Reol Oneman Live 2019 「侵攻アップグレード」@松下IMPホール 2019/10/6

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。




















今年は3月に「文明EP」をリリースし、その作品を軸としたライブも展開してきたReol。昨年のアルバム「事実上」以降、完全に覚醒モードに入ってノリノリな彼女のワンマンに初めて足を運んだ。

会場に到着すると、ステージには抄幕が張られ、月のような地面に真っ黒な旗が突き立てられているツアーのメインビジュアルが映されているのだが、何処からか風が吹いているのか、旗がなびいている。
場内には飛行機の中を思わせる音が流れているのだが、開演が近づくにつれてその音が大きくなっていくのが細かい。さらにReolのアートワークを支える映像担当のお菊による機内アナウンスも放送されるなど、既にライブが始まっていることを告げるかのような演出。
会場の松下IMPホールは貸会議室が近くにあるなど、かなりビジネスライクな施設だが、そのような場所でもこうした演出が非日常感を与えてくれている。

会場が暗転し、今回のツアーのオープニング映像が流れると、抄幕にシルエットが映される。

「ほらそこに横になって」

と印象的なフレーズから始まるのは「ウテナ」。幕が落ちると、機長のような服装をしたReolがセンターに待ち構えていた。後方の3面あるLEDスクリーンにはMVを彷彿とさせる映像が流れ、両脇には二人のダンサーを従えている(MVで共演したMIKUNANAではなかったようだが)。

Reolが帽子をとり、ステージに一人になると、「ミッドナイトストロウラ」では左右に練り歩きながら歌唱。宇宙空間のような映像が流れた「シンカロン」では、サビで宇宙に浮かぶ星が現れると同時にステージ袖からシャボン玉が放たれ、重厚なエレクトロサウンドと共に会場を呑み込んでいった。

「Lunatic」からはスクリーンに歌詞が投影されるのだが、ヒップホップを主体とした彼女の楽曲は言葉数が多い。それに伴って映像からの情報量も増えてくる。言葉が次々と飛び交う様はそれだけでリスナーを圧倒する気迫に満ちているし、その言葉達を鋭い歌声で突き付けるように歌うのが彼女の魅力だ。
しかし、彼女の片腕的存在であり、ライブでも音響の重要な役割を担っているGigaが「ギガP」名義でリリースした「ヒビカセ」を披露すると、イントロから大歓声が上がり、ネットの世界とリアルの世界の架け橋となっていることも彼女の魅力なのだとよくわかる。

曲終わりと同時に衣装を破くように脱ぐと、大胆な格好になって「激白」をダンサーと共に披露。自分が「事実上」を聴こうと思えたきっかけとなった曲だが、こうしてライブで聴くとやはり言葉の力が強いし、時にがなったりする歌声は言葉の強さに同化しているようだ。

ここまで6曲をノンストップで駆け抜けると、Reolは一旦退場。スクリーンには白い熊と兎が登場し、ゆるいやりとりを繰り広げる。どうやら今回のツアーから登場し出したキャラクターらしいが、名前はまだ未定らしく、Reolいわく

「ツアーでブラッシュアップしていく」

とのこと。そんな名前はまだない熊と兎が、今回のツアーのテーマは侵略であること、「文明EP」から続いた文明の物語も最終地点を迎えていることが伝えられる。ということは次のアルバムのリリースツアーで最終章になるのだろうか。

そんな来年リリースのアルバムから先行配信されている「ゆーれいずみー」では先程の映像に出てきた熊と兎も登場。Reolは白いローブを羽織り、観客と共にお化けのごとく両手をゆらゆらさせていた。そして

「さあ 信仰しろ」

の歌詞がツアータイトルである「侵攻アップグレード」と掛けていることを思わせる「カルト」からはよりディープな世界へ観客を誘っていく。
「幽居のワルツ」では再び現れたダンサーがペアになって舞い踊り、ここまで出番のなかったステージ上部の計6つある四角いLEDも極彩色に光る。本来ならばポップなイメージのはずのRGBの三色だが、妖しいトラックの上で光るとやたらとおどろおどろしくなるのが不思議だ。
「mede:mede」と続けてキラーチューン「煩悩遊戯」では大量のスモークが噴射し、重低音の効いたトラックで会場を踊らせた。

ここで再び幕間に入るのだが、その間もGigaのバキバキのサウンドとお菊の派手な映像が入り乱れる「-BWW SCREAM-」でテンションを緩めさせない。さらには熊と兎も現れ、ひとしきり踊ったところでステージにはマイクスタンドが立ち、Reolが扇を持って再登場。
MVと同じく蝶が飛ぶ映像が雅な「極彩色」を経て「失楽園」、Reolが鍵盤ハーモニカを吹いた「真空オールドローズ」では文明の崩壊が描かれる。

「文明EP」の曲順と同じく「失楽園」をこのポジションに持ってきたことで、冒頭の「ウテナ」から続いたストーリーに終止符を打つだけでなく、淡々としたサビが終末を感じさせる次曲「真空オールドローズ」と合わせてライブのコンセプトを強化してきたのは流石だった。本人がインタビューで

「視覚的な音楽が好きだった」

と語っていた通り、「真空オールドローズ」では薔薇が散る映像と同期して天井から花びらが降ってくる演出もあり、こうした流れの一つ一つにチームの拘りがとことん感じられた。

再びReolが捌けると、代わりに熊と兎が登場。

「みんなまだまだいけるー?」

とフロアを煽るも、客席の反応はぼちぼち。多少無理矢理な感じはあったものの場を繋げると、ここで初めてのMCへ。

「前回の文明ココロミーから繋がったライブをするのは初めてで。作った文明がお化けの世界とか通りながら、他の星を侵攻しにきてるイメージです。グッズにも伏線をたくさん用意している」

とReolは改めて本ツアーの趣旨を説明。すると、

「衣装も変わったことだし…」

とここまでのコンセプチュアルなライブは終了することを宣言し、ライブを再開する。一貫したコンセプトが設けられたライブでは、普段のライブでは定番の曲もそのコンセプトの中に、時には無理矢理組み込まれることもあるが、あえて流れを止めて

「ここからはみんなで楽しむゾーン」

と今回のReolは銘打ってみせた。その宣言通り、「劣等上等」「平面鏡」とアップテンポな楽曲が続く。さらには

「9月に3曲作って、まだ2曲は見せられないんだけど、そこから1曲やろうと思います。ライブアンセムになってほしい」

と語り、80年代ファンクをReolなりに解釈したという新曲もお披露目。「サイサキ」等の強いエネルギーを持つ楽曲の反動で生まれたみたいな怠惰な歌詞だが、次のアルバムではどんな役割を担うことになるだろうか。

「たい」では重厚な四つ打ちに合わせて会場全体がバウンス。その盛り上がりは元々ライブ向けのホールではないことと、ビル内の2階のホールということも相まって、この揺れ大丈夫か?と思うほど。前回のアルバムにも四つ打ちのダンサブルなトラックはあったものの、この曲はより一層クラブミュージックの色が強く、近未来の雰囲気を感じさせる。

最後に歌われたのはReolが旗を掲げて現れた「サイサキ」。聴いた人を奮い立たせるかのように言葉の弾丸を浴びせる楽曲だが、やはりネット発ということもあってか、楽曲の魂胆にあるのは自分自身へ言い聞かせている、という内向きのエネルギーだ。

「薄志弱行な僕」

とは紛れもないReol自身だし、この曲を聴いている自分自身でもある。そのシンクロが強烈なエネルギーを起こす事実は、バンドであれソロシンガーであれ同じことなのだ。
最後に彼女は掲げていた旗を足元に突き立てたのだが、アンコールで再びツアーのメインビジュアルが表示されたとき、真っ黒だった旗はその旗と同じ柄になっていた。それはかつて、月にアメリカ国旗が打ち立てられたように、Reolが大阪への侵攻を完了したことを誇示していた。

そんなアンコールはReolがギターを抱え、「木綿のハンカチーフ」のワンフレーズから「染」へスイッチしていく展開からスタート。本人いわく

「台風で中止になった宗像フェスの時にやりたかったことの供養」

だったらしいが、段々と肌寒くなってきた今日この頃に聴くとより染み渡る楽曲だった。

「さっきの「たい」の時めっちゃ揺れてたよね。大丈夫かな?(笑)すいませんでした、大目に見てあげてください(笑)。まあ最後は無礼講ってことで!」

と最後に選ばれたのは「宵々古今」。祭囃子のメロディに合わせて再び会場が大きく揺れると、最後には大きな花火がドカンと打ち上がって鮮やかに幕を降ろした。

その後、熊と兎の名前が「エンドウさん」と「お母さん」に仮決定。

「絶対却下されると思ってたのに浸透しちゃった(笑)」

と笑いながら、彼女は次の侵攻地、名古屋へ(徒歩で)向かっていった。

卓越した映像演出とそれに呼応したライブパフォーマンスで、前回のライブの続きとも言えるコンセプチュアルなライブを披露するゾーンだけでなく、それとは別のキラーチューンをひたすら集めたゾーンを使い分けて全22曲をこなしたReol。どうやら最終目的地である東京では発表もあるようだが、まずは彼女の侵攻の旅が無事に終わることを祈っていよう。

「このLEDスクリーンは出世払いだと言われました!私はいつ払い終えるんでしょうか!」

そんな彼女とまた会える、巡り会える、そんな幸先なら。

04 Limited Sazabys YON EXPO @さいたまスーパーアリーナ 2019/9/29

今年は去年から続くアルバムツアーも終えて恒例のYON FESも成功させ、9月には全く新しい形態での音源リリースも行った04 Limited Sazabys。生粋のライブバンドである彼らが、今年最後のワンマンと銘打って開催されたのが今日のYON EXPO。自身最大キャパとなるさいたまスーパーアリーナを会場に据え、ライブ前にはカラオケやアミューズメント施設、写真展、RYU-TA(Gt)プロデュースのラーメン屋を開くなど、「EXPO」の名の通りバラエティ豊かな企画が展開される。「SEED」でも缶でのリリースという挑戦を行った彼らだが、ライブを含めてこうしたテーマパーク的なイベントを用意したというのも、一種の挑戦といっていいだろう。

さいたまスーパーアリーナに来るのは初めてだったが、やはり最大30000人以上(今日の動員は20000人くらいだったらしいが)を収用できるだけあってめちゃくちゃ広いし、スタンド席からもステージがよく見える。そしてPA卓とメインステージの中間地点には、大きな会場ではお馴染みのセンターステージも用意されていた。

開演時間を10分ほど過ぎて客席が埋まってきた頃、会場が暗転すると流れてきたのはいつものSE…ではなく英語の台詞が挟まれるショートムービー。GEN(Ba,Vo)はキャバクラで遊んでおり、HIROKAZ(Gt)は愛犬と戯れ、RYU-TAはラーメン屋の見習いみたいになり、KOUHEI(Dr)はバッティングセンターに通うというメンバーの日常風景のような映像が流れる。しかしGENが

「やべえ、そろそろ時間だ!」

とキャバクラを飛び出すと、3人も同じタイミングで駆け出してくる。そしてさいたまスーパーアリーナの前で、スーツを着込んで勢揃いした4人が映し出されると、YON EXPOの開催が告げられ、「Now here, No where」が始まった。
武道館の時と同じくステージには紗幕が張られているのだが、演奏が始まっても紗幕は降りず、そこに歌詞がでかでかと投影される。しかも紗幕越しにスクリーンに映る4人は、映像と同じくスーツを着ている。それを見たとき、今日はいつもとは全く毛色の違うライブが展開されるのだろうか、と想像された。

ラストのサビでようやく紗幕が降ろされ、メンバーの姿が露になると、高鳴るテンションは「Warp」で更に高いところまで連れていかれる。続けざまに「Kitchen」でアリーナを踊らせるなど、フォーリミらしいテンポの良さは健在だ。4人ともスーツのせいでやや動きづらそうだが、KOUHEIのドラムは相変わらず鮮やかで、遠目から見ていても迫力が伝わってくる。

