Osaka Music DAYS!! day1 ~感染者がまた増えてきてるけどライブに行ってきたよって話

実に4ヶ月ぶりの更新である。というわけでブログっぽい文章を書くのも4ヶ月ぶり。何だか自分が書く文章のリズムが変わった気がして落ち着かない。まあ2月末からライブがことごとく潰れ、書くこともなかったので仕方なかったことではあるのだが(何本か配信ライブも見たが、そのレポは結局書かないことにした)。
もちろんライブがなくなった理由は説明不要。そいつのせいで数々のイベントが犠牲になった。借金を背負うことになったバンドマンやライブハウスも数えきれないことだろう。
しかも我々は特に根拠もなく、夏になればまあ少しはよくなるだろうと高を括っていた。だが訪れた現実はずっと悲惨で、主要都市での感染者は増える一方。各地で開催されるイベントも、収容人数5割以下という条件が付加されることになってしまった。
そんな中で開催されたのが、GREENSや清水温泉などのイベンターやFM802などのラジオ局、つまり地元の有志たちが一同に介して企画した2daysライブ、Osaka Music DAYS。初日となる今日は、今年も各地の夏フェスを盛り上げてくれていたであろうライブバンド達が集結するラインナップとなった。

さて、このブログでは基本的にセトリになぞらえながらこのバンドはどんな振る舞いをしていたか――なるべく鮮明に思い出しながら書くという手法を取っていたのだが、なにせ今日は待望すぎた1日。どうしても生音で鳴らされる曲を聞き入ってしまっていたし、その結果、各バンドがどんな振る舞いをしていたかはぶっちゃけ覚えていない。
だから今回は、会場がどんな様子だったか、といったことにスポットを当てて、今この状況で現場に行くかどうか迷っている人にとっての参考になればいいなと思いながら書いていくことにする。
ついでに、何年か後にこの年のライブのことを思い返す自分や他の誰かのための、タイムカプセル的な役割も果たしてくれたら、と願いながら。

開演30分前。駅から大阪城ホールへ向かって歩いていくと、既にたくさんの人で賑わっている。様々なバンTを着た人、ディッキーズを履いた人、大量のラババンを引っ提げている人。
お客さんだけじゃない。常にメガホン越しに注意事項を読み上げているイベントスタッフ、物販テントで元気よく声を上げる販売スタッフ。そんな人たちを眺めていると、ああ今から本当にライブが始まるんだとワクワクした。
大阪城ホールへ来るのは去年の10月以来。それほど時間が経っていないはずだったのに、久しぶりに見た大阪城ホールは、どこか懐かしさを漂わせていた。まるで5年ぶりくらいに来たみたいな錯覚すらある。それぐらい、今まで自分にとってライブは当たり前な日常だった。
諸々の手続きを済ませ、検温を終え、消毒グッズを受け取っていざホールへ。中に入った瞬間、今までこの場所で見てきたたくさんのライブのことがフラッシュバックして、比較的健康な姿でこの場所に戻ってこれたことが嬉しくて、思わず「ただいま」って叫びそうになった。

スタンド席に座り、アリーナを眺めると、やはり座席は等間隔で区切られていて、人はまばら。やはりこの景色はちょっぴり寂しい。でもよく考えたら大阪に5000人規模のキャパの会場ってないので、これはこれで新鮮。また、これまで見てきたどのライブよりもシンプルなステージ構造をしていた。客席を区切る都合上、今日はスタンド席をほぼ360度開放し、ドラムセットの後ろはいわゆるバックスタンド席として用意されていた。
つまりステージはかなり平坦で、上空と前後にちょっぴり照明がついている程度。ステージ脇には普通に他のバンドのドラムセットが複数スタンバイされていたり、ステージ後方もがら空きになっていてスタッフの動きが一目瞭然だったり…と、短期間で素早く用意された感がすごくて、なんだか大阪城ホールっぽくなくて、かなり新鮮な光景だったといえる。
さて、開演前に改めて注意換気。マスク着用、ソーシャルディスタンス、定期的な消毒を基本として、今日は大声での歌唱も禁止、とアナウンスされた。おいおい甲子園は普通にヤジ飛ばしてる奴いるぞ、と思いつつ、言わずに飲み込み、そして面白い、と感じた。今日の出演者は曲中にシンガロングやコール&レスポンスが巻き起こるのが日常茶飯事で、特にヤバTなんかはそれありきの曲なんかもあったりする。そこで歌うのが禁止、と言われたら。いったいどんなライブになるのか。ステージの構造といい、禁止事項といい、どうやら今日のライブは今まで以上に各バンドの本質を映し出しそうな予感がして、自分はとてもワクワクした。

