NICO Touches the Walls 終了によせて
https://natalie.mu/music/news/355543
初めて彼らの存在を知ったのは2012年、夏。スペシャで見た「夏の大三角形」だった。
「3秒間 君に見とれて いま全力で恋してる夏の大三角形」
というサビに一瞬で惹かれた。
当時の自分はMステが主な情報源で、地上波から流れるJ-POPが全てだと思っていた。J-POPは歌詞がわかりやすい。テロップとして流れるくらいだから、歌詞をなぞれば一聴しなくてもどんな曲なのかわかる。
そんなわかりやすい曲ばかり聴いてきた自分は、この曲に度肝を抜かれた。いま全力で恋してる夏の大三角形って何だ?と。比喩にしてもわかりづらい表現だ。
でもなんかいい。
気づいたらその年の夏はこの曲ばかり聴いていた気がする。
TSUTAYAでシングルもレンタルしてきた。カップリングの「夕立マーチ」の歌詞に
「女子高生の白いブラウスが透けてる」
という一節があって、思春期真っ盛りだった自分は夕立後のそんなシチュエーションを想像してドキドキしたりしていた。「ラッパと娘」は原曲も知らなくて当時は聞き流していたけど、この当時はNICOのアレンジ力の凄さにはまだ気付いていなかった。
NICO Touches the Wallsとの出会いはそんな感じだった。
https://m.youtube.com/watch?v=bT2z6tWRdc0
2013年。彼らは「夏の大三角形」をも越えんとする名曲を生み出した。「Mr.ECHO」だ。
「繰り返そう どんな光も 跳ね返してく強さで」
凛とした力強い歌詞、感情のこもった古村のギターソロ、今でもこの曲を聴くと自然と涙が出てくる。たくさん勇気をもらった。
https://m.youtube.com/watch?v=tSRd11Wmte4
「Shout to the Walls!」もたくさん聴いた。「鼓動」や「ランナー」は今でもカラオケでよく歌ったりしている。
7月には「ニワカ雨ニモ負ケズ」をリリースしていたが、MVにバレリーナが登場していたのを「似合わない」と散々に言われていたのも懐かしい。
https://m.youtube.com/watch?v=GEhOPFbTERY
2014年。この年のNICOは「リベンジ」をテーマにしていて、武道館にも立ったりと、とてもギラギラしていた。かっこよかった。
「何回変わってやるって誓ったんだよ」
と繰り返す「天地ガエシ」にもたくさん助けてもらった。今でも大事な一曲だ。
あと6月にリリースされた曲なのにMVの背景に思いっきり桜が映っているのにツッコんだりしていた。
https://m.youtube.com/watch?v=nWnePUo6c-w
年末には初めてライブを見た。やっぱりライブでのNICOもかっこよかった。でもカウントダウンイベントだったから、聴けたのは7曲ぐらい。たくさん聴きたい曲はあった。物足りなかった。
そう言えばNICOは「手をたたけ」では宙ぶらりんにされたり、「まっすぐなうた」では爆走するトラックの上で演奏していたり、「ローハイド」では森で変な生き物に追われたり、「TOKYO Dreamer」では光村がマリオネットをやったり…と、やたらと身体を張ったMVが多い気がする。そんなMVの一つ一つもたくさん楽しませてもらった。
※手をたたけ
m.youtube.com/watch?v=MTcqIgVBfuk
※まっすぐなうた
https://m.youtube.com/watch?v=6_fDwHh31i8
※ローハイド
https://m.youtube.com/watch?v=akALF7vqJ_0
https://m.youtube.com/watch?v=82_aGqrIcWc
2015年。まず彼らは「HOWDY!! We are ACO Touches the Walls」をリリースした。今でもお馴染みのACOスタイルで、自分達の楽曲をセルフカバーするというコンセプトアルバム。聴き慣れた曲のはずなのに、自由自在なアレンジを経て全く新鮮な輝きを放っていた。こうしたアレンジ力に関しては、今でもNICOの右に出るアーティストは存在しないと思っている。
この年は2回ライブに行った。一度目はコンセプトアルバムをリリースした時のツーマン、「ニコ タッチズ ザ ウォールズ ノ フェスト」。UNISON SQUARE GARDENと対バンしていた。ライブハウスで見るのは初めてだったし、けっこうメンバーも近くてすごくドキドキしていた。
二度目は「まっすぐなうた」のリリースに際して行われた「まっすぐなツアー」。この日は高校時代に所属していた部活の引退の日だった。部活が終わり、みんなで思い出作りに花火をしようとしていた同級生や後輩を横目に、ただ一人オリックス劇場へ駆け足で向かった時のことは今でも覚えているし、「Mr.ECHO」をようやくライブで聴けたの感動したことも覚えている。
しかし、これがNICO Touches the Wallsをワンマンで見た最初で最後のライブだった。
それから自分は、何故かNICOのライブからは遠ざかっていった。音源はずっと追いかけていたのだが、大阪にライブに来ることがあっても「まあいいか」と見逃してしまっていた。
きっと短期間にたくさんライブを見た(当時の自分には半年で3回もライブを見るというのはけっこうなペースだった)ことで、「いったん離れよう」と無意識にNICOを遠ざけていたのかもしれなかった。
今あの頃に戻れるなら、昔の自分をあらゆる手段で説得しにいきたい。「好きなバンドは今のうちに見ておかないと後悔するぞ」と。
2016年。久しぶりにアルバム「勇気も愛もないなんて」がリリースされた。しかし収録曲のほとんどはシングル曲。光村はインタビューで
「シングル曲もアルバム用にミックスを変えたりしてるから、違いを楽しんでほしい」
と発言していたが、バカな自分には違いがよくわからなかった。でもNICOがアルバムをリリースしてくれるということだけで嬉しかったし、とことん生の楽器に拘っていた彼らが「フィロローグ」みたいな曲を作っていたのにはびっくりしたし、やっぱりアルバムは最高だった。
この年は年末に冬フェスでライブを見た。ライブを見るのは久しぶりだったが、やっぱり彼らは唯一無二のかっこいいバンドだと再認識できた。それでもワンマンに行こうとは思わなかった自分をぶん殴ってやりたい。
2017年。この頃からNICOはリリースのペースが落ちてきた。しかし、音源リリースまで約1年、ようやく到着した「OYSTER -EP-」はやっぱり最高だった。いつも通りのNICO盤と同じ曲をアコースティックアレンジしたACO盤の2枚組。NICOにしかできない芸当だと感じたし、NICOのフレッシュさと円熟味が同時に感じられたCDだったと思う。
この年のライブでは浅野尚志がバイオリンとして加わっており、「THE BUNGY」などをスリリングにアレンジする様は唯一無二だった。
彼らはSWEET LOVE SHOWERにずっと出演し続けており、自分はそのライブ映像を毎年チェックしていたのだが、NICOは同じ曲をやるにしても前の年と同じアレンジでやることはほとんどなかったと思う。それくらい絶え間なく変化を繰り返し、その変化の全てをNICOたらしめてきたとんでもないバンドだった。
2018年。この年もリリースは「TWISTER -EP-」のみ。音源もそうだが、光村がインディーズ初期のようなボサボサのロン毛になり、さらに金髪になっていたりと、アニソンを手がけていた頃とは真逆のどんどんニッチな方向に向かっていく彼らにやはり目が離せなかった。
そんな彼らの音楽への探求心が結実したのが、今年6月にリリースされた「QUIZMASTER」だった。
「何度も夢を見るよ 信じてたいんだ」
という前向きな歌詞とは相反してどこか陰のあるサウンドが印象的なリード曲「18?」をはじめとして、このアルバムはどん底から希望を見据えているような閉塞感を感じる。
