去年の悔しさを晴らすかの如く(去年呼ばれてないバンドもいたが)、どのアーティストも気合が入っていたし、その強い思いは我々にもきっと届いたはずだ。

また一つ、帰ってきたい場所が増えた一日だった。来年も、太陽が昇るあの場所で。

sumika 「Chime」 Release Tour @大阪城ホール 2019 6/26

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月に「Chime」をリリースし、武道館から始まったsumikaのリリースツアー。横浜アリーナなどの大規模なライブを経て、残すは大阪城ホール2daysのみとなった。もちろん大阪でのアリーナ公演は初めて。

 

自分自身の話でいうと、彼らのワンマンは初めてだ。去年のレディクレでのライブ、「誰も置いていかない」という強い信念が感じられる素晴らしいライブだった。どれだけキャパが大きくなっても、彼らはその信念を体現したパフォーマンスを見せてくれるだろうと予感し、参加を決めた。

 

ステージには木造の家のセットが準備されているが、座席の関係上全てを見渡すことはできない。また、大阪城ホールには過去何度も足を運んでいるが、何だかいつもよりステージと客席の距離が近い気がする。

 

開演時間になると、「ピカソからの宅急便」をバックに小川貴之(Key)、荒井智之(Dr)、サポートの井嶋啓介(Ba)、黒田準之介(Gt)、片岡健太(Vo,Gt)が一人ずつ登場し、丁寧に挨拶しながら定位置へ。息を合わせて最初に鳴らされたのは「10時の方角」。

 

「大阪の方角へ!」

 

と歌詞を変えて歌われ、会場全体がパッと明るくなる。これは照明がついたからではなく、音が鳴らされた瞬間、みんなの心に明かりが灯ったような感覚だった。片岡の

 

「飛ばしていくぞ!」

 

の号令から「フィクション」へ流れ込むと、両脇に構えられたスクリーンの横からも明るい光が降ってくる。サビの手拍子がバッチリ決まったメンバーはご機嫌で、前傾姿勢気味にギターをかき鳴らしている黒田はステップを踏んでいるようだ。

 

小川がたっぷり煽ってから始まった「123…456」では

 

「妙な不安感はミラーボールを乱反射」

 

の歌詞に合わせてミラーボールが輝き、ビビッドな音と照明が会場を包んでいく。それがスッと鳴り止むと同時に、片岡のギターストロークだけで歓声が起こった「グライダースライダー」へ。「ふっかつのじゅもん」で更に熱を上げると、メンバー後方の木造住宅に幕が下ろされた。

 

近々開催されるG20について言及されたMCでは(この日は手荷物検査や金属検査などいつもより警備が厳重だったうえ、セキュリティの数もやたらと多かった)、

 

「今日セミファイナルですけど、G20がもし伸びたら6/30のライブなくなるかもしれないからね。今日がファイナルのつもりでやります!」

 

と宣誓してカラフルな「MAGIC」でライブが再開。気づけば後ろのセットは捌けられ、シンプルなものになっていた。

 

片岡がハンドマイクで隅々まで歩きながら「Monday」を丁寧に届けると、「Strawberry Feels」では一転してアダルティな雰囲気に。メンバーのソロ回しも音源より自由度マシマシで披露され、歓声が上がる。荒井はドラムソロでドラムをほぼ叩かず手拍子を煽るという自由っぷり。

 

後のMCで明かされたのだが、このソロ回しは毎公演ごとに全員アドリブでやっているとのことだから驚きだ。よく誤解されがちだが、彼らは決してぽっと出のバンドではない。前身バンド時代から築かれてきた地力の演奏力がよく伝わるワンシーンだった。

 

その後のMCではメンバー紹介も兼ねて一人ずつフリートーク。黒田は

 

「今日は全国のイベンターさんが集まっていて。sumikaにとってのG20みたい」

 

と語り、荒井はオーダーメイドの枕で何故か寝違えたエピソードで笑いを誘う。そして首が後ろに回らなくなったことを踏まえて、

 

「これからも振り返らず進んでいきたいと思います!」

 

とうまく話を締める。めっちゃ喋り上手い。井嶋は

 

「大阪は身が引き締まる思い」

 

と真面目っぷりが伺えるトーク。小川は特にエピソードは離さなかったが、何だか話し方が選挙カーで演説する政治家みたいだった。片岡は2年ほど前に黒田と大阪城ホールにお客さんとしてライブを観に行ったことを明かし、

 

スピッツのイベントだったんだけど、出てたバンドが、MONGOL800Mr.Childrenキュウソネコカミ。で、出演順がミスチル、キュウソ、モンパチ、スピッツだったの。ヤマサキセイヤになりたいと本気で思った」

 

と当時の心境を語り、改めてワンマンでこのステージに立てることを感謝する。このMCの時間が非常に長かった。しかし、彼らにとっては、ライブとは曲を演奏するだけでなく、MCでもお客さんとコミュニケーションを取る場でもあるのだな、と改めて感じたし、話せば話すほど彼らの人のよさがどんどん伝わってくる。

 

再び黒い幕が開き、背景が森っぽい風景になると、「ホワイトマーチ」の鮮麗なサウンドが流れてくる。サビではミラーボールが再登場し、雪のようにアリーナ全体を照らしていった。

 

続けて爽やかなサウンドが駆け抜ける「ファンファーレ」で、片岡はお馴染の左足を蹴り上げるアグレッシブなパフォーマンスを披露。この曲に限らず、片岡は常にどこか一点を見つめて歌うのではなく、しきりに周りを見渡して、お客さんの反応を確かめながら歌っていた。

 

「いったん手拍子とかはお休みしましょう」

 

とお客さんを座らせると、ここからはじっくり聴かせるゾーンへ。「リグレット」は片岡の言っていた通り、目を瞑って聴いていると、より一層曲に込められた温度感が伝わってくる。

 

ゴーストライター」ではこの日唯一、スクリーンが消され、片岡と小川の2名のみがピンスポットに当たる。そんな二人の歌とピアノだけという最小限の情報量で演奏されるが、黒田、荒井、井嶋はその場で身じろぎもせず二人の演奏を聴き入っていた。こういうところがsumikaっぽいなあと思う。

 

最後に披露された「秘密」では、スクリーンに映るメンバーは終始セピア色だった。しかし、「君の膵臓をたべたい」のとびきり美しい場面でこの曲が流れていたことを鮮明に覚えている自分にとっては、この曲はこの日一番の鮮やかさを纏っていた(本当に美味しい場面で流れるので、ぜひ映画の方もチェックしてみてほしい)。

 

「Hummingbird’s port」が流れている間に転換が行われると、「Lovers」で観客は再び総立ち。後ろの幕が開くと、まるでsumikaの隠れ家に招かれたような、大阪にちなんだ小道具が散りばめられた空間が広がる(片岡の後ろに置かれていた「ぼんち揚」がとても目立っていた。ちなみにぼんち揚は関西以外ではあまり流通していないらしい)。

 

歌詞の掛け合いもバッチリ決めると、再びハンドマイクになった片岡が

 

「貴方と一緒じゃなきゃ!」

 

と叫び、「Flower」へ。

 

「大阪のFlower!」

 

と歌詞を変えて歌われたこの曲は、今後のsumikaにとっての新たなアンセムになりそうな曲だ。「ペルソナ・プロムナード」で盛り上がりが最高潮に達すると、

 

「何百回も歌ってきたけど、今一番いい歌が歌えないと意味がない!」

 