「今日はせっかくの晴れ舞台なのでスーツを着てきました。…しかしあっついな。スカパラとかよくやるよなあ」

と慣れないスーツのジャケットを早くも脱ぎ捨てたメンバーは、

「我々のためだけに集まってくれたみなさんを責任持って幸せにします!俺達もう大人だからさ、背中を押す曲を」

と「SEED」から一発目に披露されたのは「Cycle」。インタビューでGENは

「2回目の「広がる」は「日の丸」とかけている」

と語っていたが、ステージ上部に飾られた「YON EXPO」の文字の「O」の部分が時折赤く光って日の丸みたいになるという仕掛けもあった。

痛快なイントロから「message」が始まると、ステージ後方の横断幕の奥から新たなスクリーンが現れ、終始モノトーン調のメンバーが移される。しかし流れるように続いた「My HERO」ではアリーナツアーの時と同じカラフルな映像が加わり、彼らのパンク精神とポップスを両立したサウンドがより際立つ、という大きな会場ならではのコントラストを見せる。
この辺りからフロアも徐々に元気になってきてダイバーの数も増えてくるのだが、そんな暴れん坊達を更に狂わせるのが「fiction」。猛者揃いのフォーリミの持ち曲の中でも、常に起爆剤として存在感を放ってきた楽曲だ。ハイスピードな展開と会場を貫くレーザーが相乗して見せる景色は、いつにも増して痛快。
休ませる間もなく「Montage」が始まると、今度は炎の特効が加わり、レーザーとの応酬で楽曲のスリリングさを増大させた。

ここで一旦ブレイクタイム。やたらと無口な「麺や おがた」の店主(RYU-TA似)が地元・中津川から約300キロの距離をマラソンし、埼玉までラーメンを届けるという、愛は地球を救う的な企画のムービーが始まる。
しかしおがた氏は3キロほど走ったところで早くもギブアップし、自転車に鞍替えして再び埼玉を目指し始めたところでムービーは終了。それに突っ込みながら登場したメンバーは、いつも通りのラフな格好にお着替え。

「ここから中盤戦、開催しまーす」

と宣言し、久々に演奏されたのは「Chicken Race」。最近は同じようなノリの「Kitchen」がライブの定番曲となりつつあり、この曲の存在感が危ぶまれていたが、こうやってちゃんと演奏してくれて安心した。

「埼玉埼玉!」「エキスポポッポー!」

と煽るRYU-TAの姿も久しぶりに見るし、彼の足もちゃんと高々と上がっている。

「埼玉に流星群を持ってきました!」

と始まった「midnight cruising」ではステージ両脇のミラーボールが壮観を生み出す。何度見ても美しい景色だし、楽曲のセンチメンタルさと相まって泣きそうになる。しかし

「さっきの煽りなんだったの?」

とGENがRYU-TAにケチをつけると、そこから口論が始まり、それをKOUHEIが笛で制するというお馴染みの流れで「Galapagos」へ。間奏ではGENが

「俺最初のムービーでキャバクラ行かされたんだけど。俺そんなところ行ったことねえし。てか女性苦手だし。色んな意味で堅くなったよね」

とやりたい放題。あまりにも堂々としているので、GENならあと何年かは下ネタを言っても許されそうだ。

ゆったりとした入りからキャッチャーなサビへ高速転換する「me?」を経て、今日はRYU-TAが曲紹介をした「swim」はさすが代表曲と言うべき盛り上がり。フォーリミはインディーズ時代から追いかけているが、あの頃はこの曲をちゃんと歌えているライブは数少なかった。しかし今ではちゃんと伸びやかな歌声をアリーナクラスの会場の隅々まで響かせている。GENは本当に歌が上手くなった。
そのGENのボーカリストとしての力量が活かされたのが、

さいたまスーパーアリーナでワンマンできるとは思ってなかった。俺達スーパースターだな」

と始まった次のゾーン。GENは普段はやらないことをやりたい、と前置きした上で、

「楽器を弾かずに歌いたい」

と告白。するとHIROKAZはアコギ、RYU-TAはマラカス、KOUHEIはタンバリンを手にし、GENがハンドマイクとなって「labyrinth」をアコースティックバージョンで届けた。曲中、メンバーはステージを降り、客席の間を練り歩きながら中央のセンターステージに向かう。するとステージにはベースとカホン、椅子がセットされており、4人は歌い終えたタイミングでそこに到着。KOUHEIがカホン、RYU-TAがベースにチェンジしたところで

「この瞬間が、永久に永久に続きますように」

と幾度となくライブで歌われてきた「hello」が特別編成で届けられた。最初はメンバーを一方向から照らす照明しかなかったものの、曲が進むにつれて次第に一人、また一人とスマホライトが点滅していき、GENが思わず

「きれい」

とこぼすほどの景色を生み出した。

「俺らからやってって提案するの恥ずかしかったからさ、自発的にやってくれるお前らサイコーです」

との言葉に味をしめた客席は、続く「Shine」の時も白く丸い光を左右に揺らしていた。昔はできなかったアコースティックスタイルがこうやって演奏できるのも、GENのボーカルの安定感があってこそだ。

再び暗転してムービーが流れ始めると、自転車で会場へ向かっていたはずのおがた氏がタクシーで登場し、客席を爆笑させる(中津川から埼玉までは10万円ぐらいかかったらしい)。そして客席の後方からおがた氏がラーメンを抱えて登場。その間、愛は地球を救う的な企画の最後に流れるあの名曲「負けないで」をおがた氏が歌ったバージョンが流れていたのだが、GENが

「XのToshIさんみたいな声」

と突っ込んでからはもう完全にToshIにしか聴こえなくなってしまった。
そんなこんなで苦難を乗り越えてフォーリミメンバーの前に到達したおがた氏。やたらと無口だったのは大ファンであるOfficial髭男dismに会えなかったからだそうだが、フォーリミも大好きらしく、会えて嬉しそう(ちなみに好きなバンドとしてキュウソやブルエン、マイヘアを挙げており、GENから「今時」と突っ込まれていた)。
しかし、苦労して持ってきたはずのラーメンの中身は空っぽ…といったところで寸劇は終わり。今日はラーメン屋に立ったりベースも弾いたりと、RYU-TAは大活躍であった。

「フォーリミはアウェーだとすごい力を発揮するバンドなんですけど、今日はワンマン、ここは敵がいない国。ここの王様になってもいいですか」

KREVAの楽曲を引用して煽ると、「SOIL」から一際ヘビーな「Utopia」を投下。爆発の特効も相まって和やかだった会場を完全掌握すると、「Alien」でも派手な映像と照明で襲い掛かる。ワンマンツアーや夏フェスでもフォーリミの持つラウドな一面を担ってきた2曲だが、まだまだこれからもライブで重要な役割を任されていく予感がした。
「discord」ではスモークを炊きまくりながら更に刃を尖らせる。急に爽やかになるサビとの掛け合いは、フォーリミがジャンルの枠に囚われることなく自分達を表現してきた証拠だ。

初めてフォーリミを聴いたとき、ポップスとメロコアのいいとこ取りをしているバンドだ、というイメージだったが、そうなるまでにバンドが歩んできた道のりの大変さはこれまでのメンバー自身の言葉からも痛感していた。常に自分達の道を自分達で開拓してきた彼らだからこそ、日本のアリーナでも一際大きなさいたまスーパーアリーナに立っているのが嬉しくなる。

「最近は悲しいニュースが多い。俺自身も今年は病気になったりして、それで気づいたのがこうやってバンドをやれてることって奇跡に近いと思って」

と語りだしたGENは、

「だからこうやって瞬間を刻んで残しておきたい。そしていつか、冒険の書みたいに、俺達の曲がみんなの人生のサントラになってればいいなって思います」

と締め括った。フォーリミがこうやって思い出作りに拘るのは、きっと彼ら自身も思い出に救われてきた過去があって、思い出に救われていく未来が見えているからなのかもしれない。

そうして様々な思いを巻き込みながらも

「希望の行方を追えよ」

と未来へ邁進しようとする「Horizon」が強く響き渡ると、間髪入れずに火花の特効と共に「Puzzle」へ。今日のライブは「SEED」の3曲も初披露だったのだが、今までのフォーリミには見られなかったノリ方のこの楽曲は、まだまだ未知数の可能性を秘めている。

「みなさんに残暑見舞いをお届けします!」

と「Letter」ではこの時期にぴったりの物悲しさが歌われるが、続く「milk」ではミラーボールがピンク色に染まり、人肌が恋しくなるこれからの季節に思いを馳せたくなるような風景が歌われる。GENは2番のサビをほとんど飛ばしていたけど。

今日のライブが惜しくもソールドしなかった(あと100枚ぐらいだった)ことを正直に打ち明け、悔しそうに語ったGENは、

「YON EXPO、また何処かでやらなきゃなあって思ってます」

と宣言。ロックバンドのデカ箱でのワンマンは単発で終わることが多いが、彼らはYON EXPOを続けていくことを選んだ。リベンジの意味合いもあるだろうし、次にここでやる時はソールドさせられるだろうけど、それ以上に、YON FESのように、YON EXPOを新たな居場所として提案し続けていくという、そんな宣言のようにも聞こえた。
続けていくことの難しさを体感してきた彼らだからこそ、この選択は大きな意義を持つだろうし、自分もずっと足を運び続けていきたいな、と思えた。

「バンドを続けていく限り旅は続く、だからただ、ただ、先へ進め」

「Feel」が演奏されると、かつて「CAVU」を引っ提げて全国を回っていた時代に、

「バンドを続けていく限りはずっと青春」

とメンバーが語っていたことを思い出した。フォーリミが、自分が前へ進み続けていれば、夢は続くし、青春もずっと続くのだ。

ラストは必殺の「monolith」を叩き込んで終了。この先、どんなに強力な楽曲が生まれても、この曲の存在は絶対に揺らがないのだろうな、と改めて思い知らされたし、フォーリミとの出会いのきっかけとなったこの曲をずっとライブで浴び続けていたいな、と思えた。

アンコールでは1月からZeppを回るツアーを行うこと、来年もYON FESを行うことをさらっと発表。やっぱりライブハウスに戻ってくるわけだが、今日のライブを通してフォーリミへの印象がだいぶ変わった。
ライブハウスで見る強靭かつリアルなフォーリミと、巨大な会場で見るエンターテイメント性溢れるパーティーチックなフォーリミ。今まで比較して優劣をつけがちだった2つの軸が、どちらも同じくらいに大切なものなのだということに気づかされた。それはもしかしたら、ロックバンドにとってアリーナ公演は特別なものである、という感覚自体を覆すことにもなるのではないか、とも感じた。
今日のライブは、総合的なイベントスペースの提案であると同時に、フォーリミの新たな闘い方を提案していたものだったのかもしれない。きっと次にライブハウスで見るフォーリミは、以前よりも新鮮な気持ちで見れるだろう。

考えすぎている我々のみならず、演奏している自分達自身をも鼓舞するかのように「Squall」を届けると、最後は「Remember」で狂騒空間を生み出して終了。かと思いきや、「soup」に合わせておがた氏のエピローグ的なムービーが流れ始める。銭湯のお湯をレンゲで飲んだところで、

「こんな終わり方はないでしょ」

とメンバーが再登場して勝手にダブルアンコールへ。

「最後はやっぱり、ワンマンでしかやらないこの曲で」

と武道館、アリーナツアーと同じく「Give me」で皆を笑顔にして締め括った。

毎年のようにライブを見続けているフォーリミだが、正直、武道館を超えるライブは個人的にはなかった。あの頃のギラついていた感じの方が彼らには合っていたのかなあ、とか、自分たちの状況に甘んじているのか、と思うようなライブもあったが、今日のライブは間違いなく、今までで一番のライブだった。持てる手札全てを尽くして、彼らなりのエンターテイメント性を存分に発揮した、スーパースターに相応しいライブだった。しかもこんなライブを、これからも続けていきたいと宣言してくれた。

ヒーローとして、責任を持って幸せにしてくれた彼らの姿がそこにはあった。やっぱり彼らはかっこいい。だからこれからも、一生死ぬまで一緒に。

ネクライトーキー ワンマンツアー2019 ”ゴーゴートーキーズ! 全国編「〆」” @マイナビBLITZ赤坂 2019/9/23

若手という枠に収まらず、今やシーンを席巻する存在となったネクライトーキー。東名阪のクアトロを含むワンマンツアーが即刻ソールドアウトとなったことを受け、追加公演として選ばれたのが京野マイナビBLITZ赤坂。ネクライトーキー初の1000人越えのワンマンとなったが、チケットはソールドアウト。バンドの勢いの恐ろしさを物語っている。
自分は元々、大阪のツアーに参加する予定だったのだが、ラブシャと被っていたことを直前に知り、泣く泣く断念。しかし7月にリリースされた「MEMORIES」を聴いていてもたってもいられなくなり、遠征を決意した。そもそも遠征はあまりしないのだけど、あんな名盤を聴かせられたらもうライブに行くしかないじゃないか。

