THE ORAL CIGARETTES PARASITE DEJAVU ~2DAYS OPEN AIR SHOW~ DAY1 <ONE MAN SHOW> 2019/9/14

デビューから5年が経ったが、今やシーンを代表するモンスターバンドとなりつつあるTHE ORAL CIGARETTES。彼らの地元である関西であり、例年では毎年HEY-SMITHの主催フェスが開かれる泉大津フェニックスを会場とし、初日をワンマン、2日目をフェス形式にするという挑戦的なイベントを開催した。このレポは初日のワンマンのもの。

会場に着くなり、蔦の絡まったオブジェが至る所に設置され、書道家が当日にパフォーマンスした一枚絵、ライブペイントやファッションブースの展開など、あらゆるカルチャーに焦点を当てた景色が並ぶ。まるで野外に美術館ができたような感覚だが、この一つ一つがオーラルを形作った血肉であることがわかる。
ステージにはイベントタイトルがでかでかと掲げられ、白い結晶と植物がシャンデリアのような姿を形成した巨大な装飾物が飾られる中、開演時間になると、まずはいつも通りの

「一本打って!」

から。ラブシャの時はテンプレートの文章だったが、今回はちゃんと陰アナっぽくなっていたので安心した。

「お前らがオーラル第2章の生き証人やぞ!」

山中拓也(Vo,Gt)が息巻くと、いきなりの「BLACK MEMORY」で開幕。リリース当時からこの曲はライブの締めを担当してきた場面が多かっただけに、この選曲には驚いたが、

「Get it up」

というフレーズが連なる曲なのでこのポジションも合っているのかもしれない。最初の一音から深く、深く自分たちの世界に引っ張りこむ手腕はさすがのものだ。

続いて「What you want」で会場をバウンスさせるのだが、山中だけでなく、鈴木重伸(Gt)、あきらかにあきら(Ba)、中西雅哉(Dr)の全員、一瞬一瞬の動きがアートになりえるような優美さをまとっていて、演奏している姿に目が離せない。ライブにおいて総合的なアート性を求めている今のオーラルのモードがメンバーの立ち振舞いにも表れているし、こんなに絵になるバンドは他にいない。

まだ2曲しか演奏していないにも関わらず、山中は満員の会場を一望して

「この景色を5年前から思い浮かべてました」

と感極まる。
5年前、KANA-BOONがこの場所でワンマンを行ったのだが、ライブ前に関西の若手バンドの曲をノンストップでDJするという時間があった。オーラルはそこでリリースされたばかりの「起死回生STORY」が流れていた。あの時は大勢の中の1バンドに過ぎなかったオーラルが、ワンマンでこのステージに立っている。音の説得力、ライブの迫力、歌詞やサウンドの趣向からして、今やオーラルの真似をできるバンドは世界のどこを探してもいない。

映像にも目が離せない「WARWARWAR」から、デビュー当時はセトリに必ず組み込まれていた「N.I.R.A」と懐かしい曲が続くと、「GET BACK」からは徐々に日暮れが近づくにつれて照明の激しさも増してくる。惜しげもなくカップリング曲も披露するということは、第2章に入る前に過去を振り返るという今回のライブの趣向を表しているのかもしれない。
「GET BACK」には

「いつかは君の答えになってみせるよ」

というフレーズがあるが、オーラルにとっては今ここに集まってくれた人達の存在こそが答えなのだろう。

いよいよ夕陽が沈んでいく様をハイテンションで眺めていた山中は、前日にあきらから

「ここまでつれてきてくれてありがとう」

と個人LINEが来たことを明かす。そういえば彼らはメジャーデビューして上京してから、しばらく共同生活を営んでいた。メンバー間の信頼関係は折り紙付きだ。

「奈良と大阪といえば近鉄やないですか。近鉄に怪しい駅あるやないですか」

と「瓢箪山の駅員さん」では初期のオカルトな一面を見せつつ、爽やかな原曲から一転して穏やかなムードを漂わせる「LIPS (Redone)」では

「この街の灯が消えてしまうから」

というフレーズと同期するように夜の帳が降りていった。

「ワガママで誤魔化さないで」は今後のオーラルの中でどんなポジションを担うことになるのか、未知数の可能性を秘めていた曲だったが、やはりこの日も中盤のターニングポイントとしての役目を全うすると、キラーチューン「カンタンナコト」では会場が一斉にヘドバン。思えばこの曲をやり始めた当時、山中が

「頭振るぞ」

とヘドバンを煽っていたのが驚きだったし、「オーラルってそういう方向性の曲もやるのか」とも思っていたが、ワンマンで一斉にヘドバンしているこの景色は絶景だ。
山中は

「野外でやることの大変さを知って、フェス主催してるバンドがリスペクトできました」

とこの日に至るまでの苦労を語ると、書道やライブペイントといった、今までにはなかったパフォーマンスを催したことに手応えを感じる。そしてその一環として、ライブ前にもパフォーマンスしていたヒューマンビートボクサーのKAIRIがステージに呼び込まれた。サイレンのような音からDJのスクラッチ音まで、たった一人で泉大津フェニックスを虜にしたKAIRIは、

「みんなが待ってたやつやります!」

と「DIP-BAP」のビートを刻み出す。すると山中もそこに乗っかり、山中の歌、KAIRIのビート、お客さんのコーラスという3つの声だけでワンフレーズを歌い上げた。そして今度はメンバーも参加し、まさにKAIRIがリアルで打ち込みを担当したかのような「DIP-BAP」で会場を沸かせる。
この5年で目まぐるしい変化を遂げたオーラルだが、個人的にはこの「DIP-BAP」こそが、彼らの進化と個性を決定付けた一曲だと思っている。

「オーラルは一生ついていって間違いないバンドだから!」

とKAIRIからの熱い言葉を受け取り、「ハロウィンの余韻 (Redone)」からは最新のオーラルを展開するゾーンへ。
次の「僕は夢を見る (Redone)」もそうだが、

「自分の表現したいことに楽器の制限は外してやっている」

と山中がインタビューで語っていた通り、あきらがシンセベースを操って重厚なビートを生み出すなど、今回リアレンジされた楽曲は決して既存のオーラルのスタイルとは全く異なっている(何年か前のインタビューで山中は「ミドルテンポの曲が響くようになったら強いと思う」といった趣旨の発言をしていたし、その時の伏線を回収しているように感じる)。「バンドなんだからバンドサウンドで勝負してほしい」という意見を持つ人からしたら、今回のリアレンジは突拍子だったのかもしれない。
だが、これこそが常に常識を壊そうと進化を続けてきた彼らの現在地である。中には彼らの目まぐるしい進化についていけなくなった人たちもたくさんいるだろうし、自分の周りにも「昔のオーラルの方が好き」という人がたくさんいる。それはそれでいいんだろうし、きっとオーラルはこれからも歩幅を合わせてくるつもりはないだろうから、我々は最新の彼らが一番かっこいいのだ、と信じ続けるしかない。
でも今日この場所にたくさんの人が集まったということは、オーラルは今でも、いや今が一番かっこいいという何よりの証明だろう。

「オーラルは一度も跳ねたことがない。ブームを起こしたこともない。でもそれでいいと思うんです」

と山中はバンドの歩みを語る。そして、

「ロックは弱い人が奏でるもんやと思うんです。俺は弱い。でもみんなに寄り添えるなら弱くてもいい。どんだけ苦しんでもいい。俺は絶望を力にできるから」

と力強く語りかける。MC中には涙ぐむ声も聞こえた。
ロックはいつの時代も負の感情をエネルギーとして鳴らされてきた音楽だ。社会情勢への反発であれ、うまくいかない恋愛へのあれこれであれ、根本は同じだと自分は思っている。でも売れるためには陰の部分を隠し、明るく振る舞おうとしてきたバンドもたくさんいた。
でもオーラルはそうしなかった。そうできなかったのかもしれないけど、オーラルがこれまで包み隠さずな音楽を鳴らし続けてきたことで、救われた人がどれだけいるのだろうか。

燃え盛る怒りをサウンドに落とし込んだ「5150」からは、「PSYCHOPATH」、さらに極彩色の照明が踊る「狂乱 Hey Kids!!」とダークなキラーチューンが連なる。「PSYCHOPATH」の映像には複数の目玉がこちらを向くシーンがあったように、彼らの音楽は時として目を逸らしたくなるほどリアルだ。でも目を逸らしたくなるということは恐怖という感情があるからだし、オーラルはそんな感情の機微を大切にしてきたバンドだ。
今回リアレンジ版として披露された曲も、「狂乱 Hey Kids!!」のような激しい曲も、どちらかが良いという問題ではない。根本は全く同じだし、どちらも今のオーラルには必要不可欠なパーツなのだと再認識した。

「今近くにいる人は出会うべくして出会ったんやで。ないがしろにすんなよ」

と語った「See the lights」では、

「あなたと過ごした時間には「ありがとう。」の言葉が溢れてる」

のフレーズに涙ぐむ人も。やはりオーラルが一番伝えたかったことは、今目の前に集まってくれた、このイベントを作ってくれたスタッフ達、そしてメンバーからメンバーへの感謝だったのでは、と思った。それがさらに顕著に出たのがこの日一番のハイライトを生み出した「LOVE」。
デビューして1ヶ月弱だった頃、所属レーベルのカウントダウンイベントに出演した時に何故か「起死回生STORY」がセトリに入っていなくて、異例のアンコールを引き起こしたこと。翌年の列伝ツアーでそのリベンジを果たしたこと。ラブシャのステージで山中がポリープ手術を行うことを告白したこと。

「すごいボーカリストになって帰ってくるから!」

という言葉通り、「FIXION」という傑作を引っ提げて帰ってきたこと。満員の武道館で「LOVE」を歌ったこと。大阪の冬フェスで一年間かけて育ててきた「ReI」を大合唱したこと。この曲を聴いていると、その歴史の一つ一つがフラッシュバックしてきて、気づいたら涙が止まらなかった。
ロックバンドは常に自分自身と対峙し、自分自身との闘いを乗り越えてきた存在だと思っていた。だが、山中はオーラルを

「人と人との繋がりでここまで来た」

と語っていた。この「LOVE」も、そうした繋がりがなければ生まれなかった曲だ。

個人的には本編最後の曲はこの「LOVE」だったと感じた。実際にはこの後に「容姿端麗な嘘」をやって本編を終えたのだが、この日の「容姿端麗な嘘」は、今まさにオーラルが第2章に足を突っ込んだことを明確に示していた。きっとこの曲も、これからのオーラルを支えてくれる心強いパートナーになってくれるだろう。

アンコールではワンマン恒例のまさやんショッピング(次はもっと大きな会場でやりたいとも宣言)を経て、徐々に満月が見え始めてきた頃合いにロザリーナが呼び込まれ、ライブ初披露だという「Don't you think」を披露。
ロザリーナの歌を山中の声が低音で支え続けるこの楽曲は、オーラルがロックバンドとしての既存の概念を超えつつある瞬間を表していた。サウンドも歌詞も、目の前の事象に留まらず、もっと広い視野を見据えたもののように感じる。

「何を言われても俺達は初心を忘れないんで!」

と最後に演奏されたのは「起死回生STORY」。オーラルは本来はBKWを掲げてきたバンドだし、そのBKW精神に惹かれた人もたくさんいただろう(少なくともフェスシーンなどではBKWされる側に回った気もするけど)。
しかし今の彼らはもっと大きな事象に目を向けている。それは今日のライブを見た人ならわかるはず。わかったはずならば、我々はそれをこれからも追いかけていくだけである。

最後に写真を撮るときも、

「今までフェスとかで冷たくしてごめんな!今日のためやったんや!」

と上ずった声で話した山中。途中のMCでも言っていたように、オーラルは決してヒット曲に恵まれたわけでもないし、平坦な道を歩んできたわけではなかった。だからこそ、共に歩んできた人達との信頼関係は絶大なものになった。その関係はこれからも一筋縄では揺らがないだろう。来るべき第2章はどんなSTORYが描かれるんだろうか。

My Hair is Bad presents サバイブホームランツアー @Zepp Osaka Bayside 2019/9/6

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最新アルバム「boys」を引っ提げて今日もツアーを回り続けているMy Hair is Bad。ライブハウスを主戦場としているバンドではあるが、今やこうして大阪で一番大きなライブハウスで見れる機会すら貴重になりつつあるのは、昨今のロックバンドのジレンマか。Zepp Osaka Baysideでライブをするのは早くも3回目だ。

 

最初にステージにセットされていた椎木知仁(Vo,Gt)のギターは、いつものレスポールではなく水色のテレキャスター。boysの楽曲はほとんどがこのギターで弾かれていた。開演時間ちょうどになると椎木、山本大樹(Ba)、山田淳(Dr)が揃って登場。ひとしきり身体を伸ばした後、ドラムセットの前で拳を交わすと、「君が海」で勢いよくスタート。MVが出た当時は今年の夏がどんな夏になるのか、想像が膨らむ曲だったが、

 

「この夏が最後になるなら」

 

という歌詞の通り、9月になっていよいよ夏の終わりが迫ってきたこの時期に聴くと、あの時とはまた違った感傷が襲ってくる。

 

マイヘアの楽曲は過去の思い出をリアルの肉体に乗せて、今この瞬間耳にした人に追体験をさせる。その体験は自分自身が本当にそんな経験をしていたかのようで、時に目を背けてしまいたくなるようなリアリティーがあるのだが、「君が海」はどちらかというと白昼夢の中で見聞きした話の追体験のようにも聴こえる。

 

「バンドを続けていくために変化していく」

 

と「hadaka e.p.」のインタビューで口にしていたバンドの、さらなる進化が垣間見えた。

 

「青」に続いて「グッバイ・マイマリー」では

 

「大阪!遠慮はいらないぜ!」

 

とフロアに火を点けると、それに呼応するかのように力強い拳が3人に向けられた。フェスなども含めて、もうライブを見るのは5回目ぐらいになるのだが、ライブハウスで見るのは今日が初めて。熱量は変わらないが、ホールと違うのは、スタンディングフロアの群衆が椎木側に集中していることだ。

 

前半は歌詞を飛ばしたりするなど、椎木の声は本調子ではなさそうだったが、最初のMCを経て「虜」に入る頃にはだいぶ温まってきたようだった。アルバムでは最後の方に収録されている曲だが、

 

「物語の始まりはこれから」

 

という歌詞を聴いて、このポジションに据えられたのが納得できた。

 

スリーピースバンドのベースは、ギターの細かいフレーズが少ない分技術が求められがちだが、 「浮気のとなりで」「ドラマみたいだ」とミディアムチューンが続くゾーンでは、山本のベースがいかにこのテンポの曲たちをうまく引き立てているかがよくわかった。

 

本音を隠し続ける二人の関係が切ない「観覧車」から「戦争を知らない大人たち」、更に神聖なストリングスが流れる「化粧」と続ける展開は、生々しいドキュメンタリーを見ているようで、黙って見ているこちらの心まで裸にさせられていくようだ。衝動的なギターロックというイメージのある彼らだが、スローテンポの曲はどれも味があるし、ロックバンドとしての懐の深さを感じる。

 

「あっという間に半分も経っちゃった」

 

と少し寂しげに語った椎木は、この夏山本に誘われて皆でバーベキューをしたエピソードを披露。せっかくだから椎木が今日は奢るということを宣言すると、山田が号泣し、

 

「なんで泣いたのって聴いたら、椎木の男を見たからって」

 

と話す椎木に、泣いてねえよー、とマイクを通さず叫んだ山田。毎回思うが、彼は本当に声がでかい。

 

マイヘアの誇るキラーチューン達が唸りを上げる中盤戦は「真赤」からスタート。赤い照明がいくつも会場を貫くなか、椎木は

 

「本当は思い出したくないんだ」

 

と叫んでいた。バンドにとってはブレイクのきっかけとなった曲だが、彼にとっては歌う度に自らの傷を抉るような感覚なのだろうか。

 

しかしそんな感傷はものともせず、

 

「ドキドキしようぜ!」

 

と「アフターアワー」が始まると、会場の熱はトップクラスに。中には待ってましたと言わんばかりにダイブしてくる人も。

「愛の毒」「クリサンセマム」と短いナンバーを続けると、勢いはそのままに

 

「ついてこれないなら置いていくだけだ!」

 

と「ディアウェンディ」をお見舞い。山田の切れ味抜群なドラムは年を追うごとに迫力を増してきている。彼がいなければこの高揚感は生まれてこないといっても過言ではない。

山田に続いて椎木がハードコアのような鋭いリフを刻む「lighter」では、照明も赤を中心に激しく明滅する。3人の演奏が素晴らしいのは当然として、マイヘアのライブの魅力の一つはこの照明にある、と自分は初めてライブを見たときから思っている。

 

「人間は嘘を見破れる。お客さんは舐められない。だから最高の本気を見せに来た!」

 

