SPACE SHOWER TV 30th ANNIVERSARY SWEET LOVE SHOWER 2019 DAY3 @山中湖交流プラザきらら 2019/9/1

3日目。すっかり雨は上がり、地面の泥濘も消えてきた。この日が一番過ごしやすい気候だったかもしれない。
朝早くからKing GnuOfficial髭男dismの物販には長蛇の列が出来ており、3日間では一番人が多かったんじゃないか。


・マカロニえんぴつ(FOREST STAGE)

3日目のオープニングアクトをつとめたのは話題沸騰中のロックバンド、マカロニえんぴつ。ちょうど今月のスペシャのパワープッシュアーティストにも選ばれた。オープニングアクトではあるが、今年の彼らは想像以上に勢いを強めており、結果的にFORESTの埋まり具合は3日間のオープニングアクトでもトップクラスだった。

THE BEATLES「HEY BULLDOG」をSEに5人がステージに現れると、FORESTに向かう人が更に増えてくる。

「朝早くからこんなに集まってくれて嬉しいです」

と午前中の、それほど暑くない今の空気が非常にマッチしている「レモンパイ」「ブルーベリー・ナイツ」を皮切りに3日目が始まった。

「運命の誰か あたしを掬って食べて」

という歌詞からも、不安定なティーンの心情を表現するのが非常に上手いバンドであることがわかる。

「実は山梨出身なんですよ」と告白したのははっとり(Vo,Gt)。

「山梨、いいでしょ?」

と自慢げに語っていたが、自分はこの3日間で山中湖はもちろん、山梨県のこともとても好きになることができた。自分の他にも、このフェスがきっかけで山梨を好きになれた人がたくさんいるはずだ。

キラーチューン「洗濯機と君とラヂオ」では一際大きな声が上がり、性急なビートがテンションを上げていく「ハートロッカー」で起き抜けの体をマカロックに染め上げていく。

全員が音大出身というプロフィールは今まであまり気にしたことがなかったが、こうしてライブを見てみると確かな技術を持っていることはもちろん、それぞれの楽器が曲中での役割をしっかり理解した上で鳴らされているのがよくわかる。

暗闇から希望をもぎ取ろうとする不安定な心の表現が、かつてのMr.Childrenを彷彿とさせる新曲「ヤングアダルト」に至るまで、彼らの勢いが凝縮されたステージだった。来年にはもう一つ大きなステージを埋められるところまで、彼らのマカロックは広がっていきそうな気配がする。


・Saucy Dog(Mt.Fuji STAGE)

去年は列伝ツアーに参加し、ラブシャではFOREST STAGEに立っていたSaucy Dog。今年の春には東西の野音でワンマンを行うようになるなど、気づかない内にこんなに人を集められるようになっていたのか、と驚きを隠せない。一日を通して注目のアクトが集うMt.Fujiは朝から満員御礼だ。

カウントダウンに続き、穏やかなSEに乗せて3人が登場すると、会場は温かい拍手で迎える。1曲目に選ばれた「真昼の月」は、石原慎也(Vo,Gt)の声質と合わさって朝の空気とベストマッチしている曲だ。会場はやや曇り気味で、湖畔を吹き抜ける涼しい風が3人の優しいサウンドを運んでいく。本当に朝が似合うバンドだ。

前回ライブを見たのは3月だったのだが、「ゴーストバスター」「バンドワゴンに乗って」とどの曲も春先より音が更に強靭になっている。スリーピースバンドは音に隙間が多く、その隙間の空間の心地よさがSaucy Dogの強みだったのだが、心地よさはそのままにより迫力のあるライブを展開している。自分が想像している以上に、このバンドの成長するスピードは早いのかもしれない。

「朝早くから本当にありがとうございます」

とせとゆいか(Dr)が丁寧に挨拶すると、石原は

「富士山見えないね」

と少し残念そう。しかし今の気候の中で聴くSaucy Dogも悪くないな、と思える。
肩の力を抜いてマイペースに歌う姿がバンドの等身大を映している「雀ノ欠伸」を経て演奏された「コンタクトケース」は、このバンドの持ち味である極上のバラードだ。決して派手なバンドではないが、Mt.Fujiに立つにふさわしい存在であることは、この曲をはじめとした数多くのバラード曲が証明している。盛り上げ上手なバンドが注目されがちなフェスという現場で、彼らのような存在のバンドはなかなかいない。

