UNISON SQUARE GARDEN プログラム15th @舞洲スポーツアイランド 太陽の広場 2019/7/27

個人的な話をさせていただくと、自分がUNISON SQUARE GARDENに出会ったのは2014年。ちょうど「harmonized finale」がリリースされた頃だった。初めてライブに行ったのはそれから1年後。そのライブから程なくして、Twitter経由で田渕智也(Ba)のブログを拝見した(当時田渕は個人でTwitterをやっていた)。

 

その時期は自分の周りの状況のこともあって、何となくライブでのお客さんの盛り上げ文化に疑問を抱いていた時期だった。手拍子をしたり手を上げたり、そういうことをライブでは絶対にしなくてはいけないのかな、という見えない圧力を感じていて、ライブハウスが窮屈だなと感じたこともあった。しかし田渕は、ある日のブログでこう記していた。

 

「僕の好きなロックバンドにそういうものは必要ない。一緒に手あげなきゃ、一緒に手拍子しなきゃ、一緒に歌わなきゃ。そういうルールはない。必要がないのだ。」(原文ママ)

 

ああ、音楽はもっと自由でいいんだ。そう思えた瞬間だった。自分の悩みがいかにちっぽけだったのか思い知らされた。あのブログを読んでいなければ、自分はもっと狭い価値観の中で生き続けていたかもしれない。

自分がバンドを好く理由は曲がいいから、かっこいいからだ。しかし、それ以来、UNISON SQUARE GARDENはもちろん曲もいいし、かっこいいバンドではあるけれど、同時に信念に共感できるバンドの一つになった。このバンドなら信じてもいいかな、なんて思えてしまったのである。

 

そんな、自分にとっては大きすぎる存在であるUNISON SQUARE GARDENが、15周年を迎えた。正直言って自分は昔の彼らのことをあんまり知らない。でも、彼らが信じたスタイルをずっと貫いてきてくれたからこそ、自分は彼らと会えた。価値観を変えてもらった。これは何としてでもお祝いしに行かなければ。現場で感謝を伝えなければ。そう思い、今日のライブに行くことを決心した。

 

前置きが長くなったが、今日の舞台は舞洲スポーツアイランド、太陽の広場。キャパは24000人だったらしいが、実際に会場をうろついてみるとそれ以上にいるんじゃないかってぐらい人が多いし、フェスかと思うくらい出店が多い。そしてキャリーバッグを連れて歩いている人が多かったのも印象的だった。今日のために全国から物好きが集まってきていると思うと、胸が熱くなる。

 

バンドと馴染みの深いFM802のDJ陣や、かつてFCライブなども行っていたMusic Club JANISのスタッフからのお祝いメッセージが流れ終えると、イズミカワソラ「絵の具」が曇り空の会場に響き渡る。大歓声に迎えられてゆっくりと入場し、精神を統一させるようにじっと佇む3人。その間、一人ずつカメラで抜かれるのだが、斎藤宏介(Vo,Gt)はカメラに向かってにやりと笑っていたのに対し、田渕は天井を見上げていたり、鈴木貴雄(Dr)は何だか現を抜かしているみたいな表情をしていたりして、会場から笑いが起こる。佇まいからして個性的な3人だ。

いつぞやの武道館と同じく、SEを最後まで流し終えてから、

 

「だから今その声を捨てないで」

 

と斎藤のアカペラから始まったのは「お人好しカメレオン」。なんと今まで一度もライブで披露されたことのなかった曲が一曲目を担ったことで、会場からどよめきが上がる。

 

「ならば今その手を離さないで 離さないなら遊びに行くよ

 ただ甘やかすようなことはしないから あらかじめ出口チェックしといてよ」

 

という歌詞はまさにユニゾンのスタンスそのものだし、この会場にこれだけの人が集まっているのは、そのスタンスが間違っていなかったことの何よりの証明だ。

 

サプライズ的な選曲でじっくりと会場を温めると、「シャンデリア・ワルツ」「君の瞳に恋してない」と、それぞれアルバムの最後を飾っていた楽曲でボルテージを上げていく。しかし田渕はいつもより大人しい(ように感じた)し、他の二人もまだ様子を伺っている様子だった。

 

「今日はなっがいよ~。最後までよろしくお願いします」

 

と手短に挨拶を済ませると、「流星のスコール」「instant EGOIST」と続く。決して2曲ともライブの定番曲ではない(そもそもユニゾンには毎回ライブでやる曲がほとんどないので定番も何もない)が、そんな曲でもしっかり観客に届いていることがよくわかる。

 

