Reol Oneman Live 2019 「侵攻アップグレード」@松下IMPホール 2019/10/6

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。




















今年は3月に「文明EP」をリリースし、その作品を軸としたライブも展開してきたReol。昨年のアルバム「事実上」以降、完全に覚醒モードに入ってノリノリな彼女のワンマンに初めて足を運んだ。

会場に到着すると、ステージには抄幕が張られ、月のような地面に真っ黒な旗が突き立てられているツアーのメインビジュアルが映されているのだが、何処からか風が吹いているのか、旗がなびいている。
場内には飛行機の中を思わせる音が流れているのだが、開演が近づくにつれてその音が大きくなっていくのが細かい。さらにReolのアートワークを支える映像担当のお菊による機内アナウンスも放送されるなど、既にライブが始まっていることを告げるかのような演出。
会場の松下IMPホールは貸会議室が近くにあるなど、かなりビジネスライクな施設だが、そのような場所でもこうした演出が非日常感を与えてくれている。

会場が暗転し、今回のツアーのオープニング映像が流れると、抄幕にシルエットが映される。

「ほらそこに横になって」

と印象的なフレーズから始まるのは「ウテナ」。幕が落ちると、機長のような服装をしたReolがセンターに待ち構えていた。後方の3面あるLEDスクリーンにはMVを彷彿とさせる映像が流れ、両脇には二人のダンサーを従えている(MVで共演したMIKUNANAではなかったようだが)。

Reolが帽子をとり、ステージに一人になると、「ミッドナイトストロウラ」では左右に練り歩きながら歌唱。宇宙空間のような映像が流れた「シンカロン」では、サビで宇宙に浮かぶ星が現れると同時にステージ袖からシャボン玉が放たれ、重厚なエレクトロサウンドと共に会場を呑み込んでいった。

「Lunatic」からはスクリーンに歌詞が投影されるのだが、ヒップホップを主体とした彼女の楽曲は言葉数が多い。それに伴って映像からの情報量も増えてくる。言葉が次々と飛び交う様はそれだけでリスナーを圧倒する気迫に満ちているし、その言葉達を鋭い歌声で突き付けるように歌うのが彼女の魅力だ。
しかし、彼女の片腕的存在であり、ライブでも音響の重要な役割を担っているGigaが「ギガP」名義でリリースした「ヒビカセ」を披露すると、イントロから大歓声が上がり、ネットの世界とリアルの世界の架け橋となっていることも彼女の魅力なのだとよくわかる。

曲終わりと同時に衣装を破くように脱ぐと、大胆な格好になって「激白」をダンサーと共に披露。自分が「事実上」を聴こうと思えたきっかけとなった曲だが、こうしてライブで聴くとやはり言葉の力が強いし、時にがなったりする歌声は言葉の強さに同化しているようだ。

ここまで6曲をノンストップで駆け抜けると、Reolは一旦退場。スクリーンには白い熊と兎が登場し、ゆるいやりとりを繰り広げる。どうやら今回のツアーから登場し出したキャラクターらしいが、名前はまだ未定らしく、Reolいわく

「ツアーでブラッシュアップしていく」

とのこと。そんな名前はまだない熊と兎が、今回のツアーのテーマは侵略であること、「文明EP」から続いた文明の物語も最終地点を迎えていることが伝えられる。ということは次のアルバムのリリースツアーで最終章になるのだろうか。

そんな来年リリースのアルバムから先行配信されている「ゆーれいずみー」では先程の映像に出てきた熊と兎も登場。Reolは白いローブを羽織り、観客と共にお化けのごとく両手をゆらゆらさせていた。そして

「さあ 信仰しろ」

の歌詞がツアータイトルである「侵攻アップグレード」と掛けていることを思わせる「カルト」からはよりディープな世界へ観客を誘っていく。
「幽居のワルツ」では再び現れたダンサーがペアになって舞い踊り、ここまで出番のなかったステージ上部の計6つある四角いLEDも極彩色に光る。本来ならばポップなイメージのはずのRGBの三色だが、妖しいトラックの上で光るとやたらとおどろおどろしくなるのが不思議だ。
「mede:mede」と続けてキラーチューン「煩悩遊戯」では大量のスモークが噴射し、重低音の効いたトラックで会場を踊らせた。

ここで再び幕間に入るのだが、その間もGigaのバキバキのサウンドとお菊の派手な映像が入り乱れる「-BWW SCREAM-」でテンションを緩めさせない。さらには熊と兎も現れ、ひとしきり踊ったところでステージにはマイクスタンドが立ち、Reolが扇を持って再登場。
MVと同じく蝶が飛ぶ映像が雅な「極彩色」を経て「失楽園」、Reolが鍵盤ハーモニカを吹いた「真空オールドローズ」では文明の崩壊が描かれる。

