ずっと真夜中でいいのに。潜潜ツアー(秋の味覚編)@Zepp Namba 2019/10/30

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ本日10/30に1stフルアルバム「潜潜話」をリリースし、勢いが加速しまくっているずっと真夜中でいいのに。。まだ数えるほどしかライブをやっていないのにもう既に確固たる地位を築きつつある、一言でいえばとんでもないアーティストだ。

そんなずとまよは現在、自身最長&最多ツアーの真っ最中。大阪会場は前回のBIGCATから3倍クラスのキャパを誇るZepp Nambaとなったが、当然のごとくチケットはソールドアウト。最早Zeppですらキャパが足りない状態になっている。

 

何度も訪れているはずのZepp Nambaだが、フロアに入った途端、まるで初めて来る場所を訪れたかのような感覚になった。ステージ上方には金属でできたプランターのような照明がぶら下がり、後方はこれもまた金属にうねる物体が絡みついているセット。中心には秋らしく、炬燵の上にツアータイトルにもなっている「秋の味覚」らしきものが置かれている。他にもびっくりチキンや時間のずれた時計など、目を引くものが幾つも配置され、それらの一つ一つが非日常感を醸し出している。

開演時間になると、まずはドラマーと、フジロックでも共演していたOpen Reel Ensembleが登場。このOpen Reel Ensembleが奏でるサウンドが実に変幻自在で、DJのようにスクラッチをしたり、サンプリングされた音に次々と奇妙なエフェクトをかけたりと、会場を呆気に取らせる。

 

続いてドラムのリズムに合わせてバンドメンバーが登場すると、最後に

 

「こんばんは」

 

と呟いて、炬燵の中から大歓声を浴びながらACAねが現れた。

すぐさまカセットテープが挿入される音を合図に始まったのは「脳裏上のクラッカー」。真っ赤なカーテンのような照明がステージを鮮やかに染める中で、やはり目を引くのはACAねの歌声。CD音源と間違うほどの正確さ。そして声量も、バンドの音に全然負けていない。しかも最後のサビ前には音源以上のロングトーンを響かせ、会場のボルテージを引き上げていく。こんな才覚のボーカリストが一体今までどこに隠れていたんだ。

もちろんACAねの歌声も素晴らしいのだが、バンドサウンドも負けず劣らずで素晴らしい。そこにOpen Reel Ensembleが音源とは違った細かなサウンドを演出し、まるで非の打ち所がない。

 

「勘冴えて悔しいわ」でも想像以上の演奏に圧倒される中、ACAねがギターを抱えて始まったのは「ハゼ馳せる果てるまで」。

ずっと真夜中でいいのに。はACAねがボーカルをつとめているということ以外のプロフィールは完全に伏せられている。当のACAねも顔出しをしていない為、ライブにおいては照明も絶妙な角度で顔が見えないようになっている。歌詞も決してわかりやすい部類ではなく、遠回りな言い回しが多いように感じるが、

 

「簡単に正解 ばらまかないでね」

 

というこの曲のフレーズはそんなずとまよの秘密主義っぷりが顕著に現れていると感じた。

ネットで探せばどんな答えも容易く見つかってしまう現代において、「秘密」がもたらすエネルギーの強さをずとまよは知っているし、今日ここに集まった人達は、そんな「秘密」を共有したいという魔力に引き寄せてきたのだろうな、とも感じる。

 

MCでは今日ついにアルバムがリリースされたことを喜んだACAね。そのアルバムから「居眠り遠征隊」、さらに

 

「でぁーられったっとぇん」

 

と怠惰な空気が漂うイントロから突き抜けるサビが爽快な「こんなこと騒動」ではACAねは足を蹴り上げながら歌う。ライブ全体を通してあまり激しい動きはしなかった彼女だが、その分感情の全てを歌に込めていると感じられる。

 

再びOpen Reel Ensembleが登場すると、「君がいて水になる」でライブはローファイなゾーンへ。ACAねの歌声は少女のようでありながら大人びた女性のようでもあるし、逞しく響かせているようで助けを求める弱々しい声のようでもある。まるで水のように不確かな歌声だ。

祭囃子の音頭に合わせてハンドクラップが巻き起こると、ACAねを含めたステージの全員がお面を被り、ずとまよのグッズではお馴染みのしゃもじ(今回のツアーは目玉焼きカラー)を掲げてハンドクラップならぬ‘しゃもじ’クラップに転換させると、ACAねが白装飾を羽織って「彷徨い酔い温度」へ。ずとまよの音楽はルーツが本当に謎なのだが、こういう曲を聴くと作曲者のACAねが和のメロディにも通じていることがよくわかる。

 

この「彷徨い酔い温度」もそうだが、ずとまよの楽曲はアーティスト名からも「真夜中」のイメージが強いし、眠れない夜に部屋の隅でこっそりイヤホンをかけて聴いているようなミニマムさがある。それはつまり、限りなく1対1に近い形態でコミュニケーションが行われているということ。ライブにおいては大勢の前で歌ってはいるものの、ACAねの歌声は自分にのみ集中されている、という感覚は、音源でもライブでも同じだった。

 

するとここでACAねとバックのベーシストがグラスを掲げ、カランとグラスを合わせると色が変わるというイリュージョンを披露(当てていなくても色が変わっていたけど)。その間にいつの間にかセッティングされていたソファーに深く腰を下ろすと、一昨日のYouTube Liveでも披露されていた「グラスとラムレーズン」へ。無機質なサウンドに乗せてだらりと振る舞うACAねの所作が、この楽曲の印象をより深くしていた。

そしてソファーに座ったまま、

 

「緑色 囲まれた この空間からはみ出したら負けだ」

 

という歌詞に合わせて緑の照明が貫くバラード「Dear Mr「F」」を歌うのだが、何かと色んな音を重ねがちなずとまよには珍しく、この曲はピアノの伴奏しかない分、ACAねのボーカルがいかに起伏に富んでいるかをたっぷり感じ取ることができた。

 

「どこに居ても もう答えが無いな」

 

という気持ちは、この場にいた人達ならきっと思い当たる節があるだろう。

 

「この曲は前が見えないぐらい必死な時期に作った曲なんです」

 

とACAねが「Dear Mr「F」」について解説すると、

 

「初期からライブでやってて、少しずつ歌詞を変えてきたりして。嫌になる時期もあったけれど、こうしてアルバムに収録されて、改めて聴き返してみるととても前向きな曲だなって思います。次の曲も前向きな曲です」

 

と「蹴っ飛ばした毛布」へ続ける。サビが終わった途端に耳をつんざくような轟音が鳴り響く様は、音源のイメージとは想像以上で少し驚いたが、こういう静と動のギャップがうまく表現できるのもライブならではだ。

 

ここからはそんなライブならではのアレンジがふんだんに盛り込まれた楽曲が続いた。まずは「眩しいDNAだけ」。最初の

 

「工場の煙で~」

 

の部分が置き換えられ、アレンジされた歌詞が書かれた紙はくしゃくしゃに丸められて客席へ放り込まれていった。さらに間奏では

 

「後で洗って食べて下さい」

 

と栗などを投げ込むだけでなく、ラストのサビ前にはまたしてもロングトーンを披露する場面も。ライブももう終盤に差し掛かろうとしているが、ACAねの声は全く疲れを見せていない。本当に凄まじいボーカリストだ。

続いて「サターン」では照明も相まって一気にディスコ色が強くなるのだが、そんな中においても楽曲のどこかに陰りが見え隠れしているのがずとまよらしい。曲の終盤には生演奏が打ち込みにシフトし、

 

「一緒に踊りませんか」

 

とACAねが楽器を置いたバンドメンバーと共に踊る。まるで誰にも明かすことなく、ひっそりと踊っているかのようで、「秘密」の魔力がよりいっそう強くなる。

一音目から大歓声を起こした「ヒューマノイド」ではリズミカルで疾走感のあるメロディが会場のテンションを否応なしに引き上げ、静から動へダイナミックに移り変わる「マイノリティ脈絡」へ繋げる。この曲では初めてACAねがステージの端から端までを歩き回り、それぞれの反応を窺っているようだった。

 

「最後に、正義を」

 

と本編最後は「正義」。ACAねが指揮者のようにバックの演奏を自在に操った後は、牧歌的なサウンドに真っ白な照明が映えるメロディで会場を思い思いに踊らせる。中盤には各メンバーのソロ回しが入るのだが、ギタリストの人はギターソロの後にバイオリンに持ち替えるというマルチプレイヤーっぷり。さすがこの盤石なサウンドを支えているだけあるし、演奏にも隙がないということをまざまざと見せつけていた。

 

アンコールに応えて再登場すると、ピアノとOpen Reel Ensembleを迎えて「優しくLAST SMILE」をぽつりぽつりと歌い上げる。

 

「ずとまよ 借りパク きなこもち」

 

とACAねの声がサンプリングされるなど、これもまたライブならではのアレンジが施された楽曲。そして「LAST SMILE」とか「good-bye」の発音がとてもいい。

 

「今日はこれから梨を剥きたいと思います」

 

と唐突にステージ上で梨を剥き始めると、「ちょうだーい!」と客席から声が上がる。剥き終わった梨をACAねが頬張った際には「おいしいー?」と聞いたりと、この辺は大阪ならでは(ACAねは返答に困っていたようだったけど)。

 

そしてやはり最後に歌われたのは「秒針を噛む」。ずとまよが大阪でライブを行うのはまだ2回目だし、今日初めてライブを見る人も多かっただろう。その中には、自分と同じようにこの曲がきっかけでずとまよに会えた人もたくさいるかもしれない。だからこそ、特にこの曲はリアルタイムで鳴らされるサウンドや歌声の一つ一つが突き刺さるように響いた。

サビ前のシンガロングは客席の声が大きすぎてACAねも驚いていたが、当のACAねもライブ序盤と全く変わらないほど伸びやかな歌声で歌っている。

真っ白な後光に包まれてメンバーが退場すると、会場左側に置いてあり、ここまで一切使用されていなかったスクリーンにバンドメンバーの紹介を含めたエンドロールが流れ、ライブは幕を降ろした。

 

