嘘とカメレオン 2MAN TOUR「へのへのもへじ」@梅田Shangri-la 2020/2/10

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年の初ライブは梅田Shangri-laにて、嘘とカメレオンとネクライトーキーのツーマン。先日ニューシングルをリリースした嘘とカメレオンが、リリースツアーとして東名阪を回っている対バンツアーの中日、大阪公演だ。

嘘とカメレオンは最後にライブを見たのはたしかメジャーデビュー前、オープニングアクトとして炎天下の野外で強烈な印象を残した2017年のMORNING RIVER SUMMIT以来。ちょうど「されど奇術師は賽を振る」のMVが話題となり、初めてのミニアルバムのリリースを控えていた頃か。それからかなり時間が経ったが、バンドはメジャーデビューし、まさに進化の渦中にいる。あれからどれだけ成長しているのだろうか。

 

先攻はネクライトーキー。おなじみのポップなSEに合わせて元気よく飛び出してくると、和やかなムードを切り裂くようなカズマ・タケイ(Dr)のスネアの連打からまずは「ジャックポットなら踊らにゃソンソン」を投下。相変わらず濃い髭と更に長くなった髪の影響でメジャーアーティスト感ゼロの朝日(Gt)はいきなり頭をぶんぶん回しながらギターをかき鳴らし、のっけからエンジン全開なのだが、対照的に客席はまだ様子見状態。想像以上にアウェーな始まりとなったが、それでもイントロで歓声が上がった「めっちゃかわいいうた」では後半のパンキッシュなアレンジで徐々に熱を上げていく。

 

先日リリースされたメジャーデビューアルバム「ZOO!!」からまず披露されたのは「夢みるドブネズミ」。MVや音源はかなりポップな仕上がりとなっているこの曲だが、やはりライブで演奏されると硬派なサウンドとむーさん(Key)が操る曲の随所に散りばめられた効果音たちのギャップがいい意味で面白い。特別なことは特にやっていないはずなのにライブならではのアレンジになっている。

続いてネクライトーキー史上最難度の技術を要する「ぽんぽこ節」はレディクレで演奏した時の手探り感はほぼなくなっており、月末から始まるツアーへ向けてかなり仕上がっていっている印象。それでいていい意味での緊張感が残されており、ツアーを経てどれだけブラッシュアップされていくか楽しみな一曲だ。

 

嘘とカメレオンとはサーキットイベントで一緒になったことはあったが、対バンは初めてと語ったメンバー。特に朝日は以前、渡辺壮亮(Gt)とディープな話題で盛り上がり、もっさ(Vo,Gt)に驚かれたといった関係性を打ち明けていたが、ネクライトーキーは去年も緑黄色社会フレデリックといった初めましてのバンドから対バンに誘われていた。決して社交性が高いバンドではないけれど、それでもこうして対バンに呼ばれるのは5人の音楽が魅力的だから。だからネクライトーキーに声をかけた嘘とカメレオンはすごくセンスがいいと感じるし、自分も嬉しくなる。

 

MC明けの「夕暮れ先生」ではドラムと他の楽器とのズレが気になったが、すぐに持ち直して久しぶりの「がっかりされたくないな」へ。朝日はかつて

 

「ネクライトーキーの真の良さはバラード」

 

とどこかのインタビューで語っていた気がするが、その発言も納得できるほど素晴らしいメロディだし、もっさの歌が更に胸を締めつける。そういえばこの曲を初めてライブで聴いた1年前のワンマンもこの場所だったし、その日のライブではアンコールでむーさんの正式加入が発表された。あれからもう1年が経つのか。

 

静寂の中でもっさが朝日のギターのボリュームを徐々に上げていくというおなじみの始まりで大歓声が上がった「許せ!服部」では1サビ終わりからの急激なギアチェンジでフロアを熱狂させていく。そして間奏では

 

「ワーンツースリーフォー!」

 