リニアブルーを聴きながら」で3人ともそろそろギアが入ってきた頃合いを経て、「Invisible Sensation」の途中には、曇り気味だった会場に夕日が後光のように差し込み、祝祭感のある楽曲にベストマッチな演出を見せていた。前日から台風が心配されていたが、ここは見事に天気を味方につけてみせた。

 

夕焼け空というこれ以上ないロケーションのなかで「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」が歌われると、ソロ回しのようなセッションを経て「オトノバ中間試験」へ。田渕は斎藤の後ろに回り込んだりと、いつも通りのステージングを見せる。息のつく間もない展開の曲だが、

 

「あのね歌ってるのは怪気怪奇な僕なんで 呆れるまで斎藤に任せといて」

 

というフレーズは田淵の斎藤への信頼と、それを見事にこなしてみせる斎藤の頼もしさが両立されている。

 

「カウンターアイデンティティ」では1音目から大歓声が上がり、初期のこの曲が根強い人気を持っていることを証明すると、一転して「Catch up, latency」、「プログラムcontinued(15th style)」と最新曲が並ぶ。武道館の時もそうだったが、敢えて「プログラムcontinued(15th style)」を中盤辺りでもう演奏してしまうところが何とも彼ららしい。

 

 これまた絶妙な景色の中で演奏された「黄昏インザスパイ」、春じゃなくてもセットリストにどしどし組み込まれる「春が来て僕ら」とミドルテンポな曲を続けると、MCでは斎藤が15年間の黒歴史を振り返る。

今でこそ彼らは手拍子やコール&レスポンスを要求することはしないし、「行くぞ大阪!」みたいな煽りを一切しないバンドだが、雑誌のインタビューでそういった煽りの類を卑下していたくせに初期の方は自分たちもやっていたこと。田淵や貴雄はかなり尖っていたこといたことなどを赤裸々に告白。いかにも青臭さが垣間見えるエピソードで会場を和ませると、

 

「そんなインディーズ時代を思い出しながら、懐かしい曲をやりたいと思います」

 

と語って「水と雨について」を披露。ガレージロックのようにただひたすらにがなっていたあの頃と比べると、今の斎藤は本当に綺麗な歌い方をするようになったと思う。ポリープができたのも大きいだろうけど。

 

harmonized finale」「cody beats」「10% roll,10% romance」とシングル曲が連発されたところで、

 

「On Drums!鈴木貴雄!」

 

のコールで恒例のドラムソロへ。去年のツアーでは羽織っていた上着を頭から被って目隠ししながら演奏するなど、年を追うごとに(良い意味で)変態的なプレイヤーになりつつある彼だが、今回は同期を用いた演奏。ステージ両脇のスクリーンに月が映っていたことから、演奏自体のコンセプトにそういうキーワードがあるのだろう。

今まではどんどん加速していくような疾走感あるプレイが多かった彼のソロだが、今回は同期に合わせて少しテンポは抑え、よりグルーヴィなひと時を魅せてくれた。と思ったら、打ち込みが消えると結局高速プレイになっていた。

 

そんなドラムソロから雪崩れ込むようにギターとベースが合流すると、すっかり日が落ちた会場を赤い照明が照らし、

 

「who is normal in this show?」

 

を号令に「天国と地獄」が始まる。斎藤はシャウトするし、田淵はまるで見えない物体をぶん殴るかのように拳を振り下ろすし、貴雄はさっきあれほどのプレイを見せたのに全く疲れを見せない。傍から見ればカオスな図だが、ユニゾンだとそれが日常風景であるかのように成立してしまう究極のバランス感覚はこのバンドの真骨頂だ。

休む間もなく「fake town baby」「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」と続き、会場も徐々に熱量がオーバーしてくる。特に

 

「東の空から夜な夜なドライブ」

 

という歌詞は言葉通り、東京出身の彼らが関西までイメージトリップさせに来たかのようだ。

 

バンドの人気を決定づけた「シュガーソングとビターステップ」には「生きてく理由をそこに映し出せ」という歌詞がある。この曲に限らず、ユニゾンには人生賛美歌的な曲がちらほらあるが、それらは決して真っ直ぐな応援ソングではない。この曲がリリースされたとき、田淵がブログで

 

「死にたくてもいいよ、人生だし。ただ死ななかったらそれもそれでいい人生になるかもしれない。」(原文ママ)

 

と書いていて、とても納得したのを覚えている。「生きていればいいことあるよ」というイマイチ曖昧な励ましよりも説得力に溢れているし、ここに集まった24000人にとっては、今日みたいな夜こそが生きていく理由になり得るのだろう。