と即興の叫びが繰り返される「フロムナウオン」の臨場感は、CDで聴いてもライブDVDで聴いても味わえない(CD音源はリリースされてないが)。

結局のところ、どれだけ素晴らしい作品がリリースされても、ライブでその魅力を発揮できなければロックバンドは生き残ることができない。グッズを買えば買うほどバンドに利益が届くという話もよく聞くが、それだけロックバンドはライブに重点を置いて生活している。現場に来る人を何よりも大切にしているから、一つ一つの現場に全身全霊を込めている。

「フロムナウオン」の数少ない固定の歌詞の一つに

 

「わからないまま時は過ぎ」

 

という一節がある。今日の「フロムナウオン」が彼らにとって、お客さんにとって何点だったのかはわからない。でも、年間を通して常にライブをこなし続けているマイヘアが、今もこうして最前線でサバイブし続けてきたのは、この「フロムナウオン」を幾度となくバッチリ決めてきた積み重ねがあるからだ。だからこうしてツアーで大阪に来てくれるときは足を運びたくなるし、マイヘアはずっとそういう存在であり続けてくれると思っている。

 

「故郷の歌を歌います」

 

と始まった「ホームタウン」は、彼らの出身である新潟・上越の景色が幾重にもイメージされる曲だ。だいたいこういう故郷に向けた曲というのは、聴いている人が自分の故郷を重ねられるという魅力がある。しかしこの曲に映されている風景は紛れもなく上越のもので、他の何にも代えがたい言葉や空気に満ち溢れている。非常にパーソナルな曲だからこそ、新潟以外の土地で演奏されたのには驚いた。

 

アリーナツアーでも披露されていた「芝居」が演奏されると、曲のスケール感に合わせてこのライブハウスも同時にスケールアップしたかのような感覚に陥る。今の自分は映画のどのシーンにいるのか、自分の周りにいる人たちはどんなシーンで生きているのか、つい思いを馳せてしまうし、願わくは今のシーンが予告編であることを願っている。まだまだロックバンドを見続けたいし、2020年、2030年と続いていく未来をロックバンドと共に生きていきたい。

 

「この夏にここで出会えてよかった!」

 

と3人が笑顔をこぼしながら「いつか結婚しても」が始まると、常々

 

「歌える人は歌ってくれ!」

 

と言い続けていた椎木の思いが成就したのか、歌詞を口ずさんでいる人の数はこれまでで最も多かったし、その数は最後のサビ前に椎木がマイクから離れて会場に歌詞を任せられるようになるまでとなった(歌詞は微妙に惜しかったけど)。何よりも3人が楽しそうな表情をしているのがいい。

 

「笑ってくれよ!」

 

と椎木は言っていたが、同じように我々もマイヘアの笑顔を望んでいる。

 

この時期と相性抜群な「夏が過ぎてく」では

 

「ワンツー!」

 

の掛け声もバッチリ決まり、ラストへ向けてボルテージが高まっていく。最後は「告白」で締め括られたのだが、ここでも椎木は歌詞を会場に委ねる。遂にマイヘアのライブでこんな景色が見れるようになったか、と感動してしまった。

 

アンコールの声に応えて再び3人がステージに戻ってくると、思い思いにメンバーの名前が叫ばれる。その中から山田に話が振られると、彼は珍しくマイクを通して

 

「モンハンやりてえ」

 

と本音を呟いた。良く言えば着飾らない彼らの姿も含めて、マイヘアのライブの魅力だ。

 

「もう1曲新曲やります」

 

と語って歌いだしたのは「舞台をおりて」。

 

「せめて今夜は 昔の話はしたくなくて

これからどうしていこうとか話して 振り返らずに終わろう」

 

という歌詞からは、今までのマイヘアとは違う、未来を見据えた意志を感じる。前作「次回予告」以降、マイヘアはある意味で前向きなバンドになった。今回のアルバムは楽曲の幅広さが広がった作品だったが、それよりもメンバー自身の心が成長したことがこのアルバムに直結したのだろうと感じた。こうした流動的な心情の変化が如実に楽曲に現れるのが、ロックバンドの面白さだ。

 

最後に演奏されたのはアリーナツアーの1曲目を飾っていた「惜春」だったのだが、この曲でも

 

「忘れるために 先を急ぐんだ」

 

とバンドの目線は未来へ向けられている。「フロムナウオン」の途中で椎木は

 

「最新が最高でありますように」

 

と語っていた。もちろん今のマイヘアは最高にかっこいい。でも来年には更にかっこよくなったマイヘアを見れるだろうし、再来年には更にかっこよくなったマイヘアがそこにいるはずだ。その未来を一緒に追いかけていきたい。先ずはさいたまスーパーアリーナへ向けて、彼らの「サバイブ」と題したツアーは始まったばかりだ。

SPACE SHOWER TV 30th ANNIVERSARY SWEET LOVE SHOWER 2019 DAY3 @山中湖交流プラザきらら 2019/9/1

3日目。すっかり雨は上がり、地面の泥濘も消えてきた。この日が一番過ごしやすい気候だったかもしれない。
朝早くからKing GnuOfficial髭男dismの物販には長蛇の列が出来ており、3日間では一番人が多かったんじゃないか。


・マカロニえんぴつ(FOREST STAGE)

3日目のオープニングアクトをつとめたのは話題沸騰中のロックバンド、マカロニえんぴつ。ちょうど今月のスペシャのパワープッシュアーティストにも選ばれた。オープニングアクトではあるが、今年の彼らは想像以上に勢いを強めており、結果的にFORESTの埋まり具合は3日間のオープニングアクトでもトップクラスだった。

THE BEATLES「HEY BULLDOG」をSEに5人がステージに現れると、FORESTに向かう人が更に増えてくる。

「朝早くからこんなに集まってくれて嬉しいです」

と午前中の、それほど暑くない今の空気が非常にマッチしている「レモンパイ」「ブルーベリー・ナイツ」を皮切りに3日目が始まった。

「運命の誰か あたしを掬って食べて」

という歌詞からも、不安定なティーンの心情を表現するのが非常に上手いバンドであることがわかる。

「実は山梨出身なんですよ」と告白したのははっとり(Vo,Gt)。

「山梨、いいでしょ?」

と自慢げに語っていたが、自分はこの3日間で山中湖はもちろん、山梨県のこともとても好きになることができた。自分の他にも、このフェスがきっかけで山梨を好きになれた人がたくさんいるはずだ。

キラーチューン「洗濯機と君とラヂオ」では一際大きな声が上がり、性急なビートがテンションを上げていく「ハートロッカー」で起き抜けの体をマカロックに染め上げていく。

全員が音大出身というプロフィールは今まであまり気にしたことがなかったが、こうしてライブを見てみると確かな技術を持っていることはもちろん、それぞれの楽器が曲中での役割をしっかり理解した上で鳴らされているのがよくわかる。

暗闇から希望をもぎ取ろうとする不安定な心の表現が、かつてのMr.Childrenを彷彿とさせる新曲「ヤングアダルト」に至るまで、彼らの勢いが凝縮されたステージだった。来年にはもう一つ大きなステージを埋められるところまで、彼らのマカロックは広がっていきそうな気配がする。


・Saucy Dog(Mt.Fuji STAGE)

去年は列伝ツアーに参加し、ラブシャではFOREST STAGEに立っていたSaucy Dog。今年の春には東西の野音でワンマンを行うようになるなど、気づかない内にこんなに人を集められるようになっていたのか、と驚きを隠せない。一日を通して注目のアクトが集うMt.Fujiは朝から満員御礼だ。

カウントダウンに続き、穏やかなSEに乗せて3人が登場すると、会場は温かい拍手で迎える。1曲目に選ばれた「真昼の月」は、石原慎也(Vo,Gt)の声質と合わさって朝の空気とベストマッチしている曲だ。会場はやや曇り気味で、湖畔を吹き抜ける涼しい風が3人の優しいサウンドを運んでいく。本当に朝が似合うバンドだ。

前回ライブを見たのは3月だったのだが、「ゴーストバスター」「バンドワゴンに乗って」とどの曲も春先より音が更に強靭になっている。スリーピースバンドは音に隙間が多く、その隙間の空間の心地よさがSaucy Dogの強みだったのだが、心地よさはそのままにより迫力のあるライブを展開している。自分が想像している以上に、このバンドの成長するスピードは早いのかもしれない。

「朝早くから本当にありがとうございます」

とせとゆいか(Dr)が丁寧に挨拶すると、石原は

「富士山見えないね」

と少し残念そう。しかし今の気候の中で聴くSaucy Dogも悪くないな、と思える。
肩の力を抜いてマイペースに歌う姿がバンドの等身大を映している「雀ノ欠伸」を経て演奏された「コンタクトケース」は、このバンドの持ち味である極上のバラードだ。決して派手なバンドではないが、Mt.Fujiに立つにふさわしい存在であることは、この曲をはじめとした数多くのバラード曲が証明している。盛り上げ上手なバンドが注目されがちなフェスという現場で、彼らのような存在のバンドはなかなかいない。

「たくさん朝活してくれてありがとうございました」

と最後は石原が思いっきり足を踏み鳴らして始まる名曲「いつか」。何となく冬の匂いがする素朴な楽曲だが、いつかLAKESIDEでもこの曲が聴ける日が来るのではないか、という期待が頭をよぎった。富士山は見えなかったけど、いつかじゃなくてまた来年、この場所に帰ってきたい。


BLUE ENCOUNT(Mt.Fuji STAGE)

今年はMt.Fujiの昼下がりを任されたBLUE ENCOUNTラブシャに出演するのは5年連続だ。

「今日、うちのギターの江口が遅刻してきたんですよ。…今日はさぞかしいいギターを弾いてくれるんだろうなあ」

と江口雄也(Gt)に発破をかけた田邊駿一(Vo,Gt)は辻村勇太(Ba)と同じくタンクトップでリハーサルに登場。しかしさすがに紛らわしかったのか、本編では白いTシャツに衣替えして登場。「DAY×DAY」でいきなりブチ上げると,「だいじょうぶ」と激しいナンバーが続く。

「毎月記録を更新するほど泣くけど何も変わらない」

というフレーズがあるが、かつて涙ながらMCする姿がしばしばピックアップされていた田邊は、最近は涙をあまり見せない。以前はMCが長くてライブの時間がギリギリになってしまうこともあったが、最近は

「色々と喋りたいことはあるけどそれよりも曲をやりたい」

というモードのようだ。

「ただの賑やかしバンドじゃない。あなたのために歌いに来ました」

とストレートに宣言すると、

「ドラマの主題歌やってもいいですかー!」

と最新曲「バッドパラドックス」では山中湖を一斉にバウンスさせる。

「君とずっと 並んで雨に打たれよう」

という歌詞があるから、雨が降る中で聴いてもまた違った良さがあるかもしれないが、今日の山中湖は晴天だ。
続けざまに「Survivor」「VS」で会場を踊らせると、「もっと光を」に入る前に田邊は自身の思いをぶちまける。

「あいつらと言えば「もっと光を」でしょってよく言われるし、とりあえずその曲やっときゃいいって言われるけど、必要だからこそ歌ってんの。盛り上がっていこうぜとかで終わりたくないし、俺たちカテゴライズされたくないんだわ。みんなもそうでしょ?フェスの客の中の一人で終わりたくないでしょ?」

その言葉からは、今のBLUE ENCOUNTが苦闘しているということが伝わってきた。思えば「バッドパラドックス」の歌詞にも、

「どうしようか これから先に進む方法が分からないでいる
怠いな 逃げたい ムカつく 自分の代わりはごまんといるんだろ?」

と今の彼らの心境が綴られている。今や全国のフェスに引っ張りだことなった彼らだからこそ、このマンネリとも取れる状況をどう打破すればいいのか悩んでいる。結局田邊はうまい言葉が見つからなかったらしく、

「別の表現を1年かけて見つけてくるわ」

と語った。ファンを不安にさせまいと、いかなる問題があっても表舞台では元気に振る舞うバンドは多いし、それは悪いことではない。しかし、BLUE ENCOUNTはこうして自分たちの抱える苦しみを曝け出してくれた。だからこそ我々はブルエンを信頼したくなるし、来年、彼らがどんな姿になってラブシャに帰ってくるのか楽しみになる。

「名前は覚えてくれなくていい。この曲だけ覚えて帰ってください!」

とラストに披露されたのは「アンコール」。結成から15年、これが今の彼らなりの音楽へのアンサーだ。1年後、自分はどんな人間になっているんだろう。ブルエンはどんなバンドになっているんだろう。わからないけれど、道って歩こうとするヤツにしか見えない。


・高橋優(LAKESIDE STAGE)

今や「ローカリズム」のVJとしてスペシャファミリーの一員となった高橋優。だが、番組が4年ほど続いているのにも関わらず、ラブシャには5年ぶりの出演。つまりVJになって初めてのラブシャだ。

雄大なSEをバックに、サポートメンバーから一つ遅れて登場した高橋は、「STARTING OVER」でライブスタート。

「僕らの大いなる旅は始まったばかり」

という一節があるが、「ローカリズム」での経験がこの曲にも影響されているといっても過言ではないだろう。

続いて「福笑い」では知っている人も多いらしく、たくさんの人が高橋と一緒に歌詞を口ずさむ。スペシャには月間で1組のアーティストをパワープッシュするプログラムがある(高橋優は「素晴らしき日常」でパワープッシュに選出されていた)が、その他にも、2週間ほどそのアーティストの楽曲をヘビーローテションする「it!」というプログラムがある。実はこの「福笑い」もかつて「it!」の枠として放送されていたのだから驚きだ。やっぱりスペシャは見る目がある。

「今ローカリズムって番組でVJをやらせてもらってるんですけど、車が喋るっていう設定で。ラジオに近い番組なんですよね。だからこんな番組見てくれている人はいるのかな…って思ったこともあった」

と話した高橋は、番組を見たことのある人、の問いにたくさんの手が挙がっていたことに安心していたようだ。こうしてリアルタイムで視聴者の反応を聞けることは、彼にとっても大きな支えになるだろう。

「会場に向かってる途中で渋滞にはまっちゃって。これは間に合わないってなったんで、私本日、自転車で会場入りしました」

と爆笑を誘った高橋は、ハーモニカのメロディが心地よい「プライド」でライブを再開。更に関ジャニ∞へ提供した「象」のセルフカバーで鋭い言葉を突き立てる。

「明日はきっといい日になる」では再びたくさんの人がサビを歌った。今日が終わったら我々は山中湖から帰らなければいけないし、スタッフ達は撤収作業に入らなければいけない。考えると憂鬱になりそうだが、彼が「いい日になる」と歌ってくれたから、また明日からも頑張っていこうと思えた。それでも寂しさは拭えないけど。

最後に歌詞通りの青空の下で届けられた「虹」は、この2日間、雨に降られたり足場の悪かったりした中で生き延びてきた人たちに贈られたかのようだった。

「誰に止められてもチャリでも何でもまた会いに来るからね!」

と最後に高橋はまくし立てた。ライブを見るのは初めてだったが、理屈ではないところで高橋優と通じ合えた気がした35分だった。最初の方から多くの人がOfficial髭男dismに向かっていたのはずっと気になっていたが。


Official髭男dism(Mt.Fuji STAGE)

今日一番の注目株と言っても過言ではないOfficial髭男dism。ラブシャ初登場のアーティストはだいたいFOREST STAGE(今日出演していたTOTALFATや、かつてはORANGE RANGEHEY-SMITHなどのベテランも最初はFORESTだった)に出ることが多いのだが、直近の勢いを考慮してか、彼らが選ばれたのはMt.Fuji STAGE。しかしそんなMt.Fujiももうキャパオーバー状態だ。去年の今頃は若手の中でも少し勢いが強い程度のバンドだったのに、まさかここまで人気に火がつくなんて。

「リハーサルの時間も無駄にしたくないので」

とフルで「Tell Me Baby」を披露するなど、サービス精神旺盛な一幕を経て、「宿命」をアレンジしたSEに乗せてメンバーが登場。後ろにはホーン隊とパーカッションを従えており、彼らがフェスの舞台にかけている気合いが窺える。
ホーンセクションのイントロが加わった「ノーダウト」ではいきなりの幕開けに悲鳴のような歓声が上がった。

「どうぞご自由に 嫌ってくれて別に構わない」

という歌詞とは反対に、彼らの虜になっていく人は増えていく一方だ。

藤原聡(Vo,Piano)がハンドマイクになり、もはや若手の貫禄ではない「FIRE GROUND」に続くと、このバンドがメロディセンスだけでなく、強靭な肉体性を持っていることを改めて思い知らされる。小笹大輔(Gt)のギターソロは大幅にアレンジされ、彼のルーツであるメタルの要素も組み込まれてる。

ラブシャにはスペシャでVJを担当しているアーティストはもちろん、かつてスペシャのパワープッシュに選出されていたり、スペシャ主催のイベントに出演していたりと、何かしら縁のあるアーティストが多く出演している。しかしヒゲダンは、パワープッシュに選ばれたこともなければ先述したit!にも選ばれていないし、これまでスペシャのイベントに出演した経緯があまりない。逆に言えば、これまでスペシャはヒゲダンにノーマークだったということにもなるが、遅ればせながらスペシャさえも唸らせた彼らの実力は計り知れない。それと同時に、これから両者がどんな歴史を生みだしていくのか、期待は膨らむばかりだ。