と叫んで披露されたのは「「伝言歌」」。そういえば去年、初めてsumikaをレディクレで見たときは、この曲が1曲目だった。たった1曲で会場のハートをガッシリ掴んだだけあって、ワンマンで鳴らされると改めてその説得力に納得させられる。

 

「幸せってどう言葉にしていいのかわからない。何が正解かわからない。けど、どうすれば相手に届くか悩む時間が大事だったんじゃないかなって、このツアーを経て感じました」

 

と最後に語った片岡。その言葉からは、このバンドがどこまでも真摯で、自分たちの音楽にも、自分たちを信じてくれている皆にもひたすらに誠実であろうという姿勢が伝わってきた。

 

最後の「Famillia」では、忙しない「Yes」「No」の掛け合いでピースフルな空間を生みだすと、深々とお辞儀をしてメンバーはゆっくりと去っていった。

 

アンコールでは

 

「新曲やりまーす」

 

といきなり宣言し、「イコール」を披露。「Travelling」は残念ながら披露されなかったが、夏フェスで出番はあるのか。

 

MCでは後ろのセットに組まれた、大阪にちなんだ小道具(くいだおれ人形ビリケンさん、たこ焼き、ぼんち揚、ココアシガレット、阪神タイガースお好み焼きなどなど)を一つずつ説明。投票の結果、大阪らしさNo.1の座に輝いたのはお好み焼きだった。片岡は大阪以外から遠征で来ていた人たちに向けて、

 

「このあと#sumikaと♯お好み焼きで店名だけ呟いておいて」

 

と地元民に促す。今までのツアーでも同じように地域にちなんだ小道具を用意していたのだろうか。彼らが自分たちを待ってくれている人たちの土地まで愛そうとしている姿勢が如実に伝わってきた。つくづくいい人たちだ。

 

「夏だからシュワシュワしたものが飲みたいなあ!」

 

の一言で会場は次の曲を察して大歓声。「ソーダ」が爽やかに届けられると、最後はバンドの原点でもある「雨天決行」で締め括り。メンバーはレフト、センター、ライトの3か所でワッショイジャンプを決め、再会を誓って去っていった。

 

去年のライブでも、とにかく説得力がすごいバンドだという認識はあったが、その説得力がどこから湧いてきているのか、その根源がわかった気がした。ただ上辺だけの綺麗事で取り繕った、世間からの風受けがよさそうな曲にはこんな力は生まれない。そこにバンドとしての肉体性、つまり信念が宿っていることが重要なのだ。

 

だからこそ、流れの速いバンドシーンで、ぽっと出と勘違いされてもおかしくないほど、近年のsumikaは急激な速度で信頼を築いてきたのだろう。

 

今年の夏フェスは、おそらくほとんどの会場でsumikaはメインステージを張ることになるだろうが、どれだけ大きな場所でも、彼らの揺るぎない誠実さはきっと多くの人に響くだろう。

彼らの一層の活躍に今後も目が離せない、と思えた一夜だった。

 

SiM presents DEAD POP FESTiVAL 2019 @川崎市東扇島東公園特設会場 2019 6/22

SiM主催の下、野外では5回目の開催を迎えたDEAD POP FESTiVAL。今年は昨年の京都大作戦のこともあり、例年よりもかなり前倒しのスケジュールでの開催となった。

 

「壁を壊す」のコンセプト通り、SiMと親交の深いバンドはもちろん、昨年は女王蜂やSHE’Sなどが出演するなど、常に異色の化学反応を起こしてきたフェスだ。今年もSHISHAMOやMOROHA、2日目ではあっこゴリラや凛として時雨といったメンツが、どんな刺激を与えてくれるのか。

 

しかし、予想以上にシャトルバス乗り場が混雑していたこともあり、オープニングアクトのINNOCENT in FORMALはおろか、ヤバイTシャツ屋さんすら間に合わなかった。しかも雨はどんどん強くなっていく。幸先の悪いスタートになってしまったが、気を取り直して最初のアーティストへ。

 

 

 

・ハルカミライ(CHAOSステージ)

 

CHAOSステージ一発目はハルカミライ。リハでは先に楽器隊だけで「ファイト‼」を披露し、土砂降りの客席をワクワクさせる。橋本学(Vo.)が遅れて登場すると、大歓声が巻き起こり、SEやアナウンス無しでライブが始まった。

 

橋本は早速ステージから飛び出していき、最前のお客さんに支えられながら「君にしか」を熱量マックスで歌い上げる。既にエンジン全開のスタートだ。橋本がじわじわと客席の上を移動しながら「カントリーロード」へ続く流れは恒例だが、ふとステージを見ると関大地(Gt.)も客席に進み出て、ペットボトルの水を頭から被っているではないか。もはや彼らにとって雨なんか関係ないんだな、と思い知る。

 

曲中のブレイクタイムでは橋本が地元でマー君と呼ばれていることを引き合いに出し、「俺がSiMだ。俺のことはマーと呼べ」と断言して笑いを誘う場面もあった。

 

 

「俺達が呼んでいる」ではステージ右手に移動し、ビニール傘を持っていた人から傘を拝借して高々と掲げたりと、やりたい放題のステージングを経て客席中央に到達した橋本はおもむろにTシャツを脱ぐ。

 

「お前らも脱げよ。女はやめとけ、男は…まあちょっとぐらいいいだろ」と言うと、ずぶ濡れの男たちが次々に上裸になる。

 

彼はその光景を見て「やっぱりちょっと気持ち悪いな」と笑い、「僕ら世界の真ん中」の歌詞通り、客席中央で「春のテーマ」を歌い上げた。

 

その後も橋本はステージに戻ることなく、ステージの先にある照明の鉄塔を目指してどんどんマイクケーブルを伸ばしていく(橋本の移動中は楽器隊だけでこの日3回目の「ファイト‼」を演奏したりしていた)。客席の上を横断するマイクケーブルはしっかりお客さんに支えられているし、何より須藤俊(Ba.)が

 

「曲やっていいかー?」

 

と橋本を気遣っていたのが印象的だった。彼のような冷静な存在がいてこそ、橋本や関の自由奔放な振る舞いがプロのライブとして成り立っているのだろう。ハルカミライのライブにはこうした優しさが随所に感じられる。まあ須藤もかなりの暴れん坊なのだが。

 

橋本が限界まで客席の奥に達したところで、「世界を終わらせて」でピースフルな空間を作り出すと、小松謙太(Dr.)の2ビートが冴えわたる「Tough to be a Hugh」「エース」が連続でドロップされ、CHAOSステージはさらにヒートアップ。その間、気づけば橋本はステージの上に戻っている。

 

最後の「アストロビスタ」では関のミスを「今日コイツ誕生日だから」とカバーしたり、

 

「さっきの人大丈夫だった?怪我してない?もし何かあったら物販のとこに来てくれ」

 

と、先ほど自身を支えていたと思われるお客さんを気遣う。「パンクロックは優しいものなんだ」と主張する彼らだからこそ、その優しさを体現したライブにこれほど多くの人が惹かれているんだろう。曲中、橋本は

 

「俺らはSiMと対バンしたことない。けど他のバンドのプッシュもあって、ハルカミライならってことで呼んでくれた!いつかSiMとライブハウスでもやりあいたいと思ってるから、その時は全員来いよ!」

 

と熱く語る。そして、

 

「いつかあっちのステージでトリ前がしてえ!」

 

と、前方のCAVEステージを指差して言った。これだけのライブをするならば、あっちのステージに立つのも時間の問題だろう。

 

 

 