そんなワクワクと同時に、ライブ前特有の謎の緊張感も合わさってきて、緊張しながらトップバッター、ハルカミライのライブが始まった。

セットリスト↓↓
ハルカミライ
1.PEAK'D YELLOW
2.君にしか
3.ファイト!!
4.俺達が呼んでいる
5.夏のまほろ
6.THE BAND STAR
7.世界を終わらせて
8.アストロビスタ

ヤバイTシャツ屋さん
1.あつまれ!パーティーピーポー
2.かわE
3.Tank-top of the world
4.癒着☆NIGHT
5.ヤバみ
6.ハッピーウェディング前ソング

Hump Back
1.月まで
2.クジラ
3.拝啓、少年よ
4.ティーンエイジサンセット
5.また会う日まで

ROTTENGRAFFTY
1.金色グラフィティー
2.相殺微量サイレンス
3.This WORLD
4.「70cm四方の窓辺」
5.ハレルヤ

打首獄門同好会
1.88
2.筋肉マイフレンド
3.きのこたけのこ戦争
4.日本の米は世界一
5.明日の計画

サンボマスター
1.ロックンロール イズ ノットデッド
2.忘れないで 忘れないで
3.できっこないをやらなくちゃ
4.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
5.輝きだして走ってく

10-FEET
1.RIVER
2.ハローフィクサー
3.その向こうへ
4.蜃気楼
5.ヒトリセカイ
6.Cherry Blossom

加えてキュウソネコカミも出演予定だったが、残念ながら体調不良により欠席。今年は周年イヤーだったし、何よりも年初にリリースされた「冷めない夢」が彼らの気合いを物語っていた。シャングリラで無観客ライブもやってくれたことだし、地元での久しぶりの有観客ライブ、絶対に出たかったはず。いつか彼らのライブを見るときには、ハッピーな世界になっていればいいなあ。

さて、ライブの様子はどうだったか。
きっと今日出演していたバンドたちがいつか城ホールでワンマンをするようなことがあれば(実際Hump Backは11月にワンマンをするが)、きっとアリーナはオールスタンディングだっただろう。そして演奏中は各地でツーステやモッシュ、ダイブが巻き起こり、さながらライブハウスのような状態になっていただろう。
しかし今日はアリーナも座席形式。声だけでなく派手な動きも制限されたお客さんは、どのようにライブを楽しんでいたか。正直に言うと、ハルカミライの演奏中までは皆、どうもぎこちない雰囲気だった。なんとも手持ち無沙汰というか、戸惑いを隠しきれていなかった。
でも気づいたら、皆思い思いに動いていた。裏拍のリズムに乗せて体を八の字に揺らしている人、その場で疑似的にツーステをやる人、あるいは手拍子に切り替えた人。それはある意味、ここでモッシュピットを作ってサビでドーン、とか、そういった画一的な動きがなかった分、今まで以上に自由な空間が広がっている、という印象を受けた。こういう座席形式がテンプレートになっていくのかはわからないが、少なくともスタンドから見ていた自分からしたら、新鮮で面白い光景だったと思う。