MY CHEMICAL ROMANCEを知ったのはスペシャでした」

と語った藤原。彼らがあらゆる音楽性を吸収したハイブリッドなバンドになった裏には、スペシャの存在も大きかったのだろう。

「僕は助演で監督でカメラマン」

という歌詞に続いて

「そしてバンドマン」

と歌詞が追加された「115万キロのフィルム」では、ヒゲダンお得意のグッドメロディが届けられる。野外の会場で聴くと、その心地よさが一層増している気がする。

「Stand By You」でコール&レスポンスを響かせると、「Pretender」ではまたもや大歓声が。今年はこの後出演するKing Gnuの「白日」が大ヒットをとばしたが、「白日」といい「Pretender」といい、あるいは去年ヒットした「Lemon」といい、切ない曲なのに皆が笑顔で口ずさんでいるこの光景が不思議だ。間違いなく、今年を振り返った時にハイライトの1曲として挙げられるようになるだろう。

ラストは「宿命」。ホーン隊の祝祭的なメロディと相まって、藤原の伸びやかな歌声が山中湖に広がっていく様は圧巻。セトリの半分以上の曲がヒゲダンの曲という枠を超えてみんなの歌になっているのが末恐ろしいし、今の彼らの無敵っぷりを堂々と見せつけた35分だった。


10-FEET(LAKESIDE STAGE)

フェス界の番長的存在、10-FEET。この日もお馴染の荘厳なSEに乗せてタオルが掲げられるのだが、やはり京都大作戦のグッズが多く目につく。中には、昨日は見かけなかったホルモンのTシャツを着ている人も多くいた。既にリフトアップされている人もいるなど、客席も準備万端だ。

ドラムセットの前で拳を交わし、頭の一音を鳴らすと、TAKUMA(Vo,Gt)は

「ありがとうございました!10-FEETでしたー!」

といきなりのクライマックス宣言。ちょっと前にやっていたいきなりアンコールで始まるあれか?と思っていたら、客席からのレスポンスを待たずに「RIVER」を投下。いつもはその土地に合った川の名前が入るこの曲も、今日は「流れゆく山中湖」とラブシャ仕様だ。

間髪入れずに「1 size FITS ALL」「goes on」を連発すると、キッズ達は狂気狂乱。バンドが長い時間をかけて築き上げてきたファンとの信頼関係が、この景色を作っているといっても過言ではない。

「人がゴミのようだ」

とTAKUMAもラピュタネタを盛り込んでくると、

「どうしたんやお前ら!いつもみたいに様子見してへんやんけ!なんかあったんか!」

とテンションが高め。序盤から様子見している人が多い10-FEETのライブは見たことがないが。ステージに飛んできた靴を

「もう二度と、失くすんじゃねえぞ」とカッコよく返し、

「カッコいい曲できたから聴いてくれへんかー!」

と「ハローフィクサー」へ。夏フェス前半からセトリに組み込まれており、メンバー自身も「同期に合わせて演奏するのが難しい」と言っていた曲だったが、バンドサウンドが強かった前回と比べて同期音との音のバランスがよくなっていた気がする。

「最近悪いニュースばっかやんな。今日ぐらいはええニュース作って帰ろうや。未来は何があるかわからへんから怖いけど、俺らはそんな未来を見に行く勇気を作りに来たんや」

と未来を見据えた「その向こうへ」が放たれる。彼らの言葉や音楽に幾度となく勇気をもらってきたのは自分だけではないし、彼らの仲間内だけでもない。だからこうして、10-FEETはジャンルやシーンに関係なく愛されるバンドになったし、色んなカルチャーが一堂に交錯するフェスという舞台がよく似合う。

「負けてもいい。そこからヒントを、経験値を持って帰れ」

と振り絞って「1sec.」「ヒトリセカイ」を届けた彼ら。未来はどうなるかわからないし、明日さえもどうなるかはわからない。でも、たとえ負け続けたとしても、この場所にはいつも10-FEETが待ってくれている。


King Gnu(Mt.Fuji STAGE)

昨年はオープニングアクトとして、野外の空気に見合わないどす黒いグルーヴを響かせたKing Gnu。正直、去年はあまり人が集まっていなかった。しかし、今日彼らが出演するMt.Fuji STAGEはリハーサル前から超満員だ。フェスの空気に合う音楽ではないにも関わらず、これだけの人を集めているのはかなりの衝撃だし、いずれはブレイクするだろうとは思っていたが、これほど早くに火がついたのは予想外だった。

ドラム後方に高くセットされたバンドロゴの入ったオブジェが輝く中、不穏なSEに乗せてメンバーが登場。空気感はそのままに「Slumberland」が始まる。常田大希(Vo,Gt)はギターの代わりに拡声器を手に持ち、挑発的にオーディエンスの合唱を煽るのだが、その様子は正にヌーの群れを従えるボスのようで貫禄に溢れている。

「Sorrows」は去年までの彼らにはあまりなかったアッパーチューンだ。正確無比なドラミングで疾走感に磨きをかける勢喜遊(Dr)、とびっきりのブラックなグルーヴを奏でる新井和輝(Ba)の両者のプレイは芸術の域だし、ベースとドラムは土台、という枠を超越しつつある。本当に恐ろしいプレイヤーだ。その気になればもっとニッチなアルバムも作れるだろうが、それをポップに昇華してしまう常田のセンスも半端ではない。

まさかこんな超満員の前で鳴らされるとは思っていなかった「Vinyl」、「Prayer X」と続いた2曲は、共に野外の空気が見合わない閉鎖的な雰囲気を持った曲だという印象だったが、「Prayer X」ではシンガロングが巻き起こった場面も。改めてこのバンドの凄さを思い知った。これから先、もっと大きなステージでこの2曲が鳴らされる未来もそう遠くないのでは、と感じる。

皆が待ち望んでいた「白日」は、もう後戻りはできない、というバンドの現状と覚悟を彼らなりに歌っているようにも見えたが、続く「飛行艇」ではそんな戻れない過去を

「清濁を併せ呑んで 命揺らせ」

と歌う。サウンドだけでなく、日本語の歌詞でも光と闇を表現する、という手法が、現在の彼らの戦い方なのだろう。
去年は最初に演奏されていた「Flash!!」で締め括り。今思えば、この曲がKing Gnuがより前へ進んでいく合図の曲だったと思えるし、結果的に前進しまくったバンドが今年こうして最後この曲を持ってきたのは何かの因果か。井口理(Vo,Key)は曲中にスプレーを振り撒いていたが、あれは何のスプレーだったのだろう。そういえば去年は、まさか井口がこんなキャラになるとは想像していなかったなあ、なんてことも考えていた。

飛行艇」を聴くと、かつてSuchmosが「A.G.I.T.」でスタジアムロックの手法を手に入れたときのことを思い出す。曲のスケールも、バンドの人気も鰻登りな彼らだが、これからどんな夢を見て、この時代にどんなアクションを繰り出すのか。これからも彼らの一挙手一投足を見逃せない。


東京スカパラダイスオーケストラ(LAKESIDE STAGE)

スペシャと共に今年で30周年を迎えた東京スカパラダイスオーケストラ。特別番組がオンエアされるなど、今年は両者がそれぞれのアニバーサリーを祝うべく精力的に活動している。ラブシャには2年ぶりの出演だ。

この日も前日に多数のコラボが発表されていたが、まずは「遊戯みたいにGO」をSEに臙脂色のスーツをまとった9人が登場。

「戦うみたいに楽しもうぜー!」

と叫び、サイドまで一杯に埋まったLAKESIDEを、手始めに「DOWN BEAT STOMP」で会場を温める。ホーンセクションが高らかに鳴り響く様は、まさにお祭り男、という言葉が相応しい。

今日最初のゲストに招かれたのは先ほど出番を終えたばかりのOfficial髭男dism。番組で共演した時と同じく、今日のコラボナンバーとして鳴らされたのは「星降る夜に」。ヒゲダンの4人全員がボーカルをつとめるのだが、藤原以外の3人も非常に歌が上手い。今後のアルバムでは藤原以外の誰かがリードボーカルを担当する楽曲も出てくるのでは、と思うほどだ(中でも松浦匡希(Dr)の声は甲本ヒロトにとても似ている)。楢崎誠(Ba)は谷中敦(B.Sax)と並んで自身の第二のパート・バリトンサックスを披露するなど、ステージのどこを見ても多幸感に溢れている。

ステージを端まで目一杯に盛り上げて回ったのは「Paradise Has No Border」だ。まさにスカパラを象徴する言葉でありながら、音楽の本質を象徴する言葉でもある。これまでスカパラは、奥田民生桜井和寿といった大御所から、片平里菜や今日同じステージに立ったヒゲダンといった若手と、年代やジャンルの壁を超越しながらものすごいコラボを繰り広げてきた。それは彼らの「Paradise Has No Border」という信念が、同業者にもしっかり共感されているからだ。

続いて登場したのはASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文(Vo,Gt)。コラボするのはもちろんシングルリリースされた「Wake up!」だ。MVと同じく、後藤はきっちりとしたスーツに身を包んでいるのだが、スーツが真っ黒なことと、サングラスをしているせいで、見た目がかなりおどろおどろしい。

谷中が

「もうメンバーだと思ってます!」

の言葉と共に招き入れたのはTAKUMA。悠然とステージ脇から歩いてくるのは、もう両者が幾度となくコラボしているからだ。スカパラがゲストボーカルを招いた楽曲の中でもとびきり祝祭感のある「閃光」が鳴らされ、LAKESIDEは笑顔に包まれる。

「告知していたゲストはここまでです!」

と告げた谷中、まさか、と思った矢先、

「もう一人、今日のために来てくれた人がいます!」

とシークレットゲストで紹介されたのはなんと宮本浩次。ソロでの出演も、エレファントカシマシとしての出演もない中、この一曲のために山中湖までやってきたシンガーの登場に会場は沸き立つ。歌うのはもちろん「明日以外全て燃やせ」。最早スカパラがトリであるかのような豪華さだ。

これだけフェスの舞台でたくさんのゲストを呼び込んだライブは中々なかったかもしれないが、最後に演奏されたのは9人での「ペドラーズ」。歌モノシリーズのゲストに注目されがちなアーティストだが、本来はこうして9人でスカの空気を様々なジャンルに取り込んだインストがバンドの本流だ。会場をひとしきり踊らせたところでライブは終了。

スペシャ、30周年おめでとうー!」

とバンドは叫んでいたが、同時に自分たち自身でスカパラの30周年を祝っていたかのような、そんな優しさを感じるライブだった。


・Aimer(Mt.Fuji STAGE)

ラブシャはおろか、野外フェスに出演することすら貴重なAimer。デビュー時から夜行性のオーラを放ち続けていたが、近年は明るいアルバムも増え、こうしてフェスの舞台に顔を出す機会も増えている。Mt.Fujiは夕陽が後光のようにステージを照らしており、彼女がステージに立つには充分すぎる雰囲気を作り出していた。

真っ白なドレスに身を包んだAimerが現れ、「ONE」を歌い出すと、一瞬で会場の空気が変わった。まるでこのMt.Fujiだけが周りの景色ごと切り離されたかのようだ。目の前には確かにAimer本人がいるのだが、その佇まいは触れると消えてしまいそうな儚さを伴っている。
こんな体験はしたことがない。早くも会場から手拍子が生まれ、讃美歌のような響きをもって会場を満たしていく。

あまりのセンセーショナルな体験に驚きを隠せないまま、「コイワズライ」の穏やかなメロディが夕暮れの山中湖に染み渡っていく。この日この場所の時間、空気、気候の全てが彼女のために用意されていたかのような必然性があって、ただひたすらに美しく愛おしい。

「いつも応援してくれているみなさんのお陰で8月にシングルを出すことができました」

と話し方も丁寧で品がある。そこから最新曲「Torches」と「STAND-ALONE」が続いたのだが、Aimerは今年、「Sun Dance」「Penny Rain」というコンセプチュアルなアルバムを2枚リリースした。これまでにリリースされていた既発曲は、このアルバムの内どちらかに収録され、それぞれの世界を彩っていたのだが、アルバム以降にリリースされたこの2曲は、「Sun Dance」にも「Penny Rain」にも属さない雰囲気を感じる。それは彼女の表現の幅が更に深まったという証拠だ。

「憐れみをください」

と「STAND-ALONE」で生みだしたシリアスな空気を引き継いで「I beg you」を歌うと、会場は緊迫した雰囲気に包まれる。かつてはアルバムに収録されている曲のほとんどがバラードで、まさに夜に聴く、という方向性だった彼女が、今こうして野外の会場で、あの時はこういう歌を歌うようになるなんて想像できてなかったメロディを奏でている。しかもちゃんとAimerでなければ成立しない世界観がある。

そんな空気を一蹴したのは最後に歌われた「蝶々結び。」

「この蒼くて広い世界に無数に散らばった中から 別々に二人選んだ糸をお互いたぐり寄せ合ったんだ」

という歌詞は今日の我々とAimerとの関係性のようだったし、今日Aimerとの間に生まれた、あるいはラブシャとの間に生まれたこの結びを、いつまでも大切にしていきたいと思えた。最近はアップテンポな曲も増えたが、やはりバラードを歌えば彼女の右に出るものは存在しない。

ライブを見たのは初めてだったのだが、「Sleepless Nights」から追いかけてきた自分にとっては、全てが衝撃的なライブだった。いつかこの場所で野外ワンマンでも開催できるのはないだろうか、と思うほど、ラブシャ初登場とは思えないベストマッチっぷりを見せつけた。


MISIA(Mt.Fuji STAGE)

ラブシャ初出演のMISIA。今年は「天皇陛下御即位三十年奉祝感謝の集い」なる式典にも出演するなど、その比類なき歌声はもはや説明不用だろう。

リハーサルからバックバンドが本場仕込みのジャズを披露する(メンバーの大半がブルックリン在住)という、3日間を振り返っても異色のアクトとして期待が高まる中、荘厳な演奏に合わせてMISIAが登場。エキゾチックな民族風の衣装は彼女の多国籍感を表しているのだろうか。

じっくり演奏と歯車を合わせるように「Believe」を歌うと、Mt.Fujiは声のないどよめきに包まれたかのようだった。本当に美味しい食べ物を食べた時は声が出ない、とはよく言うが、それと似た感覚が今の会場に漂っている。


「来るぞスリリング」ではタイトル通り、ジャジーなビートが高揚感を生みだし、その上でMISIAの歌声が自由自在に舞っている。歌を歌っているというより、歌を操っているというイメージだ。

「LADY FUNKY」ではトランペットの黒田卓也がMISIAバンドを紹介していくのだが、その口振りは司会者のように饒舌だ。メンバー一人一人も、ジャズの本場であるニューヨークやブルックリンからやって来たというプロフェッショナルの集い。なんて豪華な面構えだろう。

しかしそんな凄腕ミュージシャン達を引き連れているだけあって、MISIAの歌もバックの演奏に負けていない。それどころか、曲中に求めたコール&レスポンスが難しすぎて、

「今のはちょっと難しかったかな?」

と本人が苦笑いするほど。

オルフェンズの涙」以降は何回か演奏がハウる場面があったのだが、野外ライブでの音量調整はやはり難しかったりするのだろうか。しかしMISIAの歌は相変わらず素晴らしい。
太陽のようなオレンジの照明が輝く中で「陽のあたる場所」を披露すると、「つつみ込むように…」では大歓声が。

「誰も皆 満たされぬ時代の中で 特別な出会いがいくつあるだろう」

という一節があるが、普段ロックバンドばかりを聴いている自分が今日こうしてMISIAのライブを目撃できたことはとても貴重な機会だったと思えるし、そもそも好きなアーティストとライブで会える、という事実自体が特別な出会いなのではないか、と思う。

アウトロではMISIAが突き抜けるようなファルセットを披露するのだが、リリースされた1998年の彼女は当時20歳。20歳でこんなファルセットを出していたことも驚きだが、20年ほど経った今でも遜色なく歌えている。後にも先にも、こんなシンガーが出てくるのだろうか。

「MAWARE MAWARE」で再び会場に熱を灯した彼女は、スペシャの30周年を祝ってアカペラでハッピーバースデーの歌を歌う。そして、

「これも一つのアイノカタチ」

と「アイノカタチ」を最後に披露した。

「アイノカタチ」の曲中、斜め前にいたカップルが手を繋いで揺れているのを見た。大好きな人が隣にいたらそりゃきっとそうするだろうな、と思えたし、間違いなく3日間でナンバーワンの歌声を生で浴びることができて本当によかった。


SEKAI NO OWARI(LAKESIDE STAGE)