「たくさん朝活してくれてありがとうございました」

と最後は石原が思いっきり足を踏み鳴らして始まる名曲「いつか」。何となく冬の匂いがする素朴な楽曲だが、いつかLAKESIDEでもこの曲が聴ける日が来るのではないか、という期待が頭をよぎった。富士山は見えなかったけど、いつかじゃなくてまた来年、この場所に帰ってきたい。


BLUE ENCOUNT(Mt.Fuji STAGE)

今年はMt.Fujiの昼下がりを任されたBLUE ENCOUNTラブシャに出演するのは5年連続だ。

「今日、うちのギターの江口が遅刻してきたんですよ。…今日はさぞかしいいギターを弾いてくれるんだろうなあ」

と江口雄也(Gt)に発破をかけた田邊駿一(Vo,Gt)は辻村勇太(Ba)と同じくタンクトップでリハーサルに登場。しかしさすがに紛らわしかったのか、本編では白いTシャツに衣替えして登場。「DAY×DAY」でいきなりブチ上げると,「だいじょうぶ」と激しいナンバーが続く。

「毎月記録を更新するほど泣くけど何も変わらない」

というフレーズがあるが、かつて涙ながらMCする姿がしばしばピックアップされていた田邊は、最近は涙をあまり見せない。以前はMCが長くてライブの時間がギリギリになってしまうこともあったが、最近は

「色々と喋りたいことはあるけどそれよりも曲をやりたい」

というモードのようだ。

「ただの賑やかしバンドじゃない。あなたのために歌いに来ました」

とストレートに宣言すると、

「ドラマの主題歌やってもいいですかー!」

と最新曲「バッドパラドックス」では山中湖を一斉にバウンスさせる。

「君とずっと 並んで雨に打たれよう」

という歌詞があるから、雨が降る中で聴いてもまた違った良さがあるかもしれないが、今日の山中湖は晴天だ。
続けざまに「Survivor」「VS」で会場を踊らせると、「もっと光を」に入る前に田邊は自身の思いをぶちまける。

「あいつらと言えば「もっと光を」でしょってよく言われるし、とりあえずその曲やっときゃいいって言われるけど、必要だからこそ歌ってんの。盛り上がっていこうぜとかで終わりたくないし、俺たちカテゴライズされたくないんだわ。みんなもそうでしょ?フェスの客の中の一人で終わりたくないでしょ?」

その言葉からは、今のBLUE ENCOUNTが苦闘しているということが伝わってきた。思えば「バッドパラドックス」の歌詞にも、

「どうしようか これから先に進む方法が分からないでいる
怠いな 逃げたい ムカつく 自分の代わりはごまんといるんだろ?」

と今の彼らの心境が綴られている。今や全国のフェスに引っ張りだことなった彼らだからこそ、このマンネリとも取れる状況をどう打破すればいいのか悩んでいる。結局田邊はうまい言葉が見つからなかったらしく、

「別の表現を1年かけて見つけてくるわ」

と語った。ファンを不安にさせまいと、いかなる問題があっても表舞台では元気に振る舞うバンドは多いし、それは悪いことではない。しかし、BLUE ENCOUNTはこうして自分たちの抱える苦しみを曝け出してくれた。だからこそ我々はブルエンを信頼したくなるし、来年、彼らがどんな姿になってラブシャに帰ってくるのか楽しみになる。

「名前は覚えてくれなくていい。この曲だけ覚えて帰ってください!」

とラストに披露されたのは「アンコール」。結成から15年、これが今の彼らなりの音楽へのアンサーだ。1年後、自分はどんな人間になっているんだろう。ブルエンはどんなバンドになっているんだろう。わからないけれど、道って歩こうとするヤツにしか見えない。


・高橋優(LAKESIDE STAGE)

今や「ローカリズム」のVJとしてスペシャファミリーの一員となった高橋優。だが、番組が4年ほど続いているのにも関わらず、ラブシャには5年ぶりの出演。つまりVJになって初めてのラブシャだ。