普段は夜行便で朝から行ったり、金銭的に余裕があったら新幹線でのんびり行ったりしていたのだが、今回は朝一に大阪を出る昼行便を選択。16時過ぎには会場に着く計画で大阪を発ったのだった。
しかし高速道路はまさかの事故渋滞。しかもやっとの思いで入ったSAでも、他の乗客が定刻までにバスに戻らなかった影響で、バスから降りたときには既に開演10分前。結局、30分ほど遅れて会場に到着することになった。

会場に着くと、「サンデーミナミパーク」を演奏している最中。5人ともいつも通りの服装だが、朝日(Gt)は髪を切ったのか、何だかいつもより爽やかに見える。
この「サンデーミナミパーク」は石風呂時代の曲であり、「MEMORIES」には収録されていなかったものの、

「楽しかったからやった」

と朝日の動機は至って単純。MCではそんな「MEMORIES」の由来について、朝日の石風呂時代の思い出が詰まったタイトルであると同時に、そんな石風呂の楽曲をリアルタイムで享受していたもっさ(Vo,Gt)の思い出が詰まったタイトルでもあることが語られた。

ネクライトーキーはキャリア的には若手だが、朝日と藤田(Ba)、カズマ・タケイ(Dr)はコンテンポラリーな生活から数えると決して若手ではないし、朝日は石風呂名義でメジャーからCDを出していた時期もある。この「MEMORIES」に収録されている楽曲は、作り手である朝日にとっての思い出であると同時に、もっさのようにかつて石風呂の楽曲を聴いていた人達の思い出であり、自分のように石風呂の時代を知らない人達にとっても、これからの思い出となりえる可能性を秘めている。
正直、石風呂の楽曲達はネクライトーキーとしてのオリジナル楽曲が揃うまでの場繋ぎだと思っていた。でもこうして音源を作ってくれたということは、これからも様々な世代の人達の思いを抱えながら石風呂の曲を演奏していくというネクライトーキーの決意の表れだ。本当にこのアルバムがリリースされてよかったと思う。

「涙を拭いて」では、この日集まった人達を「よく来たね!」と歓迎するかのような温かいムードが溢れる。自分に限らず、この場所まで辿り着くのに散々な思いをした人もたくさんいたと思うけれど、そんな思いが全て浄化されていくようだった。
今年、バンドは去年以上にたくさんのイベントやフェスに呼ばれるようになったが、毎回演奏される「だけじゃないBABY」といった曲達を聴くと、場数を踏んだことでバンドの音がどんどん逞しくなっていっているのがよくわかる。今回のツアーからカズマ・タケイの左横にポジショニングしているむーさん(Key)の表情も見違えるほど柔らかくなっていて、バンドの状態の良さが窺える。

風が吹き抜けるようなSEが流れる中で、

天王寺で出会った竜の話です!」

と朝日が紹介すると、「あの子は竜に逢う」が始まる。

「つまらない毎日 くだらない自分 そんな全部全部を壊してくれる
特別なものが JR改札抜けたら そこにあると信じて」

というフレーズがあるが、自分も含めて今日ここに集まった人達にとっての「特別なもの」は、間違いなくネクライトーキーのことだろう。わざわざ言葉として発信しなくとも、 ライブハウスでは日々の喧騒を忘れていい、着飾らなくていい、というメッセージを、このバンドは自らの立ち振舞いで表しているようだ。ところでこの曲の照明は緑がメインだったのだが、曲中に登場する竜も緑の鱗をまとっているのだろうか。

「新曲やります!」

と宣言されて始まったのは、もっさの歌声とむーさんのピアノが優しい、朝日いわく「しっとりした曲」。今まであまり見られなかった繊細な歌い方からは、もっさがボーカリストとしての表現力を著しく進化させていることがよくわかったし、初めて聴くのに目頭が熱くなってしまった。早くも名曲の予感がする。

続いて披露された新曲は、朝日が

「さっきのしっとりした曲の反動で作っちゃった。愛と勇気と金玉の曲」

と紹介した、その名も「ぽんぽこ節(仮)」。もっさ、もといもっさぽんぽこがお腹を叩く音から始まり、目まぐるしく展開が変化するこの楽曲は、このバンドが持つテクニカルな一面を徹底的に尖らせている。

音源が正式にリリースされたことで

「せーの!」

の声がキャパシティ以上に大きく聴こえる「夕暮れ先生」から、今日一番のハイライトを生み出したのは「許せ!服部」。1番サビ終わりで

「行くぞ服部ー!」

と加速する流れは同じだが、いつもの「ワンツースリーフォー!」をメンバーで回す下りはなし。代わりに再びテンポがゆっくりになり、もっさがギターを置いて袖へ捌けると、「CD」「ライブ」と書かれた看板を持ってくる。そしてメンバーの方を向いて立ち、「ライブ」を掲げると加速、「CD」を掲げると減速…といったように両方のバージョンを見せるという粋なパフォーマンス。
もっさの挙動がどんどん忙しなくなっていくにも関わらず、CD版であろうとライブ版であろうとアンサンブルがバッチリ決まっているのが本当に凄い。その中でも、唯一ほとんどアイコンタクト無しで冷静に合わせていたのがクールだった藤田がお立ち台に昇ると、もっさが「ライブ」の看板を掲げ、藤田のベースソロが始まる。
会場が湧く中、今度はむーさんがショルキーを引っ提げてフロントに登場し、こちらもお立ち台の上でキーボードソロを披露。女性陣2名のソロバトルに会場のテンションがどんどん上昇していく。すると次はカズマ・タケイのソロに移り、またもや会場は熱狂。更に朝日がもっさから看板を奪うと、今度はもっさもお立ち台に立ってギターソロ。間髪入れずに最後は藤田、もっさ、朝日、むーさん全員がお立ち台に立つという超長尺のパフォーマンス。まさかこんなことができるようになっているとは。この鮮やかな演奏っぷりは、間違いなくネクライトーキーにしかできないエンターテイメントだ。
しかし演奏がブレイクすると、やっぱり最後は観客の掛け声に合わせてキメをビシッと、合計14回決めてみせた。合計して8分以上繰り広げられた活劇のような一幕に、鳴り止むことのない拍手が送られた。
それでもなお、

「めっちゃ楽しい!ずっとやってられるわ」

と朝日は実に楽しそうだ。彼は以前のインタビューでネクライトーキーについて

「技術はタケちゃん(カズマ・タケイ)に任せっきりでまだまだ」

と語っていたが、今日は

「かっちょええとしか言えん」

と満足そうだ。

気づいたら大型のカメラがあちこちに置かれ、明らかに今日の模様が映像化される予感が漂う中、スペイシーなキーボードが印象的な新曲を披露すると、「音楽が嫌いな女の子」へ。曲の後半にはMVにも出演していたアウトレイジ前田が同じ格好で登場。「石風呂運輸」と書かれた段ボール箱から無数のボールを客席に投げ込むサプライズを見せた。
ネクライトーキーの一番の魅力は音楽への純粋な愛だと思っている。それはバンドアンサンブルや、メンバーの一挙一動、奏でるフレーズの一つ一つに溢れんばかりに宿っているし、ライブではそれが更に顕著だ。それ故に

「愛してるけど音楽大変ね」

といった気持ちになることもあるけど、最後は

「ほらもっと掻き鳴らせ」

と歌う。朝日をはじめとして、やっぱりこの5人は音楽に生かされているということを本人達がよく自覚しているし、だからこそネクライトーキーの楽曲は、自分のように音楽が必要な人に強く響くのだろうな、と思う。音楽は腹を満たしてくれないし、過去の傷跡を消し去ってはくれない。でもこうして弾丸スケジュールで東京まで向かう程に、自分にはネクライトーキーが必要だと強く思うのだ。

「5! 4! 3! 2! 1! FIRE!」

の掛け声もバッチリ決まった「オシャレ大作戦」では銀テープを噴射。ライブを見る度に研ぎ澄まされていっているカズマ・タケイやむーさんのソロ、

「BLITZヘヘイヘイ」

臨機応変に歌詞を変えるスタイル等、最早ネクライトーキーのライブには欠かせない要素が詰め込まれた楽曲だが、

「やるしかない ここまで来た」

の「ここ」がBLITZなのだ、と思うと、とても感慨深くなった。

そしてラストは「遠吠えのサンセット」。何度となくライブの最後を託されてきたこの楽曲だが、改めてBLITZという舞台で噛み締めて演奏しているメンバーの姿もよく見えたし、1階スタンディングエリアには小さなモッシュピットが出来ていて、まるでこのバンドのフロアに新たな芽が芽吹いたのを感じた。

朝日がもっさのギターを手にしたことで「まさか朝日が歌うのか?」と期待させて登場したアンコール。もっさが

「ワンマンも楽しかったけど、私達スリーマンの自主企画もやってるんで」

と12月に自主企画「オーキートーキー」の開催を発表。GRASAM ANIMALの時だけは少し歓声が小さかったが、同世代のFINLANDSとPELICAN FANCLUB、むーさんの大好きなパスピエの発表にはフロアが湧いていた。
そして朝日がツアーで少しずつ新曲をやっていたことを話題にすると、2ndアルバムを現在制作中であると発表。更に、そのアルバムを引っ提げてソニーミュージックからメジャーデビューすることも併せて発表された。正直、これだけハイクオリティなポップセンスを持つバンドがメジャーに呼ばれることは時間の問題だと思っていたが、やっぱりこうして目の前で発表されるとすごく嬉しかったし、3月のワンマンでむーさんが正式加入した時と同じように、拍手はなかなか鳴り止まなかった。

アンコール1曲目は

「北へ向かえば」

というフレーズが繰り返される新曲。カズマ・タケイがパッドを駆使するなど、バンドの新たな一面がどんどん開かれていく楽曲だ。今日やった新曲がどのような形で収録されるのかはまだわからないけれど、常に好奇心の赴くままに進み、自分達が楽しい・面白いと思うことを突き詰めてきた5人なら、これからも大人を巻き込んだ本気の遊び、本気の音楽を見せてくれるだろうと信じている。
朝日にとっては2度目のメジャーデビューになるが、こうして再びメジャーシーンに出向くということは、彼が心からネクライトーキーを誇りに思っているからだろうし、これからもネクライトーキーとして転がり続けていく、という決意と覚悟の表れだろう。

最後に演奏されたのは「ティーンエイジ・ネクラポップ」。朝日はお立ち台の上で、かつての自分自身に捧げるように弦の切れたギターを弾いていた。最後の長い、長いコール&レスポンスは、見えない未来を待ち構える賛歌のように、ずっと会場に響いていた。

「涙を拭いて」の歌詞に

「そして一緒に戦おう」

という一節がある。自分が辛かった時期にこの曲を聴いた時、こう言ってくれる人をずっと探していたんだ、と感じた。だから自分にとってネクライトーキーは、追いかけていく存在ではないし、一緒に遊ぶだけの存在ではない。一緒に気難しい現実と戦い、立ち向かっていく戦友だと勝手に思っている。一緒に戦ってくれる仲間がいるのは心強い。
メジャーデビューおめでとう。厄介なことも増えるだろうけど、それでもなんとかやっていこうよ。

そしてマイナビBLITZ赤坂、初めて来たけれど思い出の場所になった。ライブハウスとしての営業が終了することはすごく残念だけど、形を変えてもまた機会があれば絶対に帰って来たい。また一つ、思い出の場所が増えた。
散々な一日だったけど、このバンドの晴れ舞台を見れて本当によかった。

Hump Back 僕らの夢や足は止まらないツアー @Zepp Osaka Bayside 2019/9/16

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。













全52公演、来年の4月にまで及ぶロングランのツアーを敢行中のHump Back。大阪には2度訪れるのだが、その内の一つが今日のZepp Osaka Bayside公演、しかもチケットはソールドアウト。メジャーデビューは去年とはいえ、高校時代にバンドを結成して10年、遂に大阪で一番でっかいライブハウスに到達したメンバーの気持ちは計り知れない。

巨大なバンドロゴが飾るステージに、ハナレグミ「ティップ ティップ」を流しながらゆったりと登場し、林萌々子(Vo,Gt)がいきなり歌い出したのは「星丘公園」。これは予想外の始まりだったが、どうやら今回のツアーはこの曲を先頭に据えていくようだ。新たなチャレンジもある中、地元の大阪であるからか、林の伸びやかな歌声はいつにも増して痛快だ。