あっという間の3日間を締め括ったのはSEKAI NO OWARIラブシャにはなんと8年ぶりの出演。8年前といえば、まだ「ENTERTAINMENT」すらリリースされていない時期だから、その頃からラブシャにブッキングしていたスペシャはすごいなあ、と改めて感じた。
ステージ中央には「END OF THE WORLD」の文字が輝いている巨大なDJブースが置かれ、それだけでもこれからとんでもないことが起きる、という予感が高まる。

炎と森のカーニバル」でライブが始まると、いきなり山中湖をセカオワの世界に引きずり込んでいく。一瞬でこのこの場所がセカオワのワンマンの舞台になってしまったようで、フェスの最中ということを忘れそうになる。

まるで未知なる世界に迷い込んでしまった我々の不安定な心境を映し出したように、「ANTI-HERO」ではダークな音像が広がる。Saori(Piano)のソロも芸術の域だ。

一転して「YOKOHAMA blues」では夜の空気が似合うシティポップが会場を染める。Fukase(Vo)の手にかかれば、横浜だってファンタジーの世界に早変わりする。ここまで3曲とも、同じアーティストが歌っているとは思えない幅広さだ。いったい彼らの描く世界に果てはあるのだろうか。
MCでは8年ぶりの出演を喜んだNakajin(Gt)。まさか8年前、セカオワがこれほどあらゆるポップの形を吸収した巨大なアーティストになるとは誰が想像しただろうか。

続いて演奏された「RAIN」は、この3日間を総括するに相応しい、今日一番のハイライトといえる楽曲だった。今日は同じステージでHYや高橋優が虹を歌った曲を披露していた。会場から虹が見えることはなかったけど、お客さんの心にはしっかりとその架け橋は架かったはずだ。そう考えると、

「虹が架かる空には雨が降ってたんだ」

という歌詞において、虹とはこの3日間で鳴らされた全ての音楽のことを歌っているんじゃないか、と思えて、スペシャセカオワを大トリに据えたのは必然だったのだ、と感慨深くなった。

「大事な曲を歌います」

と歌われた「銀河街の悪夢」は、Fukaseの内省的な歌詞が抉るように綴られ、思わず聴いているこちらまで胸が苦しくなる。あまりにもパーソナルすぎる曲だが、こんな曲はセカオワにしか作れないし、スペシャや、スペシャのイベントに集まっている人々を信頼しているからこそ歌われたのだろう。

スターゲイザー」では曇り空の会場を閃光のような照明が貫いていく。さらにミラーボールのような光がステージをライトアップし、山中湖に星が降り注いでいるような、美しい一幕だった。

ラストの2曲は特に圧巻だった。マーチングのリズムに合わせて「RPG」が始まると、会場は大歓声に包まれる。Fukase

「歌える?」

とサビでマイクを客席に向けると、誰もがこの曲を口ずさんでいるし、炎の特効が飛び出した「Dragon Night」では盛り上がりは最高潮になり、皆が歌い、踊っている。その中には、京都大作戦のTシャツを着ている人も、昨日や一昨日の出演者のグッズを身に着けている人もいて、十人十色だ。

きっとそれぞれに好きなバンドやお目当てのアーティストがいて、それはもしかしたらセカオワではなかった人もいるかもしれない。でもこの2曲の間は、誰が何を好きとか、何を目的としているかはどうでもよかった。誰もが目の前で鳴っている素晴らしい音楽を全身で感じている。そこに境界線はない。スペシャにしか、セカオワにしか作れない光景が、確かにそこには広がっていた。

あっという間に花火が上がり、我々はセカオワの世界から帰ってきた。幸せなような、涙が出そうな、この気持ちはなんて言うんだろう。



あっという間の3日間だった。富士山は見えなかったけど、この場所を眺めながら、この場所の空気を感じながら聴く音楽は、何物にも代えがたい宝物となった。
スペシャは今年で30周年を迎えた。このフェスがずっと続いてきたのは、スペシャが常日頃から音楽に愛を注いできたからだ。それはこの3日間のラインナップの大半がかつてパワープッシュされてきたアーティスト達であることからもよくわかる。自分たちが信じて発信してきた音楽が、こうしてたくさんの人の前で鳴り響いていることは、きっと何よりも嬉しいだろう。
来年も、絶対にここに帰ってきたい。この3日間で、この場所が「向かう場所」ではなく「帰る場所」になったから。最後に上がった花火は、きっと何年たっても思い出してしまうんだろうなあ。

SPACE SHOWER TV 30th ANNIVERSARY SWEET LOVE SHOWER 2019 DAY2 @山中湖交流プラザきらら 2019/8/31

2日目。ホテルから移動中には雨がちらつく時もあったが、会場に着いた頃には昨日と同じような曇り模様になり、日中は太陽が射し込んできた。一日中曇りを予想していたので、日焼け対策をしないという痛恨のミスを犯したけど、まあ何とかなるだろう。

 

 

・ズーカラデル(FOREST STAGE)

 

この日はオープニングアクトからスタート。北海道からじわじわとその人気を広げていっているスリーピースバンド、ズーカラデルが初出演だ。

牧歌的なSEに乗せて3人が現れると、「漂流劇団」からライブが始まる。味のある吉田崇展(Vo,Gt)のボーカルと中性的なバンドサウンドは、朝の空気が非常によく似合う。山岸りょう(Dr)のドラムも音源通りの乾いた抜けのいい音で、聴き心地がとてもよい。

 

続いてパワープッシュにも選ばれた「イエス」でピースフルなシンガロングを響かせると、FORESTステージには昨日はあまりいなかったトンボがたくさん集まってきた。まるで北海道の空気がそのまま山中湖に持ち込まれてきたような一幕だった。

 

「ポカリおいしい!」とやたらポカリスエットをアピールしていた吉田は、

 

「今日集まってくれたみなさんと特別な…特別な何かを築けたら」

 

と「友達のうた」へ続ける。じっくりと寝起きの身体に染み込ませるように「前夜」を演奏すると、彼らの代表曲である「アニー」で幕を降ろした。

 

今はまだ「アニー」の印象が強いバンドだが、先月パワープッシュされた「イエス」を聴いたとき、ズーカラデルは一発屋で終わるバンドではない、と確信した。これから先、「アニー」を超えるたくさんの名曲を生み出してくれるだろうし、週明けから始まる取るに足らない日々の中でも、今日出会えた彼らのことを何度も歌うだろう。何度も、何度も。

 

 

the telephones(Mt.Fuji STAGE)

 

活動休止以降、lovefilmやフレンズ、石毛輝(Vo,Gt)とノブ(Key)のクロージングDJなど、色んな形でラブシャと関わり続けてきたが、 バンドとしては実に5年ぶりに、「ディスコ!」の合言葉と共に帰ってきたthe telephones。ステージに着くと既にカウントダウンは終わっており、エレクトロなSEに合わせてメンバーが元気よくステージに現れる。

 

「朝から猿のように踊ろうぜー!」

 

と石毛が仰け反りながらギターソロを弾く「Monkey Discooooooo」を挨拶代わりに叩き込むと、「I Hate Discooooooo」で更に追い打ちをかける。曲名に反して「DISCO!DISCO!」と何度も叫んでいるから、ちっともディスコが嫌いには見えない。

 

ノブのハンドガンが冴え渡る「electric girl」を終えると、石毛は

 

「おはディスコ!」

 

と叫ぶものの、見事にスベってしまい

 

「今のは聞かなかったことにして」と笑いを誘う。

 

「昨日はクロージングDJをやって、今日の出番は朝イチ。鬼か。鬼がここにもいたのか」

 

と悪態をつくも、Mt.Fujiのトップバッターを務めるのは2008年に初出演した時と同じだと知り、

 

「粋なことしてくれるね!」

 

スペシャに感謝を告げていた。

 

「朝からこんな声聴きたくないのはわかってる。でも君らは選んでしまったんだから」

 

と朝から「ディスコ!」のコール&レスポンスを繰り返し、すっかり元気になった客席に投下された「urban DISCO」ではステージ上でひたすら暴れ狂っていたノブが客席に降り立つと、Mt.Fujiの右端へ向けて猛ダッシュ。そこから左端へ向けて、最前列のお客さんとハイタッチをし続けていく。かつてLAKESIDEでもそんなことをやっていたような気がするが、こういうのを見ると、ステージの大きさが変わってもロックバンドが大事にすることはそれほど変わらないのかもしれない、と思う。

 

最後は

 

スペシャに愛とディスコを!」

 

と「LOVE&DISCO」でフィニッシュ。どこかのフェスに出演した時、telephonesはもう集客が厳しい、といったことが言われていたが、今日のライブを見ると、何だ、全然そんなことないじゃん、と思えたし、山中湖で声高らかに「ディスコ!」と叫べることに、感慨深さを感じていた人もそう少なくはなかったはずだ。みんなこのバンドを待っていたのだ。

次に見るときは新曲も。

 

 

NICO Touches the Walls(LAKESIDE STAGE)

 

すっかり常連となったNICO Touches the Walls。telephonesやTHE BAWDIESなど同世代のバンドが多く出演するなか、今年もLAKESIDEで出演。今のシーンでの彼らの立ち位置を考えると、長年ファンである自分でも彼らが毎年ラブシャやロッキンのメインステージに立てているのが不思議なのだが、スペシャからLAKESIDEを任されるに相応しいと思われていると考えると嬉しくなる。

 

リハから「バイシクル」「天地ガエシ」「Mr.ECHO」と名曲を連発すると、

 

「晴れたじゃねえかこのやろー! 」

 

と「手をたたけ」で本編が始まる。光村龍哉(Vo,Gt)はビブラスラップを打ち鳴らすなど、初っぱなからご機嫌なスタートだ。太陽も少しずつ顔を出してきたが、今年も

 

「灼熱の山中湖ー!」のシャウトが響く「THE BUNGY」では

 

ポンコツの太陽 お願い今日は放っといてよ」

 

の歌詞に合わせて太陽が隠れるという一幕も。

 

定番の2曲で会場を沸かせると、古村大介(Gt)の爽やかなアルペジオに合わせて

 

「3秒間」

 

と光村が歌い出すと大歓声が。そのまま風に乗せるように「夏の大三角形」が届けられた。ここまでの3曲は原曲よりも若干テンポが抑えられ、じっくりと噛み締めるような演奏が展開される。これが今の彼らのモードなのだろう。

 

MCで光村は最新アルバム「QUIZMASTER」について触れ、

 

「挑戦の姿勢を示した。ずっと作ってみたかったアルバム」

 

と語る。そのアルバムからは「MIDNIGHT BLACK HOLE?」を披露した。アルバムを聴けばわかると思うが、今の彼らはトレンドに乗っかってもいないし勢いがあるわけでもない。アルバムもシングル曲もタイアップ曲も入っていないから話題性には乏しいし、フェスで盛り上がれる曲も少ない。だけど彼らの豊かな音楽への造詣がそこにはありったけ込められている。スペシャはそこをきちんと理解してくれているから、こうして毎年ラブシャに呼んでくれているのだろう。

 

さらに一段ギアを上げた「Broken Youth」では

 

「壊せない僕らの勝利」

 

の歌詞に合わせて光村は拳を掲げていた。みんなが知ってる曲も最新アルバムの曲もひっくるめて強靭なグルーヴで表現して見せた、今日の彼らの心情が窺えるハイライトだった。

ラストはアコギに持ち変えて「18?」へ。

 

「何度も夢を見るよ 諦めらんないんだ」

 

という歌詞は、先述した「挑戦の姿勢」という言葉と合致する。これだけ多くの引き出しを持っていながら、未だに自分たち自身に秘められた可能性を模索している、そんなバンドのスタンスには敬服してしまう。

 

ライブ終了後、20代ぐらいのお客さんがNICOのことを「懐かしい」と言っていた。たしかに今のシーンの流れから考えると、彼らはそう言われる存在なのかもしれない。だけどQUIZMASTERを聴けば、彼らはまだまだ「懐かしい」と言われるには早いバンドであることがわかるはずだ。これからもずっと、このステージでNICOを見続けたい。

 

 

・Hump Back(FOREST STAGE)

 

今年の列伝ツアーでも熱演を繰り広げたHump Back。何度もライブを見てきているが、フェスで彼女らを見るのは初めてだ。FORESTに着くと既に林萌々子(Vo,Gt)が

 

「ああ もう泣かないで」

 

と歌い出しており、だんだんと集まってくる人の足が早くなっていく。

 

「大阪からHump Backが山梨にやって来たぞー!」

 

と「拝啓、少年よ」で幕開け。後方には手拍子している人の姿がちらほら見えたが、前方の人たちは一様に拳を掲げている。馬鹿みたいに空が綺麗だ。

 

「ライブハウスへようこそー!」

 

と「短編小説」へ繋げると、列伝の時と同様に林がギターソロで客席に飛び込んでいく。列伝を通してtetoに影響されたのだろうか。しかしライブハウスと違い、ステージと客席の距離がやや離れていたので、ダイブしたというよりはもたれかかりに行った感じだった。

 

「光がないなら自分が光ればいい。わたしはみんなの光になりたい!」

 

と叫んだ「クジラ」では、

 

「いっそのこと この空駆け抜けてさ」

 

と晴れ渡った山中湖の空に思いを馳せながら伸びやかな歌声を響かせていた。ぴか(Ba)はいつもより演奏が荒々しい気がする。

 

デビューが最近のことのように思われがちなバンドだが、2009年には既に結成されていたので、今年でバンドは10周年を迎えている。ずっとライブを繰り返し、ライブハウスで育ってきたバンドの心境が綴られた「僕らは今日も車の中」が届けられると、ギターを爪弾きながら林は昼時の空を見上げる。

 

「こんなに空が近かったら、手を伸ばしたら届くんじゃないかって思っちゃう」

 

と呟くと、始まったのは「月まで」。夜の雰囲気をまとっている曲だが、こうして青空の下で歌われるとライブハウスで聴くのとはまた違った、この曲の隠れた一面が垣間見えたようだった。

 

「夜を越え 朝迎え 君に会えたらそれでいいや」

 

という歌詞がラブシャに来ている自分と重なる「LILLY」が届けられると、最後は「星丘公園」。

 

「うちにはスーパードラマーがいるんで」

 

と美咲(Dr)を紹介しながら手拍子を制する姿はいつも通りだ。

 

常々、林は「みんなの青春になりたい」と口にしている。その姿は時にはとても重たくて投げ出せないものを背負って歩いているように見えて、いつか3人が押し潰されしてしまうのではないか、と不安になることもある。その反面、その言葉を心からを信じていて、彼女なら大丈夫なんじゃないか、と思う自分もいる。

 

夏フェスが終わったら、彼女らは半年以上に及ぶ長いツアーに出かける。僕らの夢や足は止まらないのだ。次はライブハウスで。

 

 

あいみょん(LAKESIDE STAGE)

 

ラブシャはタイムテーブルの都合上、トリのアーティストの時は会場にいる全員がLAKESIDEに集まれるようになっている。その景色は圧巻のものだし、トリを任されたアーティストに許された景色である。

 

しかしこの日、LAKESIDEの通路がほとんど塞がれてしまうほどの集客を見せたのはあいみょん。去年出演したFORESTから飛び級でメインステージに到達したのも納得だ。いや、もはや今の彼女にとってはLAKESIDEですらもキャパが足りない状態なのかも。

 

リハーサルで本人が登場したときから既に会場のテンションは最高潮で、あちこちからどよめきの声が上がっている。そんな中でマイペースにリハーサルを終えたあいみょんは、SEを使わずふらっとメインステージに現れた。

 

エレクトーンの穏やかなメロディが流れるなか、

 

あいみょんです、よろしくお願いします」

 

と挨拶すると、「愛を伝えたいだとか」からライブスタート。満員のLAKESIDEにゆったりとした空気を生み出すと、「君はロックを聴かない」では一音目から大歓声が。リリース当初はこんなにみんなが口ずさめる歌になるとは思っていなかった。

 

「やほー」

 

と肩の力が抜けた挨拶をすると、

 

「今日が夏フェス最後なんです」

 

とやや口惜しそうに告げる。彼女にとってこの夏はどんな夏だったのだろうか。

真昼の会場に「今夜このまま」が鳴らされると、「生きていたんだよな」ではピアノのワンフレーズで歓声が上がる。夏フェスの祝祭的な空気のなかでは異端な歌詞だが、やはり口ずさんでいる人がたくさんいる。空を見上げると鳥は飛んでいなかったが、トンボが一匹、彼女の歌に聞き入るように宙を舞っていた。

 

「今年も夏の曲ができました」

 

と「真夏の夜の匂いがする」では、妖艶な歌と爽やかなサビの両方を使い分け、彼女なりのポップセンスを見せつける。タイトル通り、夜の時間帯に聴きたい曲だ。

「貴方解剖純愛歌~死ね~」のストレートなロックサウンドで突き抜けると、

 

「大好きなお花の歌を歌います」

 

とラストはみんなが待ち望んでいた「マリーゴールド」。客席の手が揺れるなか、大切に歌い上げて彼女はまたふらっとステージを去っていった。

 

