ネクライトーキー ワンマンツアー2019 ”ゴーゴートーキーズ! 全国編「〆」” @マイナビBLITZ赤坂 2019/9/23

若手という枠に収まらず、今やシーンを席巻する存在となったネクライトーキー。東名阪のクアトロを含むワンマンツアーが即刻ソールドアウトとなったことを受け、追加公演として選ばれたのが京野マイナビBLITZ赤坂。ネクライトーキー初の1000人越えのワンマンとなったが、チケットはソールドアウト。バンドの勢いの恐ろしさを物語っている。
自分は元々、大阪のツアーに参加する予定だったのだが、ラブシャと被っていたことを直前に知り、泣く泣く断念。しかし7月にリリースされた「MEMORIES」を聴いていてもたってもいられなくなり、遠征を決意した。そもそも遠征はあまりしないのだけど、あんな名盤を聴かせられたらもうライブに行くしかないじゃないか。

普段は夜行便で朝から行ったり、金銭的に余裕があったら新幹線でのんびり行ったりしていたのだが、今回は朝一に大阪を出る昼行便を選択。16時過ぎには会場に着く計画で大阪を発ったのだった。
しかし高速道路はまさかの事故渋滞。しかもやっとの思いで入ったSAでも、他の乗客が定刻までにバスに戻らなかった影響で、バスから降りたときには既に開演10分前。結局、30分ほど遅れて会場に到着することになった。

会場に着くと、「サンデーミナミパーク」を演奏している最中。5人ともいつも通りの服装だが、朝日(Gt)は髪を切ったのか、何だかいつもより爽やかに見える。
この「サンデーミナミパーク」は石風呂時代の曲であり、「MEMORIES」には収録されていなかったものの、

「楽しかったからやった」

と朝日の動機は至って単純。MCではそんな「MEMORIES」の由来について、朝日の石風呂時代の思い出が詰まったタイトルであると同時に、そんな石風呂の楽曲をリアルタイムで享受していたもっさ(Vo,Gt)の思い出が詰まったタイトルでもあることが語られた。

ネクライトーキーはキャリア的には若手だが、朝日と藤田(Ba)、カズマ・タケイ(Dr)はコンテンポラリーな生活から数えると決して若手ではないし、朝日は石風呂名義でメジャーからCDを出していた時期もある。この「MEMORIES」に収録されている楽曲は、作り手である朝日にとっての思い出であると同時に、もっさのようにかつて石風呂の楽曲を聴いていた人達の思い出であり、自分のように石風呂の時代を知らない人達にとっても、これからの思い出となりえる可能性を秘めている。
正直、石風呂の楽曲達はネクライトーキーとしてのオリジナル楽曲が揃うまでの場繋ぎだと思っていた。でもこうして音源を作ってくれたということは、これからも様々な世代の人達の思いを抱えながら石風呂の曲を演奏していくというネクライトーキーの決意の表れだ。本当にこのアルバムがリリースされてよかったと思う。

「涙を拭いて」では、この日集まった人達を「よく来たね!」と歓迎するかのような温かいムードが溢れる。自分に限らず、この場所まで辿り着くのに散々な思いをした人もたくさんいたと思うけれど、そんな思いが全て浄化されていくようだった。
今年、バンドは去年以上にたくさんのイベントやフェスに呼ばれるようになったが、毎回演奏される「だけじゃないBABY」といった曲達を聴くと、場数を踏んだことでバンドの音がどんどん逞しくなっていっているのがよくわかる。今回のツアーからカズマ・タケイの左横にポジショニングしているむーさん(Key)の表情も見違えるほど柔らかくなっていて、バンドの状態の良さが窺える。

風が吹き抜けるようなSEが流れる中で、

天王寺で出会った竜の話です!」

と朝日が紹介すると、「あの子は竜に逢う」が始まる。

「つまらない毎日 くだらない自分 そんな全部全部を壊してくれる
特別なものが JR改札抜けたら そこにあると信じて」

というフレーズがあるが、自分も含めて今日ここに集まった人達にとっての「特別なもの」は、間違いなくネクライトーキーのことだろう。わざわざ言葉として発信しなくとも、 ライブハウスでは日々の喧騒を忘れていい、着飾らなくていい、というメッセージを、このバンドは自らの立ち振舞いで表しているようだ。ところでこの曲の照明は緑がメインだったのだが、曲中に登場する竜も緑の鱗をまとっているのだろうか。