https://m.youtube.com/watch?v=ko0DHDT7n4g
フェス文化が発展し、ロックがみんなで共有して楽しむ音楽に変容していった現在のシーンで、こんなに内向きなベクトルのアルバムを彼らがリリースするという意味合いを感じたし、予想通りセールスはふるわなかったけど、自分の心にはとても突き刺さった。間違いなく2019年を代表するアルバムだ。
今年のSWEET LOVE SHOWERではメインステージに立っており、そんなアルバムからもセットリストに入った曲があったりした。ライブ後には
「みんなが作ってくれた「フェスのNICO」と「最新のNICO」はずっと別物だと思っていたけど、そんなこともないんだな」
とツイートしていたし、バンドのみならず自分もそんなライブに手応えを感じていた。
まだまだNICOは懐かしいと言われるには早すぎる。これからもどんどん最高を更新していってくれる。
そう思っていたからこそ、
「NICO Touches the Wallsが終了する」
というニュースは今でも信じられない。
たまたまスペシャでMVを見た日から、3秒間どころか7年近く彼らを追いかけてきた。もはや彼らは自分にとってのヒーローだ。この先も、ずっと自分の側にはNICO Touches the Wallsがいると思っていた。
悲しい。悲しいし、当分は信じられないけれど、連名でのコメントで彼らは
「さあ。『壁』はなくなった! 一度きりの人生、どこまでも行くよ!」
と締め括っている。彼らは未来に希望を抱いている。
新しい道へ進む彼らを、自分は応援するしかないのだろうか。
cinema staff BEST OF THE SUPER CINEMA JAPAN TOUR @梅田CLUB QUATTRO 2019/11/9
※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。
昨年にデビュー10周年を迎え、来年は地元の岐阜で2日間にわたる自主企画を控えるcinema staff。9月にはインディーズ期とメジャー期に分けて2枚組ベストアルバムをリリースしており、このツアーはそのベストアルバムを引っ提げてのものだ。
自分が彼らを初めて知ったのは「望郷」の頃から。それから程なくして大型タイアップがついたことも含めて、ずっと彼らを追いかけ続けてきた。
しかしライブに関しては、彼らが大阪でライブをするときは謀ってるのかと思うぐらいほぼ毎回予定が被りまくっていて、これまで全く行くことができなかった。やっと去年のアルカラとのスプリットツアーで初めて見れたぐらいだ。もちろんワンマンは初めて。
開演時間丁度にフロアが暗転すると、SEに乗せて4人が一人ずつ登場。三島想平(Ba)はロンT、辻友貴(Gt)と久野洋平(Dr)はTシャツと動きやすそうな服装だが、飯田瑞規(Vo,Gt)はただ一人ベージュのジャケットを羽織っており、3人とは違って凛とした雰囲気を放っている。
そんな飯田が桃色の逆光に照らされながら
「行け 僕を放て 細いその目 開けたら新世界だ」
と歌い出すと、彼の合図で一気に照明が点き、「新世界」からライブが始まった。決して広くないクアトロのフロアが一気に開け放たれていくようなドラマチックな楽曲。ベストアルバムに収録されている新曲だが、最新のシネマが一番かっこいいということをこれでもかと証明しまくっている。
続いて「GATE」。残響ブームにあった当時のロックシーンにおいて、cinema staffの名を轟かせたきっかけとなった一曲だ。メンバーも勿論だが、サビを大声で歌うオーディエンス一人一人にとっても思い入れが深いことだろう。
「その孤独と手を取り合う あなたはとても美しい。
でも、未来と手を取り合うあなたは更に美しいでしょう。」
というフレーズを考えついた三島は本当に天才だと思うし、彼の紡ぐ言葉がとても大好きなのだが、そんなフレーズを合図に疾走するサウンドに切り替わる「望郷」をはじめとして、彼らは故郷への思いが込められた楽曲がとても多い。この日のMCでも来年に開催するOOPARTSの宣伝をし、飯田が
「今年できなかった分パワーアップしてます。岐阜の伝説になるかも……」
と自信を覗かせていたほど。そう言われると、いつか彼らの出身である岐阜にも行ってみたいと思わせてくれる。
辻のエッジィなギターを皮切りに「白い砂漠のマーチ」でさらに勢いづけると、「daybreak syndrome」「君になりたい」と懐かしい楽曲が続く。
飯田の煽りから飛び込んだ「西南西の虹」は自分がcinema staffを知ったきっかけになった曲だ。とびっきりノイジーなのだが、そんな轟音の最中にいても飯田の歌は楽曲の芯となり、一筋の道標のように響いてくる。これこそがcinema staffの強みだ。
間髪入れずに
「俺達に奇跡はいらない!」
と「奇跡」では今日この日の思い出を茜色に染め上げる。何もかもをかなぐり捨てていく衝動性を生み出しているのは、久野のキレキレのドラムを軸とした爆発力のあるサウンドだ。
更にこの曲では中盤に辻がドラムスローンを持ち出し、飯田の隣に設置して座り込むという場面も。4人の中で一番自由奔放なステージングをしている彼だが、そんな彼の突然の行動をスタッフは顔を綻ばせながら見守っていて、チームの空気の良さを感じることができた。
MCではベストアルバムの話題になり、österreichの高橋國光と共作した「斜陽」の話へ。飯田が山中湖で行われたレコーディングの様子を
「楽しかったよね」
とメンバーにも共感を求めるも、なぜか全員と目が合わず、会場が微妙な空気になる。それで動揺したのか、飯田がキーボードを弾く次の「Name of Love」では伴奏がミスしまくって一部がアカペラになってしまっていた(その後にはちゃんと久野と相互で「ごめん」と謝りあっていた)。でもこういう狂いがあるのがロックバンドのライブだし、「珍しいな」って感じで笑い飛ばせるのもロックバンドならではだな、とも思うわけで。
その後はちゃんと調子を取り戻し、「制裁は僕に下る」「シンメトリズム」と初期のダウナーな楽曲が続く。飯田の美しい歌声はこういう内省的な世界観もすごく似合うし、「新世界」やこの後に演奏された「HYPER CHANT」のようなスケールの広い楽曲を凛としたメロディで彩ったりもする。本当に類い稀なボーカリストだな、と思うし、そんな彼を活かしまくっている三島の楽曲群も本当に素晴らしい。
久野の弾幕のようなドラミングが高揚感を煽る「優しくしないで」、「第12感」を経て、MCではいつもより男性客が多いことに触れつつ、
「みんなのおかげでロックバンドやれてます、ありがとう」
と感謝を告げる。今でこそベストアルバムというのは年にたくさんのアーティストが趣向を凝らしながらリリースしてきているが、当然のことながらベストアルバムをリリースするというのは簡単なことではない。そもそも数々のロックバンドがこうしてライブを続けてこれていること自体が奇跡に近いのに、コンスタントに最新の音源をリリースし、その度にちゃんとそれまでの自分達を超えていったという自信が積み重っていなければ至ることができないポイントでもあるわけで。そこにcinema staffも到達したということが本当に嬉しいし、バンドを続けてくれてありがとう、とこちらこそ感謝を告げたくなる。
「自分のために歌ってくれ!」
と「HYPER CHANT」でシンガロングを巻き起こすと、ラストスパートは最初期のアルバムに収録されている「AMK HOLLIC」から。ここまであまり立ち振舞いに感情を乗せてこなかった飯田が、衝動的なサウンドに乗っ取られたかのようにギターをかき乱す。ボーカルもがなり気味だし、彼は一度火が点くと抑制しきれない、本当はアツいタイプのボーカリストなのだろうか。
「俺達がスーパーロックバンド、cinema staffだ!!」
と三島がシャウトしたのはスーパーロックバンドのテーマソング、「theme of us」。前のMCで飯田は
