フジファブリック 15th anniversary SPECIAL LIVE 「IN MY TOWN」@大阪城ホール 2019/10/20

今年はデビューから15年を迎え、様々なプロジェクトを進行中のフジファブリック。その一環として行われるのが今日の大阪城ホール公演だ。大阪は山内総一郎(Vo,Gt)の出身地であり、彼はいつか大阪城ホールでライブすることを夢見ながら上京したという。彼の大阪への愛は、「手紙」のMVで彼自身がカメラを持って故郷の町を巡っていたことからも明らかだ。
そんな大阪城ホール公演、年明けから何と47つもの先行受け付けが実行され、まさにいつでもウェルカム状態でチケットの用意がされた(ちなみに自分は「ホワイトデー義理人情受付」と銘打たれた先行でチケットを手にした)。
その結果、チケットはソールドアウト。いや、ソールドアウトしたのはたぶん先行の数が多かったからではない。今日は日本全国から、ある人はツアーバスに乗り、ある人は飛行機に乗って、たくさんの人が大阪に駆けつけた。それはこのバンドが全国のロックリスナーから愛されている何よりの証明だし、「今が一番カッコいい」バンドであることの証明でもある。
 
環状線を意識したかのような円形の照明が佇み、花道が少し伸びている以外は、ステージはシンプルな構成。開演前に山内や金澤ダイスケ(Key)の影アナも挟みつつ(金澤は「ステージに向かってスクラムをしないで下さい」と冗談を言っていた)、本編は2年前に山内が「大阪城ホールでやるという夢ができた」と夢を語った映像から。2年間のドキュメント風のムービーが終わると、明るくなったステージに赤の衣装で統一されたメンバーが登場した。
 
一曲目に選ばれたのは「若者のすべて」。志村正彦が残した名曲。真夏のピークはとっくに過ぎ去っているが、この曲を聴くと夏の終わりの一抹の寂しさが一瞬で蘇ってくる。朝の情報番組やMステでも披露されていたし、この曲からフジファブリックを知った人も多いことだろう。こうしてお茶の間とフジファブリックを繋げてくれたのは、紛れもなく志村だ。
続く「はじまりのうた」では客席のプレートライトがカラフルに光り、金のテープが発射されて一気に会場が鮮やかになる。「Green Bird」からは後方の円形の照明が、荘厳なサウンドに導かれるように神々しく光った。
 
真っ赤に染まったステージで金澤のギター姿も披露された「SUPER!!」では、山内、加藤慎一(Ba)も一緒になってフロントに躍り出、3人が合わせてヘッドを振るパフォーマンスも。フジファブリックが過去のバンドになるにはまだ早すぎるということは、こうしたキレキレのパフォーマンスを見れば明確。
そして、
 
「溢れるエネルギーで 前のめりに走るんだ」
 
のフレーズ通りに全速力で「星降る夜になったら」「オーバーライト」と駆け抜ける。ここまでほとんどの曲が3人体制になってから発表した曲なのは、今現在のフジファブリックが最も脂が乗っているということを、全国から集まったファンに見せたいというバンドの意向だろうか。
 
サポートの玉田豊夢(Dr)を含めたメンバー紹介のMCでは、もちろん志村正彦のことも紹介。
 
「彼が亡くなって10年経ちましたけど、改めて彼は変な奴だなあ、すごい奴だなあって思います」
 
と山内はしみじみと語る。ボーカリストをなくすという悲しみを乗り越えてバンドを続けてきた彼らだが、バンドを続けること、志村以外のメンバーが楽曲を作ること、山内がボーカルを続けることには、とんでもなく大きなプレッシャーがあったことだろう。そんな彼らの苦労が、山内の言葉から感じ取れた。
 
「紹介させてください、志村正彦!」
 
と改めて志村の名を呼ぶと、「バウムクーヘン」、「赤黄色の金木犀」と志村の作った楽曲が続く。「赤黄色の金木犀」では円形の照明の中央、そして両端のスクリーンに志村が生きていた頃の映像が流された。自分は彼が元気だった頃のフジファブリックを知らない。でも彼が映った映像を見ると、彼には触れたら消えてしまいそうな儚さがいつも伴ってあって(細身だからというのもあるけど)、不思議な人だなあと思うし、やっぱりみんなに愛されていたんだなあ、ということが伝わってくる。
活動再開後初のアルバムで、志村に向けたメッセージが綴られていた「ECHO」では、
 
「離れていたって届くように 今ありったけの想いをのせて君に 君に捧ぐよ」
 
のフレーズを、改めて志村へ届けるように全身全霊で歌う。その気合いの入りようは、後のMCで山内が
 
「気持ちが入りすぎちゃった」
 
と語っていたほど。ここに志村はいないけれど、志村の魂は確かに生きている。これからも生き続ける。そう感じられた。
 
お色直しを施して、黄色の衣装でセンターステージに現れた3人は、
 
「ここからは3人だけで、アコースティックバージョンでやろうと思います」
 
と語り、「ブルー」を披露。山内はアコースティックギター、金澤はピアニカ、加藤はウッドベースに変わり、ミニマムながら暖かな演奏を届けた。
 
「3人でやるとドラムがいないから豊夢くんの存在を実感するなあ。フジファブリックはセカンドアルバムをリリースして以来、正式なドラマーがいなくて、15年間でたくさんのドラマーが関わってくれました。全てのドラマーに感謝したいです」
 
と語ると、更に続いて
 
「この『IN MY TOWN』をやるまでに、たくさんプロモーションさせてもらって、テレビにも出させてもらったし。BSフジでドキュメンタリー番組を作ってもらったりした。FM802にもすごくお世話になった。色んな人に感謝したいです」
 