そういえばホテルから会場に来る間、花の都公園に百日草が咲いていた。これから「マリーゴールド」を聴く度に、その時一瞬過ぎ去っただけだったあの百日草を思い出してしまいそうな気がした。

 

 

KANA-BOON(Mt.Fuji STAGE)

 

メジャーデビュー前からラブシャに出演し続けてきたKANA-BOON。しかし今年はめしだ(Ba)が不在のため、初めて3人で出演する運びとなった。

 

KANA-BOONですよろしくどうぞー!」

 

谷口鮪(Vo,Gt)が元気よく声を張ると、いきなり「シルエット」からスタート。ステージ前方には早くもサークルモッシュの輪が出来上がっている。久しぶりに聴く「盛者必衰の理、お断り」を経て、「彷徨う日々とファンファーレ」では甘酸っぱい夏の匂いがセンチメンタルなメロディと共に届けられる。かつてのKANA-BOONはセトリが固定されがちだったが、今はこうして手札が幅広くなっていっている。

 

「みんなどうする?跳び跳ねる?走り回る?それともゆらゆらする?」

 

を合図に「ないものねだり」が始まり、巨大なコール&レスポンスが繰り広げられると、フルドライブ(鮪はキメで「バルス!」と叫んでいた)でその勢いは更に加速する。歌詞通り、会場の天気は快晴だ。サポートには共にデビューのきっかけとなったオーディションで共演し、スプリット盤をリリースしたこともあるほど親交の深いシナリオアートのヤマシタタカヒサを迎えているが、彼のベースもすっかりバンドに馴染んでいる。

 

「まあ色々ありましたけれども」

 

と初夏の騒動を振り返った谷口は、

 

「楽しいこととか続けてよかったって思うことがたくさんあるから、こうしてギターを弾き続けてバンドを続けている」

 

と現在の心境を語る。デビュー前から一緒に走ってきたメンバーと歩幅を合わせられなくなった時の気持ちは言うまでもない。でもこうしてライブを助けてくれる仲間がいて、毎年ブッキングしてくれるスタッフがいて、ライブを待ってくれているお客さんがいる。

 

「この続けていきたいって気持ちを未来へ向けて、バトンとして渡していきたいと思います」

 

という言葉と共に「バトンロード」が歌われると、

 

「自分たちの今の気持ちも歌っていいですか!」

 

とラストは「まっさら」。言葉を伝えるというより、叫びを伝えるという彼らに合わせて、オーディエンスも最後まで声を張り上げていた。

 

バンドがどんどん過去の思い出になっていく過程を見るのは、とても寂しい。特にKANA-BOONはブレイクが早かったために、音楽性が豊かになってきているのに集客力が減っていっているという状況に陥っている。最近の彼らのライブを見ると、一抹の悲しさを覚えてしまう場面が増えたが、悲しんでいるだけではなにも進歩しない。

 

今日も最初の方は満員だったものの、気づけば多くの人がsumikaへ移動していってしまっていた。しかし、「まっさら」でたくさんの人がサビで叫んでいたのを見ると、彼らはまだまだ過去のバンドと呼ばれるには早すぎると思えた。来年も再来年も、この場所でKANA-BOONと出会いたい。

 

 

sumika(LAKESIDE STAGE)

 

リハーサルから

 

「一人で来てる人、家族で来てる人、恋人と来てる人、たくさんいると思うけど、この後のライブでは絶対に、精神的に一人にしないんで!」

 

と誓ってみせたsumika。初のLAKESIDEだ。

いつものように笑顔でステージに現れた4人は、「「伝言歌」」で口火を切る。サビのフレーズは客席に委ね、メンバーはそれを笑顔でしっかりと受け取る。どれだけステージが大きくなって物理的な距離が離れても、心理的な距離は変わらないことを何度も証明してきたバンドだ。

 

続いて「Lovers」では風に乗せてとびきりピースフルな音を届けると、

 

ラブシャのみんなを元気にする呪文があった気がするなあー?」

 

とお馴染の前振りから「ふっかつのじゅもん」へ。長い一日の中ではどうしても中だるみしてしまいそうな時間帯だが、タイトル通り会場に「ふっかつのじゅもん」を唱えてみせた。

 

片岡健太(Vo,Gt)がハンドマイクになって披露されたのは最新アルバムから「Flower」。片岡は縦横無尽に広いステージを飛び跳ね、あちこちに

 

「Flower!」

 

のコールを求める。今日はsumikaのグッズを身につけている人もたくさん見かけたが、フェスといえば様々なバンドのグッズをまとった人たちが一堂に介するイベント。ステージの上から見える景色も、ワンマンとはまた違ったカラフルな景色だっただろう。メンバーも実に楽しそうで、片岡はもうずっと声が上ずっている。

 

「リラックスして聴いてください」

 

とチルな空気を呼んだのは「Travelling」。「Summer Vacation」もそうだが、こうした横ノリの曲をうまく乗りこなす様も、バンドの器量の広さを表している。

 

スペシャは学校に上手く馴染めなかった自分を救ってくれた」

 

と語った片岡。彼に限らず、今年出演したアーティストの中にはスペシャを聴いて育ったと公言している人がたくさんいる。そんな人たちがこうしてプロのミュージシャンになり、音楽を発信する立場になっている。そして、今日会場にいる、あるいは今後の特番を見る人たちと出会い、音楽のリレーは続いていく。そんなループが、この先もずっと続いていってほしいな、と思えた。

 

「この場所が皆の待ち合わせ場所になりますように。どうせならでっかいこと想像しよう!」

 

と最後に歌われたのは「フィクション」。ストーリーはこれからも続いていく。sumikaスペシャが今後どんなストーリーを紡いでいくのか、そのストーリーを見た我々同士が、どんなストーリーを紡いでいくのか。未来が少しだけ明るくなったような、そんなライブだった。

 

 

クリープハイプ(LAKESIDE STAGE)

 

徐々に落ちてきた陽はLAKESIDE STAGEの後ろに位置し、ステージを向くオーディエンスの顔面に直撃するように光が降り注いでいる。思わず顔をしかめたくなるこの時間にLAKESIDEに登場したのはクリープハイプ尾崎世界観(Vo,Gt)が

 

「雨降ってないね。しょうがないからじっくり濡らしていきます」

 

といきなり「栞」の歌いだしを少しなぞってストップ。

 

「こっちもセットリストが固定されてきてんだよ。出落ちだと思え」

 

と皮肉り、小泉拓(Dr)の力強いビートと共に「栞」からスタート。「鬼」では

 

ラブシャの六畳間」

 

と変わった歌詞に歓声が上がる。

 

長谷川カオナシ(Ba)の曲紹介から彼がボーカルをつとめる「火まつり」が始まると、祝祭的な会場の空気が怪しくオカルトな空気に変わる。ギターソロ中の小川幸慈(Gt)を尾崎が蹴り落とそうとする場面も。

 

「太陽出できたね。曇ってていいのに」

 

と尾崎がぼやき、それに呼応するかのように雲が陽を遮ると、夕方の時間帯が似合う「ラブホテル」へ。1曲目から「尾崎、けっこう髪切ったなあ」と思いながら見ていたら、間奏のブレイクで

 

「髪…切りすぎちゃったなあ」

 

と本人が自虐。見ないで、とか言いながらちゃっかりカメラは彼のおかっぱ頭っぽくなった髪型を映す。

 

「楽しみすぎて切りすぎちゃった。これも…」

 

と夏のせいにしてしまうところがクリープハイプらしい。

再び祝祭的な空気を取り戻した「イト」から「イノチミジカシコイセヨオトメ」で尾崎は、

 

「生まれ変わってもクリープハイプでこのステージに立ちたい」

 

と叫んでいた。去年リリースされたアルバムが素晴らしかったことからも、このバンドが充実期に入っていることが窺えた。

 

「今度じゃなくて今気持ちよくなりたい」

 

と「HE IS MINE」では家族連れもたくさんいる中、いつも通り「セックスしよう!」の大合唱を決めてみせて、彼らはステージを去った。クリープハイプは楽しもうぜ、って空気を自分達からは発信しないし、オーディエンスに媚びるようなことは絶対にしない。下ネタも躊躇せず言うから、家族連れにもあまりよろしくない。

 

それでも毎年これだけの人が集まっている。フェスは皆が皆、一様に盛り上げていこうという雰囲気ではないということが、全国のフェスに常連である彼らのライブを見ればわかるはずだし、このバンドが毎年大きなステージに立てているのは、彼らの地の力あってこそだろう。今日も、しっかり彼らの掌の上で転がされた。

 

 

フレデリック(Mt.Fuji STAGE)

 

2月にリリースしたアルバムを引っ提げ、1年以上に及ぶツアーをじっくり回っている最中のフレデリックラブシャには2014年から6年連続で出演している。

赤頭隆児(Gt)、三原康司(Ba)、高橋武(Dr)がイエローで統一された服装で登場すると、最後に三原健司(Vo,Gt)が登場し、

 

フレデリック、35分一本勝負、始めます」

 

とこの日もMCなしのダンスタイムを宣言すると、まずは「KITAKU BEATS」でMt.Fujiを躍らせる。遊び切っても山中湖からは帰りたくない気持ちだ。シームレスに繋げた「飄々とエモーション」では健司がハンドマイクになり、雄大なビートを響かせていく。野外の会場がよく似合う曲だし、間違いなくこの曲は、彼らの歴史を辿る上でターニングポイントとなり得るだろう。

 

いくつかの夏フェスでも披露されてきた新曲「イマジネーション」はミディアムテンポでじっくりとリズムを身体に刻み付けていく、地に足の着いたサウンドが展開される。彼らの様々な音楽へのリスペクトが、一つ成熟した形と言えるだろう。

 

尚も「シンセンス」のビートを叩きつけると、

 

「もう一曲、新曲をやってもよろしいでしょうか!知ってても知らなくてもいい、音楽が好きならそれでいいんです」

 

とまたも新曲「VISION」を披露。バンドの未来を見据え、更にエレクトロ色が色濃くなった曲だ。今後どのような存在を放つようになるのだろうか。

 

あっという間の35分間は「オンリーワンダー」で終了。ハンドマイクで歌う曲がさらに増え、来年の横浜アリーナに向けてバンドがどんどん新たなフェーズに突入していくのがよくわかる35分だった。まだまだ遊び足りないから、続きは12月のワンマンで。

 

 

Perfume(LAKESIDE STAGE)

 

ステージの骨組みの隙間から夕陽が漏れるLAKESIDE STAGEには、この2日間で初めてステージにバンドセット以外のセットが組まれた。ラブシャ4年ぶりの出演となるのは、もはや説明不用の国民的テクノポップユニット・Perfumeだ。

 

その姿を一目見ようとたくさんの人が集まったLAKESIDEに、機械的なSEを響かせながら3人が登場すると、あちこちから黄色い声が上がる。「Future Pop」からライブが始まると、「FLASH」では手裏剣を投げたり弓を引く和風な振付に加えて、鮮やかなハイキックも披露され、その舞うような姿に誰もが釘づけになる。ご存知の通り、彼女らは常にヒールでパフォーマンスを行っているのだが、こうしてリアルタイムで見てみると3人の凄さを思い知らされる。

 

お馴染の挨拶で会場を虜にした彼女らは、4年ぶりの出演に喜びを見せる。しかし、あれだけキレのいいダンスを、しかもヒールで行っているというのに、MCでは3人とも全く息切れしていない。まるで機械のよう(実際Perfumeは機械っぽくというスタンスで曲に臨んでいる)だが、やはりMCからは彼女らの人柄の良さが伺える。

 

今日限りでお世話になったマネージャーが卒業することを告げた3人は、口惜しそうにしながらも、

 

「挑戦したいことがあるっていう彼(イケメンかつ有能らしい)を応援したいと思った」

 

と二つ返事で送り出したことを語る。

 

「ここに立っているだけでエモい状態」

 

と気合の入りようをアピールした彼女らは、マネージャーへの餞にも聴こえる「ナナナナナイロ」を披露。CMソングとして流れている曲だが、2番で急にドラムンベースのトラックが入るなど、なかなか侮れない曲だ。初期の楽曲「Baby cruising Love」もまた、マネージャーに向けた選曲だったのだろうか。

 

こちらもライブでおなじみのP.T.Aのコーナーでは、まずチャットモンチーが曲提供をした「はみがきのうた」で

 

「恥ずかしがらないで!」

 

とあーちゃんが先導して歯磨きの振り付けを行い、まったりとした空気にすると、

 

「カラオケで歌って楽しかったから採用した」

 

やついいちろうIMALUがSUSHI PIZZA名義でリリースした「あかるいよ!」でもあーちゃんが振り付けをレクチャー。ハッピー注入を自分に向けているのを見て

 

「自分に向けるんかい」

 

とのっちの鋭いツッコミも決まり、もうこの会場が地球で一番平和な空間なのでは、と錯覚するほど。

 

そんな穏やかな空気が「FAKE IT」で豹変すると、重厚なビートに合わせて会場全員がバウンスする。その様子はULTRA JAPANのようだ。会場全体が待ってましたと声を上げた「チョコレイト・ディスコ」では、まさかのこの日2度目となった

 

「ディスコ!」

 

コールが山中湖に鳴り響いた。

 

ラストを飾ったのは「無限未来」。この曲もまた、先程のMCのあとに聴くと、マネージャーに向けて届けられているように感じたし、チームの強い絆が垣間見えてこっちまでエモくなってしまった。楽曲のクオリティも、ダンスの技術も、MCの人懐っこさも、全てがオンリーワンなステージだった。

 

 

・[ALEXANDROS] (LAKESIDE STAGE)

 

毎年のようにラブシャに出演しているイメージがある彼らだが、去年は自身初のスタジアムワンマンがあったからか、山中湖にやって来るのは2年ぶり。すっかりフェスの終わりを締めるにふさわしい貫禄のあるバンドになった。

今年はツアー中に磯部寛之(Ba)の負傷があったり、庄村聡泰(Dr)の難病が発覚したりと踏んだり蹴ったりな彼ら。しかしサマソニ辺りから磯部の傷が癒えて本来のパフォーマンスができるようになったりと、徐々に本来の姿に戻りつつある。

 

夜になってやや肌寒くなった山中湖に、何となく冬の空気を感じさせるSEが流れ出すと、サポートのリアド偉武とROSE、磯部と白井眞輝(Gt)がスタンバイ。少し遅れて川上洋平(Vo,Gt)が大歓声を受け止めながらオンステージ。そのままシームレスに「Run Away」へ繋げると、会場の高揚感は一気にメーター越えの域に到達する。やはりスタジアムワンマンを経験しただけあって、スケール感が桁違いだ。LAKESIDE STAGEが完全掌握される。

 

そのまま音を止めることなく、青と白の照明が明滅して夜空を彩る「Starrrrrrr」を放つ。この時点でもう彼らの完全勝利なのだが、なおも間髪入れずに「アルペジオ」で客席からの叫びを求める。ツアーで聴いた時はやや雑な感じがした曲だったが、リアドのどっしりとしたプレイに支えられてその複雑さは解消されていた。

 

白井に合わせたのか、磯部もフライングVのベースに持ち替えた「Kick&Spin」では完全復帰した磯部がダイナミックに頭を振る。もう既にメンバーも観客もネジが外れてしまっているようで、間奏でヘドバンしている姿は「ワタリドリ」を歌っていたバンドと同じには見えない。

 

ここまで4曲をノンストップで演奏してきた彼らだが、川上が赤いギターを抱えてヘビーなリフをかき鳴らしながら歌いだしたのは「Mosquito Bite」。さらっと髪をかき上げてよりヤンチャな雰囲気の増した川上がコール&レスポンスを求めると、客席も負けじと大声で歌う。2年前はこんな曲がドロスから生まれると思っていなかったから、彼らの進化のスピードにはついていくのが精一杯だ。

 

これで5曲を休み無しで連発した彼ら。その姿はまさにロックスター、という言葉が非常によく似合う。そんな彼らだが、

 

SWEET LOVE SHOWER…PARTY IS OVER」

 

と「PARTY IS OVER」に繋げると、チルなメロディがゆったりと響き渡り、途端に物悲しさが訪れてきた。珍しい曲のはずだが、何故か結構セトリに入っているイメージがある。

 

かつてはスペシャ冠番組も持っていた[ALEXANDROS]。MCでは昔からいち視聴者だったスペシャに、自分がミュージシャンとなって関われていることに感謝を示した彼ら。しかしこの日は言葉数は少なめ。少しでも多くの曲を演奏することが、彼らなりのメッセージの伝え方だったのだろう。

 

夏前に配信リリースされ、既にみんなが歌えるアンセムになっている「月色ホライズン」は、今後彼らの新たな代表曲となっていきそうなポテンシャルを秘めている曲だ。川上がリアドと目を合わせに行くところも、同じレーベルで戦ってきた盟友同士の信頼関係が見える。

聡泰はまだ「月色ホライズン」を1度か2度くらいしかライブで叩いていない。しかしこうしてリアドがいてくれることで、この曲はライブを繰り返すことで更にブラッシュアップされていくだろう。聡泰が帰って来た時、この曲はどんな新たな表情を見せてくれるのだろうか。