・Dizzy Sunfist(CAVEステージ)

 

京都大作戦での経験から、「DPFでも小さいステージから大きいステージに行くストーリーを見てほしい」というSiMの思いで2ステージ制となっているDEAD POP FESTiVAL。2015年、2016年と連続でCHAOSステージに立ち、今年遂にCAVEに進出したDizzy Sunfistにとっては、きっと万感の思いだろう。

 

降りしきる雨がどんどん強くなっていく中、

 

「初めてのCAVEステージ!雨もいい思い出に!」

 

と超特急の純度100%メロコアナンバー「SHOOTING STAR」でライブは幕開け。絶え間なく「No Answer」をぶつけると、「人生何が起こるかわからへん!まさにLife is Suspense!」と「Life is Suspense」を投下。

 

現在妊娠中のあやぺた(Vo,Gt.)は椅子に座って演奏すると事前アナウンスされていたが、遠目からだとそんなに気にならない。むしろギターソロでは積極的に前に出るなど、いつもとあまり変わらないように感じる。いやま(Ba.)は骨太のベースでアンサンブルを支え、moAi(Dr.)はキレッキレのビートでバンドを勢いづけるなど、安定感は抜群だ。あやぺたは

 

「4年かかったよ!あの丘…っていうかあの島を越えるのに4年かかったよ!」

 

とどこかで聞いたことのあるMCで初めてCAVEに立てた喜びを爆発させると、「SiMはもはや酸素です」と感謝を告げる。

 

「守るべきものを持った人間の強さと覚悟だけは誰にも負けへん。今が最強やと思ってるから!」と語り、新曲「STRONGER」をメロディアスに届けると、

 

「夏が来るぞ―!」

 

と叫んで「Summer Never Ends」へ。続く「Tonight,Tonight,Tonight」ではラテンなリズムもしっかり乗りこなす器用さも見せた。

 

「おかんになってもDEAD POP FESTiVALに戻ってきたい」

 

と最後に語っていたあやぺたの言葉は、これから母親になるという責任感と同時に、バンドに憧れる少年少女のようなピュアな輝きをまとっていた。演者がいつまでもドキドキやワクワクを忘れないでいるからこそ、その思いがこれほど多くの人に届くのだろう。

 

最後の「The Dream Is Not Dead」が終わり、ライブを見ていた我々の心が晴れやかになるのと同時に、気づけば雨は上がっていた。

 

 

 

SHISHAMO (CAVEステージ)

 

DEAD POP FESTiVAL初参戦のSHISHAMO。ライブを見るのは3年ぶりぐらいだろうか。おそらく今日来場しているお客さんの大体は、名前は知っているがライブを見るのは初めて、という状況だろう。もしかしたらポップなイメージが先行しすぎて、この場に不釣り合いだ、と思っている人もいるかもしれない。事前に出演者に「気になるアーティストは?」と問われていた中でも、SHISHAMOはかなり注目されているようだった。

 

穏やかなSEに乗せて、吉川美冴貴(Dr.)、松岡彩(Ba.)、宮崎朝子(Vo,Gt.)が順番に登場。「DEAD」と刻まれたオフィシャルTシャツを着ている吉川はいつにも増して厳ついし、宮崎はよく見るとヒョウ柄のショートパンツを履いていてかなり攻撃的だ。

 

小気味のよい「DEAD POP!」の掛け合いから始まり、

 

「DEAD POPのPOPの部分を担いに来ましたSHISHAMOです。SiMのMAHさん好きの女に捧げます」

 

と挨拶して「バンドマン」からライブがスタート(女の子ではなく女と言っていたのがポイント)。シンプルながら堅実な演奏に宮崎の情感たっぷりの歌声がよく冴える。デビュー当時から比べると、宮崎のボーカリストとしての表現力は格段に上がっていて、時にがなるように歌う部分は思わず鳥肌が立つほどだ。

 

続く「タオル」ではステージ両脇のスクリーンにタオルをぶん回すアニメーションが映し出される。しかも映像内に登場するメンバーの服装はDPF仕様。SHISHAMOのタオルを持っている人は少なかったが、色とりどりのタオルが会場を彩った。

 

「知ってるよ。どうせみんな「なんでSHISHAMOおるねん」って思ってるんでしょ」

 

と宮崎はひねくれた様子だったが、

 

「私たちも川崎出身のバンドとしてこのフェスに出てみたかった」

 

と、SiMに直談判しにいったエピソードを語る。やはりどうしてもポップな側面ばかりが目立つバンドだが、the pillowsをルーツに持つなど、彼女らの根幹のスピリットは意外にも硬派だ。SiMもそれを認めているからこそ、DPFに呼んだのだろう。直前までかなりビビっていたという彼女らだが、温かく迎えてくれたお客さんにホッとしているようだった。

 

「君と夏フェス」では大きな歓声が起こり、「ねえ、」と爽やかな曲が続くと、ホーンセクションが鳴り響く「明日も」へ。スクリーンには歌詞が映し出され、口ずさむお客さんも大勢いた。

 

ガールズバンドは「かわいい」とか「明るくて爽やか」というイメージを持たれがちだが、SHISHAMOのスタイルはとても実直で泥臭い。サビの歌詞を予習してから最後に演奏された「OH!」では、彼女らのそんな一面が垣間見えた。

 

「ありのままの君 全部丸ごと 抱きしめてやるよ」

 

と歌った後の宮崎の笑顔は、皆からの期待を一身に背負う頼もしさすら感じられた。そんな彼女らの出番が終わるころには、会場は雲間から太陽が覗くほどの好天に変わろうとしていた。

 

 

 

・SIX LOUNGE(CHAOSステージ)

 

リハでRCサクセション「雨上がりの夜空に」を歌い、天気が回復したことを喜んだSIX LOUNGE。「自由にやろうぜ!」と叫び、「僕を撃て」からライブが始まると、早速前方エリアではクラウドサーフが巻き起こる。

 

「ふたりでこのまま」ではイワオリク(Ba.)がピョンピョン飛び跳ねながらベースラインを描き、ナガマツシンタロウ(Dr.)はグルーヴィーなプレイでバンドを支える。ヤマグチユウモリ(Vo,Gt.)の伸びやかな歌声は野外で聴くと非常に痛快だ。

 

どこかで熱狂的な声を上げたお客さんに向かい、「さすがCHAOSステージ」と返したヤマグチユウモリは、

 

「CHAOSの意味ってよくわからんけどスゲーってことだろ」と場を盛り上げる。先日新木場STUDIO COASTでのワンマンをソールドさせた彼らは、

 

「俺達がかっこいいから呼んでもらえたんだと思ってます!」

 

と自信満々だ。

 

彼らのメロディアスな部分が前面に押し出された「メリールー」をじっくり聴かせた後は、

 

「ここからノンストップでいくぞ!この時間は俺たちが主役だ!ロックンロールの時間だぜ!」

 

と高らかに叫び、「DO DO IN THE BOOM BOOM」「LULU」と更に加速していく。性急なビートに乗せてクラウドサーフが留まることなく起こった「トラッシュ」で限界突破のカオスな空間を生みだすと、「ピアシング」でトドメの一撃。

 

演奏中にステージ後方から一際どんよりとした雨雲が近づいてきていたのが気になったが、どこまでも突き抜ける無敵のロックンロールをぶちかましてくれた、まさに独壇場の30分間だった。

 

 

 

10-FEET(CAVEステージ)

 