と全方位へ向けて感謝を口にした。こうして1年がかりで大量のプロモーションができたのも、フジファブリックが愛されてきたからこそだろう。
恒例の「カトーク」の時間にはたこ焼きを使ったなぞかけを大成功させ、
 
「大阪のハートを感じる曲です。知ってる人は手拍子してください」
 
と続いて披露されたのは円広志の「ハートスランプ二人ぼっち」のカバー。ずっと関西に住んでいる自分にとっては、「探偵ナイトスクープ」はそんなに関西のテイストがある番組だったのか、と気づかなかったのだが、山内曰く
 
「この曲が東京で流れると大阪の景色が蘇ってくる」
 
そうだ。 アコースティックコーナーを締め括ったのは「透明」。曲後半にはコール&レスポンスが繰り広げられ、マイクを向けられた加藤のベースラインがもたつくという一面もあってピースフルな雰囲気が広がった。
 
再びバンドモードに戻り、後半戦の幕開けは「LIFE」から。サビでは手が振られるなど、ライブでも定番の曲だが、
 
「見慣れていた景色さえも輝いてた」
 
の一節は、大阪へ凱旋してきた山内の心境を映しているかのようだ。スモークが噴き出した「徒然モノクローム」では山内と加藤がステージサイドまで歩き回り、いつもより長尺のギターソロも披露。こうしたことができるのは大きな会場ならではだ。
一転して玉田の刻む祭囃子のようなビートから「Feverman」にスイッチすると、会場が無国籍感漂う雰囲気に早変わり。盆踊りのような振り付けを加藤にレクチャーしてもらった会場が思い思いに踊ると、山内は
 
大阪城ホール、みんないい感じ!最高!」
 
と満足げに頷いた。ロックバンドのライブでこんな光景が広がるのは見たことがない。
妖しい照明に照らされながら「東京」が始まると、中盤には加藤→金澤→玉田と鮮やかなソロ回しが行われる。更に山内による、フジファブリックの過去の楽曲名や歌詞が散りばめられた15周年エディションのラップを経てコール&レスポンスへ。最後には
 
「華やぐ 大阪」
 
と歌詞を変えるサービスも。この曲がリリースされたころには、1曲の中にこんなに多くのアレンジが詰め込まれるとは予想もしていなかったが、今ではすっかりフェスでも定番となっているこの曲は、最新アルバムの中でもフジファブリックが今も攻めの姿勢を貫いていることを最も如実に示している。
フジファブリックの第2章を鮮やかに彩った「STAR」では、円形の照明だけでなくステージ上部や真横からも真っすぐな光が貫かれ、何もかもをかなぐり捨てて光の中を邁進していく、この楽曲の力強さを視覚的にも演出していた。
 
最後に歌われたのは
 
「この日のために作った曲です」
 
と発表当時から温められてきた「手紙」。フェスなどでも歌われてきたが、やはりこの場所で、この瞬間のために鳴らされる必然性を持った曲だと改めて思わされた。
 
「さよならだけが 人生だったとしても」
 
という一節があるが、彼らにとってこの15年は、決して平坦な道のりではなかっただろう。それでもバンドを続けてきてくれたから、この場所で「手紙」を聴けた。楽な道のりじゃなかったから、「手紙」はこんなに一つ一つの言葉が響く曲になった。山内が言っていたように、全てが今日に繋がっていたのだ。
 
長い長い拍手でいったん見送られた彼らだが、アンコールに応えてまず山内だけが登場。
 
「みんなに何か贈り物をしたいと思って。何がいいだろうか、って考えた結果、やっぱり曲がいいんじゃないかなって。これからも僕らと一緒に時を刻んでいってほしいです」
 
と、出来立ての新曲を披露してくれることに。メトロノームの音を便りに、アコギ一本で届けられた新曲は「プレゼント」。誰もが誰かの宝物、と、この場にいる全員、ひいてはいずれこの曲を聴くであろう人たち全員を肯定するかのような、慈愛に満ちたナンバーだ。アコギとメトロノームでの弾き語りというのも斬新。
 
その後、早くも来年の予定を発表。まずは2月に六本木で金澤の生誕祭をするらしいが、その告知映像の中で来年40になる金澤はスカイダイビングに挑戦。
 
金澤「今年は総くんの城ホールが中心だったし、来年はこの生誕祭を中心に活動していきたいと思います」
山内「なんでやねん!」
 
と関西出身ならではの鋭いツッコミも決まったところで、更に来年に全国ツアーをすることも告知。
 
「僕らはね、絶対に解散しないバンドなんですよ」
 
と山内の頼もしい言葉が聴けたところで、「桜の季節」「会いに」を連続で披露。最後は
 
「また大阪城ホールやるから!」
 
と誓い、「破顔」で幕を下ろした。
 
確かに15周年を祝うライブだったのかもしれない。けれど新曲の披露や来年の予定の発表、そして何よりもラストにやった「破顔」の、葛藤を振り切って真っすぐ未来へ突き進んでいく力強さといい、今日はフジファブリックの16年目の始まりを高らかに告げたライブだった。彼らは
 
「また大阪城ホールでやる」
 
という未来を見据えている。
 
今日は「虹」や「夜明けのBEAT」といった、多くの人が期待していた楽曲をセットリストに組み込まなかった。それは彼らが今の自分たちに自信を持っているからだろうし、やっぱりロックバンドは最新曲を追いかけてもらってこそだ。これからも5人は更に進化していく。心配なんかいらない。