緑黄色社会 presents 緑黄色夜祭vol.9 大阪編 @心斎橋BIGCAT 2019 6/9

“リョクシャカ”こと緑黄色社会が行っている自主企画「緑黄色夜祭」。今までは彼女ら(彼ら?)の地元である名古屋でのみ開催されてきたが、昨年から規模を拡大し、東名阪でこのタイトルを冠したライブが行われるようになった。しかし、昨年大阪で行われるはずだったライブは生憎の悪天候で中止に。今年は天候に恵まれ、キャパも増えてのリベンジ開催だ。

 

名古屋、東京から少し遅れて発表された大阪の対バン相手はネクライトーキー。2017年結成ながら目覚ましいほどの快進撃を続けており、今年はARABAKIやビバラといった春フェスにも出演。リョクシャカとはキーボードの映えるカラフルな音像、存在感のあるボーカルなどの共通点はあるが、正直あまり両者の関係性が窺い知れない。そういった意味でも今日のライブはどんな発見があるのか楽しみだ。

 

おもちゃ箱をひっくり返したような小気味のよい効果音の中で「ようこそ」と繰り返されるSEをバックに、もっさ(Vo)、カズマ・タケイ(Dr)、むーさん(Key)、藤田(Ba)、朝日(Gt)が順番にスタンバイ。1曲目は意外にも「あの子は竜に逢う」でスタートした。

 

ゆったりとしたビートに乗せてじっくり様子をうかがうように演奏し、もっさが腕まくりをしたところで「こんがらがった!」へ。むーさんと朝日のフレーズがまさにこんがらがるように降りかかる。

 

「めっちゃかわいいうた」ではもっさの「今はただの令和元年だ!」のシャウトに歓声が起こり、朝日の「ギター、俺!」もバッチリ決まって、観客をどんどん引きずり込んでいく。前回見たのは大阪での追加ワンマン(むーさんの加入が発表された日)だったが、それから春フェスや合宿レコーディングを経たことで、さらに音の強度が増していると感じた。つい見た目で誤解されがちなバンドだが、NUMBER GIRLなどから影響を受けていることもあり、実際に生で体感してみるとかなり硬派なバンドであることがよくわかる。藤田とカズマ・タケイのリズム隊コンビもさすがの安定感だ。

 

さっき気迫のあるシャウトをしていたもっさだが、MCでは「緑黄色社会」が噛みまくってうまく言えず、みんなを笑わせる。歌ってるときはあんなにかっこいいのに、急にたどたどしくなる変貌っぷり。このギャップが、彼女の魅力をさらに引き立てているのかもしれない。

 

続けて話した朝日は、他の場所での対バン相手と自分たちを比べ、「僕らはなんか不純物みたい」と自虐していた。自分はこの対バンが発表されたとき、別にネクライトーキーを不純物だとは思わなかったし、むしろこのバンドが邦ロックシーンのスタンダードとなる日はそう遠くないさえと感じた。

 

サビがやたらとメロディアスな「浮かれた大学生は死ね」を経て、一度クールダウンしてから始まったのは「がっかりされたくないな」。こうしたミドルテンポな歌モノも彼ら(彼女ら?)の武器の一つだ。

 

朝日の書く歌詞はどれもかなりひねくれているが、いわゆる「他人と違う考えを持っている自分で結構」といった割り切りは感じないし、「もうこのままでいいや」といった諦観もあまり感じない。むしろ卑屈な自分を嫌っていて、どうにか現状を打ち破ろうともがき、葛藤している。そんな人間臭い言葉が、生身で鳴らされる音で血肉を纏い、もっさのボーカルが引き立てる。だからネクライトーキーの音楽はこれほど響くのかもしれない。

 

続く「ゆうな」では優しくも緊張感のある演奏を披露し、じっくりと聴かせられるバンドであることも証明したところで、再びMCへ。もっさは楽屋に用意されていた弁当が野菜たっぷりだったことを明かし、藤田に「それはしなくていい話」とたしなめられる。

 

実にまったりとした一幕を経て、もっさが照明の紐スイッチを下ろす動作で暗転。暗闇から朝日のギターが近づいてくる「許せ!服部」が始まる。「服部って誰やねーん!」と朝日が叫んだところで音源とは全く異なる超高速アレンジにシフトすると、「1234!」のコールをメンバー一人ずつ回したところで観客にバトンタッチ。こうした観客参加型のエンターテイメントを見せられるのもこのバンドの強みだ。

 

MVと同じ「5!4!3!2!1!FIRE!」の掛け声から始まったキラーチューン「オシャレ大作戦」では「リョクシャカヘヘイヘイ」と歌詞を変えて観客を喜ばせる。前回見たときは多少雑に感じたむーさんのキーボードソロも、今日はしっかり決まっていた。カズマ・タケイのドラムソロもどんどんブラッシュアップされている。

 

そしてラストは「遠吠えのサンセット」。2番Aメロがさらにスローテンポになったり、かと思えば最後のサビはどんどん加速していったりと、まさに緩急自在の演奏を披露。どこかのインタビューで朝日はこのバンドを「技術としてはまだまだ」と自己評価していたが、これでまだまだだったらこの先どこまで進化していくのだろうか。