ライブというのはやはり生身の身体から鳴らされる音楽を感受できる場であるので、アーティストの新たな一面に気づくことができる。しかし、今日のライブを終えても、ずとまよのことは全然わからなかった。

それは顔が見えない、とかそういう表面的な情報も含まれるが、それ以上に楽曲やACAねの仕草一つ一つが、何とも言葉に形容し難い曖昧さを伴っていた。そう思わせてくれるのは、先述したずとまよの「秘密主義」ゆえだろうけど。

ただ一つ確かだったのは、大阪では大きい方のライブハウスで、スタンディングエリアで大勢の人に囲まれて音楽を聴いていたのに、自分にだけ歌ってくれているような感覚がしたということ。約2時間、音楽を使った1対1のコミュニケーションを通じて、ACAねと心のどこかで通じ合えた気がした。

またライブに行かなければ。そう思えるライブだった。きっと明日になっても忘れてしまえないな。

フジファブリック 15th anniversary SPECIAL LIVE 「IN MY TOWN」@大阪城ホール 2019/10/20

今年はデビューから15年を迎え、様々なプロジェクトを進行中のフジファブリック。その一環として行われるのが今日の大阪城ホール公演だ。大阪は山内総一郎(Vo,Gt)の出身地であり、彼はいつか大阪城ホールでライブすることを夢見ながら上京したという。彼の大阪への愛は、「手紙」のMVで彼自身がカメラを持って故郷の町を巡っていたことからも明らかだ。
そんな大阪城ホール公演、年明けから何と47つもの先行受け付けが実行され、まさにいつでもウェルカム状態でチケットの用意がされた(ちなみに自分は「ホワイトデー義理人情受付」と銘打たれた先行でチケットを手にした)。
その結果、チケットはソールドアウト。いや、ソールドアウトしたのはたぶん先行の数が多かったからではない。今日は日本全国から、ある人はツアーバスに乗り、ある人は飛行機に乗って、たくさんの人が大阪に駆けつけた。それはこのバンドが全国のロックリスナーから愛されている何よりの証明だし、「今が一番カッコいい」バンドであることの証明でもある。
 
環状線を意識したかのような円形の照明が佇み、花道が少し伸びている以外は、ステージはシンプルな構成。開演前に山内や金澤ダイスケ(Key)の影アナも挟みつつ(金澤は「ステージに向かってスクラムをしないで下さい」と冗談を言っていた)、本編は2年前に山内が「大阪城ホールでやるという夢ができた」と夢を語った映像から。2年間のドキュメント風のムービーが終わると、明るくなったステージに赤の衣装で統一されたメンバーが登場した。
 
一曲目に選ばれたのは「若者のすべて」。志村正彦が残した名曲。真夏のピークはとっくに過ぎ去っているが、この曲を聴くと夏の終わりの一抹の寂しさが一瞬で蘇ってくる。朝の情報番組やMステでも披露されていたし、この曲からフジファブリックを知った人も多いことだろう。こうしてお茶の間とフジファブリックを繋げてくれたのは、紛れもなく志村だ。
続く「はじまりのうた」では客席のプレートライトがカラフルに光り、金のテープが発射されて一気に会場が鮮やかになる。「Green Bird」からは後方の円形の照明が、荘厳なサウンドに導かれるように神々しく光った。
 
真っ赤に染まったステージで金澤のギター姿も披露された「SUPER!!」では、山内、加藤慎一(Ba)も一緒になってフロントに躍り出、3人が合わせてヘッドを振るパフォーマンスも。フジファブリックが過去のバンドになるにはまだ早すぎるということは、こうしたキレキレのパフォーマンスを見れば明確。
そして、
 
「溢れるエネルギーで 前のめりに走るんだ」
 
のフレーズ通りに全速力で「星降る夜になったら」「オーバーライト」と駆け抜ける。ここまでほとんどの曲が3人体制になってから発表した曲なのは、今現在のフジファブリックが最も脂が乗っているということを、全国から集まったファンに見せたいというバンドの意向だろうか。
 
サポートの玉田豊夢(Dr)を含めたメンバー紹介のMCでは、もちろん志村正彦のことも紹介。
 
「彼が亡くなって10年経ちましたけど、改めて彼は変な奴だなあ、すごい奴だなあって思います」
 
と山内はしみじみと語る。ボーカリストをなくすという悲しみを乗り越えてバンドを続けてきた彼らだが、バンドを続けること、志村以外のメンバーが楽曲を作ること、山内がボーカルを続けることには、とんでもなく大きなプレッシャーがあったことだろう。そんな彼らの苦労が、山内の言葉から感じ取れた。
 
「紹介させてください、志村正彦!」
 
と改めて志村の名を呼ぶと、「バウムクーヘン」、「赤黄色の金木犀」と志村の作った楽曲が続く。「赤黄色の金木犀」では円形の照明の中央、そして両端のスクリーンに志村が生きていた頃の映像が流された。自分は彼が元気だった頃のフジファブリックを知らない。でも彼が映った映像を見ると、彼には触れたら消えてしまいそうな儚さがいつも伴ってあって(細身だからというのもあるけど)、不思議な人だなあと思うし、やっぱりみんなに愛されていたんだなあ、ということが伝わってくる。
活動再開後初のアルバムで、志村に向けたメッセージが綴られていた「ECHO」では、
 
「離れていたって届くように 今ありったけの想いをのせて君に 君に捧ぐよ」
 
のフレーズを、改めて志村へ届けるように全身全霊で歌う。その気合いの入りようは、後のMCで山内が
 
「気持ちが入りすぎちゃった」
 
と語っていたほど。ここに志村はいないけれど、志村の魂は確かに生きている。これからも生き続ける。そう感じられた。
 
お色直しを施して、黄色の衣装でセンターステージに現れた3人は、
 
「ここからは3人だけで、アコースティックバージョンでやろうと思います」
 
と語り、「ブルー」を披露。山内はアコースティックギター、金澤はピアニカ、加藤はウッドベースに変わり、ミニマムながら暖かな演奏を届けた。
 
「3人でやるとドラムがいないから豊夢くんの存在を実感するなあ。フジファブリックはセカンドアルバムをリリースして以来、正式なドラマーがいなくて、15年間でたくさんのドラマーが関わってくれました。全てのドラマーに感謝したいです」
 
と語ると、更に続いて
 
「この『IN MY TOWN』をやるまでに、たくさんプロモーションさせてもらって、テレビにも出させてもらったし。BSフジでドキュメンタリー番組を作ってもらったりした。FM802にもすごくお世話になった。色んな人に感謝したいです」
 
と全方位へ向けて感謝を口にした。こうして1年がかりで大量のプロモーションができたのも、フジファブリックが愛されてきたからこそだろう。
恒例の「カトーク」の時間にはたこ焼きを使ったなぞかけを大成功させ、
 
「大阪のハートを感じる曲です。知ってる人は手拍子してください」
 
と続いて披露されたのは円広志の「ハートスランプ二人ぼっち」のカバー。ずっと関西に住んでいる自分にとっては、「探偵ナイトスクープ」はそんなに関西のテイストがある番組だったのか、と気づかなかったのだが、山内曰く
 
「この曲が東京で流れると大阪の景色が蘇ってくる」
 
そうだ。 アコースティックコーナーを締め括ったのは「透明」。曲後半にはコール&レスポンスが繰り広げられ、マイクを向けられた加藤のベースラインがもたつくという一面もあってピースフルな雰囲気が広がった。
 
再びバンドモードに戻り、後半戦の幕開けは「LIFE」から。サビでは手が振られるなど、ライブでも定番の曲だが、
 
「見慣れていた景色さえも輝いてた」
 
の一節は、大阪へ凱旋してきた山内の心境を映しているかのようだ。スモークが噴き出した「徒然モノクローム」では山内と加藤がステージサイドまで歩き回り、いつもより長尺のギターソロも披露。こうしたことができるのは大きな会場ならではだ。
一転して玉田の刻む祭囃子のようなビートから「Feverman」にスイッチすると、会場が無国籍感漂う雰囲気に早変わり。盆踊りのような振り付けを加藤にレクチャーしてもらった会場が思い思いに踊ると、山内は
 
大阪城ホール、みんないい感じ!最高!」
 
と満足げに頷いた。ロックバンドのライブでこんな光景が広がるのは見たことがない。
妖しい照明に照らされながら「東京」が始まると、中盤には加藤→金澤→玉田と鮮やかなソロ回しが行われる。更に山内による、フジファブリックの過去の楽曲名や歌詞が散りばめられた15周年エディションのラップを経てコール&レスポンスへ。最後には
 
「華やぐ 大阪」
 
と歌詞を変えるサービスも。この曲がリリースされたころには、1曲の中にこんなに多くのアレンジが詰め込まれるとは予想もしていなかったが、今ではすっかりフェスでも定番となっているこの曲は、最新アルバムの中でもフジファブリックが今も攻めの姿勢を貫いていることを最も如実に示している。
フジファブリックの第2章を鮮やかに彩った「STAR」では、円形の照明だけでなくステージ上部や真横からも真っすぐな光が貫かれ、何もかもをかなぐり捨てて光の中を邁進していく、この楽曲の力強さを視覚的にも演出していた。
 
最後に歌われたのは
 
「この日のために作った曲です」
 
と発表当時から温められてきた「手紙」。フェスなどでも歌われてきたが、やはりこの場所で、この瞬間のために鳴らされる必然性を持った曲だと改めて思わされた。
 
「さよならだけが 人生だったとしても」
 
という一節があるが、彼らにとってこの15年は、決して平坦な道のりではなかっただろう。それでもバンドを続けてきてくれたから、この場所で「手紙」を聴けた。楽な道のりじゃなかったから、「手紙」はこんなに一つ一つの言葉が響く曲になった。山内が言っていたように、全てが今日に繋がっていたのだ。
 
長い長い拍手でいったん見送られた彼らだが、アンコールに応えてまず山内だけが登場。
 
「みんなに何か贈り物をしたいと思って。何がいいだろうか、って考えた結果、やっぱり曲がいいんじゃないかなって。これからも僕らと一緒に時を刻んでいってほしいです」
 
と、出来立ての新曲を披露してくれることに。メトロノームの音を便りに、アコギ一本で届けられた新曲は「プレゼント」。誰もが誰かの宝物、と、この場にいる全員、ひいてはいずれこの曲を聴くであろう人たち全員を肯定するかのような、慈愛に満ちたナンバーだ。アコギとメトロノームでの弾き語りというのも斬新。
 