「文明EP」の曲順と同じく「失楽園」をこのポジションに持ってきたことで、冒頭の「ウテナ」から続いたストーリーに終止符を打つだけでなく、淡々としたサビが終末を感じさせる次曲「真空オールドローズ」と合わせてライブのコンセプトを強化してきたのは流石だった。本人がインタビューで

「視覚的な音楽が好きだった」

と語っていた通り、「真空オールドローズ」では薔薇が散る映像と同期して天井から花びらが降ってくる演出もあり、こうした流れの一つ一つにチームの拘りがとことん感じられた。

再びReolが捌けると、代わりに熊と兎が登場。

「みんなまだまだいけるー?」

とフロアを煽るも、客席の反応はぼちぼち。多少無理矢理な感じはあったものの場を繋げると、ここで初めてのMCへ。

「前回の文明ココロミーから繋がったライブをするのは初めてで。作った文明がお化けの世界とか通りながら、他の星を侵攻しにきてるイメージです。グッズにも伏線をたくさん用意している」

とReolは改めて本ツアーの趣旨を説明。すると、

「衣装も変わったことだし…」

とここまでのコンセプチュアルなライブは終了することを宣言し、ライブを再開する。一貫したコンセプトが設けられたライブでは、普段のライブでは定番の曲もそのコンセプトの中に、時には無理矢理組み込まれることもあるが、あえて流れを止めて

「ここからはみんなで楽しむゾーン」

と今回のReolは銘打ってみせた。その宣言通り、「劣等上等」「平面鏡」とアップテンポな楽曲が続く。さらには

「9月に3曲作って、まだ2曲は見せられないんだけど、そこから1曲やろうと思います。ライブアンセムになってほしい」

と語り、80年代ファンクをReolなりに解釈したという新曲もお披露目。「サイサキ」等の強いエネルギーを持つ楽曲の反動で生まれたみたいな怠惰な歌詞だが、次のアルバムではどんな役割を担うことになるだろうか。

「たい」では重厚な四つ打ちに合わせて会場全体がバウンス。その盛り上がりは元々ライブ向けのホールではないことと、ビル内の2階のホールということも相まって、この揺れ大丈夫か?と思うほど。前回のアルバムにも四つ打ちのダンサブルなトラックはあったものの、この曲はより一層クラブミュージックの色が強く、近未来の雰囲気を感じさせる。

最後に歌われたのはReolが旗を掲げて現れた「サイサキ」。聴いた人を奮い立たせるかのように言葉の弾丸を浴びせる楽曲だが、やはりネット発ということもあってか、楽曲の魂胆にあるのは自分自身へ言い聞かせている、という内向きのエネルギーだ。

「薄志弱行な僕」

とは紛れもないReol自身だし、この曲を聴いている自分自身でもある。そのシンクロが強烈なエネルギーを起こす事実は、バンドであれソロシンガーであれ同じことなのだ。
最後に彼女は掲げていた旗を足元に突き立てたのだが、アンコールで再びツアーのメインビジュアルが表示されたとき、真っ黒だった旗はその旗と同じ柄になっていた。それはかつて、月にアメリカ国旗が打ち立てられたように、Reolが大阪への侵攻を完了したことを誇示していた。

そんなアンコールはReolがギターを抱え、「木綿のハンカチーフ」のワンフレーズから「染」へスイッチしていく展開からスタート。本人いわく

「台風で中止になった宗像フェスの時にやりたかったことの供養」

だったらしいが、段々と肌寒くなってきた今日この頃に聴くとより染み渡る楽曲だった。

「さっきの「たい」の時めっちゃ揺れてたよね。大丈夫かな?(笑)すいませんでした、大目に見てあげてください(笑)。まあ最後は無礼講ってことで!」

と最後に選ばれたのは「宵々古今」。祭囃子のメロディに合わせて再び会場が大きく揺れると、最後には大きな花火がドカンと打ち上がって鮮やかに幕を降ろした。

その後、熊と兎の名前が「エンドウさん」と「お母さん」に仮決定。

「絶対却下されると思ってたのに浸透しちゃった(笑)」

と笑いながら、彼女は次の侵攻地、名古屋へ(徒歩で)向かっていった。

卓越した映像演出とそれに呼応したライブパフォーマンスで、前回のライブの続きとも言えるコンセプチュアルなライブを披露するゾーンだけでなく、それとは別のキラーチューンをひたすら集めたゾーンを使い分けて全22曲をこなしたReol。どうやら最終目的地である東京では発表もあるようだが、まずは彼女の侵攻の旅が無事に終わることを祈っていよう。

「このLEDスクリーンは出世払いだと言われました!私はいつ払い終えるんでしょうか!」

そんな彼女とまた会える、巡り会える、そんな幸先なら。