雄大なSEをバックに、サポートメンバーから一つ遅れて登場した高橋は、「STARTING OVER」でライブスタート。

「僕らの大いなる旅は始まったばかり」

という一節があるが、「ローカリズム」での経験がこの曲にも影響されているといっても過言ではないだろう。

続いて「福笑い」では知っている人も多いらしく、たくさんの人が高橋と一緒に歌詞を口ずさむ。スペシャには月間で1組のアーティストをパワープッシュするプログラムがある(高橋優は「素晴らしき日常」でパワープッシュに選出されていた)が、その他にも、2週間ほどそのアーティストの楽曲をヘビーローテションする「it!」というプログラムがある。実はこの「福笑い」もかつて「it!」の枠として放送されていたのだから驚きだ。やっぱりスペシャは見る目がある。

「今ローカリズムって番組でVJをやらせてもらってるんですけど、車が喋るっていう設定で。ラジオに近い番組なんですよね。だからこんな番組見てくれている人はいるのかな…って思ったこともあった」

と話した高橋は、番組を見たことのある人、の問いにたくさんの手が挙がっていたことに安心していたようだ。こうしてリアルタイムで視聴者の反応を聞けることは、彼にとっても大きな支えになるだろう。

「会場に向かってる途中で渋滞にはまっちゃって。これは間に合わないってなったんで、私本日、自転車で会場入りしました」

と爆笑を誘った高橋は、ハーモニカのメロディが心地よい「プライド」でライブを再開。更に関ジャニ∞へ提供した「象」のセルフカバーで鋭い言葉を突き立てる。

「明日はきっといい日になる」では再びたくさんの人がサビを歌った。今日が終わったら我々は山中湖から帰らなければいけないし、スタッフ達は撤収作業に入らなければいけない。考えると憂鬱になりそうだが、彼が「いい日になる」と歌ってくれたから、また明日からも頑張っていこうと思えた。それでも寂しさは拭えないけど。

最後に歌詞通りの青空の下で届けられた「虹」は、この2日間、雨に降られたり足場の悪かったりした中で生き延びてきた人たちに贈られたかのようだった。

「誰に止められてもチャリでも何でもまた会いに来るからね!」

と最後に高橋はまくし立てた。ライブを見るのは初めてだったが、理屈ではないところで高橋優と通じ合えた気がした35分だった。最初の方から多くの人がOfficial髭男dismに向かっていたのはずっと気になっていたが。


Official髭男dism(Mt.Fuji STAGE)

今日一番の注目株と言っても過言ではないOfficial髭男dism。ラブシャ初登場のアーティストはだいたいFOREST STAGE(今日出演していたTOTALFATや、かつてはORANGE RANGEHEY-SMITHなどのベテランも最初はFORESTだった)に出ることが多いのだが、直近の勢いを考慮してか、彼らが選ばれたのはMt.Fuji STAGE。しかしそんなMt.Fujiももうキャパオーバー状態だ。去年の今頃は若手の中でも少し勢いが強い程度のバンドだったのに、まさかここまで人気に火がつくなんて。

「リハーサルの時間も無駄にしたくないので」

とフルで「Tell Me Baby」を披露するなど、サービス精神旺盛な一幕を経て、「宿命」をアレンジしたSEに乗せてメンバーが登場。後ろにはホーン隊とパーカッションを従えており、彼らがフェスの舞台にかけている気合いが窺える。
ホーンセクションのイントロが加わった「ノーダウト」ではいきなりの幕開けに悲鳴のような歓声が上がった。

「どうぞご自由に 嫌ってくれて別に構わない」

という歌詞とは反対に、彼らの虜になっていく人は増えていく一方だ。

藤原聡(Vo,Piano)がハンドマイクになり、もはや若手の貫禄ではない「FIRE GROUND」に続くと、このバンドがメロディセンスだけでなく、強靭な肉体性を持っていることを改めて思い知らされる。小笹大輔(Gt)のギターソロは大幅にアレンジされ、彼のルーツであるメタルの要素も組み込まれてる。

ラブシャにはスペシャでVJを担当しているアーティストはもちろん、かつてスペシャのパワープッシュに選出されていたり、スペシャ主催のイベントに出演していたりと、何かしら縁のあるアーティストが多く出演している。しかしヒゲダンは、パワープッシュに選ばれたこともなければ先述したit!にも選ばれていないし、これまでスペシャのイベントに出演した経緯があまりない。逆に言えば、これまでスペシャはヒゲダンにノーマークだったということにもなるが、遅ればせながらスペシャさえも唸らせた彼らの実力は計り知れない。それと同時に、これから両者がどんな歴史を生みだしていくのか、期待は膨らむばかりだ。