前回ライブを見たのはラブシャだったのだが、その時以上に驚いたのが美咲(Dr)のドラムの進化っぷり。こうしてライブハウスで聴くとめちゃくちゃどっしりしている。決して派手なパフォーマンスを持っているドラマーではないが、堅実なプレイと佇まいからは頼もしさすら感じる。そんな美咲を紹介しながら、林が

「うちにはスーパードラマーがいるんで、みんなは拳と声担当で」

と手拍子を制する姿はいつも通り。

「高速道路にて」では高速のトンネルを思わせる赤と白の照明が疾走感を後押しし、いつもよりテンポの速い「ヒーロー」では

「僕だっていつか あのヒーローみたいに歌えるかな」

と歌う。この後のMCでも判明していたが、Hump Backのライブには10代のお客さんが多い。彼ら彼女らにとっては、今この瞬間にステージで演奏しているHump Backこそがヒーローなのだろう。

「一番でっかいライブハウスに、でっかい声で歌いに来ました!」

とBaysideのステージに立てたことを喜んだ林。

「色んな遊びがあるのにライブハウスを選んでくれてありがとう。遊び方は自由やから、好きに遊ぼうな」

と語り、最新アルバム「人間なのさ」からは「オレンジ」が一発目に奏でられた。

ぴか(Ba)の歌うパートも印象的な「MY LIFE」から「卒業」とテンポよく曲が続くと、「VANS」「サンデーモーニング」では今もこの町のどこかで起きている日常のワンシーンが丁寧に切り取られる。
Hump Backは自身のその目で見た景色や経験、自分や誰かに抱いた感情を素直に楽曲に還元する。そこに一切の捻れはないし、言い換えればとてもナチュラルな楽曲だからこそ、リスナーが思い思いの追体験を重ねることができる。これが東名阪のZeppを埋めきった彼女らの今の強みだ。

…というのは理屈っぽい話で、きっとHump Backはそこまで考えてやっていない(だからと言って何も考えずにやっているわけでもないだろうけど)。ただ音楽と純真無垢な心で向き合い、ロックバンドを真っ直ぐに信じてきた。そんなピュアなエネルギーから生み出された音楽に、多くの人が価値を見出だすのだろう。
林は以前のインタビューで

「世の中に優しくない人なんておらんと思う、という言葉を信じたい」

と語っていたが、そんな彼女のスタンスは

「確かにあいつは逃げたけど 走り方は悪くなかった」

というフレーズが印象的な「Adm」にも繋がっているのだと思う。

「高校の友達がライブに来てるんです。あの頃のことは覚えてないけど、歌にしたから思い出せる」

と語って始めた「十七歳」、

「地元の大阪なんで、元彼の曲を2曲持ってきました」

と林が悪戯っぽく笑った「コジレタ」を経て、MCではぴかが仲のよかった友達の結婚式に呼ばれなかったというエピソードを語る。

「ももちゃん(林)も昨日結婚式に行ってたよね」

と話を振られた林は、立て続けに友人の結婚式を訪れたことをきっかけに、大人になることは悪いことばかりではないことだと気づいたという。

「昔は大人になるのがダサいと思っていた。でも今は違う。めんどくさいことは増えたし、怖いもんも色々増えたけど、あの時はどうしようもできなかったことに折り合いをつけられるようになった。それに、大事なものを守れる力が身に付いた」

と「生きて行く」へ繋げる。彼女らはきっと年をとることを恐れていないし、そういうことはきっと大した問題ではなくて、年をとったなりの楽しみ方をきっと見つける。自分にはそんな考え方が羨ましいと感じたし、

「大事なもんで大事な人らを守れるのはサイコー!」

と突き抜けるような笑顔を見せたメンバーからは、初めて「月まで」を聴いたときとは比べ物にならない陽性のエネルギーを感じた。

渾身の「ワンツー!」が響き渡った「短編小説」では、

「ロックの中に答えはない!答えは自分の中。ロックを聴いて感じたことが答えや!」

と林は思いっきり助走をつけて客席に飛び込む。ギターソロは全く弾けてないけど、気にならない。Hump Backや自分が今までロックを、ライブハウスを選び続けてきた理由がそこにあったから。

「未来に光はない!自分が光るんや!」

と青い照明が突き抜ける「クジラ」もそう。

Hump Backの、ひいてはロックバンドのテーマソングとも呼べる「僕らは今日も車の中」、

「今 目に見えないものを探している途中」

と歌う「いつか」の2曲は、作られた時期こそ違えど未来へ視線が向けられている。よく夢を追いかけよう、みたいな台詞を聞くが、Hump Backにとっては今を全力で泣き、笑いながら生きることが未来へ向かうことなのだろう。
ロックバンドはいつだって答えを押しつけない。この2曲も、

「私らは夢も足も止めるつもりはないけど、君はどう?」

とこの場にいる一人一人が問われているようだ。

そんな「君はどうだい?」のフレーズが繰り返される「月まで」から、一際大きな声が上がったのは「LILLY」。「生きて行く」から「LILLY」までの流れは夏フェスの延長線上にあるような流れだったが、今後のツアーでこのゾーンはどんな変化を遂げるのか。
先日、ドラマ主題歌に抜擢された「恋をしよう」は、アルバムでも終盤に収録されていることもあって、明るい曲なのにそろそろライブが終盤に来ていることを悟らされて寂しくなる。

「これからもライブハウスの最前線として頑張っていきます」

と「拝啓、少年よ」、「今日が終わってく」を連発してライブは終了。相変わらず

「ああ もう泣かないで」

ってフレーズには泣きそうになるし、自分ももっと熱くありたい、という気持ちを彼女らから受け取ることができている。

アンコールはなさそうな雰囲気だったが、鳴り止まないアンコールに応えて

「やります!」

と再登場。メンバーの関係者も多く来ているからか、林は昔はイケイケだった、ぴかは酒癖が悪い、美咲は「満員御礼」が読めない、とそれぞれのメンバーからの暴露話もあった。

「大きいところでやるのは目標じゃないけど親孝行になる」

といったMCもあったが、やっぱり人前に立つことが多い以上、バンドは人柄が取り柄になる生き物だし、そういう意味では彼女らはちょっと心配になるぐらいお人好しなバンドだ。でもそういう所が色んな人を惹き付けているんだな、とも感じた。
「ゆれる」は確かに夏の終わりにぴったりだったし、ラストの「嫌になる」は

「あいつでさえ知らない場所」

のライブハウスでまたいつか再会できることを暗示しているように思えた。

まだまだツアーは続く。同じようにこの三連休が終わったら、我々の日々も続く。今日Hump Backを聴いて、心の中にポッと芽生えた光は、明日からの我々を少し優しくしてくれるかもしれない。

THE ORAL CIGARETTES PARASITE DEJAVU ~2DAYS OPEN AIR SHOW~ DAY1 <ONE MAN SHOW> 2019/9/14

デビューから5年が経ったが、今やシーンを代表するモンスターバンドとなりつつあるTHE ORAL CIGARETTES。彼らの地元である関西であり、例年では毎年HEY-SMITHの主催フェスが開かれる泉大津フェニックスを会場とし、初日をワンマン、2日目をフェス形式にするという挑戦的なイベントを開催した。このレポは初日のワンマンのもの。

会場に着くなり、蔦の絡まったオブジェが至る所に設置され、書道家が当日にパフォーマンスした一枚絵、ライブペイントやファッションブースの展開など、あらゆるカルチャーに焦点を当てた景色が並ぶ。まるで野外に美術館ができたような感覚だが、この一つ一つがオーラルを形作った血肉であることがわかる。
ステージにはイベントタイトルがでかでかと掲げられ、白い結晶と植物がシャンデリアのような姿を形成した巨大な装飾物が飾られる中、開演時間になると、まずはいつも通りの

「一本打って!」

から。ラブシャの時はテンプレートの文章だったが、今回はちゃんと陰アナっぽくなっていたので安心した。

「お前らがオーラル第2章の生き証人やぞ!」

山中拓也(Vo,Gt)が息巻くと、いきなりの「BLACK MEMORY」で開幕。リリース当時からこの曲はライブの締めを担当してきた場面が多かっただけに、この選曲には驚いたが、

「Get it up」

というフレーズが連なる曲なのでこのポジションも合っているのかもしれない。最初の一音から深く、深く自分たちの世界に引っ張りこむ手腕はさすがのものだ。

続いて「What you want」で会場をバウンスさせるのだが、山中だけでなく、鈴木重伸(Gt)、あきらかにあきら(Ba)、中西雅哉(Dr)の全員、一瞬一瞬の動きがアートになりえるような優美さをまとっていて、演奏している姿に目が離せない。ライブにおいて総合的なアート性を求めている今のオーラルのモードがメンバーの立ち振舞いにも表れているし、こんなに絵になるバンドは他にいない。

まだ2曲しか演奏していないにも関わらず、山中は満員の会場を一望して

「この景色を5年前から思い浮かべてました」

と感極まる。
5年前、KANA-BOONがこの場所でワンマンを行ったのだが、ライブ前に関西の若手バンドの曲をノンストップでDJするという時間があった。オーラルはそこでリリースされたばかりの「起死回生STORY」が流れていた。あの時は大勢の中の1バンドに過ぎなかったオーラルが、ワンマンでこのステージに立っている。音の説得力、ライブの迫力、歌詞やサウンドの趣向からして、今やオーラルの真似をできるバンドは世界のどこを探してもいない。

映像にも目が離せない「WARWARWAR」から、デビュー当時はセトリに必ず組み込まれていた「N.I.R.A」と懐かしい曲が続くと、「GET BACK」からは徐々に日暮れが近づくにつれて照明の激しさも増してくる。惜しげもなくカップリング曲も披露するということは、第2章に入る前に過去を振り返るという今回のライブの趣向を表しているのかもしれない。
「GET BACK」には

「いつかは君の答えになってみせるよ」

というフレーズがあるが、オーラルにとっては今ここに集まってくれた人達の存在こそが答えなのだろう。

いよいよ夕陽が沈んでいく様をハイテンションで眺めていた山中は、前日にあきらから

「ここまでつれてきてくれてありがとう」

と個人LINEが来たことを明かす。そういえば彼らはメジャーデビューして上京してから、しばらく共同生活を営んでいた。メンバー間の信頼関係は折り紙付きだ。

「奈良と大阪といえば近鉄やないですか。近鉄に怪しい駅あるやないですか」

と「瓢箪山の駅員さん」では初期のオカルトな一面を見せつつ、爽やかな原曲から一転して穏やかなムードを漂わせる「LIPS (Redone)」では

「この街の灯が消えてしまうから」

というフレーズと同期するように夜の帳が降りていった。

「ワガママで誤魔化さないで」は今後のオーラルの中でどんなポジションを担うことになるのか、未知数の可能性を秘めていた曲だったが、やはりこの日も中盤のターニングポイントとしての役目を全うすると、キラーチューン「カンタンナコト」では会場が一斉にヘドバン。思えばこの曲をやり始めた当時、山中が

「頭振るぞ」

とヘドバンを煽っていたのが驚きだったし、「オーラルってそういう方向性の曲もやるのか」とも思っていたが、ワンマンで一斉にヘドバンしているこの景色は絶景だ。
山中は

「野外でやることの大変さを知って、フェス主催してるバンドがリスペクトできました」

とこの日に至るまでの苦労を語ると、書道やライブペイントといった、今までにはなかったパフォーマンスを催したことに手応えを感じる。そしてその一環として、ライブ前にもパフォーマンスしていたヒューマンビートボクサーのKAIRIがステージに呼び込まれた。サイレンのような音からDJのスクラッチ音まで、たった一人で泉大津フェニックスを虜にしたKAIRIは、

「みんなが待ってたやつやります!」

と「DIP-BAP」のビートを刻み出す。すると山中もそこに乗っかり、山中の歌、KAIRIのビート、お客さんのコーラスという3つの声だけでワンフレーズを歌い上げた。そして今度はメンバーも参加し、まさにKAIRIがリアルで打ち込みを担当したかのような「DIP-BAP」で会場を沸かせる。
この5年で目まぐるしい変化を遂げたオーラルだが、個人的にはこの「DIP-BAP」こそが、彼らの進化と個性を決定付けた一曲だと思っている。

