NICO Touches the Walls 終了によせて

https://natalie.mu/music/news/355543

初めて彼らの存在を知ったのは2012年、夏。スペシャで見た「夏の大三角形」だった。

「3秒間 君に見とれて いま全力で恋してる夏の大三角形

というサビに一瞬で惹かれた。
当時の自分はMステが主な情報源で、地上波から流れるJ-POPが全てだと思っていた。J-POPは歌詞がわかりやすい。テロップとして流れるくらいだから、歌詞をなぞれば一聴しなくてもどんな曲なのかわかる。
そんなわかりやすい曲ばかり聴いてきた自分は、この曲に度肝を抜かれた。いま全力で恋してる夏の大三角形って何だ?と。比喩にしてもわかりづらい表現だ。
でもなんかいい。
気づいたらその年の夏はこの曲ばかり聴いていた気がする。
TSUTAYAでシングルもレンタルしてきた。カップリングの「夕立マーチ」の歌詞に

「女子高生の白いブラウスが透けてる」

という一節があって、思春期真っ盛りだった自分は夕立後のそんなシチュエーションを想像してドキドキしたりしていた。「ラッパと娘」は原曲も知らなくて当時は聞き流していたけど、この当時はNICOのアレンジ力の凄さにはまだ気付いていなかった。
NICO Touches the Wallsとの出会いはそんな感じだった。

https://m.youtube.com/watch?v=bT2z6tWRdc0

2013年。彼らは「夏の大三角形」をも越えんとする名曲を生み出した。「Mr.ECHO」だ。

「繰り返そう どんな光も 跳ね返してく強さで」

凛とした力強い歌詞、感情のこもった古村のギターソロ、今でもこの曲を聴くと自然と涙が出てくる。たくさん勇気をもらった。

https://m.youtube.com/watch?v=tSRd11Wmte4

「Shout to the Walls!」もたくさん聴いた。「鼓動」や「ランナー」は今でもカラオケでよく歌ったりしている。
7月には「ニワカ雨ニモ負ケズ」をリリースしていたが、MVにバレリーナが登場していたのを「似合わない」と散々に言われていたのも懐かしい。

https://m.youtube.com/watch?v=GEhOPFbTERY

2014年。この年のNICOは「リベンジ」をテーマにしていて、武道館にも立ったりと、とてもギラギラしていた。かっこよかった。

「何回変わってやるって誓ったんだよ」

と繰り返す「天地ガエシ」にもたくさん助けてもらった。今でも大事な一曲だ。
あと6月にリリースされた曲なのにMVの背景に思いっきり桜が映っているのにツッコんだりしていた。

https://m.youtube.com/watch?v=nWnePUo6c-w

年末には初めてライブを見た。やっぱりライブでのNICOもかっこよかった。でもカウントダウンイベントだったから、聴けたのは7曲ぐらい。たくさん聴きたい曲はあった。物足りなかった。

そう言えばNICOは「手をたたけ」では宙ぶらりんにされたり、「まっすぐなうた」では爆走するトラックの上で演奏していたり、「ローハイド」では森で変な生き物に追われたり、「TOKYO Dreamer」では光村がマリオネットをやったり…と、やたらと身体を張ったMVが多い気がする。そんなMVの一つ一つもたくさん楽しませてもらった。

※手をたたけ

m.youtube.com/watch?v=MTcqIgVBfuk

※まっすぐなうた

https://m.youtube.com/watch?v=6_fDwHh31i8

※ローハイド

https://m.youtube.com/watch?v=akALF7vqJ_0

TOKYO Dreamer

https://m.youtube.com/watch?v=82_aGqrIcWc

2015年。まず彼らは「HOWDY!! We are ACO Touches the Walls」をリリースした。今でもお馴染みのACOスタイルで、自分達の楽曲をセルフカバーするというコンセプトアルバム。聴き慣れた曲のはずなのに、自由自在なアレンジを経て全く新鮮な輝きを放っていた。こうしたアレンジ力に関しては、今でもNICOの右に出るアーティストは存在しないと思っている。
この年は2回ライブに行った。一度目はコンセプトアルバムをリリースした時のツーマン、「ニコ タッチズ ザ ウォールズ ノ フェスト」。UNISON SQUARE GARDENと対バンしていた。ライブハウスで見るのは初めてだったし、けっこうメンバーも近くてすごくドキドキしていた。
二度目は「まっすぐなうた」のリリースに際して行われた「まっすぐなツアー」。この日は高校時代に所属していた部活の引退の日だった。部活が終わり、みんなで思い出作りに花火をしようとしていた同級生や後輩を横目に、ただ一人オリックス劇場へ駆け足で向かった時のことは今でも覚えているし、「Mr.ECHO」をようやくライブで聴けたの感動したことも覚えている。