といつもより長いタメの後、なんと嘘とカメレオンの「百鬼夜行」のイントロをぶっこんでくるというサプライズ。しかもむーさんによる銅鑼の音の再現まであり、とクオリティもバッチリ。これで一気に火のついた客席はもはや様子見など一切なしであり、もっさに合わせて顔も知らない服部へ向けて声を投げかけるのだった。ちなみに一大サプライズを終えた朝日は

 

「うっす(笑)」

 

と照れ臭そうに笑っていた。

 

またも朝日によって渡辺壮亮のお腹は意外と固いというカミングアウトがされた後、バンドは最新曲「北上のススメ」をドロップ。これもまた「ぽんぽこ節」のように細かなフレーズの多い変則的な曲だが、それらをこなしていっている5人の演奏力は確実に向上してきている。それは次の「こんがらがった!」にもちゃんと反映されており、曲名に反してバンドの演奏はバッチリ噛み合っている。

正直、今の時点でも頭一つ抜いて安定感のある演奏を見せてくれるバンドだと感じるが、それでも

 

「今の私たちの技量でメジャーに上がってもすぐコテンパンにされそうな気がする」

 

とむーさんがインタビューで語っていたりと、バンドは全く油断していないどころか自分たちを過小評価しているようにも感じる。それは5人全員が心のどこかで「自分から音楽を取られたら何も残らない」という危機感を感じているからだろうか。とにかくネクライトーキーが音楽にかける熱量は桁違いであり、だからこそこうして技術の向上にも躍起になっているのだろう。

 

終盤は必殺の「オシャレ大作戦」で梅田をヘヘイヘイさせると、ラストは「遠吠えのサンセット」。たとえどれだけバンドが大きくなってメインストリームに乗っかることがあっても、満たされている人は感じることができない、夕焼けに向かって走り出しながらどうしようもない激情をぶつけるこのマインドがずっとバンドの中にあり続けてほしいな、と願うし、ネクライトーキーならその心配はいらないだろうな、とも思える、そんな一瞬だった。月末からは自分たちのツアーが始まる。ツアーでも、ちょっとイカレテル夢をたくさん見せてくれ。

 

 

 

後攻は嘘とカメレオン。まずは怪しげなSEに合わせてメンバーが現れ、準備万端のフロアを煽っていく。その中でも特に尖った口調でフロアを睨む渡辺壮亮(Gt)と、一人だけファンタジーの世界から飛び出してきたような出で立ちのチャム(.△)(Vo)による

 

チャム(.△)「嘘とカメレオン」

渡辺「始めまぁす!」

 

の掛け合いで口火を切ると、「0」で一気に勢いを加速させていく。斜めに向いて腕を組みながら頭をぶんぶん降るチャム(.△)の佇まいは妖艶さすら感じさせるが、かつては「あの歌い方ではライブで声が聴こえない」と言われたりしていたし、実際に2年半前に見たライブでは、5曲程の持ち時間でも彼女の声はかなりバテていた。

しかしさすがにあれからずっと歌い続けていればもちろん歌は上達するもので、続く「binary」では呪術的なボーカルで追い打ちをかけ、歌メロに特化した「パプリカはポストヒューマンの夢を見るか」ではバンドの音に負けない芯のある歌声を聴かせてくれる。以降も、今日は最初から最後まで安定感のあるボーカルを見せてくれた。

 

渡辺が水分補給と称して2ℓのコーラを掲げる様もなんだか懐かしい(いったいこの人は年間どれだけのコーラを消費しているのか。そろそろタイアップとかしてもいいのでは?)中、ネクライトーキーのメジャーデビューを祝うメンバー。

 

「今一番脂が乗っているこの時期に二つ返事で出演してくれました!ありがとうございます。…今「お前の方が脂乗ってるだろ」って思った奴おるやろ!」

 