「オーラルは一生ついていって間違いないバンドだから!」

とKAIRIからの熱い言葉を受け取り、「ハロウィンの余韻 (Redone)」からは最新のオーラルを展開するゾーンへ。
次の「僕は夢を見る (Redone)」もそうだが、

「自分の表現したいことに楽器の制限は外してやっている」

と山中がインタビューで語っていた通り、あきらがシンセベースを操って重厚なビートを生み出すなど、今回リアレンジされた楽曲は決して既存のオーラルのスタイルとは全く異なっている(何年か前のインタビューで山中は「ミドルテンポの曲が響くようになったら強いと思う」といった趣旨の発言をしていたし、その時の伏線を回収しているように感じる)。「バンドなんだからバンドサウンドで勝負してほしい」という意見を持つ人からしたら、今回のリアレンジは突拍子だったのかもしれない。
だが、これこそが常に常識を壊そうと進化を続けてきた彼らの現在地である。中には彼らの目まぐるしい進化についていけなくなった人たちもたくさんいるだろうし、自分の周りにも「昔のオーラルの方が好き」という人がたくさんいる。それはそれでいいんだろうし、きっとオーラルはこれからも歩幅を合わせてくるつもりはないだろうから、我々は最新の彼らが一番かっこいいのだ、と信じ続けるしかない。
でも今日この場所にたくさんの人が集まったということは、オーラルは今でも、いや今が一番かっこいいという何よりの証明だろう。

「オーラルは一度も跳ねたことがない。ブームを起こしたこともない。でもそれでいいと思うんです」

と山中はバンドの歩みを語る。そして、

「ロックは弱い人が奏でるもんやと思うんです。俺は弱い。でもみんなに寄り添えるなら弱くてもいい。どんだけ苦しんでもいい。俺は絶望を力にできるから」

と力強く語りかける。MC中には涙ぐむ声も聞こえた。
ロックはいつの時代も負の感情をエネルギーとして鳴らされてきた音楽だ。社会情勢への反発であれ、うまくいかない恋愛へのあれこれであれ、根本は同じだと自分は思っている。でも売れるためには陰の部分を隠し、明るく振る舞おうとしてきたバンドもたくさんいた。
でもオーラルはそうしなかった。そうできなかったのかもしれないけど、オーラルがこれまで包み隠さずな音楽を鳴らし続けてきたことで、救われた人がどれだけいるのだろうか。

燃え盛る怒りをサウンドに落とし込んだ「5150」からは、「PSYCHOPATH」、さらに極彩色の照明が踊る「狂乱 Hey Kids!!」とダークなキラーチューンが連なる。「PSYCHOPATH」の映像には複数の目玉がこちらを向くシーンがあったように、彼らの音楽は時として目を逸らしたくなるほどリアルだ。でも目を逸らしたくなるということは恐怖という感情があるからだし、オーラルはそんな感情の機微を大切にしてきたバンドだ。
今回リアレンジ版として披露された曲も、「狂乱 Hey Kids!!」のような激しい曲も、どちらかが良いという問題ではない。根本は全く同じだし、どちらも今のオーラルには必要不可欠なパーツなのだと再認識した。

「今近くにいる人は出会うべくして出会ったんやで。ないがしろにすんなよ」

と語った「See the lights」では、

「あなたと過ごした時間には「ありがとう。」の言葉が溢れてる」

のフレーズに涙ぐむ人も。やはりオーラルが一番伝えたかったことは、今目の前に集まってくれた、このイベントを作ってくれたスタッフ達、そしてメンバーからメンバーへの感謝だったのでは、と思った。それがさらに顕著に出たのがこの日一番のハイライトを生み出した「LOVE」。
デビューして1ヶ月弱だった頃、所属レーベルのカウントダウンイベントに出演した時に何故か「起死回生STORY」がセトリに入っていなくて、異例のアンコールを引き起こしたこと。翌年の列伝ツアーでそのリベンジを果たしたこと。ラブシャのステージで山中がポリープ手術を行うことを告白したこと。

「すごいボーカリストになって帰ってくるから!」

という言葉通り、「FIXION」という傑作を引っ提げて帰ってきたこと。満員の武道館で「LOVE」を歌ったこと。大阪の冬フェスで一年間かけて育ててきた「ReI」を大合唱したこと。この曲を聴いていると、その歴史の一つ一つがフラッシュバックしてきて、気づいたら涙が止まらなかった。
ロックバンドは常に自分自身と対峙し、自分自身との闘いを乗り越えてきた存在だと思っていた。だが、山中はオーラルを

「人と人との繋がりでここまで来た」

と語っていた。この「LOVE」も、そうした繋がりがなければ生まれなかった曲だ。

個人的には本編最後の曲はこの「LOVE」だったと感じた。実際にはこの後に「容姿端麗な嘘」をやって本編を終えたのだが、この日の「容姿端麗な嘘」は、今まさにオーラルが第2章に足を突っ込んだことを明確に示していた。きっとこの曲も、これからのオーラルを支えてくれる心強いパートナーになってくれるだろう。

アンコールではワンマン恒例のまさやんショッピング(次はもっと大きな会場でやりたいとも宣言)を経て、徐々に満月が見え始めてきた頃合いにロザリーナが呼び込まれ、ライブ初披露だという「Don't you think」を披露。
ロザリーナの歌を山中の声が低音で支え続けるこの楽曲は、オーラルがロックバンドとしての既存の概念を超えつつある瞬間を表していた。サウンドも歌詞も、目の前の事象に留まらず、もっと広い視野を見据えたもののように感じる。

「何を言われても俺達は初心を忘れないんで!」

と最後に演奏されたのは「起死回生STORY」。オーラルは本来はBKWを掲げてきたバンドだし、そのBKW精神に惹かれた人もたくさんいただろう(少なくともフェスシーンなどではBKWされる側に回った気もするけど)。
しかし今の彼らはもっと大きな事象に目を向けている。それは今日のライブを見た人ならわかるはず。わかったはずならば、我々はそれをこれからも追いかけていくだけである。

最後に写真を撮るときも、

「今までフェスとかで冷たくしてごめんな!今日のためやったんや!」

と上ずった声で話した山中。途中のMCでも言っていたように、オーラルは決してヒット曲に恵まれたわけでもないし、平坦な道を歩んできたわけではなかった。だからこそ、共に歩んできた人達との信頼関係は絶大なものになった。その関係はこれからも一筋縄では揺らがないだろう。来るべき第2章はどんなSTORYが描かれるんだろうか。

My Hair is Bad presents サバイブホームランツアー @Zepp Osaka Bayside 2019/9/6

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最新アルバム「boys」を引っ提げて今日もツアーを回り続けているMy Hair is Bad。ライブハウスを主戦場としているバンドではあるが、今やこうして大阪で一番大きなライブハウスで見れる機会すら貴重になりつつあるのは、昨今のロックバンドのジレンマか。Zepp Osaka Baysideでライブをするのは早くも3回目だ。

 

最初にステージにセットされていた椎木知仁(Vo,Gt)のギターは、いつものレスポールではなく水色のテレキャスター。boysの楽曲はほとんどがこのギターで弾かれていた。開演時間ちょうどになると椎木、山本大樹(Ba)、山田淳(Dr)が揃って登場。ひとしきり身体を伸ばした後、ドラムセットの前で拳を交わすと、「君が海」で勢いよくスタート。MVが出た当時は今年の夏がどんな夏になるのか、想像が膨らむ曲だったが、

 

「この夏が最後になるなら」

 

という歌詞の通り、9月になっていよいよ夏の終わりが迫ってきたこの時期に聴くと、あの時とはまた違った感傷が襲ってくる。

 

マイヘアの楽曲は過去の思い出をリアルの肉体に乗せて、今この瞬間耳にした人に追体験をさせる。その体験は自分自身が本当にそんな経験をしていたかのようで、時に目を背けてしまいたくなるようなリアリティーがあるのだが、「君が海」はどちらかというと白昼夢の中で見聞きした話の追体験のようにも聴こえる。

 

「バンドを続けていくために変化していく」

 

と「hadaka e.p.」のインタビューで口にしていたバンドの、さらなる進化が垣間見えた。

 

「青」に続いて「グッバイ・マイマリー」では

 

「大阪!遠慮はいらないぜ!」

 

とフロアに火を点けると、それに呼応するかのように力強い拳が3人に向けられた。フェスなども含めて、もうライブを見るのは5回目ぐらいになるのだが、ライブハウスで見るのは今日が初めて。熱量は変わらないが、ホールと違うのは、スタンディングフロアの群衆が椎木側に集中していることだ。

 

前半は歌詞を飛ばしたりするなど、椎木の声は本調子ではなさそうだったが、最初のMCを経て「虜」に入る頃にはだいぶ温まってきたようだった。アルバムでは最後の方に収録されている曲だが、

 

「物語の始まりはこれから」

 

という歌詞を聴いて、このポジションに据えられたのが納得できた。

 

スリーピースバンドのベースは、ギターの細かいフレーズが少ない分技術が求められがちだが、 「浮気のとなりで」「ドラマみたいだ」とミディアムチューンが続くゾーンでは、山本のベースがいかにこのテンポの曲たちをうまく引き立てているかがよくわかった。

 

本音を隠し続ける二人の関係が切ない「観覧車」から「戦争を知らない大人たち」、更に神聖なストリングスが流れる「化粧」と続ける展開は、生々しいドキュメンタリーを見ているようで、黙って見ているこちらの心まで裸にさせられていくようだ。衝動的なギターロックというイメージのある彼らだが、スローテンポの曲はどれも味があるし、ロックバンドとしての懐の深さを感じる。

 

「あっという間に半分も経っちゃった」

 

と少し寂しげに語った椎木は、この夏山本に誘われて皆でバーベキューをしたエピソードを披露。せっかくだから椎木が今日は奢るということを宣言すると、山田が号泣し、

 

「なんで泣いたのって聴いたら、椎木の男を見たからって」

 

と話す椎木に、泣いてねえよー、とマイクを通さず叫んだ山田。毎回思うが、彼は本当に声がでかい。

 

マイヘアの誇るキラーチューン達が唸りを上げる中盤戦は「真赤」からスタート。赤い照明がいくつも会場を貫くなか、椎木は

 

「本当は思い出したくないんだ」

 

と叫んでいた。バンドにとってはブレイクのきっかけとなった曲だが、彼にとっては歌う度に自らの傷を抉るような感覚なのだろうか。

 

しかしそんな感傷はものともせず、

 

「ドキドキしようぜ!」

 

と「アフターアワー」が始まると、会場の熱はトップクラスに。中には待ってましたと言わんばかりにダイブしてくる人も。

「愛の毒」「クリサンセマム」と短いナンバーを続けると、勢いはそのままに

 

「ついてこれないなら置いていくだけだ!」

 

と「ディアウェンディ」をお見舞い。山田の切れ味抜群なドラムは年を追うごとに迫力を増してきている。彼がいなければこの高揚感は生まれてこないといっても過言ではない。

山田に続いて椎木がハードコアのような鋭いリフを刻む「lighter」では、照明も赤を中心に激しく明滅する。3人の演奏が素晴らしいのは当然として、マイヘアのライブの魅力の一つはこの照明にある、と自分は初めてライブを見たときから思っている。

 

「人間は嘘を見破れる。お客さんは舐められない。だから最高の本気を見せに来た!」

 

と即興の叫びが繰り返される「フロムナウオン」の臨場感は、CDで聴いてもライブDVDで聴いても味わえない(CD音源はリリースされてないが)。

結局のところ、どれだけ素晴らしい作品がリリースされても、ライブでその魅力を発揮できなければロックバンドは生き残ることができない。グッズを買えば買うほどバンドに利益が届くという話もよく聞くが、それだけロックバンドはライブに重点を置いて生活している。現場に来る人を何よりも大切にしているから、一つ一つの現場に全身全霊を込めている。

「フロムナウオン」の数少ない固定の歌詞の一つに

 

「わからないまま時は過ぎ」

 

という一節がある。今日の「フロムナウオン」が彼らにとって、お客さんにとって何点だったのかはわからない。でも、年間を通して常にライブをこなし続けているマイヘアが、今もこうして最前線でサバイブし続けてきたのは、この「フロムナウオン」を幾度となくバッチリ決めてきた積み重ねがあるからだ。だからこうしてツアーで大阪に来てくれるときは足を運びたくなるし、マイヘアはずっとそういう存在であり続けてくれると思っている。

 

「故郷の歌を歌います」

 