もはやDEAD POP FESTiVAL、いや日本中のフェスに欠かせない存在となっている10-FEET。そのカリスマっぷりはやはりこの会場でも健在で、豪勢なSEが鳴り響く会場には色とりどりのタオルが掲げられている。

 

 

「蜃気楼」からライブが始まると、客席は早速ダイブに乗り出す人もいれば、じっくりと味わうようにTAKUMA(Vo,Gt.)の歌を噛み締める人も。

 

続く「VIBES BY VIBES」ではイントロから会場を熱狂の渦に飲み込んでいき、NAOKI(Ba.)は足を振り子のように回して自在に回転しながらステージを動き回る。客席は性急なビートに乗って円になって走り回ったり、肩を組んでジャンプしたりと大忙しだ。

 

続いて披露された「ハローフィクサー」は10-FEETの新たな側面を見せる斬新なナンバーだ。ティザー映像を見る限りだと、打ち込みを融合させたミクスチャーといったイメージだったが、ライブで聴くとやはり生音の比率が強く、いい意味で音源と全く異なっている。今後この曲が、彼らのライブでどのような立ち位置を担うことになるのか楽しみだ。

 

「RIVER」の曲中、焦らしプレイが決まって悪戯っ子のように笑ったTAKUMAは、

 

「会場に着いたらおもろいぐらい雨降ってて。その時にMAHと目が合いました。彼はひとこと言いました、「引き受けました」」

 

と語った。互いに同じ時期にフェスを主催する者同士の信頼関係がよく伺えた一幕だった。

 

「1sec.」ではいったん曲を中断し、「お前らまだまだやれるやろー!お前らがまだまだやれるって俺らは知ってるんやぞ!」と思いっきり煽る。そしてMAHよろしく、両手で客席の中心をこじ開けるような動作をすると、今度は開けた空間を閉じてしまう。

 

こうした遊び心あふれるライブができるのも、10-FEETが各地でたくさんのロックキッズ達と心を通わせてきたからだろう。結局ウォールオブデスの体制が整ったところで再開。

 

「その向こうへ」「ヒトリセカイ」と最後まで会場を熱狂させてフィニッシュすると、

 

「SiM、あとは頼んだで」

 

としっかりバトンを繋いでみせた。

 

 

 

My Hair is Bad(CAVEステージ)

 

ヤバイTシャツ屋さん、Dizzy Sunfistに続いて初めてCHAOSから昇格したMy Hair is Bad。小雨の中、アナウンス時からステージ上に陣取り、開始の合図とともに爆音を鳴らす。

 

「行くぞDEAD POP!」と挨拶代わりに「アフターアワー」を打ち鳴らすと、「熱狂を終え」で勢いは更に加速。足を高々と蹴り上げながらコーラスも完璧にこなす山本大樹(Ba.)、パワフルかつ安定感抜群の山田淳(Dr.)が生みだすリズムは爆発力の塊だ。

 

「初めましてなので自己紹介を」

 

と椎木知仁(Vo,Gt.)がギターを爪弾きながらつらつらと言葉を重ねていくと、「ドラマみたいだ」へ。

 

アリーナツアーで披露していた「次回予告」や「裸」、あるいは新曲「芝居」でも感じたが、こうしたバラードやミディアムな曲がどんどん味わい深くなっていっているのが今のマイヘアの凄みだ。

 

もちろんキレのある演奏もさらに磨きがかかっていて、「告白」や「クリサンセマム」ではクラウドサーフが続出していた(クリサンセマムの虹色の照明も素晴らしかった。マイヘアは照明も抜群にかっこいい)。

 

特に「真赤」は圧巻だった。「目が合うだけでも」の部分では、椎木は頭を掻きむしり、ギターを弾くことも忘れて溢れ出た言葉を吐き出す。そこに予定調和は全くとしてなく、今この瞬間じゃないと聞けない言葉たちが突き刺さる。

 

今日の一日の模様は後日スペシャで放送されるが、マイヘアは自身らの意向により、フェスのライブ映像はあまりオンエアされない。たとえオンエアされたとしても、この瞬間の熱量はその場にいた人でなければわかり得ないだろう。

 

「SiMと初めて会ったのは2009年だと思っていて。今年で10年経ちました。これからも長い付き合いになればいいなと思っています。これ以上喋ったらMAHさんにまた「思い出話に頼りすぎ」って怒られそうだからやめておきます」

 

と言って笑いを誘うと、

 

「みんな最後は結婚に行き着くんだなって。羨ましいなと思います。後を追っかけられるように頑張ります」

 

と最後に「いつか結婚しても」を笑顔で歌い、ステージを後にした。

 

 

 

・MOROHA(CHAOSステージ)

 

今日唯一のユニットアクト、MOROHA。アフロ(Vo.)が「乾杯!」と叫んで始まったのは「革命」。地の底から光あふれる天井を見上げるように、アフロは言葉の一つ一つを鋭利な刃物の如くDPFにぶつけていく。

 

UK(Gt.)のアコースティックギターはそんなアフロの言葉と時に戦うように唸りを上げ、時に言葉を盛り立てる武器となる。とにかく音の研ぎ澄まされ方がえげつない。

 

「SiM、そんなに仲良くないのに誘ってくれてありがとう。早くモッシュしたい、ダイブしたいって奴があの辺にいるけど(フォーリミ待ちのCAVEを見ながら)、俺お前らみたいなの大嫌いだよ。でもSiMは、そんな嫌い同士がぶつかり合うことで新しい何かが生まれるんじゃないかって俺らに期待してくれたんだ。壁が壊れるところを見たいか!」

 

と大いに煽り、「俺のがヤバイ」をドロップ。エッジの効いた、なんて言葉ではとうてい言い表せないほどの冷徹な意思を纏った音が、観客を硬直させる。

 

しかし一転、温かくて寂しげな歌声で「拝啓、MCアフロ様」を歌い始めると、すっかり雨が上がった会場に冷たい風が吹きつける。すると、「いなくなった彼女の残した手紙を、ベランダで夜風に当たりながらつらつらと読む」という曲の情景が一瞬で浮かび上がってきて、思わず涙がこぼれそうになった。これはまさに野外の、しかもこの時間のこの気候じゃないと味わえない、美しい時間だった。

 

何せ彼らはボーカルとギターのみのシンプルな編成故に、曲中にはどうしても向かいのステージからフォーリミのサウンドチェックの音が聴こえてくる。それに対して

 

「フォーリミうるせんだよ」

 

とキレ気味に叫んだアフロは、

 

「ジャンルの壁は壊れたか」と観客に問う。観客は手を挙げてそれに応えたが、

 

「嘘だね。ジャンルの壁はそんな簡単には超えられない」と一蹴。それでも、

 

「むしろ俺はジャンルの壁はそこにあってほしいと思う。ロックも、ヒップホップも、パンクも、心のことだから。ジャンルの壁を超えるってのは心を超えるってことだから」

 

と語る。MOROHAは究極のリアリストであり、しかし同時に究極のドリーマーでもあるのだ、と再認識した。

 

「ストロンガ―」「五文銭」を歌っている途中、アフロの瞳は客席にももちろん向けられていたが、さらにその向こう、眼前のCAVEステージを強かに見据えているようにも感じた。高すぎるハードルに真正面から挑みかかった彼らに、気づけば誰もが虜になっていた。

 

 

 

04 Limited Sazabys(CAVEステージ)

 

「MOROHA、俺達のことイジってくれてたけどバリバリ時間押してたからね」

 