MY CHEMICAL ROMANCEを知ったのはスペシャでした」

と語った藤原。彼らがあらゆる音楽性を吸収したハイブリッドなバンドになった裏には、スペシャの存在も大きかったのだろう。

「僕は助演で監督でカメラマン」

という歌詞に続いて

「そしてバンドマン」

と歌詞が追加された「115万キロのフィルム」では、ヒゲダンお得意のグッドメロディが届けられる。野外の会場で聴くと、その心地よさが一層増している気がする。

「Stand By You」でコール&レスポンスを響かせると、「Pretender」ではまたもや大歓声が。今年はこの後出演するKing Gnuの「白日」が大ヒットをとばしたが、「白日」といい「Pretender」といい、あるいは去年ヒットした「Lemon」といい、切ない曲なのに皆が笑顔で口ずさんでいるこの光景が不思議だ。間違いなく、今年を振り返った時にハイライトの1曲として挙げられるようになるだろう。

ラストは「宿命」。ホーン隊の祝祭的なメロディと相まって、藤原の伸びやかな歌声が山中湖に広がっていく様は圧巻。セトリの半分以上の曲がヒゲダンの曲という枠を超えてみんなの歌になっているのが末恐ろしいし、今の彼らの無敵っぷりを堂々と見せつけた35分だった。


10-FEET(LAKESIDE STAGE)

フェス界の番長的存在、10-FEET。この日もお馴染の荘厳なSEに乗せてタオルが掲げられるのだが、やはり京都大作戦のグッズが多く目につく。中には、昨日は見かけなかったホルモンのTシャツを着ている人も多くいた。既にリフトアップされている人もいるなど、客席も準備万端だ。

ドラムセットの前で拳を交わし、頭の一音を鳴らすと、TAKUMA(Vo,Gt)は

「ありがとうございました!10-FEETでしたー!」

といきなりのクライマックス宣言。ちょっと前にやっていたいきなりアンコールで始まるあれか?と思っていたら、客席からのレスポンスを待たずに「RIVER」を投下。いつもはその土地に合った川の名前が入るこの曲も、今日は「流れゆく山中湖」とラブシャ仕様だ。

間髪入れずに「1 size FITS ALL」「goes on」を連発すると、キッズ達は狂気狂乱。バンドが長い時間をかけて築き上げてきたファンとの信頼関係が、この景色を作っているといっても過言ではない。

「人がゴミのようだ」

とTAKUMAもラピュタネタを盛り込んでくると、

「どうしたんやお前ら!いつもみたいに様子見してへんやんけ!なんかあったんか!」

とテンションが高め。序盤から様子見している人が多い10-FEETのライブは見たことがないが。ステージに飛んできた靴を

「もう二度と、失くすんじゃねえぞ」とカッコよく返し、

「カッコいい曲できたから聴いてくれへんかー!」

と「ハローフィクサー」へ。夏フェス前半からセトリに組み込まれており、メンバー自身も「同期に合わせて演奏するのが難しい」と言っていた曲だったが、バンドサウンドが強かった前回と比べて同期音との音のバランスがよくなっていた気がする。

「最近悪いニュースばっかやんな。今日ぐらいはええニュース作って帰ろうや。未来は何があるかわからへんから怖いけど、俺らはそんな未来を見に行く勇気を作りに来たんや」

と未来を見据えた「その向こうへ」が放たれる。彼らの言葉や音楽に幾度となく勇気をもらってきたのは自分だけではないし、彼らの仲間内だけでもない。だからこうして、10-FEETはジャンルやシーンに関係なく愛されるバンドになったし、色んなカルチャーが一堂に交錯するフェスという舞台がよく似合う。

「負けてもいい。そこからヒントを、経験値を持って帰れ」

と振り絞って「1sec.」「ヒトリセカイ」を届けた彼ら。未来はどうなるかわからないし、明日さえもどうなるかはわからない。でも、たとえ負け続けたとしても、この場所にはいつも10-FEETが待ってくれている。


King Gnu(Mt.Fuji STAGE)