と始まった「ホームタウン」は、彼らの出身である新潟・上越の景色が幾重にもイメージされる曲だ。だいたいこういう故郷に向けた曲というのは、聴いている人が自分の故郷を重ねられるという魅力がある。しかしこの曲に映されている風景は紛れもなく上越のもので、他の何にも代えがたい言葉や空気に満ち溢れている。非常にパーソナルな曲だからこそ、新潟以外の土地で演奏されたのには驚いた。

 

アリーナツアーでも披露されていた「芝居」が演奏されると、曲のスケール感に合わせてこのライブハウスも同時にスケールアップしたかのような感覚に陥る。今の自分は映画のどのシーンにいるのか、自分の周りにいる人たちはどんなシーンで生きているのか、つい思いを馳せてしまうし、願わくは今のシーンが予告編であることを願っている。まだまだロックバンドを見続けたいし、2020年、2030年と続いていく未来をロックバンドと共に生きていきたい。

 

「この夏にここで出会えてよかった!」

 

と3人が笑顔をこぼしながら「いつか結婚しても」が始まると、常々

 

「歌える人は歌ってくれ!」

 

と言い続けていた椎木の思いが成就したのか、歌詞を口ずさんでいる人の数はこれまでで最も多かったし、その数は最後のサビ前に椎木がマイクから離れて会場に歌詞を任せられるようになるまでとなった(歌詞は微妙に惜しかったけど)。何よりも3人が楽しそうな表情をしているのがいい。

 

「笑ってくれよ!」

 

と椎木は言っていたが、同じように我々もマイヘアの笑顔を望んでいる。

 

この時期と相性抜群な「夏が過ぎてく」では

 

「ワンツー!」

 

の掛け声もバッチリ決まり、ラストへ向けてボルテージが高まっていく。最後は「告白」で締め括られたのだが、ここでも椎木は歌詞を会場に委ねる。遂にマイヘアのライブでこんな景色が見れるようになったか、と感動してしまった。

 

アンコールの声に応えて再び3人がステージに戻ってくると、思い思いにメンバーの名前が叫ばれる。その中から山田に話が振られると、彼は珍しくマイクを通して

 

「モンハンやりてえ」

 

と本音を呟いた。良く言えば着飾らない彼らの姿も含めて、マイヘアのライブの魅力だ。

 

「もう1曲新曲やります」

 

と語って歌いだしたのは「舞台をおりて」。

 

「せめて今夜は 昔の話はしたくなくて

これからどうしていこうとか話して 振り返らずに終わろう」

 

という歌詞からは、今までのマイヘアとは違う、未来を見据えた意志を感じる。前作「次回予告」以降、マイヘアはある意味で前向きなバンドになった。今回のアルバムは楽曲の幅広さが広がった作品だったが、それよりもメンバー自身の心が成長したことがこのアルバムに直結したのだろうと感じた。こうした流動的な心情の変化が如実に楽曲に現れるのが、ロックバンドの面白さだ。

 

最後に演奏されたのはアリーナツアーの1曲目を飾っていた「惜春」だったのだが、この曲でも

 

「忘れるために 先を急ぐんだ」

 

とバンドの目線は未来へ向けられている。「フロムナウオン」の途中で椎木は

 

「最新が最高でありますように」

 

と語っていた。もちろん今のマイヘアは最高にかっこいい。でも来年には更にかっこよくなったマイヘアを見れるだろうし、再来年には更にかっこよくなったマイヘアがそこにいるはずだ。その未来を一緒に追いかけていきたい。先ずはさいたまスーパーアリーナへ向けて、彼らの「サバイブ」と題したツアーは始まったばかりだ。

SPACE SHOWER TV 30th ANNIVERSARY SWEET LOVE SHOWER 2019 DAY3 @山中湖交流プラザきらら 2019/9/1

3日目。すっかり雨は上がり、地面の泥濘も消えてきた。この日が一番過ごしやすい気候だったかもしれない。
朝早くからKing GnuOfficial髭男dismの物販には長蛇の列が出来ており、3日間では一番人が多かったんじゃないか。


・マカロニえんぴつ(FOREST STAGE)

3日目のオープニングアクトをつとめたのは話題沸騰中のロックバンド、マカロニえんぴつ。ちょうど今月のスペシャのパワープッシュアーティストにも選ばれた。オープニングアクトではあるが、今年の彼らは想像以上に勢いを強めており、結果的にFORESTの埋まり具合は3日間のオープニングアクトでもトップクラスだった。

THE BEATLES「HEY BULLDOG」をSEに5人がステージに現れると、FORESTに向かう人が更に増えてくる。

「朝早くからこんなに集まってくれて嬉しいです」

と午前中の、それほど暑くない今の空気が非常にマッチしている「レモンパイ」「ブルーベリー・ナイツ」を皮切りに3日目が始まった。

「運命の誰か あたしを掬って食べて」

という歌詞からも、不安定なティーンの心情を表現するのが非常に上手いバンドであることがわかる。

「実は山梨出身なんですよ」と告白したのははっとり(Vo,Gt)。

「山梨、いいでしょ?」

と自慢げに語っていたが、自分はこの3日間で山中湖はもちろん、山梨県のこともとても好きになることができた。自分の他にも、このフェスがきっかけで山梨を好きになれた人がたくさんいるはずだ。

キラーチューン「洗濯機と君とラヂオ」では一際大きな声が上がり、性急なビートがテンションを上げていく「ハートロッカー」で起き抜けの体をマカロックに染め上げていく。

全員が音大出身というプロフィールは今まであまり気にしたことがなかったが、こうしてライブを見てみると確かな技術を持っていることはもちろん、それぞれの楽器が曲中での役割をしっかり理解した上で鳴らされているのがよくわかる。

暗闇から希望をもぎ取ろうとする不安定な心の表現が、かつてのMr.Childrenを彷彿とさせる新曲「ヤングアダルト」に至るまで、彼らの勢いが凝縮されたステージだった。来年にはもう一つ大きなステージを埋められるところまで、彼らのマカロックは広がっていきそうな気配がする。


・Saucy Dog(Mt.Fuji STAGE)

去年は列伝ツアーに参加し、ラブシャではFOREST STAGEに立っていたSaucy Dog。今年の春には東西の野音でワンマンを行うようになるなど、気づかない内にこんなに人を集められるようになっていたのか、と驚きを隠せない。一日を通して注目のアクトが集うMt.Fujiは朝から満員御礼だ。

カウントダウンに続き、穏やかなSEに乗せて3人が登場すると、会場は温かい拍手で迎える。1曲目に選ばれた「真昼の月」は、石原慎也(Vo,Gt)の声質と合わさって朝の空気とベストマッチしている曲だ。会場はやや曇り気味で、湖畔を吹き抜ける涼しい風が3人の優しいサウンドを運んでいく。本当に朝が似合うバンドだ。

前回ライブを見たのは3月だったのだが、「ゴーストバスター」「バンドワゴンに乗って」とどの曲も春先より音が更に強靭になっている。スリーピースバンドは音に隙間が多く、その隙間の空間の心地よさがSaucy Dogの強みだったのだが、心地よさはそのままにより迫力のあるライブを展開している。自分が想像している以上に、このバンドの成長するスピードは早いのかもしれない。

「朝早くから本当にありがとうございます」

とせとゆいか(Dr)が丁寧に挨拶すると、石原は

「富士山見えないね」

と少し残念そう。しかし今の気候の中で聴くSaucy Dogも悪くないな、と思える。
肩の力を抜いてマイペースに歌う姿がバンドの等身大を映している「雀ノ欠伸」を経て演奏された「コンタクトケース」は、このバンドの持ち味である極上のバラードだ。決して派手なバンドではないが、Mt.Fujiに立つにふさわしい存在であることは、この曲をはじめとした数多くのバラード曲が証明している。盛り上げ上手なバンドが注目されがちなフェスという現場で、彼らのような存在のバンドはなかなかいない。

「たくさん朝活してくれてありがとうございました」

と最後は石原が思いっきり足を踏み鳴らして始まる名曲「いつか」。何となく冬の匂いがする素朴な楽曲だが、いつかLAKESIDEでもこの曲が聴ける日が来るのではないか、という期待が頭をよぎった。富士山は見えなかったけど、いつかじゃなくてまた来年、この場所に帰ってきたい。


BLUE ENCOUNT(Mt.Fuji STAGE)

今年はMt.Fujiの昼下がりを任されたBLUE ENCOUNTラブシャに出演するのは5年連続だ。

「今日、うちのギターの江口が遅刻してきたんですよ。…今日はさぞかしいいギターを弾いてくれるんだろうなあ」

と江口雄也(Gt)に発破をかけた田邊駿一(Vo,Gt)は辻村勇太(Ba)と同じくタンクトップでリハーサルに登場。しかしさすがに紛らわしかったのか、本編では白いTシャツに衣替えして登場。「DAY×DAY」でいきなりブチ上げると,「だいじょうぶ」と激しいナンバーが続く。

「毎月記録を更新するほど泣くけど何も変わらない」

というフレーズがあるが、かつて涙ながらMCする姿がしばしばピックアップされていた田邊は、最近は涙をあまり見せない。以前はMCが長くてライブの時間がギリギリになってしまうこともあったが、最近は

「色々と喋りたいことはあるけどそれよりも曲をやりたい」

というモードのようだ。

「ただの賑やかしバンドじゃない。あなたのために歌いに来ました」

とストレートに宣言すると、

「ドラマの主題歌やってもいいですかー!」

と最新曲「バッドパラドックス」では山中湖を一斉にバウンスさせる。

「君とずっと 並んで雨に打たれよう」

という歌詞があるから、雨が降る中で聴いてもまた違った良さがあるかもしれないが、今日の山中湖は晴天だ。
続けざまに「Survivor」「VS」で会場を踊らせると、「もっと光を」に入る前に田邊は自身の思いをぶちまける。

「あいつらと言えば「もっと光を」でしょってよく言われるし、とりあえずその曲やっときゃいいって言われるけど、必要だからこそ歌ってんの。盛り上がっていこうぜとかで終わりたくないし、俺たちカテゴライズされたくないんだわ。みんなもそうでしょ?フェスの客の中の一人で終わりたくないでしょ?」

その言葉からは、今のBLUE ENCOUNTが苦闘しているということが伝わってきた。思えば「バッドパラドックス」の歌詞にも、

「どうしようか これから先に進む方法が分からないでいる
怠いな 逃げたい ムカつく 自分の代わりはごまんといるんだろ?」

と今の彼らの心境が綴られている。今や全国のフェスに引っ張りだことなった彼らだからこそ、このマンネリとも取れる状況をどう打破すればいいのか悩んでいる。結局田邊はうまい言葉が見つからなかったらしく、

「別の表現を1年かけて見つけてくるわ」

と語った。ファンを不安にさせまいと、いかなる問題があっても表舞台では元気に振る舞うバンドは多いし、それは悪いことではない。しかし、BLUE ENCOUNTはこうして自分たちの抱える苦しみを曝け出してくれた。だからこそ我々はブルエンを信頼したくなるし、来年、彼らがどんな姿になってラブシャに帰ってくるのか楽しみになる。

「名前は覚えてくれなくていい。この曲だけ覚えて帰ってください!」

とラストに披露されたのは「アンコール」。結成から15年、これが今の彼らなりの音楽へのアンサーだ。1年後、自分はどんな人間になっているんだろう。ブルエンはどんなバンドになっているんだろう。わからないけれど、道って歩こうとするヤツにしか見えない。


・高橋優(LAKESIDE STAGE)

今や「ローカリズム」のVJとしてスペシャファミリーの一員となった高橋優。だが、番組が4年ほど続いているのにも関わらず、ラブシャには5年ぶりの出演。つまりVJになって初めてのラブシャだ。

雄大なSEをバックに、サポートメンバーから一つ遅れて登場した高橋は、「STARTING OVER」でライブスタート。

「僕らの大いなる旅は始まったばかり」

という一節があるが、「ローカリズム」での経験がこの曲にも影響されているといっても過言ではないだろう。

続いて「福笑い」では知っている人も多いらしく、たくさんの人が高橋と一緒に歌詞を口ずさむ。スペシャには月間で1組のアーティストをパワープッシュするプログラムがある(高橋優は「素晴らしき日常」でパワープッシュに選出されていた)が、その他にも、2週間ほどそのアーティストの楽曲をヘビーローテションする「it!」というプログラムがある。実はこの「福笑い」もかつて「it!」の枠として放送されていたのだから驚きだ。やっぱりスペシャは見る目がある。

