Aimer Hall Tour 19/20 “rouge de bleu” ~bleu de rouge~ @フェスティバルホール 2020/2/14
※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。
「rouge de bleu(赤と青)」というタイトルを掲げ、昨年からロングランのツアーを回り続けているAimer。来月には「Fate」の映画との3作連続タイアップとなるシングルを控え、直近のシングルと相まって昨年リリースした傑作アルバム「Sun Dance」「Penny Rain」でたどり着いた到達点のさらに先へ進もうという意思を強く感じられる中でのワンマン。大阪では2days、今日はその初日だ。
大阪のホール会場の中でもとりわけゴージャスで上質な音楽が似合う(クラシックやフィルハーモニーのコンサートも行われている)フェスティバルホールという場所もAimerのアーティスト性とピッタリなのだが、そんな場内が暗転し、幻想的なSEが流れ始めると、暗闇の中で先にバンドメンバーがスタンバイ。中央に設けられたスロープの奥から遅れて白と黒のドレスをまとったAimerがゆっくりと現れると、照明が星空のように輝く中で「星が消えた夜に」からライブはスタート。普通ならアーティストが目の前に現れた時点で拍手が起こるものだが、もはやそんな暇すら与えないかのごとく、
「多分 君は少し強がりで」
という歌い出しから一気に会場を自身の世界へ包み込んでいく。自分はかれこれ1stアルバムの頃から彼女の動向を追いかけ続けていたが、当時の彼女はとにかくバラードを歌えば右に出る者はいないというイメージだった。そのイメージは今でも健在であり、彼女の声で
「大丈夫だよ 大丈夫だから」
なんて歌われたら自然と涙がこぼれてくる。少し前に移動してきて夜の始まりを告げる「Sailing」と続くあたり、どうやら今日のライブは静から動への転換を一つのコンセプトとしているようだ。
実は今日の公演には「bleu de rouge」という副題がついていたことを明かしたAimer。そんな副題が設けられていたなんて初耳だったが、どうやら2daysならではの試みのようだ。「bleu」サイドでは深い夜の歌を、「rouge」サイドでは熱を帯びた曲をピックアップしたと説明し、
「さらに深い青の曲を」
と「Blind to you」でさらにディープな世界へ潜っていく。
「いつだって傍にいて こらえきれず泣き出したって 闇の中をかすかに照らすよ
そうやって生きてきた君のためだけの ポラリスになりたい」
と歌う「ポラリス」、何度も自分を
「ここじゃないどこかへ 誰も知らないどこかへ」
連れ出してくれた「夜行列車~nothing to lose~」と思い出の曲が続く。いや、思い出というより、今現在も自分を救ってくれている曲たちだ。「夜行列車~nothing to lose~」ではAimerがかつて自身の声を失った過去が赤裸々に綴られているが、きっとAimerがそうした体験をしなかったらこの曲は生まれなかっただろうし、自分もAimerと出会うことはなかったのかもしれない。彼女自身が過去にケリをつけるように歌った歌が、自分を、自分だけじゃないたくさんの人を救ってきたのだ。
ここでAimerがそれまで座っていた客席を煽り、立ち上がるように促すと、それに合わせて全員がスタンドアップ。ステージ上部には時計が現れ、さらに手拍子を織り交ぜながら、当時は唯一アルバムの中で異色を放っていた「AM○○」シリーズから最もダンサブルな「AM04:00」へ。
「bleu」のパートはずっと座って見ているものだと思っていたので、これには少々驚かされたが、その後の「Stand By You」でも手拍子を促し、サビでは手を掲げさせ、そしてその手を左右に大きく振る、というAimer主導のアクションが続いたことにはまたしても驚かされた。
だんだんと楽曲の空気が青から赤に移りゆくのを感じさせる中で、「Sun Dance」に収録されたとびきりポップな「We Two」はバンドメンバーに合わせてジャンプすることを要求し、手は終始Vサインでサビではぐるぐる回すという振り付けを指南したり、曲中は忙しなくあちこちを駆け回るという、かつてのAimerでは考えられないほどアクティブな楽曲だ。本人は曲終わりにゼーゼー言っていたけど、そこまでするのは
「楽しかったですか?」
という問いかけに笑顔で答える客席が見たいからだろう。かつてバラードばかりを歌っていた人がこんなに能動的に、自身から働きかけるような姿を見せるようになるとは誰が想像しただろうか。前半はコンサートのようだった今日の公演は、気づいたらライブになっていた。