昨年はオープニングアクトとして、野外の空気に見合わないどす黒いグルーヴを響かせたKing Gnu。正直、去年はあまり人が集まっていなかった。しかし、今日彼らが出演するMt.Fuji STAGEはリハーサル前から超満員だ。フェスの空気に合う音楽ではないにも関わらず、これだけの人を集めているのはかなりの衝撃だし、いずれはブレイクするだろうとは思っていたが、これほど早くに火がついたのは予想外だった。

ドラム後方に高くセットされたバンドロゴの入ったオブジェが輝く中、不穏なSEに乗せてメンバーが登場。空気感はそのままに「Slumberland」が始まる。常田大希(Vo,Gt)はギターの代わりに拡声器を手に持ち、挑発的にオーディエンスの合唱を煽るのだが、その様子は正にヌーの群れを従えるボスのようで貫禄に溢れている。

「Sorrows」は去年までの彼らにはあまりなかったアッパーチューンだ。正確無比なドラミングで疾走感に磨きをかける勢喜遊(Dr)、とびっきりのブラックなグルーヴを奏でる新井和輝(Ba)の両者のプレイは芸術の域だし、ベースとドラムは土台、という枠を超越しつつある。本当に恐ろしいプレイヤーだ。その気になればもっとニッチなアルバムも作れるだろうが、それをポップに昇華してしまう常田のセンスも半端ではない。

まさかこんな超満員の前で鳴らされるとは思っていなかった「Vinyl」、「Prayer X」と続いた2曲は、共に野外の空気が見合わない閉鎖的な雰囲気を持った曲だという印象だったが、「Prayer X」ではシンガロングが巻き起こった場面も。改めてこのバンドの凄さを思い知った。これから先、もっと大きなステージでこの2曲が鳴らされる未来もそう遠くないのでは、と感じる。

皆が待ち望んでいた「白日」は、もう後戻りはできない、というバンドの現状と覚悟を彼らなりに歌っているようにも見えたが、続く「飛行艇」ではそんな戻れない過去を

「清濁を併せ呑んで 命揺らせ」

と歌う。サウンドだけでなく、日本語の歌詞でも光と闇を表現する、という手法が、現在の彼らの戦い方なのだろう。
去年は最初に演奏されていた「Flash!!」で締め括り。今思えば、この曲がKing Gnuがより前へ進んでいく合図の曲だったと思えるし、結果的に前進しまくったバンドが今年こうして最後この曲を持ってきたのは何かの因果か。井口理(Vo,Key)は曲中にスプレーを振り撒いていたが、あれは何のスプレーだったのだろう。そういえば去年は、まさか井口がこんなキャラになるとは想像していなかったなあ、なんてことも考えていた。

飛行艇」を聴くと、かつてSuchmosが「A.G.I.T.」でスタジアムロックの手法を手に入れたときのことを思い出す。曲のスケールも、バンドの人気も鰻登りな彼らだが、これからどんな夢を見て、この時代にどんなアクションを繰り出すのか。これからも彼らの一挙手一投足を見逃せない。


東京スカパラダイスオーケストラ(LAKESIDE STAGE)

スペシャと共に今年で30周年を迎えた東京スカパラダイスオーケストラ。特別番組がオンエアされるなど、今年は両者がそれぞれのアニバーサリーを祝うべく精力的に活動している。ラブシャには2年ぶりの出演だ。

この日も前日に多数のコラボが発表されていたが、まずは「遊戯みたいにGO」をSEに臙脂色のスーツをまとった9人が登場。

「戦うみたいに楽しもうぜー!」

と叫び、サイドまで一杯に埋まったLAKESIDEを、手始めに「DOWN BEAT STOMP」で会場を温める。ホーンセクションが高らかに鳴り響く様は、まさにお祭り男、という言葉が相応しい。

今日最初のゲストに招かれたのは先ほど出番を終えたばかりのOfficial髭男dism。番組で共演した時と同じく、今日のコラボナンバーとして鳴らされたのは「星降る夜に」。ヒゲダンの4人全員がボーカルをつとめるのだが、藤原以外の3人も非常に歌が上手い。今後のアルバムでは藤原以外の誰かがリードボーカルを担当する楽曲も出てくるのでは、と思うほどだ(中でも松浦匡希(Dr)の声は甲本ヒロトにとても似ている)。楢崎誠(Ba)は谷中敦(B.Sax)と並んで自身の第二のパート・バリトンサックスを披露するなど、ステージのどこを見ても多幸感に溢れている。