その後、早くも来年の予定を発表。まずは2月に六本木で金澤の生誕祭をするらしいが、その告知映像の中で来年40になる金澤はスカイダイビングに挑戦。
 
金澤「今年は総くんの城ホールが中心だったし、来年はこの生誕祭を中心に活動していきたいと思います」
山内「なんでやねん!」
 
と関西出身ならではの鋭いツッコミも決まったところで、更に来年に全国ツアーをすることも告知。
 
「僕らはね、絶対に解散しないバンドなんですよ」
 
と山内の頼もしい言葉が聴けたところで、「桜の季節」「会いに」を連続で披露。最後は
 
「また大阪城ホールやるから!」
 
と誓い、「破顔」で幕を下ろした。
 
確かに15周年を祝うライブだったのかもしれない。けれど新曲の披露や来年の予定の発表、そして何よりもラストにやった「破顔」の、葛藤を振り切って真っすぐ未来へ突き進んでいく力強さといい、今日はフジファブリックの16年目の始まりを高らかに告げたライブだった。彼らは
 
「また大阪城ホールでやる」
 
という未来を見据えている。
 
今日は「虹」や「夜明けのBEAT」といった、多くの人が期待していた楽曲をセットリストに組み込まなかった。それは彼らが今の自分たちに自信を持っているからだろうし、やっぱりロックバンドは最新曲を追いかけてもらってこそだ。これからも5人は更に進化していく。心配なんかいらない。

FM802 30PARTY Eggs Presents MINAMI WHEEL @アメリカ村一帯 2019 2019/10/14

大阪のラジオ局、FM802が毎年開催しているMINAMI WHEEL。大小さまざまなライブハウスがひしめくアメリカ村一帯を巻き込み、400組以上のアーティストを呼び込むという、関西最大規模のサーキットイベントだ。
今年はFM802が30周年ということもあり、3日間開催される予定であったが、初日、2日目は台風の影響により中止。自分はもともと初日に参加する予定だったのだが、中止になったことが思ったより悔しくて、行く予定ではなかった3日目の今日に強行スケジュールながらリベンジすることを決めた。



・中村佳穂(BIGCAT)

1日の幕開けを飾るアクトは各方面から褒めちぎられまくっている中村佳穂。ラブシャではAimerと被ってしまっていたので、念願の初ライブだ。
SEなしでバンドメンバーと共にふらりと現れた中村は枯れた花束を腕に抱えている。

「台風大丈夫でしたか?この花束は友人の結婚式に渡そうとしてたものでした。…音楽は衣食住とは別だから、こういう災害の時には無力だと感じることもある。それでも、楽しむときには楽しんで、無気力な時に作った音楽が何かを生み出すと信じていくしかないと思います」

と思いを語った。このMCだけでも、彼女がどれだけ真摯に日々音楽と向き合って生きているかが充分に伝わってきた。

「この日の一音目に私を選んでくれてありがとう!」

と「GUM」からライブはスタート。普通、ライブというとMCと演奏はきっちりモードを変えて臨むアーティストが多いように感じるが、彼女にはそのような境界線が見当たらない。流れるように言葉を紡ぐし、MCがいつの間にかメロディをなぞっている。音楽を奏でているのではなく、音楽と一体化しているような神秘性を感じる。
「アイアム主人公」では中村佳穂BANDを紹介しつつ、

「ダウン」「戻って!」

の号令でバンドサウンドを自在に操る。更には「5」「1」など彼女のアドリブで数通りのキメを決めるのだが、「56」と無茶な数字でもキッチリこなしてみせる所にバンドの確かな技術と集中力の高さを感じさせられる。出演する名義上では「中村佳穂」だが、実質目の前でライブをしているのは「中村佳穂BAND」なのだ。

「Trust you」

と切実な歌が響く「q」を経て「LINDY」でフロアを心地よく揺らすと、ラストは「きっとね!」。終始笑顔で、本当に楽しそうな姿にこちらまで顔が綻んでしまう35分だった(MASAHIRO KITAGAWAのコーラスも最高!)。

中村佳穂の楽曲は、歌詞もメロディも誰も思いつかないようなアイデアで溢れている。端から見れば、彼女の音楽は既存のジャンルやスタイルへの破壊と創造のアプローチに満ちていると感じられそうなものだが、たぶん彼女はそんなに深くは考えていない。
例えるなら、既存の遊びに思いつきで新たなルールを追加したり、今までのルールを思いつきで無視したりしながら楽しさを追求していく子供のような純真無垢さが、彼女のオリジナリティを生み出しているのだろう。
そう考えると、各方面からの評価が高いのも納得である。



・osage(BEYOND)

ライブハウスの地下にライブハウスがあるという位置づけのBEYONDに登場したのは、実力のあるバンドを数多く輩出してきたmurffin discsのオーディションでグランプリを獲得した実績のあるosage。黒幕が開くと同時にメンバーが一人ずつ登場すると、「セトモノ」でライブをスタートさせた。
山口ケンタ(Ba,Vo)はベースボーカルなのだが、こういうバンドはベースラインがシンプルで味気のないものになってしまいがちなのに対し、このバンドはベースもよく動いている。それがよりグルーヴ感を生み出していたし、何より山口の歌声がいい。かなり好き嫌いの分かれそうなクセのある声だが、楽曲のノスタルジーを何倍にも引き上げていると感じる。

FM802でも聞いたことあるでしょ?」

と「Greenback」をかき鳴らすと、

「こういうサーキットイベントは人の移動が激しいから、アップテンポな曲を続けていかないといけない。でも僕らはあえてこの3曲目にバラードを持ってきました。あなたの最高を更新します」

と「スープ」を披露。彼らがバラードにも自信を持っていることがよくわかるし、実際バラードでも勝負していけるメロディの強さを持っている。

メロディがいい、とは便利な言葉だなあとは思うが、彼らの紡ぐメロディは、思い出の中のほんの一瞬のワンシーンを鮮明に切り出す美しさを帯びている。最新アルバムから演奏された「アナログ」は、過去を美しく精算できない不器用な彼らだからこそ生み出せるノスタルジーの真骨頂を見た気がした。

「僕等は大丈夫さ」

と強がるように歌う「ウーロンハイと春に」でライブは終了。この声がもっと広く届けばいいのにな。



・ヤングオオハラ(SUNHALL)

「SUNHALL」という名前の通り、陽性のメロディを引っ提げ登場したのはヤングオオハラ。ハローユキトモ(Vo,Gt)はリハの時から蛍光色のシャツを着ているため、暗くてもめちゃくちゃ目立っている。何となく鬱屈とした空気がある地下のライブハウス空間では異様な明るさだ。
「Y.M.C.A.」のゴキゲンなリズムに乗って登場すると、「新」、「Magic」からスタート。彼らを見るのは列伝ツアー以来だったが、今年は色んなイベントやフェスに呼ばれることが多かっただけに、しっかり場数をこなしてきたことがよくわかる音の力強さだ。
しばらくスマホを持たずに無人島にいたというユキトモは、帰ってきたらラグビーの話題に乗り遅れたことを明かしつつ、

「日本暗いよな。明るく、楽しくやっていこうぜ」

と語った。一見チャラチャラした風貌だが、大変な今だからこそ少しでも明るい気持ちを生み出したいという、しっかりと筋の通った意志がこのバンドにはある。

「アイラ・ビュー」でピースフルな空間を作り出すと、「サマタイ」では打ち込みも駆使してSUNHALLに夏をカムバックさせる。

「ダンスナイトをもっと」

というフレーズは日本が明るくなるように、と願いをかけているようだ。

「何もかもをぶち壊す爆音がほしい!」

とキラーチューン「キラキラ」ではバンドサウンドが更に強靭になっていたことが嬉しかったし、これからもこの曲と共にヤングオオハラの成長を追いかけ続けていきたいと思えた。

しかし、列伝ツアーで見たときはまだどんな色に染まるのか未知数なバンドだったが、J-POPに通じる正統派な楽曲もあれば、打ち込みを組み込んだワルなサマーチューンもあり、

「一緒にいい時代作っていこうな」

とバンドの決意と覚悟を感じた「美しい」ではパンクスの衝動を炸裂させたかと思えばシンガロングできたりと、本当に一言で言い表せない多様なバンドだ。
まだまだこのバンドには誰も知らない、正体不明の可能性があると信じている。日本暗いしさ、ダンスナイトをもっと。



・lical(club vijion)

アメリカ村一体から少し離れた北堀江に居を構えるclub vijionに出演したのはlical。プログレやポストロックを武器としている辺り、残響レコード大好きな自分にはドンピシャな音楽性だ。

「色んな思いがあってミナホに来てるんだと思います。でも今からの35分は、どうか私だけを信じて」

と轟音の響く「群青的終末論」でスタート。ジャンルがジャンルなだけに、メンバー一人一人のスキルが非常に高いし、rina(Vo,Gt)の歌声は時にサウンドと一体化したり、その中から鋭く突き抜けてきたりと変幻自在だ。

ハンドクラップを煽りながら「ワールドエンドサイレン」を鳴らすと、「four side effect」ではサビまで無機質な同期音のみで構成されており、静と動のバランスの良さを見せつける。演奏もそうだが、それに合わせて目まぐるしく転換する証明の鮮やかさも彼女らの世界観を後押しする。

「私は自分のことしか歌えないから」

と、時に寝転がりながら叫んだりしていたrinaは、余計な干渉を受け付けられない儚さと不安定さに溢れている。そんな彼女の映し身かのように「yellow iris」「nyctalopia」と内省的な世界が続くと、最後は「拔文」。
rinaのワンマンバンドである感じは否めなかったが、再びこのジャンルが脚光を浴びる日が来てほしいものだ、と切に願っている。



・Amelie(SUNHALL)