もちろん声を出してはいけなかったので、幕張メッセで鳥肌が立つほど轟いた「PEAK'D YELLOW」の大合唱も聴こえないし、「あつまれ!パーティーピーポー」の「えびばーでぃっ!」の声も聴こえない。それどころかMCの笑いが起こる部分さえも、巻き起こるのは代替の拍手。本当は大きな声で、大好きなバンドの演奏の応えたかっただろう。でもそれができないから、せめて…といった具合の拍手だった。
そんなお客さんを見て、TAKUMA(10-FEET)はは「聴こえてるぞ!」と何度も鼓舞していた。自分も聴こえた気がした。誰も声に出してはいなかったけど、心の底から湧き上がってきた情熱が、見えない声になって会場中に響いている気がした。そして、そんなバンドとお客さんとのコミュニケーションは、本質的には何も変わっていなかったことに気づいた。
そんな中でも印象的だったのは、声を出したくても出せなかった皆のことを配慮してか、コール&レスポンスのパートをわざと小声でささやくように歌っていたヤバTだった。自分たちだって、久しぶりにお客さんの前でライブをするのだ。そりゃでっかい声で歌いたかったところだろう。でもそうしなかった。そこに彼らの優しさが詰まっていた。ハルカミライも言っていたように、パンクロックは優しい音楽なんだ、と再認識することができた瞬間だった。

世界は変わってしまった。ライブの様相も変わってしまった。それでも、そこに生み出されるコミュニケーションの本質は、変わっていなかった。いや、きっと変わらないだろう。変わらないだろうから、これからもそれを求めてライブに足を運ぶ人はいなくならないだろう。そんなことを思った一日だった。

未だにライブを行うことはどこかから冷たい視線を送られている気もする。大阪府の感染者数は日増しに増えていく一方だ。本当は開催しないに越したことはなかったんだろうけど、それでも開催してくれた。しかも収容人数の関係からチケットが高騰してしまったライブも数多くある中で、普段と変わらない値段でチケットを売ってくれた。主催者には本当に感謝しかない。
それに、こんな状況でも大阪に駆けつけてくれるバンドがたくさんいた。本当は不安だっただろうけど、それでも来てくれて、そんな姿は一切見せず、元気を与えてくれた。今日出演してくれたバンドたちにも、精一杯の感謝を送りたい。

また来たい。これさえあれこれさえあればいいもの、たくさん見つけたから。

Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017 Thanksgiving25 の 感想Part2

2日間にわたってYouTubeで公開される予定のMr.ChildrenのライブDVD「Thanksgiving25」。2017年に行われた25周年ツアーの最終公演の模様をパッケージした映像だ。DVDは持っているのだが、せっかくの機会なのでリアルタイムで視聴することに。こういう映像についてレポを書くことは普段はないのだが、ライブを見ていたら書きたい気持ちが沸々と沸き上がってきたので、2日間の振り返りとして読んでいただけたら嬉しい。

 

 

 

後半戦の始まりは「1999年、夏、沖縄」。「NOT FOUND」のカップリングだった曲(余談だが公式がYouTubeに公開している「NOT FOUND」のライブMVは必見のかっこよさ)なのだが、

 

「僕らにとって大事な一曲」

 

と紹介され、ライブの折り返し地点に位置づけられた。一本の糸にしがみついている人々の流れが砂時計になるという風刺的な映像を終えると、

 

ノストラダムスの大予言があって、2000年になる前に世界が滅亡するという噂があった。で、92年にデビューした僕らは好きなことをして99年に世界が滅亡すればいいと考えていた」

 

と話す桜井。

 

しかし時代は2000年に突入。瞬く間に迎えた10周年の時もまた、素直じゃなかった彼らは今のお客さんなんかすぐにどこかへ行ってしまうだろうと思ってたという。

しかし、ミスチルは今もコンスタントにドームやスタジアムを埋める存在になっている。それは紛れもなくミスチル自身がポップスに、ロックに正面から対峙してきた結果だろうけど、未だにこんなにたくさんの人が集まってくれるのが幸せだと桜井は話した。満員の客席を眺めながらしみじみする田原と中川、微笑む鈴木。

 

「いつまでこんな風に楽しくできるのか考える機会が増えた。一つ一つの音を、フレーズを大切に奏でていきたい」

 

と決意を新たに(この話は後に「重力と呼吸」というアルバムのコンセプトにも繋がった)、タイアップ曲でありながらミスチル自身の決意表明の歌である「足音 ~Be Strong」へ続けていく。足音のように丁寧に刻ませていくサウンドに乗せて桜井は

 

「今という時代は言うほど悪くない」

 

と歌った。そう思われてくれるのはミスチルのおかげだ。

 