とリハから余裕綽々の04 Limited Sazabys。今や「YON FES」を主催するなどシーンに必要不可欠な存在となりつつあるが、今年は満を持してトリ前だ。開始早々、

 

「先輩の庭荒らしにきました」

 

と対抗心剥き出しで「knife」から攻撃開始。KOUHEI(Dr.)の切れ味抜群のドラムにRYU-TA(Gt.)のしゃがれた煽り声が乗り、観客を串刺しにしていく。HIROKAZ(Gt.)の奏でるギターも実にキレキレだ。

 

赤と緑の照明が妖しく舞った「Alien」(この曲は去年のDPFでSiMのAmyをカバーしたのがきっかけで生まれたとのこと。つまり原点回帰)、ヘビーな音像の「Utopia」と最新アルバムの収録曲を次々と投下し、狂気狂乱の空間を生みだしていく。いつも容赦がないセットリストで挑みに来る彼らだが、今日はいっそう気合が入っているようにも感じる。

 

「悪魔祓いに来ました、光属性のバンド04 Limited Sazabysです」

 

と自己紹介すると、GEN(Vo,Ba.)はバックヤードで子供をあやしていたMAHを「ビジネス悪魔」とイジるなど、お互いの主催フェスに呼び合う仲のよさを見せる。

 

しかしその後も攻めの姿勢を緩めることはせず、「fiction」をドロップ。メロウの世界にDPFを誘うと、「My HERO」と繋げる。

 

「未来で合図を待ってて My HERO」という歌詞は、フォーリミが自分たちのヒーローに宛てた歌であると同時に、この会場でフォーリミに憧れを抱いている少年少女たちにとってのフォーリミに宛てた歌でもあるのが、最高にエモーショナルだ。

 

思わず体が動いてしまうポップチューン「Kitchen」で会場を踊らせると、「Galapagos」ではSiMが今年のYON FESに出演した際に、会場を「タンポポ」と揶揄していたのを引き合いに出し、タンポンを出すというパフォーマンス。生理用品すらもネタに用いる怖いもの知らずっぷりを見せつけた。

 

「SiMは出会った時から本当にかっこいいです。尊敬しています」と感謝を告げると、

 

「この異世界魔界村にいる間だけでも、全部忘れて遊んでほしい。それがSiMの望んでることだと思うし、俺達もそう望んでいます」

 

とこのフェスの大切さを語る。自身もフェスを主催する身として、遊び場を作ることへの責任感、その遊び場でたっぷり遊ぶことの大事さをよく理解しているからこその言葉だろう。

 

「どうせみんな平日は考えすぎてるんでしょ!?考えて、考えて、考えすぎて、自分が分からなくなっているあなたに捧げます。自分自身に生まれ変われ!」

 

と「Squall」を畳みかけると、ラストは必殺の「monolith」で締め括った。

 

ライブを見たのは今年2月のツアー以来だったが、「SOIL」の楽曲が更に磨きをかけて誇り高く鳴らされていたのが印象的だった。この曲たちを引っ提げて臨む今年の夏フェスは、フォーリミにとって最強の夏となることだろう。

 

 

 

・SiM(CAVEステージ)

 

いよいよDEAD POP FESTiVALも初日ラスト。もちろん最後に待ち構えるのはこのフェスの首謀者、SiMだ。ライブを見るのは「PANDORA」のリリースツアー以来だから、5年ぶりぐらいだろうか。

 

サイレンが鳴り響き、自然と会場の空気が締まるのを感じる中、PAテントの横にはフェスのロゴマークがプリントされた旗がたなびく。SHOW-HATE(Gt.)、SIN(Ba.)、GODRi(Dr.)が貫禄たっぷりで登場すると(GODRiはゴリラのように仁王立ちでドラミングしていた)、MAH(Vo.)が客席を睨みながらのっしのっしと歩んでくる。既に期待は最高潮だ。

 

そんなMAHが両手で三角を作ると、「A」でライブスタート。この時点で、今日の錚々たるメンツが築いてきた高すぎるハードルを、一瞬で飛び越えてしまう瞬間を目撃してしまった。MAHの佇まいは悪魔とか通り越してもはや魔神だし、4人とも遠目に見ていても威圧的な存在感だ。あまりにセンセーショナルな始まり。この先どうなってしまうのか。

 

間髪入れずに「KiLLiNG ME」で理性を崩壊させると、「TxHxC」では巨大なサークルをあちこちに生みだす。かと思えばMAHに合わせて手を大きく左右に振る。まるでこの会場全てが彼らの手中に収まっているかのように、人々は意のままに動き回る。というか実際、この短時間で彼らは会場を掌握してみせた。圧巻の光景だ。

 

「あんだけのバカみてえな雨を生き延びて、すげえライブをくぐり抜けて、やっとの思いでここまでたどり着いた諸君!安心しろ、俺たちがすっきり、きっちり、トドメを指してやるから!」と語るMCは、主催者としての責任とか、トリとしての重圧なんて屁でもねえ、という気概すら感じる。

 

「てめえらのような下等生物、速い曲で殺すのなんて簡単なんだよ。俺らは少しずつ毒を盛って殺したいわけ。わかる?本当にわかってんのか!」

 

とニタニタ笑うと、ピアノをフィーチャーした初期のレゲエナンバー「Here I am」をプレイ。川崎の空気と非常に相性のよい曲だ。更に

 

「久しぶりにやる曲」

 

と紹介されたのは「Same Sky」。5年前のツアーでも披露していた曲だったこともあり、久々の再会に心が躍る。MAHは時たまサビの歌詞を観客に預けたりしながら、情感たっぷりに歌い上げた。

 

続いても久しぶりに披露された「EXiSTENCE」で、会場は一段とヒートアップ。こうした曲を演奏できるのも、ここが彼らのホームグラウンドだからこそであろう。

 

「DEAD POP FESTiVAL今年もありがとう。毎年少しずつよくしていって、でもまだ未完成な部分も多くて。でもそれはマイナスなことじゃなくて、もっと良くしていけるって思ってるから。主催者がまだ70%ぐらいのフェスですって言うなよって思うかもしれないけどさ、みんなと一緒に成長させていってください」

 

と未来を見据えて語った彼らは、

 

「成長って単純なことで、昨日よりちょっとかっこいい自分で今日を終えればいい。今まで14年間SiMやってきたけどさ、どの瞬間よりも今のSiMがいちばんかっこいいって自信あるんだわ。お前らも人生で一番かっこいい自分でかかってこい!」

 

と、現時点での最新曲「DiAMOND」で冷徹さと熱狂が渦巻くカオス空間をまとめ上げ、本編を締め括った。

 

アンコールでは残ってくれていた出演者を迎え入れ、写真撮影(SHISHAMOがオドオドしながらセンターに呼ばれていた)。そして、

 

「10年に1つのキラーチューン」

 

と題して披露されたのは「Blah Blah Blah」。明日に残す体力すらも使い切らそうというバンドのサディスティックな演奏を経て、ラストはやはり「f.a.i.t.h」。

 

MAHはいつも通り魔界の門をこじ開けるように人々を割っていくが、それがPAテントを突っ切り、出入り口近くまで伸びていたのが圧巻だった。SINの凶悪なベースラインが鳴り響いたのも束の間、人々が中心めがけて突撃していく。DEAD POP FESTiVALだからこそ見れる絶景だった。

 

万感の思いで最後の曲を終えると「帰れー!」と虫を払うようにメンバーはそそくさと捌けていった。

 

 

 