再びSUNHALLに戻り、次はAmelie。ミナホに出演するのは4年目だ。

「どうもー!」

と威勢よく挨拶すると、シリアスなメロディの「ライアーゲームじゃ始まらない」で勢いよくスタート。そして「手と手」へ続くのだが、ヤングオオハラに続いてこのバンドもまた、SUNHALLという舞台がよく似合う陽性のバンドであることが、元気一杯なMCでもよくわかる。mick(Vo,Gt)の歌声はギターロックに負けないぐらいパワフルだ。

来月リリースされるミニアルバムから、ラジオでもまだオンエアされていないという「月の裏まで」を初解禁すると、

「今はもう会えなくなった人へ作った歌」

と前置きして「ノンフィクション」へ。音楽があれば、何気ない日常もドラマチックになるということを、Amelieは証明してくれる。シンガロングを起こした「手紙」から

「まだまだできる!だって可能性はゼロじゃないから!」

と「ゼロじゃない」では性急なビートに合わさってmickの切迫した歌声が響く。

ラストはこちらも力強い言葉が届けられる「朝は来る」。

「来年はBIGCATに出たいなー!」

と彼女らは語っていたが、彼女らの歌は既にBIGCATにも充分に届くスケールを持っているはずだ。だからまた来年、更にでっかくなったAmelieを見たい。可能性はゼロじゃないから。



・Suspended 4th(AtlantiQs)

Amelieが終わってすぐに駆け付けたものの、既にAtlantiQsはいつ入場規制がかかってもおかしくないほどの満員っぷり(実際、自分が入ってすぐに入場規制がかけられていた様子)。今日ここまで、ライブが始まって少ししてからようやくフロアが埋まってきた感じのアーティストが多かっただけに、開演前からこの動員数は異常だし、おかげでステージが全く見えない。
ここまで注目を集めているのは、今夏にPIZZA OF DEATHからデビューしたSuspended 4th。リハの時点で一線を画すエグい音を鳴らしまくっており、ただならぬ雰囲気を作り出していた彼らは「INVERSION」から襲撃開始。ストリートライブで叩き上げられてきた、触れるだけで怪我しそうなキレキレのサウンドが武器ではあるが、みんながサビの歌詞を歌えているぐらいに彼らの楽曲が浸透しているのが恐ろしい。
思わず頭を振り乱したくなるようなヘビーな縦ノリはKing Gnuに通じるところもあり、「Vanessa」では

「さあ踊れ」

と鶴の一声でフロアを自在に揺らしまくる。みんなのノリ方が均一じゃないのも、様々なカルチャーを吸収してきた彼らの音楽を体現しているようだ。

終始ハイテンションな会場が更に沸騰したのは「ストラトキャスター・シーサイド」。全ての楽器が主役をもぎ取らんと突っかかってくるこの荒々しさが、彼らの凶悪な音楽性そのものだ。曲中には

「旅してくるわ!」

と間奏から長い長いセッションタイムへ。常に全楽器がソロをやっているのか?と勘違いしそうなほどテクニカルなセッションが何分やったかわからないぐらい続き、再びサビに戻ってくる展開は圧巻。正にねじ伏せる、という表現がぴったりの、凄まじいアクトだった。

「来年はBIGCATでお願いしまーす」

と鷲山和希(Vo,Gt)は話していたが、来年はもっととんでもないバンドになっていそう。



・WOMCADOLE(BIGCAT)

メジャーデビューを直前に控えた滋賀発のスーパーロックバンド・WOMCADOLEがBIGCATに登場。リハからもっと前に来い、と客席を挑発しまくると、

「心を寄越せ!」

と「人間なんです」でいきなりクライマックスのような展開に雪崩れ込む。安田吉希(Dr)の打ち鳴らす鋭いドラミングはそれだけでも大迫力だし、彼がこのバンドの勢いをブーストしまくっているのは間違いない。

続く「絶望を撃て」でも、エッジなサウンドが炸裂しまくる。頭音の爆発力は、My Hair is Bad04 Limited Sazabysに通じるところがあるし、ロックバンドのライブならではの鋭さを備えている。彼らこそがライブバンドと呼ばれるにふさわしい。

アルク」「独白」と休むまもなくエネルギッシュな楽曲が続くと、MCで樋口侑希(Vo,Gt)はアルバムのリリースを告知。しかしメジャーデビューするとは言わなかったのが彼ららしい。

「何か一つでも誇りになるものを見つけて帰って下さい」

と樋口は語ったが、関西にこんなにカッコいいバンドがいてくれることが何よりの誇りだ。

刹那の瞬間を詰め込んだ「アオキハルヘ」ではエモーショナルな一幕を見せつけ、

「新曲やります!旗を掲げ続けろ!」

と始まったのは「FLAG」。こんなにカッコいい曲を引っ提げてメジャーに行くのならば、もう我々は心配することは何もないだろう。

「悲しみも苦しみも全部燃やしてしまえよ!」

と本編最後は「ライター」。最後まで一度も立ち止まることなく駆け抜け、完全燃焼した35分だった。来年の今頃には、BIGCATすらもオーバーしてしまう程の支持を集めるようになっているのではなかろうか。



・あいくれ(DROP)

あっという間だった一日を締め括ったのはあいくれ。開演前、黒幕の後ろから登場したゆきみ(Vo)は本編でやる曲のコーラスを練習し、

「その調子でよろしくお願いします!」

と再び黒幕の中へ。こうした一幕を見られるのもサーキットイベントならではか。

アイデンティティ」からあいくれを知った自分にとって、このバンドはバラードのイメージが強かったのだが、「回顧展の林檎」を筆頭にプログレの匂いのする「リビルド」とアップテンポな楽曲が続いていく。流れるように美しいファルセットを歌うゆきみのボーカルは、疲れた身体によく染み渡る。

ライブ中、ゆきみは何度も

「出会ってくれてありがとうございます」

と語っていた。今年のミナホも二日間とも中止になってしまったように、時に予期せぬ事象が出会うはずだった存在を消し去ってしまうこともある。そんな中でこうして音楽を通して、あいくれだけでなく様々なアーティストと出会えた我々は、彼女の言うように奇跡の最中に生きているのかもしれない。
そんな奇跡がまた起きるように、「グッドバイ」を演奏してライブは幕を下ろした(本当はこの後に「やってられないよ」をやっていたらしいが、体力が限界だったので帰ってしまった)。



こういうサーキットイベントに行くのは初めてだったのだが、今まで行かなかった要因の一つにタイムテーブルの情報量の多さがあった。ミナホのように大量のライブハウスをジャックするとなると、満足のいくタイムテーブルを組めるのか?という心配があった。
しかしそこは長年続いているイベントなだけあって、割とスムーズに回ることができたし、振り返れば一日中どこかしらのライブハウスにいた気がする。

そのおかげで本当に色んな音楽と出会えた。こうして出会いの場を与えてくれるFM802にはリスペクトしか感じないし、できればまた来年、今日みたいな一日が作れたら幸せだな、と思う。

でもやっぱりミナミの街は怖い…。

Reol Oneman Live 2019 「侵攻アップグレード」@松下IMPホール 2019/10/6

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。




















今年は3月に「文明EP」をリリースし、その作品を軸としたライブも展開してきたReol。昨年のアルバム「事実上」以降、完全に覚醒モードに入ってノリノリな彼女のワンマンに初めて足を運んだ。

会場に到着すると、ステージには抄幕が張られ、月のような地面に真っ黒な旗が突き立てられているツアーのメインビジュアルが映されているのだが、何処からか風が吹いているのか、旗がなびいている。
場内には飛行機の中を思わせる音が流れているのだが、開演が近づくにつれてその音が大きくなっていくのが細かい。さらにReolのアートワークを支える映像担当のお菊による機内アナウンスも放送されるなど、既にライブが始まっていることを告げるかのような演出。
会場の松下IMPホールは貸会議室が近くにあるなど、かなりビジネスライクな施設だが、そのような場所でもこうした演出が非日常感を与えてくれている。

会場が暗転し、今回のツアーのオープニング映像が流れると、抄幕にシルエットが映される。

「ほらそこに横になって」

と印象的なフレーズから始まるのは「ウテナ」。幕が落ちると、機長のような服装をしたReolがセンターに待ち構えていた。後方の3面あるLEDスクリーンにはMVを彷彿とさせる映像が流れ、両脇には二人のダンサーを従えている(MVで共演したMIKUNANAではなかったようだが)。

Reolが帽子をとり、ステージに一人になると、「ミッドナイトストロウラ」では左右に練り歩きながら歌唱。宇宙空間のような映像が流れた「シンカロン」では、サビで宇宙に浮かぶ星が現れると同時にステージ袖からシャボン玉が放たれ、重厚なエレクトロサウンドと共に会場を呑み込んでいった。

「Lunatic」からはスクリーンに歌詞が投影されるのだが、ヒップホップを主体とした彼女の楽曲は言葉数が多い。それに伴って映像からの情報量も増えてくる。言葉が次々と飛び交う様はそれだけでリスナーを圧倒する気迫に満ちているし、その言葉達を鋭い歌声で突き付けるように歌うのが彼女の魅力だ。
しかし、彼女の片腕的存在であり、ライブでも音響の重要な役割を担っているGigaが「ギガP」名義でリリースした「ヒビカセ」を披露すると、イントロから大歓声が上がり、ネットの世界とリアルの世界の架け橋となっていることも彼女の魅力なのだとよくわかる。

曲終わりと同時に衣装を破くように脱ぐと、大胆な格好になって「激白」をダンサーと共に披露。自分が「事実上」を聴こうと思えたきっかけとなった曲だが、こうしてライブで聴くとやはり言葉の力が強いし、時にがなったりする歌声は言葉の強さに同化しているようだ。

ここまで6曲をノンストップで駆け抜けると、Reolは一旦退場。スクリーンには白い熊と兎が登場し、ゆるいやりとりを繰り広げる。どうやら今回のツアーから登場し出したキャラクターらしいが、名前はまだ未定らしく、Reolいわく

「ツアーでブラッシュアップしていく」

とのこと。そんな名前はまだない熊と兎が、今回のツアーのテーマは侵略であること、「文明EP」から続いた文明の物語も最終地点を迎えていることが伝えられる。ということは次のアルバムのリリースツアーで最終章になるのだろうか。

そんな来年リリースのアルバムから先行配信されている「ゆーれいずみー」では先程の映像に出てきた熊と兎も登場。Reolは白いローブを羽織り、観客と共にお化けのごとく両手をゆらゆらさせていた。そして