ステージを端まで目一杯に盛り上げて回ったのは「Paradise Has No Border」だ。まさにスカパラを象徴する言葉でありながら、音楽の本質を象徴する言葉でもある。これまでスカパラは、奥田民生桜井和寿といった大御所から、片平里菜や今日同じステージに立ったヒゲダンといった若手と、年代やジャンルの壁を超越しながらものすごいコラボを繰り広げてきた。それは彼らの「Paradise Has No Border」という信念が、同業者にもしっかり共感されているからだ。

続いて登場したのはASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文(Vo,Gt)。コラボするのはもちろんシングルリリースされた「Wake up!」だ。MVと同じく、後藤はきっちりとしたスーツに身を包んでいるのだが、スーツが真っ黒なことと、サングラスをしているせいで、見た目がかなりおどろおどろしい。

谷中が

「もうメンバーだと思ってます!」

の言葉と共に招き入れたのはTAKUMA。悠然とステージ脇から歩いてくるのは、もう両者が幾度となくコラボしているからだ。スカパラがゲストボーカルを招いた楽曲の中でもとびきり祝祭感のある「閃光」が鳴らされ、LAKESIDEは笑顔に包まれる。

「告知していたゲストはここまでです!」

と告げた谷中、まさか、と思った矢先、

「もう一人、今日のために来てくれた人がいます!」

とシークレットゲストで紹介されたのはなんと宮本浩次。ソロでの出演も、エレファントカシマシとしての出演もない中、この一曲のために山中湖までやってきたシンガーの登場に会場は沸き立つ。歌うのはもちろん「明日以外全て燃やせ」。最早スカパラがトリであるかのような豪華さだ。

これだけフェスの舞台でたくさんのゲストを呼び込んだライブは中々なかったかもしれないが、最後に演奏されたのは9人での「ペドラーズ」。歌モノシリーズのゲストに注目されがちなアーティストだが、本来はこうして9人でスカの空気を様々なジャンルに取り込んだインストがバンドの本流だ。会場をひとしきり踊らせたところでライブは終了。

スペシャ、30周年おめでとうー!」

とバンドは叫んでいたが、同時に自分たち自身でスカパラの30周年を祝っていたかのような、そんな優しさを感じるライブだった。


・Aimer(Mt.Fuji STAGE)

ラブシャはおろか、野外フェスに出演することすら貴重なAimer。デビュー時から夜行性のオーラを放ち続けていたが、近年は明るいアルバムも増え、こうしてフェスの舞台に顔を出す機会も増えている。Mt.Fujiは夕陽が後光のようにステージを照らしており、彼女がステージに立つには充分すぎる雰囲気を作り出していた。

真っ白なドレスに身を包んだAimerが現れ、「ONE」を歌い出すと、一瞬で会場の空気が変わった。まるでこのMt.Fujiだけが周りの景色ごと切り離されたかのようだ。目の前には確かにAimer本人がいるのだが、その佇まいは触れると消えてしまいそうな儚さを伴っている。
こんな体験はしたことがない。早くも会場から手拍子が生まれ、讃美歌のような響きをもって会場を満たしていく。

あまりのセンセーショナルな体験に驚きを隠せないまま、「コイワズライ」の穏やかなメロディが夕暮れの山中湖に染み渡っていく。この日この場所の時間、空気、気候の全てが彼女のために用意されていたかのような必然性があって、ただひたすらに美しく愛おしい。

「いつも応援してくれているみなさんのお陰で8月にシングルを出すことができました」

と話し方も丁寧で品がある。そこから最新曲「Torches」と「STAND-ALONE」が続いたのだが、Aimerは今年、「Sun Dance」「Penny Rain」というコンセプチュアルなアルバムを2枚リリースした。これまでにリリースされていた既発曲は、このアルバムの内どちらかに収録され、それぞれの世界を彩っていたのだが、アルバム以降にリリースされたこの2曲は、「Sun Dance」にも「Penny Rain」にも属さない雰囲気を感じる。それは彼女の表現の幅が更に深まったという証拠だ。

「憐れみをください」

と「STAND-ALONE」で生みだしたシリアスな空気を引き継いで「I beg you」を歌うと、会場は緊迫した雰囲気に包まれる。かつてはアルバムに収録されている曲のほとんどがバラードで、まさに夜に聴く、という方向性だった彼女が、今こうして野外の会場で、あの時はこういう歌を歌うようになるなんて想像できてなかったメロディを奏でている。しかもちゃんとAimerでなければ成立しない世界観がある。