そんな前半、青と赤の転換点を担ったのは「Torches」。まさに夜の歌でありながら、光の要素も持ち合わせている、このツアータイトルにピッタリな楽曲だ。物販では今日から新たに松明型のLEDライトが販売されることがアナウンスされており、次々にオレンジのライトが灯されていく景色はとても幻想的だった。しかし今日トーチを掲げていたお客さんは7割ぐらい。残りの公演ではもっとたくさんの人が持ってくれるようになるだろうか。
Aimerも同じく松明を掲げながら静かに、しかし力強く歌い上げると、松明を持ったままスロープの奥へ。するとスロープがどんどんせり上がっていき、Aimerを完全に隠した所で前半パートは終了。
スロープはそのまま二面の照明になり、バンドメンバーによる「これ本当にAimerのライブなの?」と思うほどハードなセッションで幕間を繋ぐと、照明が真っ赤に染まったところで再びスロープが下降していき、奥から今度は黒に白と赤のアクセントを加えた衣装のAimerが再登場すると、疾走感のある「STAND-ALONE」で「rouge」パートの始まりを告げる。
そこからはもう全く別人のライブに来たようで、ハードなサウンドの「Black Bird」では目を刺すような真っ赤な照明と同時にステージ全体に炎が点り始める。「Penny Rain」では土砂降りの雨に打たれる様をこれ以上ないくらいに表現していた同曲だが、こうして炎と共に見せられると「rouge」の要素ともピッタリで、つくづく彼女の歌は幅が広いな、と感じさせる(「真っ赤な太陽」というフレーズもあるし)。
「あわれみを下さい」
という歌い出しから悲鳴のような歓声も上がった「I beg you」もまた、Aimerのダークサイドを極限まで研ぎ澄ませた、業火のような赤さの曲だ。
「やがてキラキラ夢の中」
の部分で一段とギアを上げて声を張り上げるのもそうだし、
「ねえどうか傍にいて」 「愛してる」
という使い古されたフレーズすらも狂気的に聴かせる様は全てが圧巻だった。この歌はまさにAimerに歌われるべくして歌われているのだろう。
しかし観客がハンドクラップ担当で参加した「Daisy」、「コイワズライ」では一転して優しい歌を響かせる。直前の「I beg you」とのギャップがすごかったが、この振り幅こそAimerが培ってきた世界に二つとない力だろう。どんな曲を歌っても、Aimerが歌えばAimerの歌になるのだ。
再び観客を立たせる動作が「We Two」のデジャヴを感じさせた「3min」ではリズミカルなトラックに乗せてまたしてもステージの隅から隅まで移動し、あちこちに手を振りながら歌う。さらにスキマスイッチが手がけたことでめちゃくちゃ爽やかなアレンジになった「Hz」では
「いけますか大阪ー!?」
と元気よく煽るばかりでなく、
「拳を掲げてください!」
とも促す。武道館以降、Aimerのライブがこのようなモードになっているのは知っていたが、正直演者も観客ももっと控えめにやっているものだと思っていた。しかし実際にはそんなことはなく、Aimerはノリノリだしお客さんもノリノリ。まるで武道館よりずっと昔からこのモードでライブしていたかのようだ。ここでもまた、聴かせるパートから参加してもらうパートへ、まさに静から動への移行が如実に表現されていた。
そんな彼女の開放的なムードが会場一体となって表現されていたのが「ONE」。赤というより白というか、まさに太陽のような光あふれる瞬間を経て、Aimerは最後のMCでこう語った。
「今、私は新しい夜の中にいます。一度は「DAWN」というアルバムで夜明けを迎えて、光の中で歌っていました。でも心の中では8年前の、眠れない夜に寄り添いたい自分がいたのも事実です。
光の中で歌うことで、たくさんの「あなた」に力をもらって、昔より強くなれたと思います。だから今度はまた夜を歌うことで、皆のことを守りたい。私にはこれしかないから」
「DAWN」リリース時のインタビューで、
「夜は明けたけど、いつかまた新しい夜が訪れる時が来る」
と彼女は語っていた。なるほど、どうやらその夜の時間が今まさに彼女の中に訪れているらしい。記事の冒頭、「「Sun Dance」「Penny Rain」でたどり着いた到達点のさらに先へ進もうという意思」というのは新しい夜のことだったのだ。
しかし「STAND-ALONE」や「Torches」を聴けば、それがただの原点回帰でないことは明らかだ。たくさんの出会いや別れを経験して、今再び夜に向かおうとしている彼女の姿はどこか勇ましく、かつてのアルバムにあった息を潜めているような感覚は感じられない。