DEAD POP FESTiVALは以前から気になっていたが、何とかスケジュールの都合がうまくいって今年初めて参加することができた。雨はそれなりに覚悟してきたつもりだったが、最終的には上がってくれて本当によかったし、出演するバンドが時間を追うごとにどんどんハードルを上げていく様は壮絶だった。上がったハードルを次々に越えていく姿もとてもかっこよく、頼もしかった。

 

もちろんSiMと親交の深いラウド、パンク系のバンドが多く集うフェスでもあるが、決して仲良しこよしだけで内輪的に完結するフェスで終わるのではなく、SHISHAMOやMOROHAといった存在がいることで、新たな出会いの生まれる現場を作ろうとしている姿勢には本当に頭が下がる。これからもずっと続いてほしいフェスだと思ったし、また帰ってきたいと強く思う。

 

次はちゃんとオープニングアクトから見れるように早起きしないと。あと次来たときは晴れてるといいな。

緑黄色社会 presents 緑黄色夜祭vol.9 大阪編 @心斎橋BIGCAT 2019 6/9

“リョクシャカ”こと緑黄色社会が行っている自主企画「緑黄色夜祭」。今までは彼女ら(彼ら?)の地元である名古屋でのみ開催されてきたが、昨年から規模を拡大し、東名阪でこのタイトルを冠したライブが行われるようになった。しかし、昨年大阪で行われるはずだったライブは生憎の悪天候で中止に。今年は天候に恵まれ、キャパも増えてのリベンジ開催だ。

 

名古屋、東京から少し遅れて発表された大阪の対バン相手はネクライトーキー。2017年結成ながら目覚ましいほどの快進撃を続けており、今年はARABAKIやビバラといった春フェスにも出演。リョクシャカとはキーボードの映えるカラフルな音像、存在感のあるボーカルなどの共通点はあるが、正直あまり両者の関係性が窺い知れない。そういった意味でも今日のライブはどんな発見があるのか楽しみだ。

 

おもちゃ箱をひっくり返したような小気味のよい効果音の中で「ようこそ」と繰り返されるSEをバックに、もっさ(Vo)、カズマ・タケイ(Dr)、むーさん(Key)、藤田(Ba)、朝日(Gt)が順番にスタンバイ。1曲目は意外にも「あの子は竜に逢う」でスタートした。

 

ゆったりとしたビートに乗せてじっくり様子をうかがうように演奏し、もっさが腕まくりをしたところで「こんがらがった!」へ。むーさんと朝日のフレーズがまさにこんがらがるように降りかかる。

 

「めっちゃかわいいうた」ではもっさの「今はただの令和元年だ!」のシャウトに歓声が起こり、朝日の「ギター、俺!」もバッチリ決まって、観客をどんどん引きずり込んでいく。前回見たのは大阪での追加ワンマン(むーさんの加入が発表された日)だったが、それから春フェスや合宿レコーディングを経たことで、さらに音の強度が増していると感じた。つい見た目で誤解されがちなバンドだが、NUMBER GIRLなどから影響を受けていることもあり、実際に生で体感してみるとかなり硬派なバンドであることがよくわかる。藤田とカズマ・タケイのリズム隊コンビもさすがの安定感だ。

 

さっき気迫のあるシャウトをしていたもっさだが、MCでは「緑黄色社会」が噛みまくってうまく言えず、みんなを笑わせる。歌ってるときはあんなにかっこいいのに、急にたどたどしくなる変貌っぷり。このギャップが、彼女の魅力をさらに引き立てているのかもしれない。

 

続けて話した朝日は、他の場所での対バン相手と自分たちを比べ、「僕らはなんか不純物みたい」と自虐していた。自分はこの対バンが発表されたとき、別にネクライトーキーを不純物だとは思わなかったし、むしろこのバンドが邦ロックシーンのスタンダードとなる日はそう遠くないさえと感じた。

 

サビがやたらとメロディアスな「浮かれた大学生は死ね」を経て、一度クールダウンしてから始まったのは「がっかりされたくないな」。こうしたミドルテンポな歌モノも彼ら(彼女ら?)の武器の一つだ。

 

朝日の書く歌詞はどれもかなりひねくれているが、いわゆる「他人と違う考えを持っている自分で結構」といった割り切りは感じないし、「もうこのままでいいや」といった諦観もあまり感じない。むしろ卑屈な自分を嫌っていて、どうにか現状を打ち破ろうともがき、葛藤している。そんな人間臭い言葉が、生身で鳴らされる音で血肉を纏い、もっさのボーカルが引き立てる。だからネクライトーキーの音楽はこれほど響くのかもしれない。

 

続く「ゆうな」では優しくも緊張感のある演奏を披露し、じっくりと聴かせられるバンドであることも証明したところで、再びMCへ。もっさは楽屋に用意されていた弁当が野菜たっぷりだったことを明かし、藤田に「それはしなくていい話」とたしなめられる。

 

実にまったりとした一幕を経て、もっさが照明の紐スイッチを下ろす動作で暗転。暗闇から朝日のギターが近づいてくる「許せ!服部」が始まる。「服部って誰やねーん!」と朝日が叫んだところで音源とは全く異なる超高速アレンジにシフトすると、「1234!」のコールをメンバー一人ずつ回したところで観客にバトンタッチ。こうした観客参加型のエンターテイメントを見せられるのもこのバンドの強みだ。

 

MVと同じ「5!4!3!2!1!FIRE!」の掛け声から始まったキラーチューン「オシャレ大作戦」では「リョクシャカヘヘイヘイ」と歌詞を変えて観客を喜ばせる。前回見たときは多少雑に感じたむーさんのキーボードソロも、今日はしっかり決まっていた。カズマ・タケイのドラムソロもどんどんブラッシュアップされている。

 

そしてラストは「遠吠えのサンセット」。2番Aメロがさらにスローテンポになったり、かと思えば最後のサビはどんどん加速していったりと、まさに緩急自在の演奏を披露。どこかのインタビューで朝日はこのバンドを「技術としてはまだまだ」と自己評価していたが、これでまだまだだったらこの先どこまで進化していくのだろうか。

ロックの日の相応しい、泥臭くてロックなステージを見せてくれた。

 

 

 

一方の緑黄色社会もライブを見るのは3月以来。1曲目「あのころ見た光」から盛大なシンガロングを起こし、会場を盛り上げていく。しかしpeppe(Key)のピアノがやや聴こえづらかったのが気になった。

 

続いて長屋晴子(Vo)がハンドマイクになり、最新曲「にちようび」をドロップ。この曲がセットリストに組み込まれたのは、新曲だからということと、今日が日曜日だからという2つの理由が当てはまりそうだが、これからは日曜日のライブ限定の曲になったりするだろうか。ギターソロを弾く小林壱誓(Gt)は実に楽しそうだ。

 

MCを挟み、またもや最新曲「ひとりごと」を披露。思えば去年このBIGCATで行ったワンマンツアーでも未発表の新曲として演奏されていた。当時はまた新たな一面を出してきたなと思っていたが、今回の音源化にあたり、作詞作曲したのがメンバーの中で最も音楽の知識がディープな穴見真吾(Ba)と知って、納得した。ベースのアレンジだけでなく、彼の知識量はバンドが様々なジャンルの曲を乗りこなせる大きな助けとなっているだろう。

 

ここで長屋がギターを持ち、リョクシャカ流のダークな音像が響く「逆転」へ。ここまで3曲連続で最新EPに収録されている曲を演奏している。リリースした時期的にも、ということもあるだろうが、バンドが常に最新のモードで勝負しようとしている姿勢が伺える。相変わらず長屋のギターはあまり聴こえないが。