「これだけ世の中にロックバンドが溢れてる中で、よく見つけてくれたね!」
と語っていたが、そんなMCを経て聞く
「僕はあの日に曲がり角を曲がらなくて だけど今の僕もそんなに悪くないな」
というフレーズはいつも以上にグサリと突き刺さる。一瞬の選択の積み重ねでこうしてcinema staffに出会えたことが本当に嬉しいし、ベストアルバムをリリースするまで追いかけてこられたこともとても幸せなことだな、と感じられた。
最後はツアーにも帯同している高橋國光を3人目のギタリストに迎え(しかもポジションはセンター)、
「この曲が生まれたことでいろんなことが精算できた」
という「斜陽」を披露。あのベストアルバムの曲順で聴いてもそうだし、この曲を聴くとどうしても胸が苦しくなる。自分の内側に、自覚はないけれど確かに自分自身が重ねてきた思い出に支えられているような感覚が生まれる。
その思い出の正体を掴むことはできないけれど、そこから溢れてくる暖かさにどうしようもなく涙が流れそうになる。
冒頭の「新世界」もそうだったが、これもまたシネマの最新曲。つまり彼らはまだまだ古くなる存在ではないし、これからもずっと最高を更新し続けてきてくれるだろうな、という予感を感じられた。
アンコールでは久野と飯田がハイネケンを開けつつ、高橋も再び登場。
「ツアー2公演目だけど、千葉の時は僕らより早く会場入りしてた」
と三島も語っていたが、メディアやライブなどの露出がほぼないにも関わらず、高橋國光という人物は本当に愛されているな、というのをメンバーとのやり取りから感じた。
自分はthe cabsのことはあまり知らないが(plentyに中村一太が加入したときに「すごいドラマーが入ってきた」と感じたのが初見)、自分の後ろにいた人達はライブが始まるまで元cabsの首藤義勝が活動しているKEYTALKの話をしていたし、これだけ支持を集めているのには理由があるはず。今日のライブを通してcabsも聴いてみようかな、と思わせてくれた。
そんな穏やかな雰囲気のアンコールはösterreich名義でリリースされ、飯田がボーカルをつとめた「楽園の君」から。今日のセトリの中で唯一ベストアルバムに収録されていない楽曲だったが、この選曲からも高橋への愛が感じられた。
最後は
「偽物だって構わない!俺達には今しかない!」
と飯田が前半のクールさはどこへやら、といった叫びから「first song(at the terminal)」へ。もちろんこの曲も高橋がギターを弾き、ただでさえ鋭利なシネマのサウンドがより強靭になる。
「もっとたくさんの人にシネマを知ってほしい」
と自慢げに語っていた三島の目はすごく輝いていたし、きっとこの場にいる誰もが同じ事を感じているはずだ。
だからこそ、2019も2020も、その先も、ずっとダイヤモンドを磨き続けていってほしい、と思うのだ。
Official髭男dism Tour 19/20 -Hall Travelers- @グランキューブ大阪 201911/1
※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。
初めて聴いたのはたしか「What's Going on?」か「犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!」だったか。正直なことを言うと、その時のヒゲダンはテレビで紹介されることもあれど(たしかメジャーデビュー以前に関ジャムで「ゼロのままでいられたら」が絶賛されていた。今思えば先見の明があったなあ)、なんかパッとしないなあ、と思っていた。
転機が訪れたのは昨年10月。FM802で聴いた「Stand By You」のフックに惹かれ、「Stand By You EP」を聴いた。そこで自分がヒゲダンに抱えていたイメージが一気にひっくり返された。こんなに豊潤な音楽性を持っているバンドだとは想像もしていなかったし、まさに
「結果1発で180度 真っ白な歓声に変わるぞ」
という言葉が現実になったのである。
そこからのヒゲダンの爆進っぷりは説明するまでもないだろう。来年3月には大阪城ホールを含むアリーナツアーが決まっているなど、名実ともにスターダムへ駆け上がった。そしてここまでヒゲダンが支持を集めるようになったのは、先述したようなフックの効いたフレーズが多用されるようになったこととは無関係ではないだろう。ヒゲダンはただのポップスでは終わらないバンドだった。
そんなヒゲダンがグランキューブ大阪にやって来た。今日は2daysの初日。実はメジャーデビュー以前からひっきりなしにツアーを行っている、バリバリのライブバンドであるだけに、期待せざるを得ない。
開演時間を少し過ぎた頃、およそロックバンドのコンサートのものとは思えない厳かな深紅の幕が上がると、既にメンバーはスタンバイしており、その佇まいを見据えた人から大歓声を上げていく。1曲目は「イエスタデイ」。雄大なストリングスがこれから始まる旅の前夜の高鳴りを思わせる演出は、最新アルバム「Traveler」と同じ流れだ。最初は鳴っていた手拍子もいつの間にか止み、誰もが藤原聡(Vo,Piano)の歌声に酔いしれているようだった。
続いてホーン隊も登場し、
「走り出せ フリーダム」
と「Amazing」で火をつける。音源ではエレクトロな印象のあるこの曲だが、やはりライブとなると小笹大輔(Gt)の重厚なリフと松浦匡希(Dr)の生のビートが合わさってよりヘビーな印象を与えてくれる。
「Tell Me Baby」ではやはり長尺のセッションパートも加わり、小笹と楢崎誠(Ba)が同時にお立ち台に登壇するなど、臨場感のある演奏で会場を呑み込んでいった。
「久しぶりの大阪で今のヒゲダンをしっかり見せたいと思います」
と挨拶すると、「115万キロのフィルム」でハッピーなムードに…かと思いきや、流れるように
「笑っちまうよな」
とドスのきいた歌で「バッドフォーミー」、「Rowan」と続ける。幸せのてっぺんから一気にどん底へ突き落とすような流れを見ると、やっぱりヒゲダンはいい子じゃないんだなあ、と感じられる。
しかしその後は再び「ビンテージ」で温かなムードを取り戻す。この曲もそうだが、ヒゲダンの楽曲は今という瞬間にフォーカスした楽曲はそれほど多くない。これから訪れる未来や人生が明るくなるように、という願いが込められている楽曲群は、きっとこれから時間が経てば経つほど味が出てくるのだろう。
「ここから後半戦、みんなで楽しんでいきませんか!」
と会場に発破をかけると、とびきりポップな「最後の恋煩い」ではハンドクラップを促す。少し間が空いて、楢崎がバックバンドのサックス担当と二人っきりになり、「ゼロのままでいられたら」をサックスソロでしっとりと演奏。そのままベースをバックに任せ、楢崎がサックス、さらにはボーカルとして前に躍り出る「旅は道連れ」へ転がっていく。この曲では小笹もボーカルを担当したり、松浦が合いの手を入れたりしているのだが、ヒゲダンは本当に4人とも歌が上手い。小笹は前半はマーチングバンドのように太鼓を叩いていたなど、マルチプレイヤーっぷりも健在だ。
「ブラザーズ」 では楢崎がバックバンドを前方に呼び込み、サビのリズムに合わせてステップを踏む。松浦のドラムソロが挟まれたり、藤原が音楽隊のようにメンバーを引き連れたりとハイライトの多い楽曲だが、ステージにいる全員が笑顔で、心の底から音楽を楽しんでいる様子が伝わってくるし、それが客席に伝搬していってるのもわかる。
一旦暗転し、アメリカっぽい煽りが静寂を突き破ると、ヒゲダンで最もハードな「FIRE GROUND」が高らかに鳴らされる。開演前には今日再結成が発表されたMy Chemical Romanceが流れていた(もしかしたら「Pretender」の歌詞とも掛けていたんだろうか)が、藤原や小笹は元々はこういうハードな音楽を趣向していた関係。そんな二人のルーツがふんだんに発揮されたナンバーだが、やはりこの曲の主役は小笹。