サッカーが趣味の桜井らしいフレーズも随所に見られる「ランニングハイ」では歌詞を視覚化した映像もさることながら、管楽器による演奏も実に素晴らしい。息も切らさず、声も揺らさずにステージを端から端まで走り回る桜井の体力も末恐ろしいのだが、そんな彼をさらに駆り立てるように田原のダークなギターが「ニシエヒガシエ」へ繋ぐと、横一直線に組まれたステージから火花が派手に打ち上げる。気づけばすっかり暗くなった開場に極彩色の照明が踊る様はもはや説明不要の貫禄。この曲もライブでは演奏される機会に恵まれた曲なのだが、披露される度に曲のクオリティも演出もブラッシュアップされていっている。これがMr.Childrenがモンスターバンドと呼ばれる所以だろう。

 

続いて無機質な打ち込みからエモーショナルな生音へ流れるように変身していく、個人的にミスチルの名曲の中でもトップクラスの名曲だと思っている「ポケット カスタネット」へ。レーザーが飛び交う様は音源からは全く想像できないし、バンドサウンドが合流してからの展開は何度聴いても鳥肌が立つ。ミスチルはライブで化ける曲がめちゃくちゃ多いのだが、この曲は特にその化け具合に驚かされる。

 

「この曲でみんなをコテンパンにやっつけたいと思います」

 

と宣言し、実際にコテンパンにしてみせた「himawari」は当時、リリースされたばかりの最新曲だった。しかしこのオールスター感あるセットリストの中においても遜色ない並びだし、むしろずっと昔から存在している曲であるかのようなベテラン感すら漂わせている。こういうベスト盤的なツアーにおいて新曲を披露すると浮きがちになるはずなのに、何故そうならないのか。

 

続いてポップなのに人間の闇も容赦なく抉っていく「掌」ではSUNNYとの掛け合いも披露。それにしてもSUNNYの歌声、桜井の声と相性が良すぎる。

 

「一つにならなくていいよ 認め会うことができればさ」

 

世界中がそうできたらいいのになあ。

 

「Printing」から「Dance Dance Dance」へ雪崩れ込んでいくと、いよいよライブも終盤。またしても大量の花火と火花が熊本の夜空に舞い上がると、

 

「悔やんだって後の祭り もう昨日に手を振ろう」

 

と未来を目指して突き進む「fanfare」で拍車をかけていく。この曲もそうなのだが、ミスチルは青臭さの表現が秀逸だなといつも感じる。それはやはり4人それぞれがいつまでもフレッシュな存在でいたい、と願いながら生きているからだろうか。

 

「明日へ羽ばたくために 過去から這い出すために」

 

大量の紙吹雪が舞う様子が、MVやこの曲が収録された「SUPERMARKET FANTASY」のジャケットを思い起こさせる「エソラ」がこのツアーの最後を担った。

まるで魔法のようなポップス。

ポップスというのは一歩間違えれば急激に安っぽくなってしまうという致命的な一面も持っているものだが、ミスチルの作るポップスは常にどっしりと地に足がついているような感触がある。だからこそミスチルはこんなに国民的に愛されるバンドになったのだろう。そんなことを考えさせられる一幕だった。

 

鳴り止まぬアンコールに呼応するように「overture」が流れ出すと、鈴木のカウントから始まったアンコール1曲目は「蘇生」。

 

「何度でも 何度でも 君は生まれ変わっていける」

 

という言葉にやたらと説得力があるのは、この会場が熊本であったということも大きいだろう。このライブDVDがYouTubeで放送された時期は、熊本地震から4年が経った時期と近かった。実際のライブは震災から1年半が経った頃合いでの開催だったが、こんなにも映像に収められている人々は輝いている。みんな諦めずに生きていたからこそ、この曲のメッセージがさらに巨大なものになっていることは言うまでもないだろう。

 

「今日はたくさん過去の曲をやってきたけど、最後にやる曲は、過去じゃなくてただただ未来だけを見据えて、熊本の夜空に響かせたい」

 