と渡辺がセルフツッコミをかまし、「脂が乗っているのはどっちだ」と言わんばかりに彼のキレのあるボーカルが先導する「JOHN DOE」ではコール&レスポンスも鮮やかに決めてみせる。終始攻撃的な姿勢の渡辺だが、

 

「ありがとう!」

 

と声を出してくれた客席への感謝も忘れない。

ミドルテンポな「鳴る鱗」で緩急をつけると、再び疾走感のある「ルイユの螺旋」へ。渡辺はネクライトーキーのことを

 

「珍しく自分から仲良くなりたいと思えたバンドだった」

 

と語っていたが、

 

「どこへ向かうんだろう?出口のないループの輪

 終わりはない 影が迫る」

 

と攻撃的なサウンドの中に深く暗い孤独が根ざしているのを感じさせる嘘とカメレオンの世界が、ネガティブな感情をエネルギーに昇華するネクライトーキーと共鳴していたのかもしれない。そう考えると、この対バンは実に似た者同士が惹かれ合って生まれた必然的な組み合わせだと言える。音楽性だけでなく、両バンド共にリードギターのステージ上での振る舞いも、感情を爆発させるスタイルでかなり共通項が多い。

 

百鬼夜行」のイントロを銅鑼の音も含めて完コピしてくれたことに感激した渡辺は、お返しと言わんばかりにもっさの声まねで「許せ!服部」のコール&レスポンスの部分を歌い、会場を笑わせる。そしてすっかりそれにハマったのか、観客にコール&レスポンスの一部を委ねたまま次の曲へのカウントを始め、「テトラポットニューウラシマ」へ(その後チャム(.△)に「テンポ全然違うじゃん!」と突っ込まれていた)。チャイニーズのカウントが可愛らしい曲だが、

 

「物語の主人公っていつも寂しそう」

 

のフレーズにはついハッとさせられる。そんなチャム(.△)の儚いフレーズが随所に漂う「Lapis」では2年半よりもたくさんの人が手を左右に振っていて、チャム(.△)はそんな光景を愛おしそうに眺めている。こちらまでハッピーなムードが伝わってきそうな一幕だった。

更に「アルカナ」で上質なバラードを聴かせ、嘘カメが勢いだけのバンドではないことを証明すると、

 

「本物見せたるわぁ!!」

 

と渡辺が吠えて「百鬼夜行」でラストスパートへ突入。渋江アサヒ(Ba)は狭い空間の中でもしっかりベースを弾いたまま回転するなど、視覚的にも盛り上げていくと、バンド最大のアンセム「されど奇術師は賽を振る」へ。

間違いなくこのバンドの代表曲だが、今日のライブを見ていると、この曲だけ異様に盛り上がっていた、なんてことはなかった。それはつまり、彼らはこの2年半で「されど奇術師は賽を振る」だけのバンドではないということを証明してきたということ。次に披露された最新曲「モノノケ・イン・ザ・フィクション」もまた、彼らの新たなキラーチューンとなりえるパワーを携えた曲だし、そうして彼らはどんどん過去の自分たちを超えていくつもりなのだろう。2年半ぶりに見た彼らは、メジャーという戦場に揉まれ、より強靭なバンドへと成長していた。

 

アンコールでは彼らは初夏に全国ワンマンツアーを巡ることを発表。さらにロックバンドがツアーをするということは…?と今後の企みを仄めかす一幕も。そんな決意表明も含めて「N氏について」を全力でぶちかまし、ネクライトーキーとの共通項がたくさん見つかった初のツーマンは幕を閉じた。

 

 

 

ライブ前はこの2組の組み合わせが不思議な感じがしていたが、ライブを見てみるとやはりプレイヤーとしても、音楽家としても、マインド的な面で通じている部分がたくさんあった。それはライブを見なければわからなかったことだろう。

何が言いたいかというとやはりロックバンドはライブを見てナンボだということ。というわけで今年もたくさんライブに行けたらいいな。