 

長屋のキーボードによるアレンジが追加された「アウトサイダー」を経て、MCで実はリョクシャカとネクライトーキーは今日が初対面だと話す。ライブを見るのも初めてらしい。長屋は「ネクライさん」と何だかよそよそしい呼び方をしていたが、どうやらこの2バンドは直接的な繋がりはなかったようだ。 それでも長屋は

 

「音で遊んでるところとか私たちと似ているなと思って。お互いのファンが楽しめる空間を作れると思って呼ばせていただいた」

 

と説明していた。

 

リョクシャカはストレートなポップバンドだというイメージを持たれがちだが、最新EPのインタビューでは「幸せ」を「王道っぽくもありつつ、実は普通じゃないアプローチで攻めた曲」と紹介しているなど、常にポップスの新たな可能性を模索、追求しているバンドである。

 

そういった意味では、ネクライトーキーもまた、ポップなメロディやサウンドに真逆のひねくれた歌詞を乗せていたりするし、実は今までになかったスタイルのバンドだったりする。女性ボーカルとかキーボーディストがいるという見えやすい共通点よりも、バンドのスタンスという点で、両者は意外と近しい存在なのかもしれない。

 

「大切な曲ができたので、みなさんにも幸せを分けていきたいと思います」のMCから始まったのは「幸せ」。横を向いてキーボードを弾く長屋は、綺麗めな服装やショートカットも相まってねごとの蒼山幸子を彷彿とさせる。この曲はとにかく音のバランスが絶妙で、非常に心地よいナンバーだった。それにしても、

 

「もう離さないから 離さないでよ」

 

の歌詞は、何度聴いてもドキリとさせられる。それだけ長屋のボーカリストとしての表現力は、元から評価は高かったものの、さらに凄みを増してきている。同世代のバンドでは右に出るものはいないのではなかろうか。

 

「Bitter」「Alice」と人気曲で再び会場の熱を高めると、「真夜中ドライブ」ではpeppeの流麗なフレーズに力強いバンドサウンドが重なる。そして最後は「始まりの歌」で「ララルラ」のシンガロングを起こさせる。

 

自分がリョクシャカを初めて知ったのもこの曲だったが、ライブで披露される度にシンガロングの声がどんどん大きくなっているのが本当に嬉しい。アウトロには曲の終わりを惜しむように少し長めのアレンジが加えられていた。

 

アンコールではグッズ紹介と今秋に行われるワンマンツアーの告知を行い、

 

「大阪リベンジできてよかったです!ありがとうございました!」

 

と告げて「またね」へ。この曲がライブの最後に演奏されるのは意外と久しぶりだったりする。

 

最後はネクライトーキーを呼び込んで写真撮影。明らかにまだ距離感を掴めていない雰囲気を出していてちょっと不安だったが、どうやら打ち上げではちゃんと打ち解けられたらしい(メンバーのTwitter情報)。よかった。

 

基本的に対バンライブというのは、もちろん2バンドとも好きな人が見に行くのも面白いし、どちらか片方しか知識がない状態だと、好きなバンドがきっかけで新たなバンドと出会えるという面白さもある。しかしそういった出会いがあるのは必ずしもお客さんだけでなく、バンド同士もまた然りなのだ。

 

今日のライブは、単純に仲がいいから対バンするのではなく、対バンを通して「はじめまして」の挨拶をすることから始まっていたライブだったのだ。

 

たとえお互いに会ったことがなくても、ライブや音楽を通じて知り合うことができる。またこの2バンドが一同に介する日が来てほしいものだ。

PENGUIN RESEARCH Penguin Go a Road 2019 「なぜ決闘なのか」 @なんばHatch 2019 6/2

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近年じわじわとライブでの質が評価されきている(と勝手に思っている)PENGUIN RESEARCH。その背景にはデビュー当時のクールな路線からのいい意味での逸脱、つまり一言で言い換えればアツい曲が多くなったことが一因と考えられる。ここでいうアツいとは、生田鷹司(Vo)の突き抜けるようなハイトーンボイスなどを武器に、「悔しい」とか「今に見てろよ」といった感情を素直に表現しているということで、その実直さがライブ映えしているのかもしれない。

 

先日リリースされた「決闘」もまた、そのアツさをこれでもかと前面に押し出した楽曲といえるだろう。そんな「決闘」を引っ提げ、8月の横浜まで続くツアーの中盤戦、大阪公演に参戦。彼らにとって大阪では過去最大規模のワンマンだ。

 

開演時間ちょうどになると暗転、デジタルサウンドのSEが流れる中で新保恵大(Dr)、柴﨑洋輔(Key)、神田ジョン(Gt)、堀江晶太(Ba)、生田が順番に登場し、

 

「俺たちがPENGUIN RESEARCHです、よろしくお願いします!」

 

の合図で「SUPERCHARGER」がスタート。生田はお立ち台の上で時折両手を広げながら、客席が温まっていくのを確認しているかのようにふるまい、楽器隊4名が超絶プレイで魅せていく。つい誰か一人に夢中になってしまう程、とにかく一人一人のスキルがずば抜けているのはこのバンドの大きな強みだ。特に堀江のベースラインは、メインのメロディを担当しているのかと思うほど手数が多い。

 

ストロボが鮮烈に瞬いた「wasteland」と激しい曲が続き、フロアが十分に温まったところで、新曲「逆襲」を投下。「決闘」と対象的に音数は少ないが、「絶望的なシチュエーションから 大体ヒーローは生まれるんだぜ」といった歌詞からは、内側で確かに燃え滾る闘志を感じる。

 

続く「WILD BLUE」では「カモンカモン」の大合唱が自然と響き渡る。「転げ回りたくて仕方ない」といった歌詞は雑念や外野の声をかなぐり捨てていきたいという現在のバンドのモードを表しているし、演奏しているメンバーは実に楽しそうだ。生田の歌声も気持ちよく聴こえてくる。

 

昨日は福岡でライブだったし、前日にライブ映像を見たりしていると、生田のボーカルは安定感に欠けているというか、そもそもバンドサウンドが強靭であるがゆえに、そこに没入してしまうのではないかと心配だったが、どうやら杞憂だったようだ。やはりライブ映像を見るのと本物のライブを見るのは天と地の差があるなと改めて思う。

 

3月にイベントでの出演でなんばHatchに立っていたものの、ワンマンは初めて。生田は改めて客席を見回して

 

「ワンマンってやっぱ最高だな!」と笑顔を見せ、

 

「みんなは今日誰を見に来たの?」

 

の問いにPENGUIN RESEARCH!と答えるフロアにメンバーも満足げだった。

 

中盤、「brave me」「ボタン」を伸びやかに演奏すると、「世界最後の日に」では一転して優しい歌声を聴かせる。生田は声優としての仕事もこなしているだけあり、この辺りの表現力は流石だ。

 

ここで照明が一斉に落ち、暗闇の中から柴﨑のエレクトーンが響く。まるで深い海の中にいるかのような静謐な時間を経て始まったのは「冀望」。しかし曲が始まっても照明は点らず、メンバーの手元すら最低限の明かりがあるだけで、ほぼ暗闇に近い状態で曲が進んでいく。

 

徐々に光が増していく演出かな、とも思ったが、1番の終わりに中央の小さなライトが一つ点灯した以外は、なんと最後までステージが明るくなることはなかった。

 