「さあ 信仰しろ」

の歌詞がツアータイトルである「侵攻アップグレード」と掛けていることを思わせる「カルト」からはよりディープな世界へ観客を誘っていく。
「幽居のワルツ」では再び現れたダンサーがペアになって舞い踊り、ここまで出番のなかったステージ上部の計6つある四角いLEDも極彩色に光る。本来ならばポップなイメージのはずのRGBの三色だが、妖しいトラックの上で光るとやたらとおどろおどろしくなるのが不思議だ。
「mede:mede」と続けてキラーチューン「煩悩遊戯」では大量のスモークが噴射し、重低音の効いたトラックで会場を踊らせた。

ここで再び幕間に入るのだが、その間もGigaのバキバキのサウンドとお菊の派手な映像が入り乱れる「-BWW SCREAM-」でテンションを緩めさせない。さらには熊と兎も現れ、ひとしきり踊ったところでステージにはマイクスタンドが立ち、Reolが扇を持って再登場。
MVと同じく蝶が飛ぶ映像が雅な「極彩色」を経て「失楽園」、Reolが鍵盤ハーモニカを吹いた「真空オールドローズ」では文明の崩壊が描かれる。

「文明EP」の曲順と同じく「失楽園」をこのポジションに持ってきたことで、冒頭の「ウテナ」から続いたストーリーに終止符を打つだけでなく、淡々としたサビが終末を感じさせる次曲「真空オールドローズ」と合わせてライブのコンセプトを強化してきたのは流石だった。本人がインタビューで

「視覚的な音楽が好きだった」

と語っていた通り、「真空オールドローズ」では薔薇が散る映像と同期して天井から花びらが降ってくる演出もあり、こうした流れの一つ一つにチームの拘りがとことん感じられた。

再びReolが捌けると、代わりに熊と兎が登場。

「みんなまだまだいけるー?」

とフロアを煽るも、客席の反応はぼちぼち。多少無理矢理な感じはあったものの場を繋げると、ここで初めてのMCへ。

「前回の文明ココロミーから繋がったライブをするのは初めてで。作った文明がお化けの世界とか通りながら、他の星を侵攻しにきてるイメージです。グッズにも伏線をたくさん用意している」

とReolは改めて本ツアーの趣旨を説明。すると、

「衣装も変わったことだし…」

とここまでのコンセプチュアルなライブは終了することを宣言し、ライブを再開する。一貫したコンセプトが設けられたライブでは、普段のライブでは定番の曲もそのコンセプトの中に、時には無理矢理組み込まれることもあるが、あえて流れを止めて

「ここからはみんなで楽しむゾーン」

と今回のReolは銘打ってみせた。その宣言通り、「劣等上等」「平面鏡」とアップテンポな楽曲が続く。さらには

「9月に3曲作って、まだ2曲は見せられないんだけど、そこから1曲やろうと思います。ライブアンセムになってほしい」

と語り、80年代ファンクをReolなりに解釈したという新曲もお披露目。「サイサキ」等の強いエネルギーを持つ楽曲の反動で生まれたみたいな怠惰な歌詞だが、次のアルバムではどんな役割を担うことになるだろうか。

「たい」では重厚な四つ打ちに合わせて会場全体がバウンス。その盛り上がりは元々ライブ向けのホールではないことと、ビル内の2階のホールということも相まって、この揺れ大丈夫か?と思うほど。前回のアルバムにも四つ打ちのダンサブルなトラックはあったものの、この曲はより一層クラブミュージックの色が強く、近未来の雰囲気を感じさせる。

最後に歌われたのはReolが旗を掲げて現れた「サイサキ」。聴いた人を奮い立たせるかのように言葉の弾丸を浴びせる楽曲だが、やはりネット発ということもあってか、楽曲の魂胆にあるのは自分自身へ言い聞かせている、という内向きのエネルギーだ。

「薄志弱行な僕」

とは紛れもないReol自身だし、この曲を聴いている自分自身でもある。そのシンクロが強烈なエネルギーを起こす事実は、バンドであれソロシンガーであれ同じことなのだ。
最後に彼女は掲げていた旗を足元に突き立てたのだが、アンコールで再びツアーのメインビジュアルが表示されたとき、真っ黒だった旗はその旗と同じ柄になっていた。それはかつて、月にアメリカ国旗が打ち立てられたように、Reolが大阪への侵攻を完了したことを誇示していた。

そんなアンコールはReolがギターを抱え、「木綿のハンカチーフ」のワンフレーズから「染」へスイッチしていく展開からスタート。本人いわく

「台風で中止になった宗像フェスの時にやりたかったことの供養」

だったらしいが、段々と肌寒くなってきた今日この頃に聴くとより染み渡る楽曲だった。

「さっきの「たい」の時めっちゃ揺れてたよね。大丈夫かな?(笑)すいませんでした、大目に見てあげてください(笑)。まあ最後は無礼講ってことで!」

と最後に選ばれたのは「宵々古今」。祭囃子のメロディに合わせて再び会場が大きく揺れると、最後には大きな花火がドカンと打ち上がって鮮やかに幕を降ろした。

その後、熊と兎の名前が「エンドウさん」と「お母さん」に仮決定。

「絶対却下されると思ってたのに浸透しちゃった(笑)」

と笑いながら、彼女は次の侵攻地、名古屋へ(徒歩で)向かっていった。

卓越した映像演出とそれに呼応したライブパフォーマンスで、前回のライブの続きとも言えるコンセプチュアルなライブを披露するゾーンだけでなく、それとは別のキラーチューンをひたすら集めたゾーンを使い分けて全22曲をこなしたReol。どうやら最終目的地である東京では発表もあるようだが、まずは彼女の侵攻の旅が無事に終わることを祈っていよう。

「このLEDスクリーンは出世払いだと言われました!私はいつ払い終えるんでしょうか!」

そんな彼女とまた会える、巡り会える、そんな幸先なら。

04 Limited Sazabys YON EXPO @さいたまスーパーアリーナ 2019/9/29

今年は去年から続くアルバムツアーも終えて恒例のYON FESも成功させ、9月には全く新しい形態での音源リリースも行った04 Limited Sazabys。生粋のライブバンドである彼らが、今年最後のワンマンと銘打って開催されたのが今日のYON EXPO。自身最大キャパとなるさいたまスーパーアリーナを会場に据え、ライブ前にはカラオケやアミューズメント施設、写真展、RYU-TA(Gt)プロデュースのラーメン屋を開くなど、「EXPO」の名の通りバラエティ豊かな企画が展開される。「SEED」でも缶でのリリースという挑戦を行った彼らだが、ライブを含めてこうしたテーマパーク的なイベントを用意したというのも、一種の挑戦といっていいだろう。

さいたまスーパーアリーナに来るのは初めてだったが、やはり最大30000人以上(今日の動員は20000人くらいだったらしいが)を収用できるだけあってめちゃくちゃ広いし、スタンド席からもステージがよく見える。そしてPA卓とメインステージの中間地点には、大きな会場ではお馴染みのセンターステージも用意されていた。

開演時間を10分ほど過ぎて客席が埋まってきた頃、会場が暗転すると流れてきたのはいつものSE…ではなく英語の台詞が挟まれるショートムービー。GEN(Ba,Vo)はキャバクラで遊んでおり、HIROKAZ(Gt)は愛犬と戯れ、RYU-TAはラーメン屋の見習いみたいになり、KOUHEI(Dr)はバッティングセンターに通うというメンバーの日常風景のような映像が流れる。しかしGENが

「やべえ、そろそろ時間だ!」

とキャバクラを飛び出すと、3人も同じタイミングで駆け出してくる。そしてさいたまスーパーアリーナの前で、スーツを着込んで勢揃いした4人が映し出されると、YON EXPOの開催が告げられ、「Now here, No where」が始まった。
武道館の時と同じくステージには紗幕が張られているのだが、演奏が始まっても紗幕は降りず、そこに歌詞がでかでかと投影される。しかも紗幕越しにスクリーンに映る4人は、映像と同じくスーツを着ている。それを見たとき、今日はいつもとは全く毛色の違うライブが展開されるのだろうか、と想像された。

ラストのサビでようやく紗幕が降ろされ、メンバーの姿が露になると、高鳴るテンションは「Warp」で更に高いところまで連れていかれる。続けざまに「Kitchen」でアリーナを踊らせるなど、フォーリミらしいテンポの良さは健在だ。4人ともスーツのせいでやや動きづらそうだが、KOUHEIのドラムは相変わらず鮮やかで、遠目から見ていても迫力が伝わってくる。

「今日はせっかくの晴れ舞台なのでスーツを着てきました。…しかしあっついな。スカパラとかよくやるよなあ」

と慣れないスーツのジャケットを早くも脱ぎ捨てたメンバーは、

「我々のためだけに集まってくれたみなさんを責任持って幸せにします!俺達もう大人だからさ、背中を押す曲を」

と「SEED」から一発目に披露されたのは「Cycle」。インタビューでGENは

「2回目の「広がる」は「日の丸」とかけている」

と語っていたが、ステージ上部に飾られた「YON EXPO」の文字の「O」の部分が時折赤く光って日の丸みたいになるという仕掛けもあった。

痛快なイントロから「message」が始まると、ステージ後方の横断幕の奥から新たなスクリーンが現れ、終始モノトーン調のメンバーが移される。しかし流れるように続いた「My HERO」ではアリーナツアーの時と同じカラフルな映像が加わり、彼らのパンク精神とポップスを両立したサウンドがより際立つ、という大きな会場ならではのコントラストを見せる。
この辺りからフロアも徐々に元気になってきてダイバーの数も増えてくるのだが、そんな暴れん坊達を更に狂わせるのが「fiction」。猛者揃いのフォーリミの持ち曲の中でも、常に起爆剤として存在感を放ってきた楽曲だ。ハイスピードな展開と会場を貫くレーザーが相乗して見せる景色は、いつにも増して痛快。
休ませる間もなく「Montage」が始まると、今度は炎の特効が加わり、レーザーとの応酬で楽曲のスリリングさを増大させた。