 

2日目を締め括ったのは「ワタリドリ」。この2日を通して、自分にとって山中湖は「向かう場所」ではなく「帰る場所」へと変わった。だからこそ、

 

「ワタリドリのようにいつか 舞い戻るよ」

 

という歌詞通り、来年も山中湖に帰ってきたい、と強く思えた。

 

 

昨日はかなりゴツい出演者が集っていただけに、昨日と今日ではガラリと客層が変わっており、このフェスの懐の深さを思い知った。日中は暑い瞬間もあったが、全体的には曇りがちで、今日も過ごしやすい1日だった。明日で最後だなんて考えたくない。まだPARTY IS OVERするには早すぎるよ。

SPACE SHOWER TV 30th ANNIVERSARY SWEET LOVE SHOWER 2019 DAY1 @山中湖交流プラザきらら 2019/8/30

スペースシャワーTVが夏の終わりに主催する一大イベント、SWEET LOVE SHOWER。今年も8月と9月を挟んで3日間開催される。
このイベント自体は2013年からその存在を知っていたのだが、何だかんだでずっと行けず、昨年ようやく1日だけ参加することができた。もちろん去年がめちゃくちゃ楽しかったから、今年は3日間全てに参加することを早々に決めていた。おそらく3日間も参加できるのは今年が最後かもしれないので、誰よりも満喫してやろうと望んだつもりだ。

同じぐらいの日付に、関西では毎年RUSH BALLが開催されている。何人かから「ラシュボには行かないのか」と問われたが、自分はスペシャが大好きだし、テレビでずっと見ていて憧れの場所だった山中湖が、去年参加したことでさらに大切な場所になったから、今年も夜行バスで向かうことにした。
初日は湖が近づくにつれて雨が増していき、会場に到着した頃にはかなりの雨量。足下もだいぶぬかるんでいて、巨大な水溜まりがあちこちに現れているというかなり厳しいコンディションでの幕開けとなったが、LAKESIDEでのライブが始まると完全に雨は止んでくれた。


ヤバイTシャツ屋さん(LAKESIDE STAGE)

3年連続3度目の出演となったヤバイTシャツ屋さん。今年は多くのフェスでメインステージを任されるようになった彼らだが、ラブシャでもステージを一つずつ着実にステップアップしていき、ついにLAKESIDEに辿り着いた。しかし本人らはリハでは

二度寝すな!」

とCMのセリフを連呼するなど、やっぱりいつも通りのユルさ。

お馴染みの脱力感あるSEに乗せて元気よくメンバーが登場すると、「かわE」で勢いよくライブをスタート。

「一緒に歌おうぜー!」

と朝から大合唱を起こす。ハードな「Tank-top Festival 2019」に続けると、「無線LANばり便利」へ。フェスという場で

「家 帰りたい Wi-Fiあるし」

と大声で叫んでいるのは冷静に考えるとへんてこな空気だが、それが彼ららしくて何度見ても面白い。
初出演時からずっとやってきている「Tank-top of the world」では

「声が小さーい!」

と容赦なく客席を煽り、返ってくるコール&レスポンスを満足そうに受け止めていた。

出番前まで雨が降っていたことで、母から「伝説作ろうな」と謎のLINEが来ていたことを打ち明けたこやまたくや(Vo,Gt)は

「雨降ったとき用のMC用意してたのに」

とぼやきながらも、

「雨降ってなくても伝説作れますか!」

と盛大に煽る。学生時代からずっと見てきたテレビの主催するフェスに出れることは、嬉しいなんて言葉ではいい表せれないだろう。

そんなスペシャとの末永い癒着を願うように「癒着☆NIGHT」を歌うと、「Universal Serial Bus」では音源よりも緩急をつけまくって会場を熱狂させる。心なしかしばたありぼぼ(Ba,Vo)はいつもより笑顔に見えるし、もりもりもと(Dr)はカメラ目線で笑顔を見せる余裕もあるようだ。

「こっからの曲、キラーチューンしかないんですけどー!」

と「ハッピーウェディング前ソング」でラストスパートに突入すると、

「雨やのにこんな朝早くから集まってアホやなー!この曲でもっと偏差値下げようぜー!」

と「ヤバみ」を投下。彼らはまだデビューしてから3年も経っていないが、様々な先輩バンドとの対バンや、憧れの場所での大舞台を経て、最近のライブはもう若手とは言わせない貫禄すら感じさせている。本当に頼もしい存在だ。

ラストは去年と同様、

スペースシャワーTV、2016年11月のパワープッシュソング」

と強調して「あつまれ!パーティーピーポー」で今日のために平日ちゃんと働いてきたパリピ達を踊らせる。一番大きなステージから見える絶景を噛み締めるように演奏し、最後は大ジャンプしてフィニッシュ。ラブシャの幕開けを盛大に飾ってくれた。

今年は令和になって初のラブシャ。別に元号が変わったからどうということはないが、これから先、彼らはLAKESIDEでたくさんの思い出を作っていってくれる。そんな期待をせずにはいられない。


・teto(FOREST STAGE)

去年9月に「溶けた銃口」がパワープッシュに選ばれ、今年は列伝ツアーにも帯同したtetoがラブシャに初出演。開始前からFORESTステージにはただならぬ気配が漂っており、その空気のなかで4人が飛び出すように登場。

「おはよう!」

と一言挨拶すると、さっそく「高層ビルと人工衛星」を投下。緩急とかペース配分とか一切考えていない、本能剥き出しのライブが彼らの真骨頂だ。最初こそ小池貞利(Vo,Gt)がステージから出なかったので、今日は客席には行かないのかな、と思っていたが、

「一度耳にした音楽はあなたのものですからね!」

と始まった「拝啓」ではギターをかなぐり捨て、サイドの鉄骨から客席にダイブ。初めて彼らのライブを見ると思われる人達がかなり驚いていたが、やっぱりtetoはこうでなくっちゃ。

続く「暖かい都会から」は歌い出しから歓声が上がり、客席のテンションゲージも振り切っていく。覚醒した小池は飲みかけのペットボトルをぶっ飛ばしていた。

「この夏いいことがあった」

と語り始めた小池は、父がアルコール中毒で、もう自分の息子の名前を思い出せない状態であると告白。しかしそんな親父さんは、tetoのCDを聴くと「サダくんの曲は本当に良いね」と名前を思い出してくれるそうだ。

「音楽には力があるってよく言うけど、音楽の力は人間の力だと思ってます」

と語り終えた彼はアコギを背負い、

「音楽を聴いてるときは強がりも弱がりもしなくていいんですよ」

と「光るまち」を歌い始める。激しいだけではなく、こんなロマンチックなメロディも歌えるのも、彼らの魅力の一つだ。tetoの4人にとってはどこが光るまちなんだろう。今tetoを見ている人達にとっての光るまちはどこなんだろう。自分にとっての光るまちはどこなんだろう。つい、そう思いを馳せたくなる。

しかしやっぱりtetoに大人しくしろと言うのは無理みたいで、再び客席に飛び込んで帰ってきた小池は身体の左半分が泥だらけになっていた。かっこいい服や態度で着飾るロックスターもカッコいいだろうけど、泥だらけで熱唱するロックスターだって悪くないじゃない。

最後は9月を目前に控えて聴く「9月になること」で夏の終わりを実感させて、初出演のラブシャを終えたteto。緻密な計算の上では絶対に起こり得ない、リアルタイムだからこそ起こるカタルシスが、このバンドにはたくさん秘められている。だから彼らのライブは圧倒的にロックだ。大きなステージよりも、今日のFORESTステージとかの方が似合うんじゃないか、と思えたので、できればまたFORESTで彼らを見たい。


・TRIPLE AXE(LAKESIDE STAGE)

SiM、coldrain、HEY-SMITHの3バンドが合同で毎年ツアーを行っている、ラウドファンにはお馴染みのTRIPLE AXE。まるで高級ホテルのフルコース料理のような豪華絢爛な面子が、今年は3バンド合同の名義で各地フェスを席巻している。毎年個々でラブシャのステージに立っていた彼らだが、今年はこのTRIPLE AXE名義で参戦。coldrainとHEY-SMITHは実質初のLAKESIDEだ。

ドラムセットが3つ並んでいる、ということ以外は前情報を一切遮断して望んだ彼らのライブ、まずはHEY-SMITHが登場して「Dandadan」を演奏。それが終わるとお馴染みのイントロが流れ出し、実に滑らかな動きでSiMにバトンが渡される。「KiLLiNG ME」の間奏でいつものように客席を座らせたところで、今度はcoldrainが登場。「KiLLiNG ME」を中断して「ENVY」に突入する。まるでメドレーを聴いているかのようなスムーズな転換は、この3バンドが強固な信頼関係で結ばれているからこそ成せる所業だ。

続いてまたSiMが登場。「新曲やってもいいかー!」と本邦初公開の「Baseball Bat」を披露。元々彼らが持ち合わせていたパンク・レゲエ的要素がスタジアム級に昇華されたような、メインステージに似合うスケール感のある曲だ。MAH(Vo)は「TRIPLE AXE」の文字が入った真っ黒なバットを掲げ、会場には黒いボールがつぎ込まれる。

代わりばんこで曲を演奏していくのかと思いきや、「Baseball Bat」以降は3バンド全員がオンステージし、それぞれのボーカリストがコーラスに回ったり、「TRIPLE AXE」の紋章が刻まれた旗を振りかざしたり…とお祭り騒ぎ状態なステージから目が離せない。

ラブシャを乗っ取りにきたぜー!」

と高らかに宣言すると、「Radio」ではTask-n(HEY-SMITH Dr)→Katsuma(coldrain Dr)→GODRi(SiM Dr)の鮮やかなソロプレイがリレーされ、「The Revelation」「GUNSHOTS」ではヘイスミのホーン隊がそれぞれのサウンドに華を添える。豪華、という言葉以外浮かんでこない。

しかしここで人の移動が激しくなったため、早めにFORESTへ移動することを決断。できれば最後まで見たかったし、メンバーが言っていたように、こんなの二度と見られない夢の共演だ。


・ハルカミライ(FOREST STAGE)

今年は各地フェスでそのライブバンドとしてのポテンシャルの高さを存分に発揮してきたハルカミライ。その恐ろしさは先輩バンドのお墨付きだ。
定刻になると、既に楽器隊は位置についており、シングルが鳴る間に橋本学(Vo)が堂々と参上。「君にしか」から「カントリーロード」と繋ぐ流れは恒例だが、今日は一段と客席の熱量も高いらしく、いつものように客席に降り立った橋本が

「触るな!離れろ!」

と制するほど。関大地(Gt)はいつの間にかFORESTのステージ横にある鉄骨に登り、誰が見ても危ない状況でギターソロを弾いている。おそらく彼らのライブを初めて見るであろう人達は驚きの声を上げていたが、これこそがハルカミライのライブがヤバいという証明だ。小松謙太(Dr)は上方向の矢印がプリントされたTシャツを着ていたが、「俺を見ろ!」とでもアピールしていたのだろうか。

間髪入れずに「ファイト!!」をぶっ放つと、「俺達が呼んでいる」では須藤俊(Ba)がベースを弾くのを放棄。橋本は客席に吸い込まれてどこにいるのかわからない。

「春のテーマ」では橋本が

「この客席のヤバさを伝えたい」

と泥の中へ突撃。さっきのtetoほどではなかったが、泥を浴びた状態でステージに戻ると、

「最悪だけどサイコーだぜー!」

と高らかに叫んでいた。

「夏だけど春の歌を」と始まった「それいけステアーズ」では伸びやかな歌声が森の中に響き渡る。隣にいた人が「叫んでも普通に歌ってもヤバい」と賞していたが、まさにその通りだ。やっぱり彼らの曲はメロディがいいし、一見するとめちゃくちゃなパフォーマンスをしているようでそのメロディは崩されていない。その歌声に惹かれて、ROTTENGRAFFTYの裏ではあるが人がどんどん集まってきていた。

ショートチューン「Tough to be a Hugh」を届けると、橋本は客席の中から一人の男性を引っ張り出してくる。

「知らなくてもいいから」

と肩を組んで「世界を終わらせて」を歌い出すと、男性は歌詞がわからないのか、その場で突然踊り出す。それを見た橋本は爆笑しながら

「そこでしばらく踊ってて」

と放置して再び客席へ。男性にも盛大な拍手が送られ、ピースフルな空間が広がった。

「ここに集まったみんな、スタッフも合わせてみんな、一等賞だぜー!」

と両手を広げると最後は「見つけてくれてありがとう」と感謝を込めて「アストロビスタ」を熱く、丁寧に届けた。

DPFでも自らを「スーパー晴れバンド」と称して雨を止ませた彼らだが、今日もこの後雨は一切降らなかった。彼らの晴れバンドっぷりは嘘ではないようだ。やっぱり今日も、ハルカミライが一等賞だった。


04 Limited Sazabys(LAKESIDE STAGE)

今やスペシャファミリーの一員としてお馴染みとなった04 Limited Sazabysラブシャには5年連続での出演だ。
否応なくテンションを上げられるSEに乗せて4人が颯爽と登場すると、この日の一曲目に選ばれたのは「Feel」。未だに夢を見続ける、バンドの野心が溢れる一曲が先頭に配置されたのは少し驚いたが、彼らにとってスペシャはたくさんの夢を叶えて、支えてくれた頼れる居場所で、彼らにとって起点となる存在だからこそ選ばれた曲なのかもしれない。休む間もなく

「楽しみたい人手を挙げてー」

とゴキゲンな「Kitchen」でラブシャを躍らせると、「swim」ではサークルモッシュの人達も我を忘れて泥に身体を突っ込んで泳ぎまくっていた。

「あそこ、晴れてきたね」

とGEN(Vo,Ba)はMCで雲間から太陽が現れている様を指差して喜ぶ。紛れもなく、フォーリミの放つ光がこじ開けた穴だ。

「未来から、あの日の自分へのメッセージ」

と「message」を撃ち放つと、「fiction」が昼下がりの会場を更に狂乱させる。「Galapagos」の間奏では、GENが会場に着いて早々に番組用のロケをさせられたことに文句を垂らす。しかし最後には

スペシャ大好きです」

ツンデレっぷりを見せて締め括った。フォーリミとスペシャのラブラブっぷりをまざまざと見せつけるような一幕だったし、その愛に嘘はないことはGENの口振りを見れば明らかだ。

続いてハードな「Alien」と続けたように、やはり今年の夏は「SOIL」の鍛え上げられたゴツい楽曲達がフォーリミを更に武装強化していた。今日は3日間の中でも特にラウドな面子が集まり、バンドの「直属の先輩も後輩も来てる」という日。今も彼らを突き動かしているのは、猛者が集うシーンの中でも「負けたくない」という負けん気だ。

「どうせみんな日頃考えすぎてるんでしょ!?考えすぎて先回りして勝手に落ち込んだりしてるんでしょ!?でも今日はそんなことしなくていい。何者にもならなくていい」

と、「Squall」で雨の代わりに我々の心を洗い流すと、最後に気合いたっぷりの「monolith」をお見舞いする。しかし尚も彼らは飽き足りず、

「俺達が04 Limited Sazabysです!覚えた?心配だなあー」

とオマケに「Remember」を放ってステージを去った。こんなにすごいライブをされたら覚えるに決まってるじゃないか。
最早このフェスに、いやスペシャにとってもフォーリミは欠かせない存在となっている。これからも、たくさんいい景色を見せてくれると信じている。


きゃりーぱみゅぱみゅ(Mt.Fuji STAGE)

時間ができたので、本当は見に行く予定ではなかったきゃりーぱみゅぱみゅへ。この日のラインナップの中ではダントツにポップな存在感を放つ彼女を一目見ようと、様々なTシャツを着た人たちが集まっている。その中には今年のコラボメニューの一つであるペットボトル型のタピオカドリンク、通称きゃりーたぴたぴをぶら下げている人も。

開演時間を迎え、重低音のビートが鳴り出すと、仮面を被った4人のバックダンサーに続いてきゃりーがオンステージ。さっそく客席からは「かわいいー」と声が上がる。
原宿系のド派手なファッションというイメージの強い彼女だが、今日の衣装は上下ともにブラック。しかしゴシックな感じはあまりなく、落ち着いた雰囲気が今の彼女の等身大の姿を映している。

客席が見よう見まねで振り付けを真似した「インベーダーインベーダー」で幕を開けると、「CANDY CANDY」へ。しかし音源と全く違うバキバキのEDMには、中田ヤスタカの今のトレンドが反映されている。