「うちのギターを聴けー!」
と楢崎が号令をかけると、ステージ中央で片膝をつきながらメタラーばりの高速フレーズを連発する小笹はまさにギターヒーロー。
「大阪まだまだいけるよな!?」
とテンションはそのままにホーンアレンジが豪勢に彩る「ノーダウト」をぶっ放つと、さらに「Stand By You」でもホーン隊を組み込んだアレンジを披露。もちろん手拍子もコール&レスポンスもバッチリだ。最後には客電も灯り、会場と共に我々の心までパッと明るくなったようだった。
メンバーに一人ずつスポットライトが当たり、丁寧に始まったのは「Pretender」。ヒゲダンという存在を多くの人に知らしめた名曲中の名曲なのだが、最新アルバムを聴けば、彼らが売れたきっかけは「Pretender」だけではないことが分かると思う。もう去年の時点で彼らのポップセンスは覚醒モードに突入していたし、「Pretender」はその過程にたまたまリリースされていたに過ぎなかったと。オレンジの光が会場を照らす様子は、きっとアリーナで聴いたらさらにスケールアップしているんだろうな、と予感させた。
最後は
「今日が終わるのが悲しいから 朝日よ2度と出てこないで」
とバンドの切実な思いが放たれる「ラストソング」。上述した歌詞だけを見ると悲嘆的な楽曲なのか、と思ってしまうが、歌詞と正反対にサウンドは夜明けをイメージさせる温かなムード。
確かに今日が終わるのは悲しい。けれど朝日が昇るからこそ、我々はまた会うことができる。そんな真逆の感情を実に見事に表現した楽曲だった。アウトロが流れながら深紅の幕が下りてくる様は、ヒゲダンと我々が否応なしに引き離される切なさもあったけれど、どこか希望を含ませられる余地のある、そんな終わり方だった。
ある意味ロックバンドっぽくない、ドラマチックな締め方をされたライブは、アンコールで再び幕が上がって早速曲が始まるという形で再開。かなりラフな格好になった4人は、「愛なんだが…」とここに来て1stミニアルバムの収録曲を披露。もちろん喜んでいた人もたくさんいたが、
「この曲知ってる人?」
と藤原が聞くとそんなに手は上がっていなかった。アルバムのリリースツアーとはいえ、こういうことが続くと昔の曲はどんどんやらなくなっていくんだろうか。
MCでは来年3月に大阪城ホールでライブをすることにも触れ、サカナクションのワンマンの時に城天でストリートライブをしていたということを告白(知らない人のために説明すると、大阪城ホールの前には長いストリートがあり、大阪城ホールでのライブがある日にはライブ帰りのお客さんをどうにか捕まえようとたくさんのアーティストが路上ライブをやっている。SCANDALとかは城天出身として有名)。そして自分達も憧れていた舞台にようやく立つことができる喜びを爆発させていた。
小笹や楢崎も忙しなくステージを動き回り、サイドステップのリズムを伝搬させていった「異端なスター」を経て、
「大阪といえばこの曲歌わなあかんやろ!」
と最後は客電を灯したところに「宿命」を投下して鮮やかにフィニッシュ。
「明日があるなんて考えていないです!」
と絶叫する藤原の歌もそうだが、本当にヒゲダンは音楽に対して、そして我々リスナー一人一人に対してとんでもなく誠実な姿勢で向き合っているバンドだな、と再認識する。だからこそ、彼らの曲は自分の心に届いた、と感じさせられる。曲を終えて名残惜しそうに去るメンバーの姿からも、そんな彼らの誠実さが垣間見えていた。
今後、ヒゲダンはもっともっと日本中に愛されるバンドになるであろう、という確信を持つことができた。しかもただ愛されるだけじゃなく、長い年月を通して愛されるバンドになるであろう、と。
それはもちろん楽曲の質が素晴らしい、ということもあるけれど、こうやってライブを見れば、いい人達がいい曲を鳴らしているからこそである、ということが一目瞭然なのだ。当たり前だが、こういうバンドこそが評価されるべきだと本当に思うし、ヒゲダンに仮に「ノーダウト」や「Pretender」といったセンセーショナルな楽曲がなかったとしても、売れるべくして売れたバンドであるのだな、とも思えてしまう。
これはもう大阪城ホールも行くしかないし、これからもライブに通い続けるしかない。そんな一日だった。ヒゲダンとは長い付き合いになりそうだ。今日の思い出もビンテージ、なんて言えるまで、これからもよろしく。
ずっと真夜中でいいのに。潜潜ツアー(秋の味覚編)@Zepp Namba 2019/10/30
※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。
いよいよ本日10/30に1stフルアルバム「潜潜話」をリリースし、勢いが加速しまくっているずっと真夜中でいいのに。。まだ数えるほどしかライブをやっていないのにもう既に確固たる地位を築きつつある、一言でいえばとんでもないアーティストだ。
そんなずとまよは現在、自身最長&最多ツアーの真っ最中。大阪会場は前回のBIGCATから3倍クラスのキャパを誇るZepp Nambaとなったが、当然のごとくチケットはソールドアウト。最早Zeppですらキャパが足りない状態になっている。
何度も訪れているはずのZepp Nambaだが、フロアに入った途端、まるで初めて来る場所を訪れたかのような感覚になった。ステージ上方には金属でできたプランターのような照明がぶら下がり、後方はこれもまた金属にうねる物体が絡みついているセット。中心には秋らしく、炬燵の上にツアータイトルにもなっている「秋の味覚」らしきものが置かれている。他にもびっくりチキンや時間のずれた時計など、目を引くものが幾つも配置され、それらの一つ一つが非日常感を醸し出している。
開演時間になると、まずはドラマーと、フジロックでも共演していたOpen Reel Ensembleが登場。このOpen Reel Ensembleが奏でるサウンドが実に変幻自在で、DJのようにスクラッチをしたり、サンプリングされた音に次々と奇妙なエフェクトをかけたりと、会場を呆気に取らせる。
続いてドラムのリズムに合わせてバンドメンバーが登場すると、最後に
「こんばんは」
と呟いて、炬燵の中から大歓声を浴びながらACAねが現れた。
すぐさまカセットテープが挿入される音を合図に始まったのは「脳裏上のクラッカー」。真っ赤なカーテンのような照明がステージを鮮やかに染める中で、やはり目を引くのはACAねの歌声。CD音源と間違うほどの正確さ。そして声量も、バンドの音に全然負けていない。しかも最後のサビ前には音源以上のロングトーンを響かせ、会場のボルテージを引き上げていく。こんな才覚のボーカリストが一体今までどこに隠れていたんだ。
もちろんACAねの歌声も素晴らしいのだが、バンドサウンドも負けず劣らずで素晴らしい。そこにOpen Reel Ensembleが音源とは違った細かなサウンドを演出し、まるで非の打ち所がない。
「勘冴えて悔しいわ」でも想像以上の演奏に圧倒される中、ACAねがギターを抱えて始まったのは「ハゼ馳せる果てるまで」。
ずっと真夜中でいいのに。はACAねがボーカルをつとめているということ以外のプロフィールは完全に伏せられている。当のACAねも顔出しをしていない為、ライブにおいては照明も絶妙な角度で顔が見えないようになっている。歌詞も決してわかりやすい部類ではなく、遠回りな言い回しが多いように感じるが、
「簡単に正解 ばらまかないでね」
というこの曲のフレーズはそんなずとまよの秘密主義っぷりが顕著に現れていると感じた。
ネットで探せばどんな答えも容易く見つかってしまう現代において、「秘密」がもたらすエネルギーの強さをずとまよは知っているし、今日ここに集まった人達は、そんな「秘密」を共有したいという魔力に引き寄せてきたのだろうな、とも感じる。
MCでは今日ついにアルバムがリリースされたことを喜んだACAね。そのアルバムから「居眠り遠征隊」、さらに
「でぁーられったっとぇん」