ここで一旦ブレイクタイム。やたらと無口な「麺や おがた」の店主(RYU-TA似)が地元・中津川から約300キロの距離をマラソンし、埼玉までラーメンを届けるという、愛は地球を救う的な企画のムービーが始まる。
しかしおがた氏は3キロほど走ったところで早くもギブアップし、自転車に鞍替えして再び埼玉を目指し始めたところでムービーは終了。それに突っ込みながら登場したメンバーは、いつも通りのラフな格好にお着替え。

「ここから中盤戦、開催しまーす」

と宣言し、久々に演奏されたのは「Chicken Race」。最近は同じようなノリの「Kitchen」がライブの定番曲となりつつあり、この曲の存在感が危ぶまれていたが、こうやってちゃんと演奏してくれて安心した。

「埼玉埼玉!」「エキスポポッポー!」

と煽るRYU-TAの姿も久しぶりに見るし、彼の足もちゃんと高々と上がっている。

「埼玉に流星群を持ってきました!」

と始まった「midnight cruising」ではステージ両脇のミラーボールが壮観を生み出す。何度見ても美しい景色だし、楽曲のセンチメンタルさと相まって泣きそうになる。しかし

「さっきの煽りなんだったの?」

とGENがRYU-TAにケチをつけると、そこから口論が始まり、それをKOUHEIが笛で制するというお馴染みの流れで「Galapagos」へ。間奏ではGENが

「俺最初のムービーでキャバクラ行かされたんだけど。俺そんなところ行ったことねえし。てか女性苦手だし。色んな意味で堅くなったよね」

とやりたい放題。あまりにも堂々としているので、GENならあと何年かは下ネタを言っても許されそうだ。

ゆったりとした入りからキャッチャーなサビへ高速転換する「me?」を経て、今日はRYU-TAが曲紹介をした「swim」はさすが代表曲と言うべき盛り上がり。フォーリミはインディーズ時代から追いかけているが、あの頃はこの曲をちゃんと歌えているライブは数少なかった。しかし今ではちゃんと伸びやかな歌声をアリーナクラスの会場の隅々まで響かせている。GENは本当に歌が上手くなった。
そのGENのボーカリストとしての力量が活かされたのが、

さいたまスーパーアリーナでワンマンできるとは思ってなかった。俺達スーパースターだな」

と始まった次のゾーン。GENは普段はやらないことをやりたい、と前置きした上で、

「楽器を弾かずに歌いたい」

と告白。するとHIROKAZはアコギ、RYU-TAはマラカス、KOUHEIはタンバリンを手にし、GENがハンドマイクとなって「labyrinth」をアコースティックバージョンで届けた。曲中、メンバーはステージを降り、客席の間を練り歩きながら中央のセンターステージに向かう。するとステージにはベースとカホン、椅子がセットされており、4人は歌い終えたタイミングでそこに到着。KOUHEIがカホン、RYU-TAがベースにチェンジしたところで

「この瞬間が、永久に永久に続きますように」

と幾度となくライブで歌われてきた「hello」が特別編成で届けられた。最初はメンバーを一方向から照らす照明しかなかったものの、曲が進むにつれて次第に一人、また一人とスマホライトが点滅していき、GENが思わず

「きれい」

とこぼすほどの景色を生み出した。

「俺らからやってって提案するの恥ずかしかったからさ、自発的にやってくれるお前らサイコーです」

との言葉に味をしめた客席は、続く「Shine」の時も白く丸い光を左右に揺らしていた。昔はできなかったアコースティックスタイルがこうやって演奏できるのも、GENのボーカルの安定感があってこそだ。

再び暗転してムービーが流れ始めると、自転車で会場へ向かっていたはずのおがた氏がタクシーで登場し、客席を爆笑させる(中津川から埼玉までは10万円ぐらいかかったらしい)。そして客席の後方からおがた氏がラーメンを抱えて登場。その間、愛は地球を救う的な企画の最後に流れるあの名曲「負けないで」をおがた氏が歌ったバージョンが流れていたのだが、GENが

「XのToshIさんみたいな声」

と突っ込んでからはもう完全にToshIにしか聴こえなくなってしまった。
そんなこんなで苦難を乗り越えてフォーリミメンバーの前に到達したおがた氏。やたらと無口だったのは大ファンであるOfficial髭男dismに会えなかったからだそうだが、フォーリミも大好きらしく、会えて嬉しそう(ちなみに好きなバンドとしてキュウソやブルエン、マイヘアを挙げており、GENから「今時」と突っ込まれていた)。
しかし、苦労して持ってきたはずのラーメンの中身は空っぽ…といったところで寸劇は終わり。今日はラーメン屋に立ったりベースも弾いたりと、RYU-TAは大活躍であった。

「フォーリミはアウェーだとすごい力を発揮するバンドなんですけど、今日はワンマン、ここは敵がいない国。ここの王様になってもいいですか」

KREVAの楽曲を引用して煽ると、「SOIL」から一際ヘビーな「Utopia」を投下。爆発の特効も相まって和やかだった会場を完全掌握すると、「Alien」でも派手な映像と照明で襲い掛かる。ワンマンツアーや夏フェスでもフォーリミの持つラウドな一面を担ってきた2曲だが、まだまだこれからもライブで重要な役割を任されていく予感がした。
「discord」ではスモークを炊きまくりながら更に刃を尖らせる。急に爽やかになるサビとの掛け合いは、フォーリミがジャンルの枠に囚われることなく自分達を表現してきた証拠だ。

初めてフォーリミを聴いたとき、ポップスとメロコアのいいとこ取りをしているバンドだ、というイメージだったが、そうなるまでにバンドが歩んできた道のりの大変さはこれまでのメンバー自身の言葉からも痛感していた。常に自分達の道を自分達で開拓してきた彼らだからこそ、日本のアリーナでも一際大きなさいたまスーパーアリーナに立っているのが嬉しくなる。

「最近は悲しいニュースが多い。俺自身も今年は病気になったりして、それで気づいたのがこうやってバンドをやれてることって奇跡に近いと思って」

と語りだしたGENは、

「だからこうやって瞬間を刻んで残しておきたい。そしていつか、冒険の書みたいに、俺達の曲がみんなの人生のサントラになってればいいなって思います」

と締め括った。フォーリミがこうやって思い出作りに拘るのは、きっと彼ら自身も思い出に救われてきた過去があって、思い出に救われていく未来が見えているからなのかもしれない。

そうして様々な思いを巻き込みながらも

「希望の行方を追えよ」

と未来へ邁進しようとする「Horizon」が強く響き渡ると、間髪入れずに火花の特効と共に「Puzzle」へ。今日のライブは「SEED」の3曲も初披露だったのだが、今までのフォーリミには見られなかったノリ方のこの楽曲は、まだまだ未知数の可能性を秘めている。

「みなさんに残暑見舞いをお届けします!」

と「Letter」ではこの時期にぴったりの物悲しさが歌われるが、続く「milk」ではミラーボールがピンク色に染まり、人肌が恋しくなるこれからの季節に思いを馳せたくなるような風景が歌われる。GENは2番のサビをほとんど飛ばしていたけど。

今日のライブが惜しくもソールドしなかった(あと100枚ぐらいだった)ことを正直に打ち明け、悔しそうに語ったGENは、

「YON EXPO、また何処かでやらなきゃなあって思ってます」

と宣言。ロックバンドのデカ箱でのワンマンは単発で終わることが多いが、彼らはYON EXPOを続けていくことを選んだ。リベンジの意味合いもあるだろうし、次にここでやる時はソールドさせられるだろうけど、それ以上に、YON FESのように、YON EXPOを新たな居場所として提案し続けていくという、そんな宣言のようにも聞こえた。
続けていくことの難しさを体感してきた彼らだからこそ、この選択は大きな意義を持つだろうし、自分もずっと足を運び続けていきたいな、と思えた。

「バンドを続けていく限り旅は続く、だからただ、ただ、先へ進め」

「Feel」が演奏されると、かつて「CAVU」を引っ提げて全国を回っていた時代に、

「バンドを続けていく限りはずっと青春」

とメンバーが語っていたことを思い出した。フォーリミが、自分が前へ進み続けていれば、夢は続くし、青春もずっと続くのだ。

ラストは必殺の「monolith」を叩き込んで終了。この先、どんなに強力な楽曲が生まれても、この曲の存在は絶対に揺らがないのだろうな、と改めて思い知らされたし、フォーリミとの出会いのきっかけとなったこの曲をずっとライブで浴び続けていたいな、と思えた。

アンコールでは1月からZeppを回るツアーを行うこと、来年もYON FESを行うことをさらっと発表。やっぱりライブハウスに戻ってくるわけだが、今日のライブを通してフォーリミへの印象がだいぶ変わった。
ライブハウスで見る強靭かつリアルなフォーリミと、巨大な会場で見るエンターテイメント性溢れるパーティーチックなフォーリミ。今まで比較して優劣をつけがちだった2つの軸が、どちらも同じくらいに大切なものなのだということに気づかされた。それはもしかしたら、ロックバンドにとってアリーナ公演は特別なものである、という感覚自体を覆すことにもなるのではないか、とも感じた。
今日のライブは、総合的なイベントスペースの提案であると同時に、フォーリミの新たな闘い方を提案していたものだったのかもしれない。きっと次にライブハウスで見るフォーリミは、以前よりも新鮮な気持ちで見れるだろう。

考えすぎている我々のみならず、演奏している自分達自身をも鼓舞するかのように「Squall」を届けると、最後は「Remember」で狂騒空間を生み出して終了。かと思いきや、「soup」に合わせておがた氏のエピローグ的なムービーが流れ始める。銭湯のお湯をレンゲで飲んだところで、

「こんな終わり方はないでしょ」

とメンバーが再登場して勝手にダブルアンコールへ。

「最後はやっぱり、ワンマンでしかやらないこの曲で」

と武道館、アリーナツアーと同じく「Give me」で皆を笑顔にして締め括った。

毎年のようにライブを見続けているフォーリミだが、正直、武道館を超えるライブは個人的にはなかった。あの頃のギラついていた感じの方が彼らには合っていたのかなあ、とか、自分たちの状況に甘んじているのか、と思うようなライブもあったが、今日のライブは間違いなく、今までで一番のライブだった。持てる手札全てを尽くして、彼らなりのエンターテイメント性を存分に発揮した、スーパースターに相応しいライブだった。しかもこんなライブを、これからも続けていきたいと宣言してくれた。

