Hump Back 僕らの夢や足は止まらないツアー @Zepp Osaka Bayside 2019/9/16
※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。
全52公演、来年の4月にまで及ぶロングランのツアーを敢行中のHump Back。大阪には2度訪れるのだが、その内の一つが今日のZepp Osaka Bayside公演、しかもチケットはソールドアウト。メジャーデビューは去年とはいえ、高校時代にバンドを結成して10年、遂に大阪で一番でっかいライブハウスに到達したメンバーの気持ちは計り知れない。
巨大なバンドロゴが飾るステージに、ハナレグミ「ティップ ティップ」を流しながらゆったりと登場し、林萌々子(Vo,Gt)がいきなり歌い出したのは「星丘公園」。これは予想外の始まりだったが、どうやら今回のツアーはこの曲を先頭に据えていくようだ。新たなチャレンジもある中、地元の大阪であるからか、林の伸びやかな歌声はいつにも増して痛快だ。
前回ライブを見たのはラブシャだったのだが、その時以上に驚いたのが美咲(Dr)のドラムの進化っぷり。こうしてライブハウスで聴くとめちゃくちゃどっしりしている。決して派手なパフォーマンスを持っているドラマーではないが、堅実なプレイと佇まいからは頼もしさすら感じる。そんな美咲を紹介しながら、林が
「うちにはスーパードラマーがいるんで、みんなは拳と声担当で」
と手拍子を制する姿はいつも通り。
「高速道路にて」では高速のトンネルを思わせる赤と白の照明が疾走感を後押しし、いつもよりテンポの速い「ヒーロー」では
「僕だっていつか あのヒーローみたいに歌えるかな」
と歌う。この後のMCでも判明していたが、Hump Backのライブには10代のお客さんが多い。彼ら彼女らにとっては、今この瞬間にステージで演奏しているHump Backこそがヒーローなのだろう。
「一番でっかいライブハウスに、でっかい声で歌いに来ました!」
とBaysideのステージに立てたことを喜んだ林。
「色んな遊びがあるのにライブハウスを選んでくれてありがとう。遊び方は自由やから、好きに遊ぼうな」
と語り、最新アルバム「人間なのさ」からは「オレンジ」が一発目に奏でられた。
ぴか(Ba)の歌うパートも印象的な「MY LIFE」から「卒業」とテンポよく曲が続くと、「VANS」「サンデーモーニング」では今もこの町のどこかで起きている日常のワンシーンが丁寧に切り取られる。
Hump Backは自身のその目で見た景色や経験、自分や誰かに抱いた感情を素直に楽曲に還元する。そこに一切の捻れはないし、言い換えればとてもナチュラルな楽曲だからこそ、リスナーが思い思いの追体験を重ねることができる。これが東名阪のZeppを埋めきった彼女らの今の強みだ。
…というのは理屈っぽい話で、きっとHump Backはそこまで考えてやっていない(だからと言って何も考えずにやっているわけでもないだろうけど)。ただ音楽と純真無垢な心で向き合い、ロックバンドを真っ直ぐに信じてきた。そんなピュアなエネルギーから生み出された音楽に、多くの人が価値を見出だすのだろう。
林は以前のインタビューで
「世の中に優しくない人なんておらんと思う、という言葉を信じたい」
と語っていたが、そんな彼女のスタンスは
「確かにあいつは逃げたけど 走り方は悪くなかった」
というフレーズが印象的な「Adm」にも繋がっているのだと思う。
「高校の友達がライブに来てるんです。あの頃のことは覚えてないけど、歌にしたから思い出せる」
と語って始めた「十七歳」、
「地元の大阪なんで、元彼の曲を2曲持ってきました」
と林が悪戯っぽく笑った「コジレタ」を経て、MCではぴかが仲のよかった友達の結婚式に呼ばれなかったというエピソードを語る。
「ももちゃん(林)も昨日結婚式に行ってたよね」
と話を振られた林は、立て続けに友人の結婚式を訪れたことをきっかけに、大人になることは悪いことばかりではないことだと気づいたという。
「昔は大人になるのがダサいと思っていた。でも今は違う。めんどくさいことは増えたし、怖いもんも色々増えたけど、あの時はどうしようもできなかったことに折り合いをつけられるようになった。それに、大事なものを守れる力が身に付いた」
と「生きて行く」へ繋げる。彼女らはきっと年をとることを恐れていないし、そういうことはきっと大した問題ではなくて、年をとったなりの楽しみ方をきっと見つける。自分にはそんな考え方が羨ましいと感じたし、
「大事なもんで大事な人らを守れるのはサイコー!」
と突き抜けるような笑顔を見せたメンバーからは、初めて「月まで」を聴いたときとは比べ物にならない陽性のエネルギーを感じた。
渾身の「ワンツー!」が響き渡った「短編小説」では、
「ロックの中に答えはない!答えは自分の中。ロックを聴いて感じたことが答えや!」
と林は思いっきり助走をつけて客席に飛び込む。ギターソロは全く弾けてないけど、気にならない。Hump Backや自分が今までロックを、ライブハウスを選び続けてきた理由がそこにあったから。
「未来に光はない!自分が光るんや!」
と青い照明が突き抜ける「クジラ」もそう。
Hump Backの、ひいてはロックバンドのテーマソングとも呼べる「僕らは今日も車の中」、
「今 目に見えないものを探している途中」
と歌う「いつか」の2曲は、作られた時期こそ違えど未来へ視線が向けられている。よく夢を追いかけよう、みたいな台詞を聞くが、Hump Backにとっては今を全力で泣き、笑いながら生きることが未来へ向かうことなのだろう。
ロックバンドはいつだって答えを押しつけない。この2曲も、
「私らは夢も足も止めるつもりはないけど、君はどう?」
とこの場にいる一人一人が問われているようだ。
そんな「君はどうだい?」のフレーズが繰り返される「月まで」から、一際大きな声が上がったのは「LILLY」。「生きて行く」から「LILLY」までの流れは夏フェスの延長線上にあるような流れだったが、今後のツアーでこのゾーンはどんな変化を遂げるのか。
先日、ドラマ主題歌に抜擢された「恋をしよう」は、アルバムでも終盤に収録されていることもあって、明るい曲なのにそろそろライブが終盤に来ていることを悟らされて寂しくなる。
「これからもライブハウスの最前線として頑張っていきます」
と「拝啓、少年よ」、「今日が終わってく」を連発してライブは終了。相変わらず
「ああ もう泣かないで」
ってフレーズには泣きそうになるし、自分ももっと熱くありたい、という気持ちを彼女らから受け取ることができている。
アンコールはなさそうな雰囲気だったが、鳴り止まないアンコールに応えて
「やります!」
と再登場。メンバーの関係者も多く来ているからか、林は昔はイケイケだった、ぴかは酒癖が悪い、美咲は「満員御礼」が読めない、とそれぞれのメンバーからの暴露話もあった。
「大きいところでやるのは目標じゃないけど親孝行になる」
といったMCもあったが、やっぱり人前に立つことが多い以上、バンドは人柄が取り柄になる生き物だし、そういう意味では彼女らはちょっと心配になるぐらいお人好しなバンドだ。でもそういう所が色んな人を惹き付けているんだな、とも感じた。
「ゆれる」は確かに夏の終わりにぴったりだったし、ラストの「嫌になる」は
「あいつでさえ知らない場所」
のライブハウスでまたいつか再会できることを暗示しているように思えた。
まだまだツアーは続く。同じようにこの三連休が終わったら、我々の日々も続く。今日Hump Backを聴いて、心の中にポッと芽生えた光は、明日からの我々を少し優しくしてくれるかもしれない。