と怠惰な空気が漂うイントロから突き抜けるサビが爽快な「こんなこと騒動」ではACAねは足を蹴り上げながら歌う。ライブ全体を通してあまり激しい動きはしなかった彼女だが、その分感情の全てを歌に込めていると感じられる。
再びOpen Reel Ensembleが登場すると、「君がいて水になる」でライブはローファイなゾーンへ。ACAねの歌声は少女のようでありながら大人びた女性のようでもあるし、逞しく響かせているようで助けを求める弱々しい声のようでもある。まるで水のように不確かな歌声だ。
祭囃子の音頭に合わせてハンドクラップが巻き起こると、ACAねを含めたステージの全員がお面を被り、ずとまよのグッズではお馴染みのしゃもじ(今回のツアーは目玉焼きカラー)を掲げてハンドクラップならぬ‘しゃもじ’クラップに転換させると、ACAねが白装飾を羽織って「彷徨い酔い温度」へ。ずとまよの音楽はルーツが本当に謎なのだが、こういう曲を聴くと作曲者のACAねが和のメロディにも通じていることがよくわかる。
この「彷徨い酔い温度」もそうだが、ずとまよの楽曲はアーティスト名からも「真夜中」のイメージが強いし、眠れない夜に部屋の隅でこっそりイヤホンをかけて聴いているようなミニマムさがある。それはつまり、限りなく1対1に近い形態でコミュニケーションが行われているということ。ライブにおいては大勢の前で歌ってはいるものの、ACAねの歌声は自分にのみ集中されている、という感覚は、音源でもライブでも同じだった。
するとここでACAねとバックのベーシストがグラスを掲げ、カランとグラスを合わせると色が変わるというイリュージョンを披露(当てていなくても色が変わっていたけど)。その間にいつの間にかセッティングされていたソファーに深く腰を下ろすと、一昨日のYouTube Liveでも披露されていた「グラスとラムレーズン」へ。無機質なサウンドに乗せてだらりと振る舞うACAねの所作が、この楽曲の印象をより深くしていた。
そしてソファーに座ったまま、
「緑色 囲まれた この空間からはみ出したら負けだ」
という歌詞に合わせて緑の照明が貫くバラード「Dear Mr「F」」を歌うのだが、何かと色んな音を重ねがちなずとまよには珍しく、この曲はピアノの伴奏しかない分、ACAねのボーカルがいかに起伏に富んでいるかをたっぷり感じ取ることができた。
「どこに居ても もう答えが無いな」
という気持ちは、この場にいた人達ならきっと思い当たる節があるだろう。
「この曲は前が見えないぐらい必死な時期に作った曲なんです」
とACAねが「Dear Mr「F」」について解説すると、
「初期からライブでやってて、少しずつ歌詞を変えてきたりして。嫌になる時期もあったけれど、こうしてアルバムに収録されて、改めて聴き返してみるととても前向きな曲だなって思います。次の曲も前向きな曲です」
と「蹴っ飛ばした毛布」へ続ける。サビが終わった途端に耳をつんざくような轟音が鳴り響く様は、音源のイメージとは想像以上で少し驚いたが、こういう静と動のギャップがうまく表現できるのもライブならではだ。
ここからはそんなライブならではのアレンジがふんだんに盛り込まれた楽曲が続いた。まずは「眩しいDNAだけ」。最初の
「工場の煙で~」
の部分が置き換えられ、アレンジされた歌詞が書かれた紙はくしゃくしゃに丸められて客席へ放り込まれていった。さらに間奏では
「後で洗って食べて下さい」
と栗などを投げ込むだけでなく、ラストのサビ前にはまたしてもロングトーンを披露する場面も。ライブももう終盤に差し掛かろうとしているが、ACAねの声は全く疲れを見せていない。本当に凄まじいボーカリストだ。
続いて「サターン」では照明も相まって一気にディスコ色が強くなるのだが、そんな中においても楽曲のどこかに陰りが見え隠れしているのがずとまよらしい。曲の終盤には生演奏が打ち込みにシフトし、
「一緒に踊りませんか」
とACAねが楽器を置いたバンドメンバーと共に踊る。まるで誰にも明かすことなく、ひっそりと踊っているかのようで、「秘密」の魔力がよりいっそう強くなる。
一音目から大歓声を起こした「ヒューマノイド」ではリズミカルで疾走感のあるメロディが会場のテンションを否応なしに引き上げ、静から動へダイナミックに移り変わる「マイノリティ脈絡」へ繋げる。この曲では初めてACAねがステージの端から端までを歩き回り、それぞれの反応を窺っているようだった。
「最後に、正義を」
と本編最後は「正義」。ACAねが指揮者のようにバックの演奏を自在に操った後は、牧歌的なサウンドに真っ白な照明が映えるメロディで会場を思い思いに踊らせる。中盤には各メンバーのソロ回しが入るのだが、ギタリストの人はギターソロの後にバイオリンに持ち替えるというマルチプレイヤーっぷり。さすがこの盤石なサウンドを支えているだけあるし、演奏にも隙がないということをまざまざと見せつけていた。
アンコールに応えて再登場すると、ピアノとOpen Reel Ensembleを迎えて「優しくLAST SMILE」をぽつりぽつりと歌い上げる。
「ずとまよ 借りパク きなこもち」
とACAねの声がサンプリングされるなど、これもまたライブならではのアレンジが施された楽曲。そして「LAST SMILE」とか「good-bye」の発音がとてもいい。
「今日はこれから梨を剥きたいと思います」
と唐突にステージ上で梨を剥き始めると、「ちょうだーい!」と客席から声が上がる。剥き終わった梨をACAねが頬張った際には「おいしいー?」と聞いたりと、この辺は大阪ならでは(ACAねは返答に困っていたようだったけど)。
そしてやはり最後に歌われたのは「秒針を噛む」。ずとまよが大阪でライブを行うのはまだ2回目だし、今日初めてライブを見る人も多かっただろう。その中には、自分と同じようにこの曲がきっかけでずとまよに会えた人もたくさいるかもしれない。だからこそ、特にこの曲はリアルタイムで鳴らされるサウンドや歌声の一つ一つが突き刺さるように響いた。
サビ前のシンガロングは客席の声が大きすぎてACAねも驚いていたが、当のACAねもライブ序盤と全く変わらないほど伸びやかな歌声で歌っている。
真っ白な後光に包まれてメンバーが退場すると、会場左側に置いてあり、ここまで一切使用されていなかったスクリーンにバンドメンバーの紹介を含めたエンドロールが流れ、ライブは幕を降ろした。
ライブというのはやはり生身の身体から鳴らされる音楽を感受できる場であるので、アーティストの新たな一面に気づくことができる。しかし、今日のライブを終えても、ずとまよのことは全然わからなかった。
それは顔が見えない、とかそういう表面的な情報も含まれるが、それ以上に楽曲やACAねの仕草一つ一つが、何とも言葉に形容し難い曖昧さを伴っていた。そう思わせてくれるのは、先述したずとまよの「秘密主義」ゆえだろうけど。
ただ一つ確かだったのは、大阪では大きい方のライブハウスで、スタンディングエリアで大勢の人に囲まれて音楽を聴いていたのに、自分にだけ歌ってくれているような感覚がしたということ。約2時間、音楽を使った1対1のコミュニケーションを通じて、ACAねと心のどこかで通じ合えた気がした。
またライブに行かなければ。そう思えるライブだった。きっと明日になっても忘れてしまえないな。
フジファブリック 15th anniversary SPECIAL LIVE 「IN MY TOWN」@大阪城ホール 2019/10/20
FM802 30PARTY Eggs Presents MINAMI WHEEL @アメリカ村一帯 2019 2019/10/14
大阪のラジオ局、FM802が毎年開催しているMINAMI WHEEL。大小さまざまなライブハウスがひしめくアメリカ村一帯を巻き込み、400組以上のアーティストを呼び込むという、関西最大規模のサーキットイベントだ。
今年はFM802が30周年ということもあり、3日間開催される予定であったが、初日、2日目は台風の影響により中止。自分はもともと初日に参加する予定だったのだが、中止になったことが思ったより悔しくて、行く予定ではなかった3日目の今日に強行スケジュールながらリベンジすることを決めた。