「今ローカリズムって番組でVJをやらせてもらってるんですけど、車が喋るっていう設定で。ラジオに近い番組なんですよね。だからこんな番組見てくれている人はいるのかな…って思ったこともあった」

と話した高橋は、番組を見たことのある人、の問いにたくさんの手が挙がっていたことに安心していたようだ。こうしてリアルタイムで視聴者の反応を聞けることは、彼にとっても大きな支えになるだろう。

「会場に向かってる途中で渋滞にはまっちゃって。これは間に合わないってなったんで、私本日、自転車で会場入りしました」

と爆笑を誘った高橋は、ハーモニカのメロディが心地よい「プライド」でライブを再開。更に関ジャニ∞へ提供した「象」のセルフカバーで鋭い言葉を突き立てる。

「明日はきっといい日になる」では再びたくさんの人がサビを歌った。今日が終わったら我々は山中湖から帰らなければいけないし、スタッフ達は撤収作業に入らなければいけない。考えると憂鬱になりそうだが、彼が「いい日になる」と歌ってくれたから、また明日からも頑張っていこうと思えた。それでも寂しさは拭えないけど。

最後に歌詞通りの青空の下で届けられた「虹」は、この2日間、雨に降られたり足場の悪かったりした中で生き延びてきた人たちに贈られたかのようだった。

「誰に止められてもチャリでも何でもまた会いに来るからね!」

と最後に高橋はまくし立てた。ライブを見るのは初めてだったが、理屈ではないところで高橋優と通じ合えた気がした35分だった。最初の方から多くの人がOfficial髭男dismに向かっていたのはずっと気になっていたが。


Official髭男dism(Mt.Fuji STAGE)

今日一番の注目株と言っても過言ではないOfficial髭男dism。ラブシャ初登場のアーティストはだいたいFOREST STAGE(今日出演していたTOTALFATや、かつてはORANGE RANGEHEY-SMITHなどのベテランも最初はFORESTだった)に出ることが多いのだが、直近の勢いを考慮してか、彼らが選ばれたのはMt.Fuji STAGE。しかしそんなMt.Fujiももうキャパオーバー状態だ。去年の今頃は若手の中でも少し勢いが強い程度のバンドだったのに、まさかここまで人気に火がつくなんて。

「リハーサルの時間も無駄にしたくないので」

とフルで「Tell Me Baby」を披露するなど、サービス精神旺盛な一幕を経て、「宿命」をアレンジしたSEに乗せてメンバーが登場。後ろにはホーン隊とパーカッションを従えており、彼らがフェスの舞台にかけている気合いが窺える。
ホーンセクションのイントロが加わった「ノーダウト」ではいきなりの幕開けに悲鳴のような歓声が上がった。

「どうぞご自由に 嫌ってくれて別に構わない」

という歌詞とは反対に、彼らの虜になっていく人は増えていく一方だ。

藤原聡(Vo,Piano)がハンドマイクになり、もはや若手の貫禄ではない「FIRE GROUND」に続くと、このバンドがメロディセンスだけでなく、強靭な肉体性を持っていることを改めて思い知らされる。小笹大輔(Gt)のギターソロは大幅にアレンジされ、彼のルーツであるメタルの要素も組み込まれてる。

ラブシャにはスペシャでVJを担当しているアーティストはもちろん、かつてスペシャのパワープッシュに選出されていたり、スペシャ主催のイベントに出演していたりと、何かしら縁のあるアーティストが多く出演している。しかしヒゲダンは、パワープッシュに選ばれたこともなければ先述したit!にも選ばれていないし、これまでスペシャのイベントに出演した経緯があまりない。逆に言えば、これまでスペシャはヒゲダンにノーマークだったということにもなるが、遅ればせながらスペシャさえも唸らせた彼らの実力は計り知れない。それと同時に、これから両者がどんな歴史を生みだしていくのか、期待は膨らむばかりだ。

MY CHEMICAL ROMANCEを知ったのはスペシャでした」

と語った藤原。彼らがあらゆる音楽性を吸収したハイブリッドなバンドになった裏には、スペシャの存在も大きかったのだろう。

「僕は助演で監督でカメラマン」

という歌詞に続いて

「そしてバンドマン」

と歌詞が追加された「115万キロのフィルム」では、ヒゲダンお得意のグッドメロディが届けられる。野外の会場で聴くと、その心地よさが一層増している気がする。

「Stand By You」でコール&レスポンスを響かせると、「Pretender」ではまたもや大歓声が。今年はこの後出演するKing Gnuの「白日」が大ヒットをとばしたが、「白日」といい「Pretender」といい、あるいは去年ヒットした「Lemon」といい、切ない曲なのに皆が笑顔で口ずさんでいるこの光景が不思議だ。間違いなく、今年を振り返った時にハイライトの1曲として挙げられるようになるだろう。

ラストは「宿命」。ホーン隊の祝祭的なメロディと相まって、藤原の伸びやかな歌声が山中湖に広がっていく様は圧巻。セトリの半分以上の曲がヒゲダンの曲という枠を超えてみんなの歌になっているのが末恐ろしいし、今の彼らの無敵っぷりを堂々と見せつけた35分だった。


10-FEET(LAKESIDE STAGE)

フェス界の番長的存在、10-FEET。この日もお馴染の荘厳なSEに乗せてタオルが掲げられるのだが、やはり京都大作戦のグッズが多く目につく。中には、昨日は見かけなかったホルモンのTシャツを着ている人も多くいた。既にリフトアップされている人もいるなど、客席も準備万端だ。

ドラムセットの前で拳を交わし、頭の一音を鳴らすと、TAKUMA(Vo,Gt)は

「ありがとうございました!10-FEETでしたー!」

といきなりのクライマックス宣言。ちょっと前にやっていたいきなりアンコールで始まるあれか?と思っていたら、客席からのレスポンスを待たずに「RIVER」を投下。いつもはその土地に合った川の名前が入るこの曲も、今日は「流れゆく山中湖」とラブシャ仕様だ。

間髪入れずに「1 size FITS ALL」「goes on」を連発すると、キッズ達は狂気狂乱。バンドが長い時間をかけて築き上げてきたファンとの信頼関係が、この景色を作っているといっても過言ではない。

「人がゴミのようだ」

とTAKUMAもラピュタネタを盛り込んでくると、

「どうしたんやお前ら!いつもみたいに様子見してへんやんけ!なんかあったんか!」

とテンションが高め。序盤から様子見している人が多い10-FEETのライブは見たことがないが。ステージに飛んできた靴を

「もう二度と、失くすんじゃねえぞ」とカッコよく返し、

「カッコいい曲できたから聴いてくれへんかー!」

と「ハローフィクサー」へ。夏フェス前半からセトリに組み込まれており、メンバー自身も「同期に合わせて演奏するのが難しい」と言っていた曲だったが、バンドサウンドが強かった前回と比べて同期音との音のバランスがよくなっていた気がする。

「最近悪いニュースばっかやんな。今日ぐらいはええニュース作って帰ろうや。未来は何があるかわからへんから怖いけど、俺らはそんな未来を見に行く勇気を作りに来たんや」

と未来を見据えた「その向こうへ」が放たれる。彼らの言葉や音楽に幾度となく勇気をもらってきたのは自分だけではないし、彼らの仲間内だけでもない。だからこうして、10-FEETはジャンルやシーンに関係なく愛されるバンドになったし、色んなカルチャーが一堂に交錯するフェスという舞台がよく似合う。

「負けてもいい。そこからヒントを、経験値を持って帰れ」

と振り絞って「1sec.」「ヒトリセカイ」を届けた彼ら。未来はどうなるかわからないし、明日さえもどうなるかはわからない。でも、たとえ負け続けたとしても、この場所にはいつも10-FEETが待ってくれている。


King Gnu(Mt.Fuji STAGE)

昨年はオープニングアクトとして、野外の空気に見合わないどす黒いグルーヴを響かせたKing Gnu。正直、去年はあまり人が集まっていなかった。しかし、今日彼らが出演するMt.Fuji STAGEはリハーサル前から超満員だ。フェスの空気に合う音楽ではないにも関わらず、これだけの人を集めているのはかなりの衝撃だし、いずれはブレイクするだろうとは思っていたが、これほど早くに火がついたのは予想外だった。

ドラム後方に高くセットされたバンドロゴの入ったオブジェが輝く中、不穏なSEに乗せてメンバーが登場。空気感はそのままに「Slumberland」が始まる。常田大希(Vo,Gt)はギターの代わりに拡声器を手に持ち、挑発的にオーディエンスの合唱を煽るのだが、その様子は正にヌーの群れを従えるボスのようで貫禄に溢れている。

「Sorrows」は去年までの彼らにはあまりなかったアッパーチューンだ。正確無比なドラミングで疾走感に磨きをかける勢喜遊(Dr)、とびっきりのブラックなグルーヴを奏でる新井和輝(Ba)の両者のプレイは芸術の域だし、ベースとドラムは土台、という枠を超越しつつある。本当に恐ろしいプレイヤーだ。その気になればもっとニッチなアルバムも作れるだろうが、それをポップに昇華してしまう常田のセンスも半端ではない。

まさかこんな超満員の前で鳴らされるとは思っていなかった「Vinyl」、「Prayer X」と続いた2曲は、共に野外の空気が見合わない閉鎖的な雰囲気を持った曲だという印象だったが、「Prayer X」ではシンガロングが巻き起こった場面も。改めてこのバンドの凄さを思い知った。これから先、もっと大きなステージでこの2曲が鳴らされる未来もそう遠くないのでは、と感じる。

皆が待ち望んでいた「白日」は、もう後戻りはできない、というバンドの現状と覚悟を彼らなりに歌っているようにも見えたが、続く「飛行艇」ではそんな戻れない過去を

「清濁を併せ呑んで 命揺らせ」

と歌う。サウンドだけでなく、日本語の歌詞でも光と闇を表現する、という手法が、現在の彼らの戦い方なのだろう。
去年は最初に演奏されていた「Flash!!」で締め括り。今思えば、この曲がKing Gnuがより前へ進んでいく合図の曲だったと思えるし、結果的に前進しまくったバンドが今年こうして最後この曲を持ってきたのは何かの因果か。井口理(Vo,Key)は曲中にスプレーを振り撒いていたが、あれは何のスプレーだったのだろう。そういえば去年は、まさか井口がこんなキャラになるとは想像していなかったなあ、なんてことも考えていた。

飛行艇」を聴くと、かつてSuchmosが「A.G.I.T.」でスタジアムロックの手法を手に入れたときのことを思い出す。曲のスケールも、バンドの人気も鰻登りな彼らだが、これからどんな夢を見て、この時代にどんなアクションを繰り出すのか。これからも彼らの一挙手一投足を見逃せない。


東京スカパラダイスオーケストラ(LAKESIDE STAGE)

スペシャと共に今年で30周年を迎えた東京スカパラダイスオーケストラ。特別番組がオンエアされるなど、今年は両者がそれぞれのアニバーサリーを祝うべく精力的に活動している。ラブシャには2年ぶりの出演だ。

この日も前日に多数のコラボが発表されていたが、まずは「遊戯みたいにGO」をSEに臙脂色のスーツをまとった9人が登場。

「戦うみたいに楽しもうぜー!」

と叫び、サイドまで一杯に埋まったLAKESIDEを、手始めに「DOWN BEAT STOMP」で会場を温める。ホーンセクションが高らかに鳴り響く様は、まさにお祭り男、という言葉が相応しい。

今日最初のゲストに招かれたのは先ほど出番を終えたばかりのOfficial髭男dism。番組で共演した時と同じく、今日のコラボナンバーとして鳴らされたのは「星降る夜に」。ヒゲダンの4人全員がボーカルをつとめるのだが、藤原以外の3人も非常に歌が上手い。今後のアルバムでは藤原以外の誰かがリードボーカルを担当する楽曲も出てくるのでは、と思うほどだ(中でも松浦匡希(Dr)の声は甲本ヒロトにとても似ている)。楢崎誠(Ba)は谷中敦(B.Sax)と並んで自身の第二のパート・バリトンサックスを披露するなど、ステージのどこを見ても多幸感に溢れている。

ステージを端まで目一杯に盛り上げて回ったのは「Paradise Has No Border」だ。まさにスカパラを象徴する言葉でありながら、音楽の本質を象徴する言葉でもある。これまでスカパラは、奥田民生桜井和寿といった大御所から、片平里菜や今日同じステージに立ったヒゲダンといった若手と、年代やジャンルの壁を超越しながらものすごいコラボを繰り広げてきた。それは彼らの「Paradise Has No Border」という信念が、同業者にもしっかり共感されているからだ。