そんな空気を一蹴したのは最後に歌われた「蝶々結び。」

「この蒼くて広い世界に無数に散らばった中から 別々に二人選んだ糸をお互いたぐり寄せ合ったんだ」

という歌詞は今日の我々とAimerとの関係性のようだったし、今日Aimerとの間に生まれた、あるいはラブシャとの間に生まれたこの結びを、いつまでも大切にしていきたいと思えた。最近はアップテンポな曲も増えたが、やはりバラードを歌えば彼女の右に出るものは存在しない。

ライブを見たのは初めてだったのだが、「Sleepless Nights」から追いかけてきた自分にとっては、全てが衝撃的なライブだった。いつかこの場所で野外ワンマンでも開催できるのはないだろうか、と思うほど、ラブシャ初登場とは思えないベストマッチっぷりを見せつけた。


MISIA(Mt.Fuji STAGE)

ラブシャ初出演のMISIA。今年は「天皇陛下御即位三十年奉祝感謝の集い」なる式典にも出演するなど、その比類なき歌声はもはや説明不用だろう。

リハーサルからバックバンドが本場仕込みのジャズを披露する(メンバーの大半がブルックリン在住)という、3日間を振り返っても異色のアクトとして期待が高まる中、荘厳な演奏に合わせてMISIAが登場。エキゾチックな民族風の衣装は彼女の多国籍感を表しているのだろうか。

じっくり演奏と歯車を合わせるように「Believe」を歌うと、Mt.Fujiは声のないどよめきに包まれたかのようだった。本当に美味しい食べ物を食べた時は声が出ない、とはよく言うが、それと似た感覚が今の会場に漂っている。


「来るぞスリリング」ではタイトル通り、ジャジーなビートが高揚感を生みだし、その上でMISIAの歌声が自由自在に舞っている。歌を歌っているというより、歌を操っているというイメージだ。

「LADY FUNKY」ではトランペットの黒田卓也がMISIAバンドを紹介していくのだが、その口振りは司会者のように饒舌だ。メンバー一人一人も、ジャズの本場であるニューヨークやブルックリンからやって来たというプロフェッショナルの集い。なんて豪華な面構えだろう。

しかしそんな凄腕ミュージシャン達を引き連れているだけあって、MISIAの歌もバックの演奏に負けていない。それどころか、曲中に求めたコール&レスポンスが難しすぎて、

「今のはちょっと難しかったかな?」

と本人が苦笑いするほど。

オルフェンズの涙」以降は何回か演奏がハウる場面があったのだが、野外ライブでの音量調整はやはり難しかったりするのだろうか。しかしMISIAの歌は相変わらず素晴らしい。
太陽のようなオレンジの照明が輝く中で「陽のあたる場所」を披露すると、「つつみ込むように…」では大歓声が。

「誰も皆 満たされぬ時代の中で 特別な出会いがいくつあるだろう」

という一節があるが、普段ロックバンドばかりを聴いている自分が今日こうしてMISIAのライブを目撃できたことはとても貴重な機会だったと思えるし、そもそも好きなアーティストとライブで会える、という事実自体が特別な出会いなのではないか、と思う。

アウトロではMISIAが突き抜けるようなファルセットを披露するのだが、リリースされた1998年の彼女は当時20歳。20歳でこんなファルセットを出していたことも驚きだが、20年ほど経った今でも遜色なく歌えている。後にも先にも、こんなシンガーが出てくるのだろうか。

「MAWARE MAWARE」で再び会場に熱を灯した彼女は、スペシャの30周年を祝ってアカペラでハッピーバースデーの歌を歌う。そして、

「これも一つのアイノカタチ」

と「アイノカタチ」を最後に披露した。

「アイノカタチ」の曲中、斜め前にいたカップルが手を繋いで揺れているのを見た。大好きな人が隣にいたらそりゃきっとそうするだろうな、と思えたし、間違いなく3日間でナンバーワンの歌声を生で浴びることができて本当によかった。


SEKAI NO OWARI(LAKESIDE STAGE)