ライブでの演奏において、色とりどりの照明を用いてオーディエンスに視覚的演出を提供するのは当然のものだ、と考えていたが(それに加えて、この曲はライブでどんな照明で演奏されるのだろうか、とオーディエンスがあれこれ想像するのもライブの一つの魅力だと考えている)、この曲はあえて照明を多用しないことで、ある意味での視覚的演出を見せる、というものだった。

 

そもそもバンドとしての強固な集中力がないとできないし、こうした引き算の演出を考えているバンドはそうそう見当たらない。とても秀逸なワンシーンだった。しかも後続の「ひとこと」「スポットライト」で、夜~夜明けの時間軸を表現するような流れも素晴らしかった。

 

「なぜ決闘なのか」というツアータイトルについて、生田はMCで

 

「1本も捨てていいライブなんてない。俺たちは誰にも負けたくないし、日々のライブが決闘だと思っている」

 

と語った。そして、

 

「俺たちはこのツアーを通じてもっと成長したい。俺たちだけじゃなく、スタッフや目の前にいる皆と一緒に前に進みたい」

 

とファイナル・横浜での初のアリーナワンマンも意識した意気込みを見せる。

 

これは個人的な意見だが、ロックバンドは常に最盛期を更新し続ける存在であってほしいな、と思っている。今年素晴らしいアルバムがリリースされても、2年後にはそのアルバムが霞むような最高傑作を生みだす、そんな風に進化していく姿に自分は心を打たれてきたし、そんなバンドを応援していきたいと感じている。

 

生田の言葉からは、現状に満足せず、バンドとしてさらに高みを目指すギラギラとした情熱を感じたし、それはきっとオーディエンスにも伝わったと思う。

 

「でもな、自分自身に勝てないやつが誰かに勝てるわけがない。違うか大阪!」

 

とフロアを大いに煽ったところで、「決闘」がついに放たれる。神保のヘビメタかと思う程のツインペダル連打が襲い来るように鳴りまくり、生田は自身の限界に挑戦するかのように声を張り上げる。それに比例して、オーディエンスの歌う声もどんどん大きくなっていく。

 

演者と観客が一切の妥協なしで真剣に向き合い、己の熱を叩きつけあう、まさに闘いのような一幕を経て、イントロから歓声が起こった「敗者復活戦自由形」ではジョンと堀江が華麗に立ち位置を入れ替わりながら、鮮やかなフレーズ一つ一つを見せつけるように奏でる。

 

完全にスイッチが入ったオーディエンスの合いの手もどんどん大きくなり、間奏のアレンジではゴリゴリのサウンドに乗せてヘドバン。本当に「スポットライト」とか「ボタン」を歌っていたバンドと同じか?と疑いたくなるほどの変貌っぷりである。

 

こうしたサウンドを趣向するのも、優等生のようなメジャーバンド像から離れ、本当に自分たちの興味が赴くままに生きていきたい、というこのバンドなりの反抗心の表れか。

 

続けざまに「シニバショダンス」で踊らせると、「近日公開第二章」では

 

「僕らが僕らを超える復讐劇」

 

と歌い、PENGUIN RESEARCHPENGUIN RESEARCHと対峙し、超えていく様を見せつける。鳴り物入りでデビューしたからこそ、彼らがロックバンドという形に拘り、泥臭くもがいている姿勢を隠そうとしない意味がわかった気がした。

 

生田は振り絞るように歌い上げてもなお、客席を不敵に見つめながら両手を広げ、「オイ!オイ!」コールを一身に受け止める。まるで「俺たちは絶好調だけど、お前らはどうだ?」と挑発しているかのようだった。

 

最後の曲の前に、生田は「ライブは好きか」「音楽は好きか」「PENGUIN RESEARCHは好きか」の流れに続いて(もちろん3つの問い全てにオーディエンスは大歓声で答えていた)、

 

「自分自身のことは好きですか?」

 

と問いかける。これには客席の反応は曖昧。

 

「自分のこと好きかって聞かれて、すぐに好きだって答えれるようになれたらいいな。毎日色んなことがあるだろうけど、俺たちはみんなのすぐ近くにいるから。最後、全員の声を聴かせてくれ!」

 

と語りかけ、「嘘まみれの街で」を演奏。

「奪い返して救い出せ 未来のお前自身を」というフレーズは、PENGUIN RESEARCHの音楽を信じてくれているオーディエンスへ、自分に負けるなという精神を体現してきたバンドからのこれ以上ない真摯なメッセージに感じた。だからこそ、

 

「何にも出来ないさ お前だけじゃ でも何だって出来そうだ お前となら」

 

というフレーズは説得力があるし、バンドとファンの強い信頼関係が窺えた。

 

アンコールではジョン以外が着替えて登場し、昨日誕生日を迎えた堀江にMCが回る。彼は改めて誕生日を祝われた後、実は「嘘まみれの街で」の前に足をくじいてずっと座っていたことをカミングアウト。それだけバンド全体が死に物狂いで音楽と向き合っているということを再認識された。

 

アンコール1曲目の「アジテーション・パレード」ではタオルを振り回したり、柴﨑がショルキーを背負ってフロントに躍り出たり、曲中に写真撮影をしたり、生田は大阪にちなんでたこやきを用いたコール&レスポンスを行うなど、自由奔放な時間が展開された。

 

どうやら未発表曲らしいが、次のアルバムには収録されるのだろうか。それにしても、かなりぎゅうぎゅうに新しい要素が詰め込まれた曲だ(曲中に写真撮影するのも前代未聞だし)。

 

そしてラストは、重大発表と冠してニューアルバムのリリース、そして大阪でFCライブを行うことを告げる。再会を誓ってから「boyhood」を会場全員で歌い上げ、ライブは幕を閉じた。

 

正直に言うとライブ映像やツアー初日のLINE LIVEを見ていて、今日のライブに不安を感じていた。今の時代、CD音源を綺麗に調整するのは簡単だが、それに伴い、音源とライブでの格差に違和感を覚えるアーティストが増えてきているとも感じる。

 

どれだけ表面を取り繕っても、ライブではそのアーティストの本当の姿が見えてしまう。ましてライブがロックバンドにとっての生命線となっている今、ライブ映像が微妙なのにライブに行ってみたい、という人は少ないだろう。

 

そんな心配はいらなかった。やはりライブバンドとして評価されているだけあって、その実力は本物だった。ロックバンドとしての地力を十分に感じたし、全ての曲が芯の通った出で立ちをしていた。

 

この調子でファイナルまで突っ走っていってほしいし、アルバムが出るということはまた近いうちに新たなツアーが始まるだろう。PENGUIN RESEARCHの更なる飛躍に、期待ばかりが押し寄せる一夜だった。

 

 

このブログについて。

〇当ブログは筆者(私)が行ったライブの様子をつらつらと述べていくものです。

 

閲覧いただく際の注意事項

・ツアー中のライブレポにつきましては、ネタバレ要素を多く含みますので、閲覧は自己責任でお願い致します。

・誹謗中傷、荒らしなどのコメントはお控えください。また、そのようなコメントを見受けられた場合は相手にしないでください。

・ライブレポを書かないライブもあるかもしれません。ご了承ください。

 

関西在住ですが、たまに遠征することがあります。

更新はTwitterで→@idontlikejk

 

今後のライブ参加予定

 

6/5 ハルカミライ×???@Zepp Osaka Bayside

6/13 teto@なんばHatch

7/15 ネクライトーキー@なんばHatch

8/6 ずっと真夜中でいいのに。@幕張メッセイベントホール

9/30 amazarashi@グランキューブ大阪