ロックの日の相応しい、泥臭くてロックなステージを見せてくれた。

 

 

 

一方の緑黄色社会もライブを見るのは3月以来。1曲目「あのころ見た光」から盛大なシンガロングを起こし、会場を盛り上げていく。しかしpeppe(Key)のピアノがやや聴こえづらかったのが気になった。

 

続いて長屋晴子(Vo)がハンドマイクになり、最新曲「にちようび」をドロップ。この曲がセットリストに組み込まれたのは、新曲だからということと、今日が日曜日だからという2つの理由が当てはまりそうだが、これからは日曜日のライブ限定の曲になったりするだろうか。ギターソロを弾く小林壱誓(Gt)は実に楽しそうだ。

 

MCを挟み、またもや最新曲「ひとりごと」を披露。思えば去年このBIGCATで行ったワンマンツアーでも未発表の新曲として演奏されていた。当時はまた新たな一面を出してきたなと思っていたが、今回の音源化にあたり、作詞作曲したのがメンバーの中で最も音楽の知識がディープな穴見真吾(Ba)と知って、納得した。ベースのアレンジだけでなく、彼の知識量はバンドが様々なジャンルの曲を乗りこなせる大きな助けとなっているだろう。

 

ここで長屋がギターを持ち、リョクシャカ流のダークな音像が響く「逆転」へ。ここまで3曲連続で最新EPに収録されている曲を演奏している。リリースした時期的にも、ということもあるだろうが、バンドが常に最新のモードで勝負しようとしている姿勢が伺える。相変わらず長屋のギターはあまり聴こえないが。

 

長屋のキーボードによるアレンジが追加された「アウトサイダー」を経て、MCで実はリョクシャカとネクライトーキーは今日が初対面だと話す。ライブを見るのも初めてらしい。長屋は「ネクライさん」と何だかよそよそしい呼び方をしていたが、どうやらこの2バンドは直接的な繋がりはなかったようだ。 それでも長屋は

 

「音で遊んでるところとか私たちと似ているなと思って。お互いのファンが楽しめる空間を作れると思って呼ばせていただいた」

 

と説明していた。

 

リョクシャカはストレートなポップバンドだというイメージを持たれがちだが、最新EPのインタビューでは「幸せ」を「王道っぽくもありつつ、実は普通じゃないアプローチで攻めた曲」と紹介しているなど、常にポップスの新たな可能性を模索、追求しているバンドである。

 

そういった意味では、ネクライトーキーもまた、ポップなメロディやサウンドに真逆のひねくれた歌詞を乗せていたりするし、実は今までになかったスタイルのバンドだったりする。女性ボーカルとかキーボーディストがいるという見えやすい共通点よりも、バンドのスタンスという点で、両者は意外と近しい存在なのかもしれない。

 

「大切な曲ができたので、みなさんにも幸せを分けていきたいと思います」のMCから始まったのは「幸せ」。横を向いてキーボードを弾く長屋は、綺麗めな服装やショートカットも相まってねごとの蒼山幸子を彷彿とさせる。この曲はとにかく音のバランスが絶妙で、非常に心地よいナンバーだった。それにしても、

 

「もう離さないから 離さないでよ」

 

の歌詞は、何度聴いてもドキリとさせられる。それだけ長屋のボーカリストとしての表現力は、元から評価は高かったものの、さらに凄みを増してきている。同世代のバンドでは右に出るものはいないのではなかろうか。

 

「Bitter」「Alice」と人気曲で再び会場の熱を高めると、「真夜中ドライブ」ではpeppeの流麗なフレーズに力強いバンドサウンドが重なる。そして最後は「始まりの歌」で「ララルラ」のシンガロングを起こさせる。

 

自分がリョクシャカを初めて知ったのもこの曲だったが、ライブで披露される度にシンガロングの声がどんどん大きくなっているのが本当に嬉しい。アウトロには曲の終わりを惜しむように少し長めのアレンジが加えられていた。

 

アンコールではグッズ紹介と今秋に行われるワンマンツアーの告知を行い、

 

「大阪リベンジできてよかったです!ありがとうございました!」

 

と告げて「またね」へ。この曲がライブの最後に演奏されるのは意外と久しぶりだったりする。

 

最後はネクライトーキーを呼び込んで写真撮影。明らかにまだ距離感を掴めていない雰囲気を出していてちょっと不安だったが、どうやら打ち上げではちゃんと打ち解けられたらしい(メンバーのTwitter情報)。よかった。

 

基本的に対バンライブというのは、もちろん2バンドとも好きな人が見に行くのも面白いし、どちらか片方しか知識がない状態だと、好きなバンドがきっかけで新たなバンドと出会えるという面白さもある。しかしそういった出会いがあるのは必ずしもお客さんだけでなく、バンド同士もまた然りなのだ。

 

今日のライブは、単純に仲がいいから対バンするのではなく、対バンを通して「はじめまして」の挨拶をすることから始まっていたライブだったのだ。

 

たとえお互いに会ったことがなくても、ライブや音楽を通じて知り合うことができる。またこの2バンドが一同に介する日が来てほしいものだ。