・中村佳穂(BIGCAT)
1日の幕開けを飾るアクトは各方面から褒めちぎられまくっている中村佳穂。ラブシャではAimerと被ってしまっていたので、念願の初ライブだ。
SEなしでバンドメンバーと共にふらりと現れた中村は枯れた花束を腕に抱えている。
「台風大丈夫でしたか?この花束は友人の結婚式に渡そうとしてたものでした。…音楽は衣食住とは別だから、こういう災害の時には無力だと感じることもある。それでも、楽しむときには楽しんで、無気力な時に作った音楽が何かを生み出すと信じていくしかないと思います」
と思いを語った。このMCだけでも、彼女がどれだけ真摯に日々音楽と向き合って生きているかが充分に伝わってきた。
「この日の一音目に私を選んでくれてありがとう!」
と「GUM」からライブはスタート。普通、ライブというとMCと演奏はきっちりモードを変えて臨むアーティストが多いように感じるが、彼女にはそのような境界線が見当たらない。流れるように言葉を紡ぐし、MCがいつの間にかメロディをなぞっている。音楽を奏でているのではなく、音楽と一体化しているような神秘性を感じる。
「アイアム主人公」では中村佳穂BANDを紹介しつつ、
「ダウン」「戻って!」
の号令でバンドサウンドを自在に操る。更には「5」「1」など彼女のアドリブで数通りのキメを決めるのだが、「56」と無茶な数字でもキッチリこなしてみせる所にバンドの確かな技術と集中力の高さを感じさせられる。出演する名義上では「中村佳穂」だが、実質目の前でライブをしているのは「中村佳穂BAND」なのだ。
「Trust you」
と切実な歌が響く「q」を経て「LINDY」でフロアを心地よく揺らすと、ラストは「きっとね!」。終始笑顔で、本当に楽しそうな姿にこちらまで顔が綻んでしまう35分だった(MASAHIRO KITAGAWAのコーラスも最高!)。
中村佳穂の楽曲は、歌詞もメロディも誰も思いつかないようなアイデアで溢れている。端から見れば、彼女の音楽は既存のジャンルやスタイルへの破壊と創造のアプローチに満ちていると感じられそうなものだが、たぶん彼女はそんなに深くは考えていない。
例えるなら、既存の遊びに思いつきで新たなルールを追加したり、今までのルールを思いつきで無視したりしながら楽しさを追求していく子供のような純真無垢さが、彼女のオリジナリティを生み出しているのだろう。
そう考えると、各方面からの評価が高いのも納得である。
・osage(BEYOND)
ライブハウスの地下にライブハウスがあるという位置づけのBEYONDに登場したのは、実力のあるバンドを数多く輩出してきたmurffin discsのオーディションでグランプリを獲得した実績のあるosage。黒幕が開くと同時にメンバーが一人ずつ登場すると、「セトモノ」でライブをスタートさせた。
山口ケンタ(Ba,Vo)はベースボーカルなのだが、こういうバンドはベースラインがシンプルで味気のないものになってしまいがちなのに対し、このバンドはベースもよく動いている。それがよりグルーヴ感を生み出していたし、何より山口の歌声がいい。かなり好き嫌いの分かれそうなクセのある声だが、楽曲のノスタルジーを何倍にも引き上げていると感じる。
「FM802でも聞いたことあるでしょ?」
と「Greenback」をかき鳴らすと、
「こういうサーキットイベントは人の移動が激しいから、アップテンポな曲を続けていかないといけない。でも僕らはあえてこの3曲目にバラードを持ってきました。あなたの最高を更新します」
と「スープ」を披露。彼らがバラードにも自信を持っていることがよくわかるし、実際バラードでも勝負していけるメロディの強さを持っている。
メロディがいい、とは便利な言葉だなあとは思うが、彼らの紡ぐメロディは、思い出の中のほんの一瞬のワンシーンを鮮明に切り出す美しさを帯びている。最新アルバムから演奏された「アナログ」は、過去を美しく精算できない不器用な彼らだからこそ生み出せるノスタルジーの真骨頂を見た気がした。
「僕等は大丈夫さ」
と強がるように歌う「ウーロンハイと春に」でライブは終了。この声がもっと広く届けばいいのにな。
・ヤングオオハラ(SUNHALL)
「SUNHALL」という名前の通り、陽性のメロディを引っ提げ登場したのはヤングオオハラ。ハローユキトモ(Vo,Gt)はリハの時から蛍光色のシャツを着ているため、暗くてもめちゃくちゃ目立っている。何となく鬱屈とした空気がある地下のライブハウス空間では異様な明るさだ。
「Y.M.C.A.」のゴキゲンなリズムに乗って登場すると、「新」、「Magic」からスタート。彼らを見るのは列伝ツアー以来だったが、今年は色んなイベントやフェスに呼ばれることが多かっただけに、しっかり場数をこなしてきたことがよくわかる音の力強さだ。
しばらくスマホを持たずに無人島にいたというユキトモは、帰ってきたらラグビーの話題に乗り遅れたことを明かしつつ、
「日本暗いよな。明るく、楽しくやっていこうぜ」
と語った。一見チャラチャラした風貌だが、大変な今だからこそ少しでも明るい気持ちを生み出したいという、しっかりと筋の通った意志がこのバンドにはある。
「アイラ・ビュー」でピースフルな空間を作り出すと、「サマタイ」では打ち込みも駆使してSUNHALLに夏をカムバックさせる。
「ダンスナイトをもっと」
というフレーズは日本が明るくなるように、と願いをかけているようだ。
「何もかもをぶち壊す爆音がほしい!」
とキラーチューン「キラキラ」ではバンドサウンドが更に強靭になっていたことが嬉しかったし、これからもこの曲と共にヤングオオハラの成長を追いかけ続けていきたいと思えた。
しかし、列伝ツアーで見たときはまだどんな色に染まるのか未知数なバンドだったが、J-POPに通じる正統派な楽曲もあれば、打ち込みを組み込んだワルなサマーチューンもあり、
「一緒にいい時代作っていこうな」
とバンドの決意と覚悟を感じた「美しい」ではパンクスの衝動を炸裂させたかと思えばシンガロングできたりと、本当に一言で言い表せない多様なバンドだ。
まだまだこのバンドには誰も知らない、正体不明の可能性があると信じている。日本暗いしさ、ダンスナイトをもっと。
・lical(club vijion)
アメリカ村一体から少し離れた北堀江に居を構えるclub vijionに出演したのはlical。プログレやポストロックを武器としている辺り、残響レコード大好きな自分にはドンピシャな音楽性だ。
「色んな思いがあってミナホに来てるんだと思います。でも今からの35分は、どうか私だけを信じて」
と轟音の響く「群青的終末論」でスタート。ジャンルがジャンルなだけに、メンバー一人一人のスキルが非常に高いし、rina(Vo,Gt)の歌声は時にサウンドと一体化したり、その中から鋭く突き抜けてきたりと変幻自在だ。
ハンドクラップを煽りながら「ワールドエンドサイレン」を鳴らすと、「four side effect」ではサビまで無機質な同期音のみで構成されており、静と動のバランスの良さを見せつける。演奏もそうだが、それに合わせて目まぐるしく転換する証明の鮮やかさも彼女らの世界観を後押しする。
「私は自分のことしか歌えないから」
と、時に寝転がりながら叫んだりしていたrinaは、余計な干渉を受け付けられない儚さと不安定さに溢れている。そんな彼女の映し身かのように「yellow iris」「nyctalopia」と内省的な世界が続くと、最後は「拔文」。
rinaのワンマンバンドである感じは否めなかったが、再びこのジャンルが脚光を浴びる日が来てほしいものだ、と切に願っている。
・Amelie(SUNHALL)
再びSUNHALLに戻り、次はAmelie。ミナホに出演するのは4年目だ。
「どうもー!」