ヒーローとして、責任を持って幸せにしてくれた彼らの姿がそこにはあった。やっぱり彼らはかっこいい。だからこれからも、一生死ぬまで一緒に。

ネクライトーキー ワンマンツアー2019 ”ゴーゴートーキーズ! 全国編「〆」” @マイナビBLITZ赤坂 2019/9/23

若手という枠に収まらず、今やシーンを席巻する存在となったネクライトーキー。東名阪のクアトロを含むワンマンツアーが即刻ソールドアウトとなったことを受け、追加公演として選ばれたのが京野マイナビBLITZ赤坂。ネクライトーキー初の1000人越えのワンマンとなったが、チケットはソールドアウト。バンドの勢いの恐ろしさを物語っている。
自分は元々、大阪のツアーに参加する予定だったのだが、ラブシャと被っていたことを直前に知り、泣く泣く断念。しかし7月にリリースされた「MEMORIES」を聴いていてもたってもいられなくなり、遠征を決意した。そもそも遠征はあまりしないのだけど、あんな名盤を聴かせられたらもうライブに行くしかないじゃないか。

普段は夜行便で朝から行ったり、金銭的に余裕があったら新幹線でのんびり行ったりしていたのだが、今回は朝一に大阪を出る昼行便を選択。16時過ぎには会場に着く計画で大阪を発ったのだった。
しかし高速道路はまさかの事故渋滞。しかもやっとの思いで入ったSAでも、他の乗客が定刻までにバスに戻らなかった影響で、バスから降りたときには既に開演10分前。結局、30分ほど遅れて会場に到着することになった。

会場に着くと、「サンデーミナミパーク」を演奏している最中。5人ともいつも通りの服装だが、朝日(Gt)は髪を切ったのか、何だかいつもより爽やかに見える。
この「サンデーミナミパーク」は石風呂時代の曲であり、「MEMORIES」には収録されていなかったものの、

「楽しかったからやった」

と朝日の動機は至って単純。MCではそんな「MEMORIES」の由来について、朝日の石風呂時代の思い出が詰まったタイトルであると同時に、そんな石風呂の楽曲をリアルタイムで享受していたもっさ(Vo,Gt)の思い出が詰まったタイトルでもあることが語られた。

ネクライトーキーはキャリア的には若手だが、朝日と藤田(Ba)、カズマ・タケイ(Dr)はコンテンポラリーな生活から数えると決して若手ではないし、朝日は石風呂名義でメジャーからCDを出していた時期もある。この「MEMORIES」に収録されている楽曲は、作り手である朝日にとっての思い出であると同時に、もっさのようにかつて石風呂の楽曲を聴いていた人達の思い出であり、自分のように石風呂の時代を知らない人達にとっても、これからの思い出となりえる可能性を秘めている。
正直、石風呂の楽曲達はネクライトーキーとしてのオリジナル楽曲が揃うまでの場繋ぎだと思っていた。でもこうして音源を作ってくれたということは、これからも様々な世代の人達の思いを抱えながら石風呂の曲を演奏していくというネクライトーキーの決意の表れだ。本当にこのアルバムがリリースされてよかったと思う。

「涙を拭いて」では、この日集まった人達を「よく来たね!」と歓迎するかのような温かいムードが溢れる。自分に限らず、この場所まで辿り着くのに散々な思いをした人もたくさんいたと思うけれど、そんな思いが全て浄化されていくようだった。
今年、バンドは去年以上にたくさんのイベントやフェスに呼ばれるようになったが、毎回演奏される「だけじゃないBABY」といった曲達を聴くと、場数を踏んだことでバンドの音がどんどん逞しくなっていっているのがよくわかる。今回のツアーからカズマ・タケイの左横にポジショニングしているむーさん(Key)の表情も見違えるほど柔らかくなっていて、バンドの状態の良さが窺える。

風が吹き抜けるようなSEが流れる中で、

天王寺で出会った竜の話です!」

と朝日が紹介すると、「あの子は竜に逢う」が始まる。

「つまらない毎日 くだらない自分 そんな全部全部を壊してくれる
特別なものが JR改札抜けたら そこにあると信じて」

というフレーズがあるが、自分も含めて今日ここに集まった人達にとっての「特別なもの」は、間違いなくネクライトーキーのことだろう。わざわざ言葉として発信しなくとも、 ライブハウスでは日々の喧騒を忘れていい、着飾らなくていい、というメッセージを、このバンドは自らの立ち振舞いで表しているようだ。ところでこの曲の照明は緑がメインだったのだが、曲中に登場する竜も緑の鱗をまとっているのだろうか。

「新曲やります!」

と宣言されて始まったのは、もっさの歌声とむーさんのピアノが優しい、朝日いわく「しっとりした曲」。今まであまり見られなかった繊細な歌い方からは、もっさがボーカリストとしての表現力を著しく進化させていることがよくわかったし、初めて聴くのに目頭が熱くなってしまった。早くも名曲の予感がする。

続いて披露された新曲は、朝日が

「さっきのしっとりした曲の反動で作っちゃった。愛と勇気と金玉の曲」

と紹介した、その名も「ぽんぽこ節(仮)」。もっさ、もといもっさぽんぽこがお腹を叩く音から始まり、目まぐるしく展開が変化するこの楽曲は、このバンドが持つテクニカルな一面を徹底的に尖らせている。

音源が正式にリリースされたことで

「せーの!」

の声がキャパシティ以上に大きく聴こえる「夕暮れ先生」から、今日一番のハイライトを生み出したのは「許せ!服部」。1番サビ終わりで

「行くぞ服部ー!」

と加速する流れは同じだが、いつもの「ワンツースリーフォー!」をメンバーで回す下りはなし。代わりに再びテンポがゆっくりになり、もっさがギターを置いて袖へ捌けると、「CD」「ライブ」と書かれた看板を持ってくる。そしてメンバーの方を向いて立ち、「ライブ」を掲げると加速、「CD」を掲げると減速…といったように両方のバージョンを見せるという粋なパフォーマンス。
もっさの挙動がどんどん忙しなくなっていくにも関わらず、CD版であろうとライブ版であろうとアンサンブルがバッチリ決まっているのが本当に凄い。その中でも、唯一ほとんどアイコンタクト無しで冷静に合わせていたのがクールだった藤田がお立ち台に昇ると、もっさが「ライブ」の看板を掲げ、藤田のベースソロが始まる。
会場が湧く中、今度はむーさんがショルキーを引っ提げてフロントに登場し、こちらもお立ち台の上でキーボードソロを披露。女性陣2名のソロバトルに会場のテンションがどんどん上昇していく。すると次はカズマ・タケイのソロに移り、またもや会場は熱狂。更に朝日がもっさから看板を奪うと、今度はもっさもお立ち台に立ってギターソロ。間髪入れずに最後は藤田、もっさ、朝日、むーさん全員がお立ち台に立つという超長尺のパフォーマンス。まさかこんなことができるようになっているとは。この鮮やかな演奏っぷりは、間違いなくネクライトーキーにしかできないエンターテイメントだ。
しかし演奏がブレイクすると、やっぱり最後は観客の掛け声に合わせてキメをビシッと、合計14回決めてみせた。合計して8分以上繰り広げられた活劇のような一幕に、鳴り止むことのない拍手が送られた。
それでもなお、

「めっちゃ楽しい!ずっとやってられるわ」

と朝日は実に楽しそうだ。彼は以前のインタビューでネクライトーキーについて

「技術はタケちゃん(カズマ・タケイ)に任せっきりでまだまだ」

と語っていたが、今日は

「かっちょええとしか言えん」

と満足そうだ。

気づいたら大型のカメラがあちこちに置かれ、明らかに今日の模様が映像化される予感が漂う中、スペイシーなキーボードが印象的な新曲を披露すると、「音楽が嫌いな女の子」へ。曲の後半にはMVにも出演していたアウトレイジ前田が同じ格好で登場。「石風呂運輸」と書かれた段ボール箱から無数のボールを客席に投げ込むサプライズを見せた。
ネクライトーキーの一番の魅力は音楽への純粋な愛だと思っている。それはバンドアンサンブルや、メンバーの一挙一動、奏でるフレーズの一つ一つに溢れんばかりに宿っているし、ライブではそれが更に顕著だ。それ故に

「愛してるけど音楽大変ね」

といった気持ちになることもあるけど、最後は

「ほらもっと掻き鳴らせ」

と歌う。朝日をはじめとして、やっぱりこの5人は音楽に生かされているということを本人達がよく自覚しているし、だからこそネクライトーキーの楽曲は、自分のように音楽が必要な人に強く響くのだろうな、と思う。音楽は腹を満たしてくれないし、過去の傷跡を消し去ってはくれない。でもこうして弾丸スケジュールで東京まで向かう程に、自分にはネクライトーキーが必要だと強く思うのだ。

「5! 4! 3! 2! 1! FIRE!」

の掛け声もバッチリ決まった「オシャレ大作戦」では銀テープを噴射。ライブを見る度に研ぎ澄まされていっているカズマ・タケイやむーさんのソロ、

「BLITZヘヘイヘイ」

臨機応変に歌詞を変えるスタイル等、最早ネクライトーキーのライブには欠かせない要素が詰め込まれた楽曲だが、

「やるしかない ここまで来た」

の「ここ」がBLITZなのだ、と思うと、とても感慨深くなった。

そしてラストは「遠吠えのサンセット」。何度となくライブの最後を託されてきたこの楽曲だが、改めてBLITZという舞台で噛み締めて演奏しているメンバーの姿もよく見えたし、1階スタンディングエリアには小さなモッシュピットが出来ていて、まるでこのバンドのフロアに新たな芽が芽吹いたのを感じた。