「新曲やります!」

と宣言されて始まったのは、もっさの歌声とむーさんのピアノが優しい、朝日いわく「しっとりした曲」。今まであまり見られなかった繊細な歌い方からは、もっさがボーカリストとしての表現力を著しく進化させていることがよくわかったし、初めて聴くのに目頭が熱くなってしまった。早くも名曲の予感がする。

続いて披露された新曲は、朝日が

「さっきのしっとりした曲の反動で作っちゃった。愛と勇気と金玉の曲」

と紹介した、その名も「ぽんぽこ節(仮)」。もっさ、もといもっさぽんぽこがお腹を叩く音から始まり、目まぐるしく展開が変化するこの楽曲は、このバンドが持つテクニカルな一面を徹底的に尖らせている。

音源が正式にリリースされたことで

「せーの!」

の声がキャパシティ以上に大きく聴こえる「夕暮れ先生」から、今日一番のハイライトを生み出したのは「許せ!服部」。1番サビ終わりで

「行くぞ服部ー!」

と加速する流れは同じだが、いつもの「ワンツースリーフォー!」をメンバーで回す下りはなし。代わりに再びテンポがゆっくりになり、もっさがギターを置いて袖へ捌けると、「CD」「ライブ」と書かれた看板を持ってくる。そしてメンバーの方を向いて立ち、「ライブ」を掲げると加速、「CD」を掲げると減速…といったように両方のバージョンを見せるという粋なパフォーマンス。
もっさの挙動がどんどん忙しなくなっていくにも関わらず、CD版であろうとライブ版であろうとアンサンブルがバッチリ決まっているのが本当に凄い。その中でも、唯一ほとんどアイコンタクト無しで冷静に合わせていたのがクールだった藤田がお立ち台に昇ると、もっさが「ライブ」の看板を掲げ、藤田のベースソロが始まる。
会場が湧く中、今度はむーさんがショルキーを引っ提げてフロントに登場し、こちらもお立ち台の上でキーボードソロを披露。女性陣2名のソロバトルに会場のテンションがどんどん上昇していく。すると次はカズマ・タケイのソロに移り、またもや会場は熱狂。更に朝日がもっさから看板を奪うと、今度はもっさもお立ち台に立ってギターソロ。間髪入れずに最後は藤田、もっさ、朝日、むーさん全員がお立ち台に立つという超長尺のパフォーマンス。まさかこんなことができるようになっているとは。この鮮やかな演奏っぷりは、間違いなくネクライトーキーにしかできないエンターテイメントだ。
しかし演奏がブレイクすると、やっぱり最後は観客の掛け声に合わせてキメをビシッと、合計14回決めてみせた。合計して8分以上繰り広げられた活劇のような一幕に、鳴り止むことのない拍手が送られた。
それでもなお、

「めっちゃ楽しい!ずっとやってられるわ」

と朝日は実に楽しそうだ。彼は以前のインタビューでネクライトーキーについて

「技術はタケちゃん(カズマ・タケイ)に任せっきりでまだまだ」

と語っていたが、今日は

「かっちょええとしか言えん」

と満足そうだ。

気づいたら大型のカメラがあちこちに置かれ、明らかに今日の模様が映像化される予感が漂う中、スペイシーなキーボードが印象的な新曲を披露すると、「音楽が嫌いな女の子」へ。曲の後半にはMVにも出演していたアウトレイジ前田が同じ格好で登場。「石風呂運輸」と書かれた段ボール箱から無数のボールを客席に投げ込むサプライズを見せた。
ネクライトーキーの一番の魅力は音楽への純粋な愛だと思っている。それはバンドアンサンブルや、メンバーの一挙一動、奏でるフレーズの一つ一つに溢れんばかりに宿っているし、ライブではそれが更に顕著だ。それ故に