と威勢よく挨拶すると、シリアスなメロディの「ライアーゲームじゃ始まらない」で勢いよくスタート。そして「手と手」へ続くのだが、ヤングオオハラに続いてこのバンドもまた、SUNHALLという舞台がよく似合う陽性のバンドであることが、元気一杯なMCでもよくわかる。mick(Vo,Gt)の歌声はギターロックに負けないぐらいパワフルだ。
来月リリースされるミニアルバムから、ラジオでもまだオンエアされていないという「月の裏まで」を初解禁すると、
「今はもう会えなくなった人へ作った歌」
と前置きして「ノンフィクション」へ。音楽があれば、何気ない日常もドラマチックになるということを、Amelieは証明してくれる。シンガロングを起こした「手紙」から
「まだまだできる!だって可能性はゼロじゃないから!」
と「ゼロじゃない」では性急なビートに合わさってmickの切迫した歌声が響く。
ラストはこちらも力強い言葉が届けられる「朝は来る」。
「来年はBIGCATに出たいなー!」
と彼女らは語っていたが、彼女らの歌は既にBIGCATにも充分に届くスケールを持っているはずだ。だからまた来年、更にでっかくなったAmelieを見たい。可能性はゼロじゃないから。
・Suspended 4th(AtlantiQs)
Amelieが終わってすぐに駆け付けたものの、既にAtlantiQsはいつ入場規制がかかってもおかしくないほどの満員っぷり(実際、自分が入ってすぐに入場規制がかけられていた様子)。今日ここまで、ライブが始まって少ししてからようやくフロアが埋まってきた感じのアーティストが多かっただけに、開演前からこの動員数は異常だし、おかげでステージが全く見えない。
ここまで注目を集めているのは、今夏にPIZZA OF DEATHからデビューしたSuspended 4th。リハの時点で一線を画すエグい音を鳴らしまくっており、ただならぬ雰囲気を作り出していた彼らは「INVERSION」から襲撃開始。ストリートライブで叩き上げられてきた、触れるだけで怪我しそうなキレキレのサウンドが武器ではあるが、みんながサビの歌詞を歌えているぐらいに彼らの楽曲が浸透しているのが恐ろしい。
思わず頭を振り乱したくなるようなヘビーな縦ノリはKing Gnuに通じるところもあり、「Vanessa」では
「さあ踊れ」
と鶴の一声でフロアを自在に揺らしまくる。みんなのノリ方が均一じゃないのも、様々なカルチャーを吸収してきた彼らの音楽を体現しているようだ。
終始ハイテンションな会場が更に沸騰したのは「ストラトキャスター・シーサイド」。全ての楽器が主役をもぎ取らんと突っかかってくるこの荒々しさが、彼らの凶悪な音楽性そのものだ。曲中には
「旅してくるわ!」
と間奏から長い長いセッションタイムへ。常に全楽器がソロをやっているのか?と勘違いしそうなほどテクニカルなセッションが何分やったかわからないぐらい続き、再びサビに戻ってくる展開は圧巻。正にねじ伏せる、という表現がぴったりの、凄まじいアクトだった。
「来年はBIGCATでお願いしまーす」
と鷲山和希(Vo,Gt)は話していたが、来年はもっととんでもないバンドになっていそう。
・WOMCADOLE(BIGCAT)
メジャーデビューを直前に控えた滋賀発のスーパーロックバンド・WOMCADOLEがBIGCATに登場。リハからもっと前に来い、と客席を挑発しまくると、
「心を寄越せ!」
と「人間なんです」でいきなりクライマックスのような展開に雪崩れ込む。安田吉希(Dr)の打ち鳴らす鋭いドラミングはそれだけでも大迫力だし、彼がこのバンドの勢いをブーストしまくっているのは間違いない。
続く「絶望を撃て」でも、エッジなサウンドが炸裂しまくる。頭音の爆発力は、My Hair is Badや04 Limited Sazabysに通じるところがあるし、ロックバンドのライブならではの鋭さを備えている。彼らこそがライブバンドと呼ばれるにふさわしい。
「アルク」「独白」と休むまもなくエネルギッシュな楽曲が続くと、MCで樋口侑希(Vo,Gt)はアルバムのリリースを告知。しかしメジャーデビューするとは言わなかったのが彼ららしい。
「何か一つでも誇りになるものを見つけて帰って下さい」
と樋口は語ったが、関西にこんなにカッコいいバンドがいてくれることが何よりの誇りだ。
刹那の瞬間を詰め込んだ「アオキハルヘ」ではエモーショナルな一幕を見せつけ、
「新曲やります!旗を掲げ続けろ!」
と始まったのは「FLAG」。こんなにカッコいい曲を引っ提げてメジャーに行くのならば、もう我々は心配することは何もないだろう。
「悲しみも苦しみも全部燃やしてしまえよ!」
と本編最後は「ライター」。最後まで一度も立ち止まることなく駆け抜け、完全燃焼した35分だった。来年の今頃には、BIGCATすらもオーバーしてしまう程の支持を集めるようになっているのではなかろうか。
・あいくれ(DROP)
あっという間だった一日を締め括ったのはあいくれ。開演前、黒幕の後ろから登場したゆきみ(Vo)は本編でやる曲のコーラスを練習し、
「その調子でよろしくお願いします!」
と再び黒幕の中へ。こうした一幕を見られるのもサーキットイベントならではか。
「アイデンティティ」からあいくれを知った自分にとって、このバンドはバラードのイメージが強かったのだが、「回顧展の林檎」を筆頭にプログレの匂いのする「リビルド」とアップテンポな楽曲が続いていく。流れるように美しいファルセットを歌うゆきみのボーカルは、疲れた身体によく染み渡る。
ライブ中、ゆきみは何度も
「出会ってくれてありがとうございます」
と語っていた。今年のミナホも二日間とも中止になってしまったように、時に予期せぬ事象が出会うはずだった存在を消し去ってしまうこともある。そんな中でこうして音楽を通して、あいくれだけでなく様々なアーティストと出会えた我々は、彼女の言うように奇跡の最中に生きているのかもしれない。
そんな奇跡がまた起きるように、「グッドバイ」を演奏してライブは幕を下ろした(本当はこの後に「やってられないよ」をやっていたらしいが、体力が限界だったので帰ってしまった)。
こういうサーキットイベントに行くのは初めてだったのだが、今まで行かなかった要因の一つにタイムテーブルの情報量の多さがあった。ミナホのように大量のライブハウスをジャックするとなると、満足のいくタイムテーブルを組めるのか?という心配があった。
しかしそこは長年続いているイベントなだけあって、割とスムーズに回ることができたし、振り返れば一日中どこかしらのライブハウスにいた気がする。
そのおかげで本当に色んな音楽と出会えた。こうして出会いの場を与えてくれるFM802にはリスペクトしか感じないし、できればまた来年、今日みたいな一日が作れたら幸せだな、と思う。
でもやっぱりミナミの街は怖い…。
Reol Oneman Live 2019 「侵攻アップグレード」@松下IMPホール 2019/10/6
※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。
今年は3月に「文明EP」をリリースし、その作品を軸としたライブも展開してきたReol。昨年のアルバム「事実上」以降、完全に覚醒モードに入ってノリノリな彼女のワンマンに初めて足を運んだ。
会場に到着すると、ステージには抄幕が張られ、月のような地面に真っ黒な旗が突き立てられているツアーのメインビジュアルが映されているのだが、何処からか風が吹いているのか、旗がなびいている。
場内には飛行機の中を思わせる音が流れているのだが、開演が近づくにつれてその音が大きくなっていくのが細かい。さらにReolのアートワークを支える映像担当のお菊による機内アナウンスも放送されるなど、既にライブが始まっていることを告げるかのような演出。
会場の松下IMPホールは貸会議室が近くにあるなど、かなりビジネスライクな施設だが、そのような場所でもこうした演出が非日常感を与えてくれている。
会場が暗転し、今回のツアーのオープニング映像が流れると、抄幕にシルエットが映される。