ダンサーと肩を組んで「右!右!左!左!」と反復横跳びを繰り返したきゃりーは

「疲れた…」

と少々息を切らしていたが、毎年ラブシャに出演しているだけあって客席は温かい拍手で迎えた。

「もうすぐ夏が終わりますね。夏が終わったら何がありますか?ハロウィンがありますよね!」

と「Crazy Party Night~ぱんぷきんの逆襲~」で一足早く秋の空気を持ってくると、続く「キズナミ」でも最新型のEDMでMt.Fujiを踊らせる。

続いて「演歌ナトリウム」に入る前にきゃりーは2つの振り付けを紹介したが、「イントロでやる」と言っていた振り付けは実はイントロではなく間奏の振り付けだったので、素直にイントロでポージングをしたお客さんは拍子抜け。それでも笑ってやり過ごしていたのは、この会場の空気や彼女の放つ雰囲気が我々の心を広くしてくれているから。

「音ノ国」と続けた後は、

「みんなで盛り上がれる曲を持ってきました!」

と「原宿いやほい」で終演。SNSなどでもよく用いられているからか、彼女の今日のセトリの中でもかなりお客さんに浸透していたように感じたし、みんなで一緒にいやほいするのはかなり楽しかった。

その独特の歌詞や振り付けや雰囲気から、初めて見る人は彼女のライブに「なんだこれ」と思うかもしれない。でもたしか、彼女のアルバムの中に「なんだこれくしょん」というアルバムがあったはずなので、もしやお客さんに「なんだこれ。よくわからない。でも楽しい」と思わせるのが彼女の狙いだったのではないか。と考えると、彼女が今もしばしば色んなフェスに呼ばれる理由が少しわかった気がした。…なんだこれ。
一挙一動に「かわいいー」と言われていたので、この殺伐とした面子の中で、彼女の存在は多くの人の癒しとなったのではないだろうか。


SUPER BEAVER

ライブ直前に藤原“31才”広明(Dr.)の欠席が発表されたSUPER BEAVER。去年に引き続きMt.Fujiに登場した。
サポートには河村吉宏(実はあの日本を代表するドラマー・カースケ氏の息子。よく見ると演奏しているときの姿勢とか手癖がすごく似ている)を迎え、最近のライブでよく先頭に配置されている「27」で静かに幕を開けると、

SUPER BEAVERです、よろしく」

と短く挨拶。最後のサビでは彼らの熱が一気に爆発し、序盤ながらクライマックスのような展開に持ち込んでいく。

「逆境、悪天候、かかってこいよ。レペゼンジャパニーズポップバンドフロム東京ジャパン、SUPER BEAVER始めます」

と息巻き、

「起きてんのか!」

と「閃光」へ。藤原のいないライブも、きっとあっという間に終わってしまうんだろう。

思い返せば、SUPER BEAVERは一度メジャーに行ったものの、歯車が噛み合わずにインディーズに戻り、そこから近道をせず地道に這い上がってきたバンドだ。数えきれないほどの逆境を乗り越えてきたバンドの結束は簡単には崩れない。急遽決まったサポートであったので、河村の刻むビートはまだ3人と馴染めていない感覚があったが、それもすぐ解消されるだろう。

「藤原がいないなりのライブをやろうと思ってます。3人だけでも何とかしてやるよ」

と尚も強気で「予感」へ。最新曲だが、これから先もずっと彼らのセトリを飾り続けてくれそうな力強さを持った一曲だ。彼らが正解の道を選ぶのではなく、選んだ道を正解にし続けて進んできたように、自分もこの時間に、自分の感性でSUPER BEAVERを選んだことを正解だったと思えた。

日暮れ前の山中湖に手拍子を生んだ「青い春」から、

「束になってかかってくるんじゃねえ、お前一人でかかってこい!」

と「秘密」へ。するとここまでずっと曇っていた空から、太陽の光が差し込んできた。後のMCで渋谷龍太(Vo)は

「自分たちのせいじゃない」

と述べていたが、間違いなくこの光は「SUPER BEAVERとあなた」が生み出したものだった。思わず息が詰まりそうになった。

最後は彼らの実直な姿が赤裸々に歌詞にも表れている「人として」。

「笑われたときが、後ろ指指されたときが勝負です」

と渋谷は言っていた。その勝負に勝ち続けてきたことで、このステージに立っている彼らの言葉に、涙を流している人がスクリーンに映し出された。彼らの言葉が綺麗事ではないことは明白だった。来年は是非ともLAKESIDEで。


THE ORAL CIGARETTES(LAKESIDE STAGE)

おそらく今、日本で最もライブパフォーマンスが素晴らしいバンドである(異論は認める)と思っているTHE ORAL CIGARETTESラブシャに初出演した当時はオープニングアクトで、まだインディーズにいた頃だったが、7年連続の出演を経てメキメキと進化を遂げていき、今年もトリ前の45分を任された。

お馴染みの「一本打って!」がテンプレートのアナウンスになっていたことを少し寂しく思っていたところで、一足先に中西雅哉(Dr)が登場。SEに乗せて重厚なドラムを叩き始めると、鈴木重信(Gt)、あきらかにあきら(Ba)、山中拓也(Vo,Gt)が登場。最近のオーラルはかなりアーティスティックな服装でライブに臨むことが多かった気がしていたが、今日は割とラフめな服装。鈴木はよく見ると革ジャンを着ている。

ライブはヘビーな「PSYCHOPATH」からスタート。よく聴くとそれほどポップでもなく、人懐っこさの欠片もないほどのダークな曲だが、こんなに大勢の人たちに受け入れられているのはひとえに彼らのカリスマ性あってのものだろう。続いて早くも「狂乱Hey Kids!!」「カンタンナコト」のキラーチューン祭りで会場のタガを外していく。

前日から山中湖で家族と過ごしていたというあきらかにあきら(Ba)は、山中に

「親父さんと晩酌したん?」

と訊かれる。そのまま山中の家族の話に移り、彼が親元を離れてから数年ぶりに父親と酒を呑んだというエピソードを語る。

「やっぱり親父は偉大です。みんなも帰ったら親父と晩酌してください。あきらの親父に向けて歌います」

とタンバリンを携えて「ワガママで誤魔化さないで」へ。「自由に楽しめ」というメッセージを常に発信し続けているオーラルには珍しく、サビでは会場に手を振ることを求める。この曲が今後オーラルにとってどんなポジションを担う曲になるのか、まだまだ未知数だ。

「久しぶりにやる曲やります!」

と「What You Want」で会場を揺らすと、アコギを抱えた山中が歌いだしたのは「透明な雨宿り」。今日の天気を考慮してセトリに入ったのだろうが、空はどんよりとした雨雲が徐々に消え、陽は射さずとも赤い色を映していた。

去年のステージでも「エンドロール」をやっていたように、普通ならフェスのセトリに中々組み込まれないであろう曲をこうしてラブシャで披露しているのは、自他ともにこの会場を「ホーム」と認めているからだ(もしくは最近リリースしたベストアルバムにこんな曲も入っているよとアピールしていたのか)。そう考えると、今日のラフな服装も、ホーム感を意識したものだったのだろうか。

「容姿端麗な嘘」の同期音からラストスパートに突入すると、最後は「BLACK MEMORY」。もうどうなったっていい、とオーディエンスも全身全霊でオーラルとぶつかる。このバチバチな、音楽を武器として両者が闘っている景色こそ、オーラルが積み上げてきたものだ。今日もやはり貫禄あふれるステージだったし、こんなにいいライブを見せられたら大阪での野外ワンマンも期待せずにはいられない。


SHISHAMO(Mt.Fuji STAGE)

昨年は自身が夏に大規模ワンマンを控えていたからか、夏フェスへの露出が少なかったSHISHAMOラブシャには2年ぶりに登場する。

フェスでは朝や昼のイメージがある彼女らだが、今回はMt.Fujiのトリ。定刻になると、ラブシャの公式Tシャツを着た吉川美冴貴(Dr.)、ビッグサイズのTシャツを着た松岡彩(Ba)、アロハシャツを着ている宮崎朝子(Vo,Gt)が登場。さっそく「君と夏フェス」 で会場を沸かせると、「恋する」へ繋ぎ、会場を引き込んでいく。DPF同様、スクリーンに手描きのイラストが写し出される「タオル」では、イラストの3人が着ているシャツもラブシャ仕様だ。

夜の時間帯に出演するのが珍しいと思っていたら、

「こういうフェスでトリをやるのは初めて」

と話した宮崎。

「今までは出番終わってからフェスを楽しんでたけど…トリをもらえて嬉しいです」

と意気込むと、「新曲やります。カップリングの方だけど」と「君の大事にしてるもの」を披露。エレキピアノの音が歌詞と合わさってドライな空気を生み出す、SHISHAMOの新たな引き出しを見せる曲だった。

アコギを抱えて歌い出したのは、数ある彼女らの夏の曲の中でも屈指の名曲「夏の恋人」。

「いつまでもここにいたいけど ねえ、だめなんでしょう?」

という歌詞はこの場にいる全員の気持ちを代弁しているようで、 夏の終わり、かつ一日の終わりというこのシチュエーションで聴くにはあまりにも切なくて胸が苦しくなる。だけど、

「あなたも私もきっと このままじゃどこにもいけないから」

と歌うように、それぞれの日常があるから、いつまでも山中湖に居座っているわけにはいかない。だけど、だからこそ毎年、ここに帰ってきたくなるんだろう、そう思えた。

そんな感傷的な空気をイントロから吹き飛ばしたのは「明日も」。スクリーンには歌詞が写し出されるが、みんなスクリーンを見ずともこの曲を口ずさんでいる。紛れもなくSHISHAMOがみんなにとってのヒロインになっていることを証明する一曲だ。今日一日、たくさんの好きなバンドに会えたが、

「週末は僕のヒーローに会いに行く」

と歌うように、明日明後日も、たくさんのヒーローが山中湖にやって来る。

最後はコール&レスポンスが一段と大きく聴こえた「OH!」。この3日間が終われば、また日常が戻ってくる。だけどいつだって、SHISHAMOがイヤホンの中から背中を押してくれる。サビ終わりにニッコリと笑った宮崎を見ると、トリに選ばれたのも納得の頼もしさを感じた。


サカナクション(LAKESIDE STAGE)

初日のトリはやっぱりサカナクション。今やどんなフェスに出ても「サカナクションはトリだろ」と思われるようになったし、それはラブシャも同様だ。

浮遊感のあるSEからメンバーがゆったり登場すると、山口一郎(Vo,Gt)はメンバーの方を向き、指揮者のようにサウンドを操る。やがて耳馴染みのあるイントロが山中湖を駆け抜け、「アルクアラウンド」へ突入すると、会場が一瞬にしてダンスフロアへ変貌した。10時間以上続いた一日の最後なのに、誰もが疲れを忘れて踊りまくっている。

「陽炎」では再びイントロから歓声が上がり、会場の熱は止まるところを知らない。そこから80年代のサウンドが映える彼らの新たなキラーチューン「モス」へ突入する。もはや誰にもこの空間を邪魔することはできない。

ぽつり、

「きっと、忘れられない夜になる」

と呟くと、MVの冒頭が流れて「忘れられないの」が始まる。ここまで見れば明確だが、今日のセトリは最新アルバムの曲がふんだんに盛り込まれている。CDのリリース期間が長いバンドはどうしてもセトリが固定されがちだし、サカナクションもその例に漏れなかった。しかしこうして「モス」「忘れられないの」といった新たなキラーチューンを身に付けたことで、今の彼らからは繭を割って飛び出してきたかのような力強さとフレッシュさを感じる。

ここまで右肩上がりに会場の熱を上げてきたが、「ワンダーランド」でその勢いはいったん落ち着きを見せる。すると音楽は地続きのまま会場が暗転し、5人が横並びでPCの前に立つ「ミュージック」が始まる。ラストのサビ前でも再び暗転し、バンドセットに戻るのは定番の流れだが、何度見ても心を高ぶらせるのが彼らのライブだ。

尚も「アイデンティティ」でボルテージを引き上げると、

「アンコールの時間をもらっているのですが、ハケるのが時間の無駄なのでこのままやります!」

と最後に「新宝島」を投下。再び80年代のサウンドで会場を一つにすると、完全無欠の流れで初日を鮮やかに締め括った。


一部のバンドは雨を考慮したセトリを組んでいたようだったが、本当に雨が降らなくてよかった。足場の泥濘こそ酷かったものの、結果的にあまり暑くならず、どちらかといえば過ごしやすい気候だった。富士山は見えなかったけど、山中湖の涼しい空気はたくさん感じることができた。
忘れられない一日になった。また明日。

UNISON SQUARE GARDEN プログラム15th @舞洲スポーツアイランド 太陽の広場 2019/7/27

個人的な話をさせていただくと、自分がUNISON SQUARE GARDENに出会ったのは2014年。ちょうど「harmonized finale」がリリースされた頃だった。初めてライブに行ったのはそれから1年後。そのライブから程なくして、Twitter経由で田渕智也(Ba)のブログを拝見した(当時田渕は個人でTwitterをやっていた)。

 

その時期は自分の周りの状況のこともあって、何となくライブでのお客さんの盛り上げ文化に疑問を抱いていた時期だった。手拍子をしたり手を上げたり、そういうことをライブでは絶対にしなくてはいけないのかな、という見えない圧力を感じていて、ライブハウスが窮屈だなと感じたこともあった。しかし田渕は、ある日のブログでこう記していた。

 

「僕の好きなロックバンドにそういうものは必要ない。一緒に手あげなきゃ、一緒に手拍子しなきゃ、一緒に歌わなきゃ。そういうルールはない。必要がないのだ。」(原文ママ)

 

ああ、音楽はもっと自由でいいんだ。そう思えた瞬間だった。自分の悩みがいかにちっぽけだったのか思い知らされた。あのブログを読んでいなければ、自分はもっと狭い価値観の中で生き続けていたかもしれない。

自分がバンドを好く理由は曲がいいから、かっこいいからだ。しかし、それ以来、UNISON SQUARE GARDENはもちろん曲もいいし、かっこいいバンドではあるけれど、同時に信念に共感できるバンドの一つになった。このバンドなら信じてもいいかな、なんて思えてしまったのである。

 

そんな、自分にとっては大きすぎる存在であるUNISON SQUARE GARDENが、15周年を迎えた。正直言って自分は昔の彼らのことをあんまり知らない。でも、彼らが信じたスタイルをずっと貫いてきてくれたからこそ、自分は彼らと会えた。価値観を変えてもらった。これは何としてでもお祝いしに行かなければ。現場で感謝を伝えなければ。そう思い、今日のライブに行くことを決心した。

 

前置きが長くなったが、今日の舞台は舞洲スポーツアイランド、太陽の広場。キャパは24000人だったらしいが、実際に会場をうろついてみるとそれ以上にいるんじゃないかってぐらい人が多いし、フェスかと思うくらい出店が多い。そしてキャリーバッグを連れて歩いている人が多かったのも印象的だった。今日のために全国から物好きが集まってきていると思うと、胸が熱くなる。

 

バンドと馴染みの深いFM802のDJ陣や、かつてFCライブなども行っていたMusic Club JANISのスタッフからのお祝いメッセージが流れ終えると、イズミカワソラ「絵の具」が曇り空の会場に響き渡る。大歓声に迎えられてゆっくりと入場し、精神を統一させるようにじっと佇む3人。その間、一人ずつカメラで抜かれるのだが、斎藤宏介(Vo,Gt)はカメラに向かってにやりと笑っていたのに対し、田渕は天井を見上げていたり、鈴木貴雄(Dr)は何だか現を抜かしているみたいな表情をしていたりして、会場から笑いが起こる。佇まいからして個性的な3人だ。

いつぞやの武道館と同じく、SEを最後まで流し終えてから、

 

「だから今その声を捨てないで」

 

と斎藤のアカペラから始まったのは「お人好しカメレオン」。なんと今まで一度もライブで披露されたことのなかった曲が一曲目を担ったことで、会場からどよめきが上がる。

 

「ならば今その手を離さないで 離さないなら遊びに行くよ

 ただ甘やかすようなことはしないから あらかじめ出口チェックしといてよ」

 

という歌詞はまさにユニゾンのスタンスそのものだし、この会場にこれだけの人が集まっているのは、そのスタンスが間違っていなかったことの何よりの証明だ。

 

サプライズ的な選曲でじっくりと会場を温めると、「シャンデリア・ワルツ」「君の瞳に恋してない」と、それぞれアルバムの最後を飾っていた楽曲でボルテージを上げていく。しかし田渕はいつもより大人しい(ように感じた)し、他の二人もまだ様子を伺っている様子だった。

 

「今日はなっがいよ~。最後までよろしくお願いします」

 

と手短に挨拶を済ませると、「流星のスコール」「instant EGOIST」と続く。決して2曲ともライブの定番曲ではない(そもそもユニゾンには毎回ライブでやる曲がほとんどないので定番も何もない)が、そんな曲でもしっかり観客に届いていることがよくわかる。

 

リニアブルーを聴きながら」で3人ともそろそろギアが入ってきた頃合いを経て、「Invisible Sensation」の途中には、曇り気味だった会場に夕日が後光のように差し込み、祝祭感のある楽曲にベストマッチな演出を見せていた。前日から台風が心配されていたが、ここは見事に天気を味方につけてみせた。