あっという間の3日間を締め括ったのはSEKAI NO OWARIラブシャにはなんと8年ぶりの出演。8年前といえば、まだ「ENTERTAINMENT」すらリリースされていない時期だから、その頃からラブシャにブッキングしていたスペシャはすごいなあ、と改めて感じた。
ステージ中央には「END OF THE WORLD」の文字が輝いている巨大なDJブースが置かれ、それだけでもこれからとんでもないことが起きる、という予感が高まる。

炎と森のカーニバル」でライブが始まると、いきなり山中湖をセカオワの世界に引きずり込んでいく。一瞬でこのこの場所がセカオワのワンマンの舞台になってしまったようで、フェスの最中ということを忘れそうになる。

まるで未知なる世界に迷い込んでしまった我々の不安定な心境を映し出したように、「ANTI-HERO」ではダークな音像が広がる。Saori(Piano)のソロも芸術の域だ。

一転して「YOKOHAMA blues」では夜の空気が似合うシティポップが会場を染める。Fukase(Vo)の手にかかれば、横浜だってファンタジーの世界に早変わりする。ここまで3曲とも、同じアーティストが歌っているとは思えない幅広さだ。いったい彼らの描く世界に果てはあるのだろうか。
MCでは8年ぶりの出演を喜んだNakajin(Gt)。まさか8年前、セカオワがこれほどあらゆるポップの形を吸収した巨大なアーティストになるとは誰が想像しただろうか。

続いて演奏された「RAIN」は、この3日間を総括するに相応しい、今日一番のハイライトといえる楽曲だった。今日は同じステージでHYや高橋優が虹を歌った曲を披露していた。会場から虹が見えることはなかったけど、お客さんの心にはしっかりとその架け橋は架かったはずだ。そう考えると、

「虹が架かる空には雨が降ってたんだ」

という歌詞において、虹とはこの3日間で鳴らされた全ての音楽のことを歌っているんじゃないか、と思えて、スペシャセカオワを大トリに据えたのは必然だったのだ、と感慨深くなった。

「大事な曲を歌います」

と歌われた「銀河街の悪夢」は、Fukaseの内省的な歌詞が抉るように綴られ、思わず聴いているこちらまで胸が苦しくなる。あまりにもパーソナルすぎる曲だが、こんな曲はセカオワにしか作れないし、スペシャや、スペシャのイベントに集まっている人々を信頼しているからこそ歌われたのだろう。

スターゲイザー」では曇り空の会場を閃光のような照明が貫いていく。さらにミラーボールのような光がステージをライトアップし、山中湖に星が降り注いでいるような、美しい一幕だった。

ラストの2曲は特に圧巻だった。マーチングのリズムに合わせて「RPG」が始まると、会場は大歓声に包まれる。Fukase

「歌える?」

とサビでマイクを客席に向けると、誰もがこの曲を口ずさんでいるし、炎の特効が飛び出した「Dragon Night」では盛り上がりは最高潮になり、皆が歌い、踊っている。その中には、京都大作戦のTシャツを着ている人も、昨日や一昨日の出演者のグッズを身に着けている人もいて、十人十色だ。

きっとそれぞれに好きなバンドやお目当てのアーティストがいて、それはもしかしたらセカオワではなかった人もいるかもしれない。でもこの2曲の間は、誰が何を好きとか、何を目的としているかはどうでもよかった。誰もが目の前で鳴っている素晴らしい音楽を全身で感じている。そこに境界線はない。スペシャにしか、セカオワにしか作れない光景が、確かにそこには広がっていた。

あっという間に花火が上がり、我々はセカオワの世界から帰ってきた。幸せなような、涙が出そうな、この気持ちはなんて言うんだろう。



あっという間の3日間だった。富士山は見えなかったけど、この場所を眺めながら、この場所の空気を感じながら聴く音楽は、何物にも代えがたい宝物となった。
スペシャは今年で30周年を迎えた。このフェスがずっと続いてきたのは、スペシャが常日頃から音楽に愛を注いできたからだ。それはこの3日間のラインナップの大半がかつてパワープッシュされてきたアーティスト達であることからもよくわかる。自分たちが信じて発信してきた音楽が、こうしてたくさんの人の前で鳴り響いていることは、きっと何よりも嬉しいだろう。
来年も、絶対にここに帰ってきたい。この3日間で、この場所が「向かう場所」ではなく「帰る場所」になったから。最後に上がった花火は、きっと何年たっても思い出してしまうんだろうなあ。