「私にはこれしかないから」
の「これ」とは音楽のことだ。光の中で、彼女の音楽は見違えるほど頼もしくなった。ライブ本編は、そんな彼女が
「初めて強さを与えてくれた曲」
と紹介した「RE:I AM」で締め括られた。もちろん今日のライブは楽しかったし、感動した。でもそれ以上に、Aimerのこれからがますます楽しみになった。かつて自分が惹かれたAimerの描く夜の世界に、それもあの頃とはちょっと違う新しい夜の世界に飛び込んでいけるから。これから彼女はどんな歌を紡いでいくのだろう。
アンコールではツアーTシャツに着替えたAimerがバンマスの野間康介と共に登場。Aimerに代わって名前を叫ばれるほど愛されている野間の機材が黒い椅子と並列に並べられ、これから二人だけでアンコールに臨もうとしていることがうかがえる。しかしAimerはなかなか曲に行かず、大阪のおススメ料理を訊いたり(どうやら今大阪ではスパイスカレーが流行ってるらしい)、
「自転車で来たの?」
と地元の人に訊いたりとかなり長く話をしていた。彼女曰く、今日は緊張していていつもよりMCがグダグダだったらしいが、そんな中で彼女は何度も何度も
「ありがとうございます」
と口にしていた。本編のMCでも、終始丁寧な言葉で自分の思いを届けようとしていた。それはAimer自身がどれだけ真摯に音楽と向き合っているか、どれだけ一つ一つの出会いを大切にしているかを如実に表していた。そして今日まで彼女の歩んだ道筋はそんな誠実さの積み重ねだったのだと。
彼女の紡ぐ世界観や声に惹かれている人が多いと今まで感じていた。でも今日のライブを見て、ここに集まった人はそれだけでなく、みんながAimer自身の人柄に惹かれて集まっていたのだと感じた。ミステリアスなイメージのある彼女のそんな一面を知れたことが、何よりもライブに行ってよかったと思える要因だった。
ようやく始まったアンコールでは来月にリリースされるシングルから「marie」を披露。ピアノのみというシンプルなアレンジになったことにより、Aimerの歌の美しさを十二分に堪能できる素晴らしいアレンジだ。ところで「marie」は「RE:I AM」と同じくAimerのアナグラムになっているのだが、これには意味があるのだろうか。
「カタオモイ」もまた、同じくミニマムなアレンジになっただけでなく、アコギのフレーズをピアノが担うことで新たな魅力が引き出されていた。
「愛してる」
と最後のフレーズは「I beg you」と同じなのに、意味が全く違って聞こえるし、同じ人が歌っているとは思えない。本当に不思議なシンガーだな、とつくづく思う。
最後は
「始まりの歌」
と紹介された「六等星の夜」をもって、彼女はまた夜の世界へ向かっていった。しかしこれから始まる夜の物語はきっと、Aimer自身が星のない空に輝く光のように、誰かの夜を支えていくものになるのだろう。曲が終わり、最後の挨拶が終わっても、彼女は名残惜しそうにステージの端を何度も行き来していた。これほど音楽に対して、音楽を聴いている誰かに対して誠実に向き合える彼女だからこそ、またライブに来たくなると強く思えるのだろう。そう感じた。
Aimerを初めて知ったのは「Sleepless Nights」がリリースされた頃だった。当時の彼女はとにかくアルバムのタイトル通り、眠れない夜へ向けたバラードにおいては右に出る者はいないというイメージだった。
それから「RE:I AM」を始めとした澤野弘之との出会いにより彼女の世界が徐々に開けてきたこと、長い夜が「DAWN」で明けたこと、野田洋次郎やTakaといった凄腕ミュージシャンとの出会いから「daydream」が生まれ、武道館でのライブで「ONE」を初めて歌ったことで彼女が光をまとい始めたこと。その全てを見てきた。楽曲が幅広くなっただけでなく、アニソンシンガーというイメージからも完全に脱却した。今や彼女の名は海外にも響き、名実ともに唯一無二のシンガーとして存在感を放っている。
そんな彼女の歴史を知っているからこそ、ワンマンに行くのは今回が初めてだったのだが、最初から最後までずっと感慨深かった。それに、彼女がこれから向かおうとしている先がより明瞭になった。これからも自分の夜には、Aimerがずっと寄り添い続けてくれるのだろう。
ライブ終盤、Aimerは
「またAimerのライブに来てやってもいいかな~…って人はどのぐらいいますか?」
と問いかけていたが、その答えは迷わず「yes!」だ。