 

夕焼け空というこれ以上ないロケーションのなかで「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」が歌われると、ソロ回しのようなセッションを経て「オトノバ中間試験」へ。田渕は斎藤の後ろに回り込んだりと、いつも通りのステージングを見せる。息のつく間もない展開の曲だが、

 

「あのね歌ってるのは怪気怪奇な僕なんで 呆れるまで斎藤に任せといて」

 

というフレーズは田淵の斎藤への信頼と、それを見事にこなしてみせる斎藤の頼もしさが両立されている。

 

「カウンターアイデンティティ」では1音目から大歓声が上がり、初期のこの曲が根強い人気を持っていることを証明すると、一転して「Catch up, latency」、「プログラムcontinued(15th style)」と最新曲が並ぶ。武道館の時もそうだったが、敢えて「プログラムcontinued(15th style)」を中盤辺りでもう演奏してしまうところが何とも彼ららしい。

 

 これまた絶妙な景色の中で演奏された「黄昏インザスパイ」、春じゃなくてもセットリストにどしどし組み込まれる「春が来て僕ら」とミドルテンポな曲を続けると、MCでは斎藤が15年間の黒歴史を振り返る。

今でこそ彼らは手拍子やコール&レスポンスを要求することはしないし、「行くぞ大阪!」みたいな煽りを一切しないバンドだが、雑誌のインタビューでそういった煽りの類を卑下していたくせに初期の方は自分たちもやっていたこと。田淵や貴雄はかなり尖っていたこといたことなどを赤裸々に告白。いかにも青臭さが垣間見えるエピソードで会場を和ませると、

 

「そんなインディーズ時代を思い出しながら、懐かしい曲をやりたいと思います」

 

と語って「水と雨について」を披露。ガレージロックのようにただひたすらにがなっていたあの頃と比べると、今の斎藤は本当に綺麗な歌い方をするようになったと思う。ポリープができたのも大きいだろうけど。

 

harmonized finale」「cody beats」「10% roll,10% romance」とシングル曲が連発されたところで、

 

「On Drums!鈴木貴雄!」

 

のコールで恒例のドラムソロへ。去年のツアーでは羽織っていた上着を頭から被って目隠ししながら演奏するなど、年を追うごとに(良い意味で)変態的なプレイヤーになりつつある彼だが、今回は同期を用いた演奏。ステージ両脇のスクリーンに月が映っていたことから、演奏自体のコンセプトにそういうキーワードがあるのだろう。

今まではどんどん加速していくような疾走感あるプレイが多かった彼のソロだが、今回は同期に合わせて少しテンポは抑え、よりグルーヴィなひと時を魅せてくれた。と思ったら、打ち込みが消えると結局高速プレイになっていた。

 

そんなドラムソロから雪崩れ込むようにギターとベースが合流すると、すっかり日が落ちた会場を赤い照明が照らし、

 

「who is normal in this show?」

 

を号令に「天国と地獄」が始まる。斎藤はシャウトするし、田淵はまるで見えない物体をぶん殴るかのように拳を振り下ろすし、貴雄はさっきあれほどのプレイを見せたのに全く疲れを見せない。傍から見ればカオスな図だが、ユニゾンだとそれが日常風景であるかのように成立してしまう究極のバランス感覚はこのバンドの真骨頂だ。

休む間もなく「fake town baby」「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」と続き、会場も徐々に熱量がオーバーしてくる。特に

 

「東の空から夜な夜なドライブ」

 

という歌詞は言葉通り、東京出身の彼らが関西までイメージトリップさせに来たかのようだ。

 

バンドの人気を決定づけた「シュガーソングとビターステップ」には「生きてく理由をそこに映し出せ」という歌詞がある。この曲に限らず、ユニゾンには人生賛美歌的な曲がちらほらあるが、それらは決して真っ直ぐな応援ソングではない。この曲がリリースされたとき、田淵がブログで

 

「死にたくてもいいよ、人生だし。ただ死ななかったらそれもそれでいい人生になるかもしれない。」(原文ママ)

 

と書いていて、とても納得したのを覚えている。「生きていればいいことあるよ」というイマイチ曖昧な励ましよりも説得力に溢れているし、ここに集まった24000人にとっては、今日みたいな夜こそが生きていく理由になり得るのだろう。

 

最後のMCで、斎藤は

 

「最初は自分たちが楽しい、自分たちのための音楽ってところから始まりました。そこから少しずつ、少しずつ良いって言ってくれるお客さんが増えていって、それと同時に素晴らしいスタッフも増えていきました。今日だって実は1年前からやることが決まってたんだけど、台風来たらどうしようとか、そういうリスクを背負ってでも僕達のやりたいことを通してくれて。本当に有難いと思っています」

 

「そんな皆さんに、僕達ができることが一つだけあります。そして僕はそれを知っています。それは、これからも自分たちのために音楽をやるってことです。そうすれば、今日ここにいるUNISON SQUARE GARDENを好きなお客さんにもまた喜んでもらえるんじゃないかなって思っています」

 

と語った。確かに、よくよく考えてみると、UNISON SQUARE GARDENはかなり異端児なバンドだ。みんなで歌うような曲はないし、お客さんに歌わせるようなことは絶対にしない。今日もそうだが、大きい会場でライブをする時にも派手な特効や映像演出はしないし、自分たちのライブでは他のアーティストとコラボすることもない。そもそも、お客さんを喜ばせようと振る舞うことをしないのは、昨今のシーンの風潮からすると極めて異例だ。

 

しかし、だからこそ彼らのやり方に共鳴する人がいた。いや、自分のようにこのやり方でなければユニゾンを好きになっていなかった人もたくさんいるかもしれない。自分たちのためにやることが、結果的に皆を喜ばせることになる、というこの図式は、よく考えたら奇天烈だが、とても幸せなことだな、と思う。世の中には、誰かのために、と考えすぎて空回りしているアーティストが大勢いるように感じるし、そんな中で彼らがここまで支持を集めてきたのは、冒頭にも書いたように15年間信念を曲げずにバンドを続けてきたからだろう。なんて恵まれているのだろう。羨ましいとすら思う。

 

 せっかくなのでと二人にマイクが回り、貴雄は

 

「こんなに人間的に欠けてる俺を見捨てないでくれてありがとう」

 

とメンバーやチームに感謝を告げ、

 

「今日の俺のドラムソロ、すっげえかっこよかったよなあ!?」

 

自画自賛。今や一人でもやっていけそうなぐらいに芸術的なプレイを見せるようになった彼だが、彼のドラムがあってこそユニゾンの音楽が成り立っている。確かに、本当にかっこよかった。

 

そしてこのバンドの首謀者である田淵は、喋りそうで喋らない間を経て、

UNISON SQUARE GARDENっていうのはスゲーバンドだな」

 

と噛み締めるように語り、24000人からの大歓声に口を大きく開けて笑った。なんだか他人事のような、それもまた田淵らしい言葉だった。

 

そしていよいよライブも終わりに近づき、メンバー自身も大切にしている「さわれない歌」が大事に届けられると、「桜のあと(all quartets lead to the?)」ではここぞとばかりに観客も歌う。しかしあくまで勝手に歌っているだけであって、3人はいつも通り振る舞っている。自分の周りにも大声で歌っている人もいれば、歌ってない人もいた。でも誰も間違ってなんかない。これこそがユニゾンのライブなのだ。

 

バンドがブレイクするきっかけとなった「オリオンをなぞる」が高らかに鳴らされると、

 

「ラスト!」

 

と斎藤が叫び、「センチメンタルピリオド」へ。そういえば武道館でも本編ラストはこの曲だった。サビの最後の「バイバイ」という一節が、別れを惜しまずスパッと切り捨てるようで、いかにも彼ららしい。

 

UNISON SQUARE GARDENでした、バイバイ!」

 

といつも通りさらっとした挨拶でメンバーが順番に捌けると、暗転したステージの後ろから突然花火が上がった。よく見るとスクリーンは花火が上がるごとに「1st anniversary」「2nd anniversary」と表示される数字が大きくなっていく。それを察した観客がカウントダウンを始めると、「15th anniversary」で一際大きな花火が打ち上がり、ユニゾンの15周年記念公演は幕を下ろした。

 

確かにシングル曲の多いセットリストだったし、珍しい選曲もあったが、特別な演出は何もなし。だけど、そんなのがなくても、斎藤宏介の歌とギターと、田淵智也のベースとコーラスと、鈴木貴雄のドラムとコーラスが揃えば、いつだってUNISON SQUARE GARDENは最高のロックバンドなのだ。QED

 

明日からまた彼らはいつも通り転がっていく。だからまたいつの日にか、ライブで会おう。

amazarashi Live Tour 2019 「未来になれなかった全ての夜に」 @グランキューブ大阪 2019 7/5

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。













ロックバンドといえば夜、というイメージがある。昔から、バンドマンは何かと日陰者な存在だった。昼はせっせと働き、夜は練習スタジオやライブハウスに籠る。ロックバンドと夜は切っても切れない関係にあると思うし、実際amazarashiも、歌詞に「夜」の入る曲は非常に多い。


去年のツアーで、秋田ひろむは「死にたい夜を越えて」と語っていた。今日のライブは、まさにそんな夜に捧げる、祈りのようなライブだった。

 

今年は2月にシングルをリリースし、4月から1年ぶりのツアーを回っているamazarashi。武道館公演におけるコメントで、秋田ひろむ(Vo,Gt)は「前回のツアーでバンドとしての大団円を迎えてしまった」と語っていたが、圧巻だった武道館公演を経て、彼らはどんな表現を用いてこのツアーを回っているのか。しかし彼らのことだ、予想以上のものを見せてくれるに違いない、という確信はある。

今日の公演はツアーの追加公演に位置する。会場はグランキューブ大阪。以前flumpoolのライブで来たことがあり、キャパシティでいえばZepp Osaka Baysideに次ぐ広さ。amazarashiがここでライブをするのは初めてだ。さて、どんな夜になるか。

 

前回のツアーから「ワードプロセッサー」が1曲目のポジションに定着しつつあったが、今回のツアーで1曲目にセットされたのは「後期衝動」。暗転するとメンバーが既に持ち場についており、秋田ひろむが堰を切るように歌い出す。紗幕には彼のシルエットが写し出され、そこに頭上から歌詞が降ってきて、まさにバンド名の通り雨曝しになって歌っているかような開幕を経て、

 

「未来になれなかった全ての夜に!青森から来ました、amazarashiです」

 

とおなじみの挨拶から「リビングデッド」へ。スクリーンに映し出される映像はもちろん新言語秩序のもの。武道館公演はディレイビューイングで見ていたため、しっかり映像を追うことはできなかったが、よく見てみると、Twitterの呟きが規制されていく中に実多の呟きがあったり、希明の連投ツイートのようなものも確認することができた。それにしても、amazarashiの持ち曲でなければきっとコール&レスポンスが起きるような曲になっていただろうが、そうはならないのがamazarashiのライブだ。

 

続けて轟音と共に「ヒーロー」が歌われると、

 

「苦しかった夜のことを歌いにきました。あの頃自分を動かしていたのは、今に見てろ、もう一度って感情だった」

 

と「もう一度」へ。何度だってやり直せる、みたいなことを歌った曲は多いが、amazarashiが歌うとより説得力が増す。しかしここまで4曲、飛ばしすぎかと思うくらいの熱量だ。

 

ここで今回のツアーの意味に気づいた。未来になれなかった夜とは、彼自身が、そして私たち自身が何度も経験してきた、悲しみや絶望に打ちひしがれた夜のこと。そして今日のライブは、新しい朝を迎えるために、そんな夜を終わらせるためのライブであると。

 

彼らの言葉には魂が宿っている。それは次に披露された「たられば」にも顕著で、この曲は言ってしまえば秋田ひろむ自身の「もしも」を一貫して語っているだけの歌詞なのに、なぜか泣けてくる。まるで自分自身にも思い当たる節があったかのように、心の琴線が揺れるのだ。そうやって聴く人の心の奥底にまで訴えかけてくる音楽はそうそうない。

 

「もしも僕がミュージシャンだったなら 言葉にならない言葉を紡ぐ」

 

という一節があるが、もう既に自分はamazarashiから言葉にならない言葉をたくさん受け取っている。

 

序盤と中盤の架け橋となった新曲「さよならごっこ」は、よく聴くと歌詞に「未来」とか「夜」というワードがあるのに気づく。今回のツアータイトルも、そこから着想を得たのだろうか。amazarashiは歌詞にばかりフォーカスが向きがちだが、「地方都市のメメント・モリ」以降にリリースされた曲は明らかにサウンドの毛色の違う曲が目立つ。それは序盤に披露された重低音の際立つ「リビングデッド」もそうだし、「さよならごっこ」だってそうだ。

 

全体的に打ち込みの比率が増えた気がするのだが、まるで歌詞の薄暗い世界を投影したかのように、その無機質なはずの音にもどこか陰りが見える。そんな彼らの最新形を見せたのが、まさに銃弾のように言葉が撃ち放たれる「それを言葉という」だった。

 

「わいは初めは0でした」

 

との語りから始まったのは「光、再考」。どん底から光を模索するような映像と歌から、ダークな「アイザック」へ流れ込む。秋田ひろむの苦しかった過去をなぞるかのような一幕を経て、再び彼のシルエットが投影され、「季節は次々死んでいく」が演奏される。

 

武道館の時はニュースペーパーなどが目まぐるしいスピードで規制されていく様を描き、見事に新言語秩序の物語に溶け込んでいたが、今回の映像もまた彼が這いつくばるように生きてきた様を、シルエットに歌詞が暴風の如く吹きつけるという表現で視覚化していた。

 

次に披露された「命にふさわしい」もそうだが、この2曲はそれぞれ「東京喰種」「NieR:Automata」のタイアップとして作られた曲で、2つともむちゃくちゃアクの強い作品だ。だが武道館と同じく、今回のツアーでも何の違和感もなくセットリストに組み込まれ、物語を彩っている。これはamazarashiならではの芸当だ。

 

「19歳の時に死んだあいつに、背後霊として今も見張られている気がします」

 

の言葉から始まったのは「ひろ」。唯一映像はなく、彼らを照らすのはメンバーごとに淡く差し込むスポットライトのみ。これこそが顔を隠してまで音楽に集中させる彼らのあるべき姿だと思った。本当に感動できる曲には過度な飾り付けはいらないんだな、と思い知る。

 

「空洞空洞」を経て演奏されのは「空に歌えば」。全体的に夜の雰囲気が漂っていた空気の中で、昼間の青空を連想させるこの曲がこの位置に来たのは意外だった。前回のツアーは欠席していた豊川真奈美(Key)のコーラスが楽曲を彩る。この曲をリベンジしたかったのだろうか。

 

ここでライブの風向きが一気に変わるのかと思われたが、次に披露されたのは訪れることのない永遠を願う「千年幸福論」。こうして並べてみると、「空に歌えば」がなぜこのポジションに着いたのか、自分の足りない頭では考えつかなかった。

 

「どうせライブももうすぐ終わります。amazarashiのライブも千年は続かないので」

 

と、笑うところなのかそうじゃないのかわからないMCを経て、秋田は今回のツアーに込めた思いを語る。

 

「今回のライブは昔のことを歌っています。でも、昔は言えなかった、今だからこそ言える言葉を歌いたい。あの夜、言えなかった、奪われた言葉を取り戻すために」

 

この言葉から始まったのは「独白」だった。正直なところ、この曲は武道館で演奏されたのが最初で最後だと思っていた。武道館で検閲が解除された時のあのカタルシスは相当なものだったし、あの場でこそ鳴る必然性を持っていた。しかしどうやら武道館の後もしばしばライブのセットリストに組み込まれていたらしいし、それどころか今のamazarashiにとっては相当重要なポジションを担っている曲らしい。

 

「言葉を取り戻せ 言葉を取り戻せ」

 

と後先考えず叫ぶ秋田に呼応して、バンドサウンドもこの日トップクラスの力強さを纏っていた。

 

そして最後に演奏されたのは「未来になれなかったあの夜に」。苦しかった、死にたかった過去の夜を「ざまあみろ」と肯定しようとする様は、amazarashi自身がamazarashiを肯定している姿だったし、私たち自身が私たちを肯定するための優しさと力強さを伴った曲だった。このツアーの最後を担うのに相応しい曲だったし、これから何度もamazarashiの物語を彩っていく存在になるだろう。

 

amazarashiの音楽は極めて自伝的だ。共感とかは一切求めていないし、共感できるのは私たちが勝手に自分自身を重ねているだけだ。

でも彼らは説得力が桁違いだから、楽曲を聴くと彼ら自身のストーリーを、あたかも追体験したかのような感覚になる。共感を求めていないのに共感させてしまうのもまた、ロックバンドの強みだ。そういう意味では、amazarashiのライブは非常にロックだし、武道館を経ようとも昔から言いたいことは何も変わっていない。やはり彼らはものすごいバンドだ、と改めて認識させられた。

 

今日までの日々が報われたような気がした。