 

最後のMCで、斎藤は

 

「最初は自分たちが楽しい、自分たちのための音楽ってところから始まりました。そこから少しずつ、少しずつ良いって言ってくれるお客さんが増えていって、それと同時に素晴らしいスタッフも増えていきました。今日だって実は1年前からやることが決まってたんだけど、台風来たらどうしようとか、そういうリスクを背負ってでも僕達のやりたいことを通してくれて。本当に有難いと思っています」

 

「そんな皆さんに、僕達ができることが一つだけあります。そして僕はそれを知っています。それは、これからも自分たちのために音楽をやるってことです。そうすれば、今日ここにいるUNISON SQUARE GARDENを好きなお客さんにもまた喜んでもらえるんじゃないかなって思っています」

 

と語った。確かに、よくよく考えてみると、UNISON SQUARE GARDENはかなり異端児なバンドだ。みんなで歌うような曲はないし、お客さんに歌わせるようなことは絶対にしない。今日もそうだが、大きい会場でライブをする時にも派手な特効や映像演出はしないし、自分たちのライブでは他のアーティストとコラボすることもない。そもそも、お客さんを喜ばせようと振る舞うことをしないのは、昨今のシーンの風潮からすると極めて異例だ。

 

しかし、だからこそ彼らのやり方に共鳴する人がいた。いや、自分のようにこのやり方でなければユニゾンを好きになっていなかった人もたくさんいるかもしれない。自分たちのためにやることが、結果的に皆を喜ばせることになる、というこの図式は、よく考えたら奇天烈だが、とても幸せなことだな、と思う。世の中には、誰かのために、と考えすぎて空回りしているアーティストが大勢いるように感じるし、そんな中で彼らがここまで支持を集めてきたのは、冒頭にも書いたように15年間信念を曲げずにバンドを続けてきたからだろう。なんて恵まれているのだろう。羨ましいとすら思う。

 

 せっかくなのでと二人にマイクが回り、貴雄は

 

「こんなに人間的に欠けてる俺を見捨てないでくれてありがとう」

 

とメンバーやチームに感謝を告げ、

 

「今日の俺のドラムソロ、すっげえかっこよかったよなあ!?」

 

自画自賛。今や一人でもやっていけそうなぐらいに芸術的なプレイを見せるようになった彼だが、彼のドラムがあってこそユニゾンの音楽が成り立っている。確かに、本当にかっこよかった。

 

そしてこのバンドの首謀者である田淵は、喋りそうで喋らない間を経て、

UNISON SQUARE GARDENっていうのはスゲーバンドだな」

 

と噛み締めるように語り、24000人からの大歓声に口を大きく開けて笑った。なんだか他人事のような、それもまた田淵らしい言葉だった。

 

そしていよいよライブも終わりに近づき、メンバー自身も大切にしている「さわれない歌」が大事に届けられると、「桜のあと(all quartets lead to the?)」ではここぞとばかりに観客も歌う。しかしあくまで勝手に歌っているだけであって、3人はいつも通り振る舞っている。自分の周りにも大声で歌っている人もいれば、歌ってない人もいた。でも誰も間違ってなんかない。これこそがユニゾンのライブなのだ。

 

バンドがブレイクするきっかけとなった「オリオンをなぞる」が高らかに鳴らされると、

 

「ラスト!」

 

と斎藤が叫び、「センチメンタルピリオド」へ。そういえば武道館でも本編ラストはこの曲だった。サビの最後の「バイバイ」という一節が、別れを惜しまずスパッと切り捨てるようで、いかにも彼ららしい。

 

UNISON SQUARE GARDENでした、バイバイ!」

 

といつも通りさらっとした挨拶でメンバーが順番に捌けると、暗転したステージの後ろから突然花火が上がった。よく見るとスクリーンは花火が上がるごとに「1st anniversary」「2nd anniversary」と表示される数字が大きくなっていく。それを察した観客がカウントダウンを始めると、「15th anniversary」で一際大きな花火が打ち上がり、ユニゾンの15周年記念公演は幕を下ろした。

 

確かにシングル曲の多いセットリストだったし、珍しい選曲もあったが、特別な演出は何もなし。だけど、そんなのがなくても、斎藤宏介の歌とギターと、田淵智也のベースとコーラスと、鈴木貴雄のドラムとコーラスが揃えば、いつだってUNISON SQUARE GARDENは最高のロックバンドなのだ。QED

 

明日からまた彼らはいつも通り転がっていく。だからまたいつの日にか、ライブで会おう。