朝日がもっさのギターを手にしたことで「まさか朝日が歌うのか?」と期待させて登場したアンコール。もっさが

「ワンマンも楽しかったけど、私達スリーマンの自主企画もやってるんで」

と12月に自主企画「オーキートーキー」の開催を発表。GRASAM ANIMALの時だけは少し歓声が小さかったが、同世代のFINLANDSとPELICAN FANCLUB、むーさんの大好きなパスピエの発表にはフロアが湧いていた。
そして朝日がツアーで少しずつ新曲をやっていたことを話題にすると、2ndアルバムを現在制作中であると発表。更に、そのアルバムを引っ提げてソニーミュージックからメジャーデビューすることも併せて発表された。正直、これだけハイクオリティなポップセンスを持つバンドがメジャーに呼ばれることは時間の問題だと思っていたが、やっぱりこうして目の前で発表されるとすごく嬉しかったし、3月のワンマンでむーさんが正式加入した時と同じように、拍手はなかなか鳴り止まなかった。

アンコール1曲目は

「北へ向かえば」

というフレーズが繰り返される新曲。カズマ・タケイがパッドを駆使するなど、バンドの新たな一面がどんどん開かれていく楽曲だ。今日やった新曲がどのような形で収録されるのかはまだわからないけれど、常に好奇心の赴くままに進み、自分達が楽しい・面白いと思うことを突き詰めてきた5人なら、これからも大人を巻き込んだ本気の遊び、本気の音楽を見せてくれるだろうと信じている。
朝日にとっては2度目のメジャーデビューになるが、こうして再びメジャーシーンに出向くということは、彼が心からネクライトーキーを誇りに思っているからだろうし、これからもネクライトーキーとして転がり続けていく、という決意と覚悟の表れだろう。

最後に演奏されたのは「ティーンエイジ・ネクラポップ」。朝日はお立ち台の上で、かつての自分自身に捧げるように弦の切れたギターを弾いていた。最後の長い、長いコール&レスポンスは、見えない未来を待ち構える賛歌のように、ずっと会場に響いていた。

「涙を拭いて」の歌詞に

「そして一緒に戦おう」

という一節がある。自分が辛かった時期にこの曲を聴いた時、こう言ってくれる人をずっと探していたんだ、と感じた。だから自分にとってネクライトーキーは、追いかけていく存在ではないし、一緒に遊ぶだけの存在ではない。一緒に気難しい現実と戦い、立ち向かっていく戦友だと勝手に思っている。一緒に戦ってくれる仲間がいるのは心強い。
メジャーデビューおめでとう。厄介なことも増えるだろうけど、それでもなんとかやっていこうよ。

そしてマイナビBLITZ赤坂、初めて来たけれど思い出の場所になった。ライブハウスとしての営業が終了することはすごく残念だけど、形を変えてもまた機会があれば絶対に帰って来たい。また一つ、思い出の場所が増えた。
散々な一日だったけど、このバンドの晴れ舞台を見れて本当によかった。

Hump Back 僕らの夢や足は止まらないツアー @Zepp Osaka Bayside 2019/9/16

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。













全52公演、来年の4月にまで及ぶロングランのツアーを敢行中のHump Back。大阪には2度訪れるのだが、その内の一つが今日のZepp Osaka Bayside公演、しかもチケットはソールドアウト。メジャーデビューは去年とはいえ、高校時代にバンドを結成して10年、遂に大阪で一番でっかいライブハウスに到達したメンバーの気持ちは計り知れない。

巨大なバンドロゴが飾るステージに、ハナレグミ「ティップ ティップ」を流しながらゆったりと登場し、林萌々子(Vo,Gt)がいきなり歌い出したのは「星丘公園」。これは予想外の始まりだったが、どうやら今回のツアーはこの曲を先頭に据えていくようだ。新たなチャレンジもある中、地元の大阪であるからか、林の伸びやかな歌声はいつにも増して痛快だ。

前回ライブを見たのはラブシャだったのだが、その時以上に驚いたのが美咲(Dr)のドラムの進化っぷり。こうしてライブハウスで聴くとめちゃくちゃどっしりしている。決して派手なパフォーマンスを持っているドラマーではないが、堅実なプレイと佇まいからは頼もしさすら感じる。そんな美咲を紹介しながら、林が

「うちにはスーパードラマーがいるんで、みんなは拳と声担当で」

と手拍子を制する姿はいつも通り。

「高速道路にて」では高速のトンネルを思わせる赤と白の照明が疾走感を後押しし、いつもよりテンポの速い「ヒーロー」では

「僕だっていつか あのヒーローみたいに歌えるかな」

と歌う。この後のMCでも判明していたが、Hump Backのライブには10代のお客さんが多い。彼ら彼女らにとっては、今この瞬間にステージで演奏しているHump Backこそがヒーローなのだろう。

「一番でっかいライブハウスに、でっかい声で歌いに来ました!」

とBaysideのステージに立てたことを喜んだ林。

「色んな遊びがあるのにライブハウスを選んでくれてありがとう。遊び方は自由やから、好きに遊ぼうな」

と語り、最新アルバム「人間なのさ」からは「オレンジ」が一発目に奏でられた。

ぴか(Ba)の歌うパートも印象的な「MY LIFE」から「卒業」とテンポよく曲が続くと、「VANS」「サンデーモーニング」では今もこの町のどこかで起きている日常のワンシーンが丁寧に切り取られる。
Hump Backは自身のその目で見た景色や経験、自分や誰かに抱いた感情を素直に楽曲に還元する。そこに一切の捻れはないし、言い換えればとてもナチュラルな楽曲だからこそ、リスナーが思い思いの追体験を重ねることができる。これが東名阪のZeppを埋めきった彼女らの今の強みだ。

…というのは理屈っぽい話で、きっとHump Backはそこまで考えてやっていない(だからと言って何も考えずにやっているわけでもないだろうけど)。ただ音楽と純真無垢な心で向き合い、ロックバンドを真っ直ぐに信じてきた。そんなピュアなエネルギーから生み出された音楽に、多くの人が価値を見出だすのだろう。
林は以前のインタビューで

「世の中に優しくない人なんておらんと思う、という言葉を信じたい」

と語っていたが、そんな彼女のスタンスは

「確かにあいつは逃げたけど 走り方は悪くなかった」

というフレーズが印象的な「Adm」にも繋がっているのだと思う。

「高校の友達がライブに来てるんです。あの頃のことは覚えてないけど、歌にしたから思い出せる」

と語って始めた「十七歳」、

「地元の大阪なんで、元彼の曲を2曲持ってきました」

と林が悪戯っぽく笑った「コジレタ」を経て、MCではぴかが仲のよかった友達の結婚式に呼ばれなかったというエピソードを語る。

「ももちゃん(林)も昨日結婚式に行ってたよね」

と話を振られた林は、立て続けに友人の結婚式を訪れたことをきっかけに、大人になることは悪いことばかりではないことだと気づいたという。

「昔は大人になるのがダサいと思っていた。でも今は違う。めんどくさいことは増えたし、怖いもんも色々増えたけど、あの時はどうしようもできなかったことに折り合いをつけられるようになった。それに、大事なものを守れる力が身に付いた」

と「生きて行く」へ繋げる。彼女らはきっと年をとることを恐れていないし、そういうことはきっと大した問題ではなくて、年をとったなりの楽しみ方をきっと見つける。自分にはそんな考え方が羨ましいと感じたし、

「大事なもんで大事な人らを守れるのはサイコー!」

と突き抜けるような笑顔を見せたメンバーからは、初めて「月まで」を聴いたときとは比べ物にならない陽性のエネルギーを感じた。

渾身の「ワンツー!」が響き渡った「短編小説」では、

「ロックの中に答えはない!答えは自分の中。ロックを聴いて感じたことが答えや!」

と林は思いっきり助走をつけて客席に飛び込む。ギターソロは全く弾けてないけど、気にならない。Hump Backや自分が今までロックを、ライブハウスを選び続けてきた理由がそこにあったから。

「未来に光はない!自分が光るんや!」

と青い照明が突き抜ける「クジラ」もそう。

Hump Backの、ひいてはロックバンドのテーマソングとも呼べる「僕らは今日も車の中」、

「今 目に見えないものを探している途中」

と歌う「いつか」の2曲は、作られた時期こそ違えど未来へ視線が向けられている。よく夢を追いかけよう、みたいな台詞を聞くが、Hump Backにとっては今を全力で泣き、笑いながら生きることが未来へ向かうことなのだろう。
ロックバンドはいつだって答えを押しつけない。この2曲も、

「私らは夢も足も止めるつもりはないけど、君はどう?」

とこの場にいる一人一人が問われているようだ。

そんな「君はどうだい?」のフレーズが繰り返される「月まで」から、一際大きな声が上がったのは「LILLY」。「生きて行く」から「LILLY」までの流れは夏フェスの延長線上にあるような流れだったが、今後のツアーでこのゾーンはどんな変化を遂げるのか。
先日、ドラマ主題歌に抜擢された「恋をしよう」は、アルバムでも終盤に収録されていることもあって、明るい曲なのにそろそろライブが終盤に来ていることを悟らされて寂しくなる。

「これからもライブハウスの最前線として頑張っていきます」

と「拝啓、少年よ」、「今日が終わってく」を連発してライブは終了。相変わらず

「ああ もう泣かないで」

ってフレーズには泣きそうになるし、自分ももっと熱くありたい、という気持ちを彼女らから受け取ることができている。

アンコールはなさそうな雰囲気だったが、鳴り止まないアンコールに応えて

「やります!」

と再登場。メンバーの関係者も多く来ているからか、林は昔はイケイケだった、ぴかは酒癖が悪い、美咲は「満員御礼」が読めない、とそれぞれのメンバーからの暴露話もあった。

「大きいところでやるのは目標じゃないけど親孝行になる」

といったMCもあったが、やっぱり人前に立つことが多い以上、バンドは人柄が取り柄になる生き物だし、そういう意味では彼女らはちょっと心配になるぐらいお人好しなバンドだ。でもそういう所が色んな人を惹き付けているんだな、とも感じた。
「ゆれる」は確かに夏の終わりにぴったりだったし、ラストの「嫌になる」は

「あいつでさえ知らない場所」

のライブハウスでまたいつか再会できることを暗示しているように思えた。

まだまだツアーは続く。同じようにこの三連休が終わったら、我々の日々も続く。今日Hump Backを聴いて、心の中にポッと芽生えた光は、明日からの我々を少し優しくしてくれるかもしれない。