「ほらそこに横になって」
と印象的なフレーズから始まるのは「ウテナ」。幕が落ちると、機長のような服装をしたReolがセンターに待ち構えていた。後方の3面あるLEDスクリーンにはMVを彷彿とさせる映像が流れ、両脇には二人のダンサーを従えている(MVで共演したMIKUNANAではなかったようだが)。
Reolが帽子をとり、ステージに一人になると、「ミッドナイトストロウラ」では左右に練り歩きながら歌唱。宇宙空間のような映像が流れた「シンカロン」では、サビで宇宙に浮かぶ星が現れると同時にステージ袖からシャボン玉が放たれ、重厚なエレクトロサウンドと共に会場を呑み込んでいった。
「Lunatic」からはスクリーンに歌詞が投影されるのだが、ヒップホップを主体とした彼女の楽曲は言葉数が多い。それに伴って映像からの情報量も増えてくる。言葉が次々と飛び交う様はそれだけでリスナーを圧倒する気迫に満ちているし、その言葉達を鋭い歌声で突き付けるように歌うのが彼女の魅力だ。
しかし、彼女の片腕的存在であり、ライブでも音響の重要な役割を担っているGigaが「ギガP」名義でリリースした「ヒビカセ」を披露すると、イントロから大歓声が上がり、ネットの世界とリアルの世界の架け橋となっていることも彼女の魅力なのだとよくわかる。
曲終わりと同時に衣装を破くように脱ぐと、大胆な格好になって「激白」をダンサーと共に披露。自分が「事実上」を聴こうと思えたきっかけとなった曲だが、こうしてライブで聴くとやはり言葉の力が強いし、時にがなったりする歌声は言葉の強さに同化しているようだ。
ここまで6曲をノンストップで駆け抜けると、Reolは一旦退場。スクリーンには白い熊と兎が登場し、ゆるいやりとりを繰り広げる。どうやら今回のツアーから登場し出したキャラクターらしいが、名前はまだ未定らしく、Reolいわく
「ツアーでブラッシュアップしていく」
とのこと。そんな名前はまだない熊と兎が、今回のツアーのテーマは侵略であること、「文明EP」から続いた文明の物語も最終地点を迎えていることが伝えられる。ということは次のアルバムのリリースツアーで最終章になるのだろうか。
そんな来年リリースのアルバムから先行配信されている「ゆーれいずみー」では先程の映像に出てきた熊と兎も登場。Reolは白いローブを羽織り、観客と共にお化けのごとく両手をゆらゆらさせていた。そして
「さあ 信仰しろ」
の歌詞がツアータイトルである「侵攻アップグレード」と掛けていることを思わせる「カルト」からはよりディープな世界へ観客を誘っていく。
「幽居のワルツ」では再び現れたダンサーがペアになって舞い踊り、ここまで出番のなかったステージ上部の計6つある四角いLEDも極彩色に光る。本来ならばポップなイメージのはずのRGBの三色だが、妖しいトラックの上で光るとやたらとおどろおどろしくなるのが不思議だ。
「mede:mede」と続けてキラーチューン「煩悩遊戯」では大量のスモークが噴射し、重低音の効いたトラックで会場を踊らせた。
ここで再び幕間に入るのだが、その間もGigaのバキバキのサウンドとお菊の派手な映像が入り乱れる「-BWW SCREAM-」でテンションを緩めさせない。さらには熊と兎も現れ、ひとしきり踊ったところでステージにはマイクスタンドが立ち、Reolが扇を持って再登場。
MVと同じく蝶が飛ぶ映像が雅な「極彩色」を経て「失楽園」、Reolが鍵盤ハーモニカを吹いた「真空オールドローズ」では文明の崩壊が描かれる。
「文明EP」の曲順と同じく「失楽園」をこのポジションに持ってきたことで、冒頭の「ウテナ」から続いたストーリーに終止符を打つだけでなく、淡々としたサビが終末を感じさせる次曲「真空オールドローズ」と合わせてライブのコンセプトを強化してきたのは流石だった。本人がインタビューで
「視覚的な音楽が好きだった」
と語っていた通り、「真空オールドローズ」では薔薇が散る映像と同期して天井から花びらが降ってくる演出もあり、こうした流れの一つ一つにチームの拘りがとことん感じられた。
再びReolが捌けると、代わりに熊と兎が登場。
「みんなまだまだいけるー?」
とフロアを煽るも、客席の反応はぼちぼち。多少無理矢理な感じはあったものの場を繋げると、ここで初めてのMCへ。
「前回の文明ココロミーから繋がったライブをするのは初めてで。作った文明がお化けの世界とか通りながら、他の星を侵攻しにきてるイメージです。グッズにも伏線をたくさん用意している」
とReolは改めて本ツアーの趣旨を説明。すると、
「衣装も変わったことだし…」
とここまでのコンセプチュアルなライブは終了することを宣言し、ライブを再開する。一貫したコンセプトが設けられたライブでは、普段のライブでは定番の曲もそのコンセプトの中に、時には無理矢理組み込まれることもあるが、あえて流れを止めて
「ここからはみんなで楽しむゾーン」
と今回のReolは銘打ってみせた。その宣言通り、「劣等上等」「平面鏡」とアップテンポな楽曲が続く。さらには
「9月に3曲作って、まだ2曲は見せられないんだけど、そこから1曲やろうと思います。ライブアンセムになってほしい」
と語り、80年代ファンクをReolなりに解釈したという新曲もお披露目。「サイサキ」等の強いエネルギーを持つ楽曲の反動で生まれたみたいな怠惰な歌詞だが、次のアルバムではどんな役割を担うことになるだろうか。
「たい」では重厚な四つ打ちに合わせて会場全体がバウンス。その盛り上がりは元々ライブ向けのホールではないことと、ビル内の2階のホールということも相まって、この揺れ大丈夫か?と思うほど。前回のアルバムにも四つ打ちのダンサブルなトラックはあったものの、この曲はより一層クラブミュージックの色が強く、近未来の雰囲気を感じさせる。
最後に歌われたのはReolが旗を掲げて現れた「サイサキ」。聴いた人を奮い立たせるかのように言葉の弾丸を浴びせる楽曲だが、やはりネット発ということもあってか、楽曲の魂胆にあるのは自分自身へ言い聞かせている、という内向きのエネルギーだ。
「薄志弱行な僕」
とは紛れもないReol自身だし、この曲を聴いている自分自身でもある。そのシンクロが強烈なエネルギーを起こす事実は、バンドであれソロシンガーであれ同じことなのだ。
最後に彼女は掲げていた旗を足元に突き立てたのだが、アンコールで再びツアーのメインビジュアルが表示されたとき、真っ黒だった旗はその旗と同じ柄になっていた。それはかつて、月にアメリカ国旗が打ち立てられたように、Reolが大阪への侵攻を完了したことを誇示していた。
そんなアンコールはReolがギターを抱え、「木綿のハンカチーフ」のワンフレーズから「染」へスイッチしていく展開からスタート。本人いわく
「台風で中止になった宗像フェスの時にやりたかったことの供養」
だったらしいが、段々と肌寒くなってきた今日この頃に聴くとより染み渡る楽曲だった。
「さっきの「たい」の時めっちゃ揺れてたよね。大丈夫かな?(笑)すいませんでした、大目に見てあげてください(笑)。まあ最後は無礼講ってことで!」
と最後に選ばれたのは「宵々古今」。祭囃子のメロディに合わせて再び会場が大きく揺れると、最後には大きな花火がドカンと打ち上がって鮮やかに幕を降ろした。
その後、熊と兎の名前が「エンドウさん」と「お母さん」に仮決定。
「絶対却下されると思ってたのに浸透しちゃった(笑)」
と笑いながら、彼女は次の侵攻地、名古屋へ(徒歩で)向かっていった。
卓越した映像演出とそれに呼応したライブパフォーマンスで、前回のライブの続きとも言えるコンセプチュアルなライブを披露するゾーンだけでなく、それとは別のキラーチューンをひたすら集めたゾーンを使い分けて全22曲をこなしたReol。どうやら最終目的地である東京では発表もあるようだが、まずは彼女の侵攻の旅が無事に終わることを祈っていよう。
「このLEDスクリーンは出世払いだと言われました!私はいつ払い終えるんでしょうか!」
そんな彼女とまた会える、巡り会える、そんな幸先なら。