「愛してるけど音楽大変ね」

といった気持ちになることもあるけど、最後は

「ほらもっと掻き鳴らせ」

と歌う。朝日をはじめとして、やっぱりこの5人は音楽に生かされているということを本人達がよく自覚しているし、だからこそネクライトーキーの楽曲は、自分のように音楽が必要な人に強く響くのだろうな、と思う。音楽は腹を満たしてくれないし、過去の傷跡を消し去ってはくれない。でもこうして弾丸スケジュールで東京まで向かう程に、自分にはネクライトーキーが必要だと強く思うのだ。

「5! 4! 3! 2! 1! FIRE!」

の掛け声もバッチリ決まった「オシャレ大作戦」では銀テープを噴射。ライブを見る度に研ぎ澄まされていっているカズマ・タケイやむーさんのソロ、

「BLITZヘヘイヘイ」

臨機応変に歌詞を変えるスタイル等、最早ネクライトーキーのライブには欠かせない要素が詰め込まれた楽曲だが、

「やるしかない ここまで来た」

の「ここ」がBLITZなのだ、と思うと、とても感慨深くなった。

そしてラストは「遠吠えのサンセット」。何度となくライブの最後を託されてきたこの楽曲だが、改めてBLITZという舞台で噛み締めて演奏しているメンバーの姿もよく見えたし、1階スタンディングエリアには小さなモッシュピットが出来ていて、まるでこのバンドのフロアに新たな芽が芽吹いたのを感じた。

朝日がもっさのギターを手にしたことで「まさか朝日が歌うのか?」と期待させて登場したアンコール。もっさが

「ワンマンも楽しかったけど、私達スリーマンの自主企画もやってるんで」

と12月に自主企画「オーキートーキー」の開催を発表。GRASAM ANIMALの時だけは少し歓声が小さかったが、同世代のFINLANDSとPELICAN FANCLUB、むーさんの大好きなパスピエの発表にはフロアが湧いていた。
そして朝日がツアーで少しずつ新曲をやっていたことを話題にすると、2ndアルバムを現在制作中であると発表。更に、そのアルバムを引っ提げてソニーミュージックからメジャーデビューすることも併せて発表された。正直、これだけハイクオリティなポップセンスを持つバンドがメジャーに呼ばれることは時間の問題だと思っていたが、やっぱりこうして目の前で発表されるとすごく嬉しかったし、3月のワンマンでむーさんが正式加入した時と同じように、拍手はなかなか鳴り止まなかった。

アンコール1曲目は

「北へ向かえば」

というフレーズが繰り返される新曲。カズマ・タケイがパッドを駆使するなど、バンドの新たな一面がどんどん開かれていく楽曲だ。今日やった新曲がどのような形で収録されるのかはまだわからないけれど、常に好奇心の赴くままに進み、自分達が楽しい・面白いと思うことを突き詰めてきた5人なら、これからも大人を巻き込んだ本気の遊び、本気の音楽を見せてくれるだろうと信じている。
朝日にとっては2度目のメジャーデビューになるが、こうして再びメジャーシーンに出向くということは、彼が心からネクライトーキーを誇りに思っているからだろうし、これからもネクライトーキーとして転がり続けていく、という決意と覚悟の表れだろう。

最後に演奏されたのは「ティーンエイジ・ネクラポップ」。朝日はお立ち台の上で、かつての自分自身に捧げるように弦の切れたギターを弾いていた。最後の長い、長いコール&レスポンスは、見えない未来を待ち構える賛歌のように、ずっと会場に響いていた。

「涙を拭いて」の歌詞に

「そして一緒に戦おう」

という一節がある。自分が辛かった時期にこの曲を聴いた時、こう言ってくれる人をずっと探していたんだ、と感じた。だから自分にとってネクライトーキーは、追いかけていく存在ではないし、一緒に遊ぶだけの存在ではない。一緒に気難しい現実と戦い、立ち向かっていく戦友だと勝手に思っている。一緒に戦ってくれる仲間がいるのは心強い。
メジャーデビューおめでとう。厄介なことも増えるだろうけど、それでもなんとかやっていこうよ。

そしてマイナビBLITZ赤坂、初めて来たけれど思い出の場所になった。ライブハウスとしての営業が終了することはすごく残念だけど、形を変えてもまた機会があれば絶対に帰って来たい。また一つ、思い出の場所が増えた。
散々な一日だったけど、このバンドの晴れ舞台を見れて本当によかった。