続いて登場したのはASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文(Vo,Gt)。コラボするのはもちろんシングルリリースされた「Wake up!」だ。MVと同じく、後藤はきっちりとしたスーツに身を包んでいるのだが、スーツが真っ黒なことと、サングラスをしているせいで、見た目がかなりおどろおどろしい。

谷中が

「もうメンバーだと思ってます!」

の言葉と共に招き入れたのはTAKUMA。悠然とステージ脇から歩いてくるのは、もう両者が幾度となくコラボしているからだ。スカパラがゲストボーカルを招いた楽曲の中でもとびきり祝祭感のある「閃光」が鳴らされ、LAKESIDEは笑顔に包まれる。

「告知していたゲストはここまでです!」

と告げた谷中、まさか、と思った矢先、

「もう一人、今日のために来てくれた人がいます!」

とシークレットゲストで紹介されたのはなんと宮本浩次。ソロでの出演も、エレファントカシマシとしての出演もない中、この一曲のために山中湖までやってきたシンガーの登場に会場は沸き立つ。歌うのはもちろん「明日以外全て燃やせ」。最早スカパラがトリであるかのような豪華さだ。

これだけフェスの舞台でたくさんのゲストを呼び込んだライブは中々なかったかもしれないが、最後に演奏されたのは9人での「ペドラーズ」。歌モノシリーズのゲストに注目されがちなアーティストだが、本来はこうして9人でスカの空気を様々なジャンルに取り込んだインストがバンドの本流だ。会場をひとしきり踊らせたところでライブは終了。

スペシャ、30周年おめでとうー!」

とバンドは叫んでいたが、同時に自分たち自身でスカパラの30周年を祝っていたかのような、そんな優しさを感じるライブだった。


・Aimer(Mt.Fuji STAGE)

ラブシャはおろか、野外フェスに出演することすら貴重なAimer。デビュー時から夜行性のオーラを放ち続けていたが、近年は明るいアルバムも増え、こうしてフェスの舞台に顔を出す機会も増えている。Mt.Fujiは夕陽が後光のようにステージを照らしており、彼女がステージに立つには充分すぎる雰囲気を作り出していた。

真っ白なドレスに身を包んだAimerが現れ、「ONE」を歌い出すと、一瞬で会場の空気が変わった。まるでこのMt.Fujiだけが周りの景色ごと切り離されたかのようだ。目の前には確かにAimer本人がいるのだが、その佇まいは触れると消えてしまいそうな儚さを伴っている。
こんな体験はしたことがない。早くも会場から手拍子が生まれ、讃美歌のような響きをもって会場を満たしていく。

あまりのセンセーショナルな体験に驚きを隠せないまま、「コイワズライ」の穏やかなメロディが夕暮れの山中湖に染み渡っていく。この日この場所の時間、空気、気候の全てが彼女のために用意されていたかのような必然性があって、ただひたすらに美しく愛おしい。

「いつも応援してくれているみなさんのお陰で8月にシングルを出すことができました」

と話し方も丁寧で品がある。そこから最新曲「Torches」と「STAND-ALONE」が続いたのだが、Aimerは今年、「Sun Dance」「Penny Rain」というコンセプチュアルなアルバムを2枚リリースした。これまでにリリースされていた既発曲は、このアルバムの内どちらかに収録され、それぞれの世界を彩っていたのだが、アルバム以降にリリースされたこの2曲は、「Sun Dance」にも「Penny Rain」にも属さない雰囲気を感じる。それは彼女の表現の幅が更に深まったという証拠だ。

「憐れみをください」

と「STAND-ALONE」で生みだしたシリアスな空気を引き継いで「I beg you」を歌うと、会場は緊迫した雰囲気に包まれる。かつてはアルバムに収録されている曲のほとんどがバラードで、まさに夜に聴く、という方向性だった彼女が、今こうして野外の会場で、あの時はこういう歌を歌うようになるなんて想像できてなかったメロディを奏でている。しかもちゃんとAimerでなければ成立しない世界観がある。

そんな空気を一蹴したのは最後に歌われた「蝶々結び。」

「この蒼くて広い世界に無数に散らばった中から 別々に二人選んだ糸をお互いたぐり寄せ合ったんだ」

という歌詞は今日の我々とAimerとの関係性のようだったし、今日Aimerとの間に生まれた、あるいはラブシャとの間に生まれたこの結びを、いつまでも大切にしていきたいと思えた。最近はアップテンポな曲も増えたが、やはりバラードを歌えば彼女の右に出るものは存在しない。

ライブを見たのは初めてだったのだが、「Sleepless Nights」から追いかけてきた自分にとっては、全てが衝撃的なライブだった。いつかこの場所で野外ワンマンでも開催できるのはないだろうか、と思うほど、ラブシャ初登場とは思えないベストマッチっぷりを見せつけた。


MISIA(Mt.Fuji STAGE)

ラブシャ初出演のMISIA。今年は「天皇陛下御即位三十年奉祝感謝の集い」なる式典にも出演するなど、その比類なき歌声はもはや説明不用だろう。

リハーサルからバックバンドが本場仕込みのジャズを披露する(メンバーの大半がブルックリン在住)という、3日間を振り返っても異色のアクトとして期待が高まる中、荘厳な演奏に合わせてMISIAが登場。エキゾチックな民族風の衣装は彼女の多国籍感を表しているのだろうか。

じっくり演奏と歯車を合わせるように「Believe」を歌うと、Mt.Fujiは声のないどよめきに包まれたかのようだった。本当に美味しい食べ物を食べた時は声が出ない、とはよく言うが、それと似た感覚が今の会場に漂っている。


「来るぞスリリング」ではタイトル通り、ジャジーなビートが高揚感を生みだし、その上でMISIAの歌声が自由自在に舞っている。歌を歌っているというより、歌を操っているというイメージだ。

「LADY FUNKY」ではトランペットの黒田卓也がMISIAバンドを紹介していくのだが、その口振りは司会者のように饒舌だ。メンバー一人一人も、ジャズの本場であるニューヨークやブルックリンからやって来たというプロフェッショナルの集い。なんて豪華な面構えだろう。

しかしそんな凄腕ミュージシャン達を引き連れているだけあって、MISIAの歌もバックの演奏に負けていない。それどころか、曲中に求めたコール&レスポンスが難しすぎて、

「今のはちょっと難しかったかな?」

と本人が苦笑いするほど。

オルフェンズの涙」以降は何回か演奏がハウる場面があったのだが、野外ライブでの音量調整はやはり難しかったりするのだろうか。しかしMISIAの歌は相変わらず素晴らしい。
太陽のようなオレンジの照明が輝く中で「陽のあたる場所」を披露すると、「つつみ込むように…」では大歓声が。

「誰も皆 満たされぬ時代の中で 特別な出会いがいくつあるだろう」

という一節があるが、普段ロックバンドばかりを聴いている自分が今日こうしてMISIAのライブを目撃できたことはとても貴重な機会だったと思えるし、そもそも好きなアーティストとライブで会える、という事実自体が特別な出会いなのではないか、と思う。

アウトロではMISIAが突き抜けるようなファルセットを披露するのだが、リリースされた1998年の彼女は当時20歳。20歳でこんなファルセットを出していたことも驚きだが、20年ほど経った今でも遜色なく歌えている。後にも先にも、こんなシンガーが出てくるのだろうか。

「MAWARE MAWARE」で再び会場に熱を灯した彼女は、スペシャの30周年を祝ってアカペラでハッピーバースデーの歌を歌う。そして、

「これも一つのアイノカタチ」

と「アイノカタチ」を最後に披露した。

「アイノカタチ」の曲中、斜め前にいたカップルが手を繋いで揺れているのを見た。大好きな人が隣にいたらそりゃきっとそうするだろうな、と思えたし、間違いなく3日間でナンバーワンの歌声を生で浴びることができて本当によかった。


SEKAI NO OWARI(LAKESIDE STAGE)

あっという間の3日間を締め括ったのはSEKAI NO OWARIラブシャにはなんと8年ぶりの出演。8年前といえば、まだ「ENTERTAINMENT」すらリリースされていない時期だから、その頃からラブシャにブッキングしていたスペシャはすごいなあ、と改めて感じた。
ステージ中央には「END OF THE WORLD」の文字が輝いている巨大なDJブースが置かれ、それだけでもこれからとんでもないことが起きる、という予感が高まる。

炎と森のカーニバル」でライブが始まると、いきなり山中湖をセカオワの世界に引きずり込んでいく。一瞬でこのこの場所がセカオワのワンマンの舞台になってしまったようで、フェスの最中ということを忘れそうになる。

まるで未知なる世界に迷い込んでしまった我々の不安定な心境を映し出したように、「ANTI-HERO」ではダークな音像が広がる。Saori(Piano)のソロも芸術の域だ。

一転して「YOKOHAMA blues」では夜の空気が似合うシティポップが会場を染める。Fukase(Vo)の手にかかれば、横浜だってファンタジーの世界に早変わりする。ここまで3曲とも、同じアーティストが歌っているとは思えない幅広さだ。いったい彼らの描く世界に果てはあるのだろうか。
MCでは8年ぶりの出演を喜んだNakajin(Gt)。まさか8年前、セカオワがこれほどあらゆるポップの形を吸収した巨大なアーティストになるとは誰が想像しただろうか。

続いて演奏された「RAIN」は、この3日間を総括するに相応しい、今日一番のハイライトといえる楽曲だった。今日は同じステージでHYや高橋優が虹を歌った曲を披露していた。会場から虹が見えることはなかったけど、お客さんの心にはしっかりとその架け橋は架かったはずだ。そう考えると、

「虹が架かる空には雨が降ってたんだ」

という歌詞において、虹とはこの3日間で鳴らされた全ての音楽のことを歌っているんじゃないか、と思えて、スペシャセカオワを大トリに据えたのは必然だったのだ、と感慨深くなった。

「大事な曲を歌います」

と歌われた「銀河街の悪夢」は、Fukaseの内省的な歌詞が抉るように綴られ、思わず聴いているこちらまで胸が苦しくなる。あまりにもパーソナルすぎる曲だが、こんな曲はセカオワにしか作れないし、スペシャや、スペシャのイベントに集まっている人々を信頼しているからこそ歌われたのだろう。

スターゲイザー」では曇り空の会場を閃光のような照明が貫いていく。さらにミラーボールのような光がステージをライトアップし、山中湖に星が降り注いでいるような、美しい一幕だった。

ラストの2曲は特に圧巻だった。マーチングのリズムに合わせて「RPG」が始まると、会場は大歓声に包まれる。Fukase

「歌える?」

とサビでマイクを客席に向けると、誰もがこの曲を口ずさんでいるし、炎の特効が飛び出した「Dragon Night」では盛り上がりは最高潮になり、皆が歌い、踊っている。その中には、京都大作戦のTシャツを着ている人も、昨日や一昨日の出演者のグッズを身に着けている人もいて、十人十色だ。

きっとそれぞれに好きなバンドやお目当てのアーティストがいて、それはもしかしたらセカオワではなかった人もいるかもしれない。でもこの2曲の間は、誰が何を好きとか、何を目的としているかはどうでもよかった。誰もが目の前で鳴っている素晴らしい音楽を全身で感じている。そこに境界線はない。スペシャにしか、セカオワにしか作れない光景が、確かにそこには広がっていた。

あっという間に花火が上がり、我々はセカオワの世界から帰ってきた。幸せなような、涙が出そうな、この気持ちはなんて言うんだろう。



あっという間の3日間だった。富士山は見えなかったけど、この場所を眺めながら、この場所の空気を感じながら聴く音楽は、何物にも代えがたい宝物となった。
スペシャは今年で30周年を迎えた。このフェスがずっと続いてきたのは、スペシャが常日頃から音楽に愛を注いできたからだ。それはこの3日間のラインナップの大半がかつてパワープッシュされてきたアーティスト達であることからもよくわかる。自分たちが信じて発信してきた音楽が、こうしてたくさんの人の前で鳴り響いていることは、きっと何よりも嬉しいだろう。
来年も、絶対にここに帰ってきたい。この3日間で、この場所が「向かう場所」ではなく「帰る場所」になったから。最後に上がった花火は、きっと何年たっても思い出してしまうんだろうなあ。