しかし、これがNICO Touches the Wallsをワンマンで見た最初で最後のライブだった。
それから自分は、何故かNICOのライブからは遠ざかっていった。音源はずっと追いかけていたのだが、大阪にライブに来ることがあっても「まあいいか」と見逃してしまっていた。
きっと短期間にたくさんライブを見た(当時の自分には半年で3回もライブを見るというのはけっこうなペースだった)ことで、「いったん離れよう」と無意識にNICOを遠ざけていたのかもしれなかった。

今あの頃に戻れるなら、昔の自分をあらゆる手段で説得しにいきたい。「好きなバンドは今のうちに見ておかないと後悔するぞ」と。

2016年。久しぶりにアルバム「勇気も愛もないなんて」がリリースされた。しかし収録曲のほとんどはシングル曲。光村はインタビューで

「シングル曲もアルバム用にミックスを変えたりしてるから、違いを楽しんでほしい」

と発言していたが、バカな自分には違いがよくわからなかった。でもNICOがアルバムをリリースしてくれるということだけで嬉しかったし、とことん生の楽器に拘っていた彼らが「フィロローグ」みたいな曲を作っていたのにはびっくりしたし、やっぱりアルバムは最高だった。
この年は年末に冬フェスでライブを見た。ライブを見るのは久しぶりだったが、やっぱり彼らは唯一無二のかっこいいバンドだと再認識できた。それでもワンマンに行こうとは思わなかった自分をぶん殴ってやりたい。

2017年。この頃からNICOはリリースのペースが落ちてきた。しかし、音源リリースまで約1年、ようやく到着した「OYSTER -EP-」はやっぱり最高だった。いつも通りのNICO盤と同じ曲をアコースティックアレンジしたACO盤の2枚組。NICOにしかできない芸当だと感じたし、NICOのフレッシュさと円熟味が同時に感じられたCDだったと思う。

この年のライブでは浅野尚志がバイオリンとして加わっており、「THE BUNGY」などをスリリングにアレンジする様は唯一無二だった。
彼らはSWEET LOVE SHOWERにずっと出演し続けており、自分はそのライブ映像を毎年チェックしていたのだが、NICOは同じ曲をやるにしても前の年と同じアレンジでやることはほとんどなかったと思う。それくらい絶え間なく変化を繰り返し、その変化の全てをNICOたらしめてきたとんでもないバンドだった。

2018年。この年もリリースは「TWISTER -EP-」のみ。音源もそうだが、光村がインディーズ初期のようなボサボサのロン毛になり、さらに金髪になっていたりと、アニソンを手がけていた頃とは真逆のどんどんニッチな方向に向かっていく彼らにやはり目が離せなかった。
そんな彼らの音楽への探求心が結実したのが、今年6月にリリースされた「QUIZMASTER」だった。

「何度も夢を見るよ 信じてたいんだ」

という前向きな歌詞とは相反してどこか陰のあるサウンドが印象的なリード曲「18?」をはじめとして、このアルバムはどん底から希望を見据えているような閉塞感を感じる。

https://m.youtube.com/watch?v=ko0DHDT7n4g

フェス文化が発展し、ロックがみんなで共有して楽しむ音楽に変容していった現在のシーンで、こんなに内向きなベクトルのアルバムを彼らがリリースするという意味合いを感じたし、予想通りセールスはふるわなかったけど、自分の心にはとても突き刺さった。間違いなく2019年を代表するアルバムだ。

今年のSWEET LOVE SHOWERではメインステージに立っており、そんなアルバムからもセットリストに入った曲があったりした。ライブ後には

「みんなが作ってくれた「フェスのNICO」と「最新のNICO」はずっと別物だと思っていたけど、そんなこともないんだな」

とツイートしていたし、バンドのみならず自分もそんなライブに手応えを感じていた。

まだまだNICOは懐かしいと言われるには早すぎる。これからもどんどん最高を更新していってくれる。
そう思っていたからこそ、

NICO Touches the Wallsが終了する」

というニュースは今でも信じられない。
たまたまスペシャでMVを見た日から、3秒間どころか7年近く彼らを追いかけてきた。もはや彼らは自分にとってのヒーローだ。この先も、ずっと自分の側にはNICO Touches the Wallsがいると思っていた。

悲しい。悲しいし、当分は信じられないけれど、連名でのコメントで彼らは

「さあ。『壁』はなくなった! 一度きりの人生、どこまでも行くよ!」

と締め括っている。彼らは未来に希望を抱いている。
新しい道へ進む彼らを、自分は応援するしかないのだろうか。