と最後のMCで言い切った後に、本当のラストとして選ばれたのは「終わりなき旅」。豪華な照明も映像もなし、映るのはただリアルな4人とSUNNYの演奏する姿。スタジアムでのライブなのに、最後のサビまでスクリーンにも写されなかったメンバー。

 

この1曲が全てを物語っていた。このライブは単なるエンターテイメントではなく、単なるミスチル愛する人々への手向けでもなく、ただただMr.Childrenという生命体の生き様を鮮明に写したドキュメンタリーだった。我々は彼らの生き様に、勝手に憧れを抱いたり、勝手に自分を投影したり、勝手に現実を忘れて心酔したりするのだけど、その本質は究極的なドキュメンタリー性だったのだ。

 

「嫌なことばかりではないさ さあ次の扉をノックしよう」

 

Mr.Childrenは25年目のライブを終えて、また終わりなき旅へと歩み出した。もっと大きなはずの自分を探して、新しい地平線の先へ歩み出した。

 

またどこかで会えるといいな。

 

Mr.Children、ありがとう。

Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017 Thanksgiving25 の 感想Part1

 

2日間にわたってYouTubeで公開される予定のMr.ChildrenのライブDVD「Thanksgiving25」。2017年に行われた25周年ツアーの最終公演の模様をパッケージした映像だ。DVDは持っているのだが、せっかくの機会なのでリアルタイムで視聴することに。こういう映像についてレポを書くことは普段はないのだが、ライブを見ていたら書きたい気持ちが沸々と沸き上がってきたので、2日間の振り返りとして読んでいただけたら嬉しい。

 

会場となったのは熊本県民総合運動公園。実はこの場所でライブを開催したのはミスチルが初めてだったとのこと。開場と同時にブラスバンドが「ヒカリノアトリエ」で出迎えるという始まりはまるでお祭りのようだ。

 

オープニングは今までのミスチルの名曲たちが断片的に散りばめられたムービー。シングル曲だけでなく「OVER」など隠れた名曲のフレーズも用いられているのがニクい。

そんな特別かつ大事なライブの幕開けに選ばれたのは、鈴木英哉(Dr)の抜けのいいスネアが開放的なスタジアムに響き渡る「CENTER OF UNIVERSE」。ミスチルのアルバムの中でもかなりマニアックな「Q」収録の1曲であり、つまりシングル曲ではないのだが、今この瞬間が世界の中心であることを高らかに宣言する様は納得のいく選曲だ。曲が進んでいくごとにみるみるスタジアムを飲み込んでゆく光景は凄まじいし、このスケール感は誰にも真似できない。

 

25周年ツアーということもあり、ここからのセットリストは時代を彩ってきたシングル曲の連発。赤と青のテープが飛び交った「シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~」では

 

「ねえ等身大の愛情で挑んでるのに 世間は暗い話題」

 

と今の社会状況を言い当てたような歌詞が印象的なのだが、そんな暗さをぶっ飛ばそうとこのライブ映像を放出してくれたミスチルには感謝しかない。

さらに今回のライブはホールツアーから続いてヒカリノアトリエメンバーが参加していることもあり、最後のサビ前のサックスは山本拓夫の生演奏。なんて豪華なんだ!

ところでこの曲ではMVがスクリーンに映し出されていたのだが、当時を知らない人からしたらメンバーの尖り具合にビックリしたかも。

 

桜井和寿(Vo,Gt)がアコギをかき鳴らしながら歌い始めたのは「名もなき詩」。この曲が収録された「深海」は「ミスチル現象」と呼ばれた社会現象を巻き起こしたアルバムとなったのだが、アルバムのセールスに反して桜井の心は深く沈んでいたこともあり、この頃のミスチルは影の濃い曲が多かった。きっとこの曲もそんな孤独の中で生まれた曲なのだが、そんな曲が25周年のタイミングで、スタジアム級の会場で万人に歌われている。なんて感慨深い光景なのだろうか。

 

セットリストを考える上で「どうしても外せなかった」という「GIFT」は、2008年にオリンピックに向けて書き下ろされた曲。いうなればミスチル流「WE ARE THE WORLD」のような壮大な楽曲なのだが、

 

「地平線の先に辿り着いても 新しい地平線が広がるだけ」

 

なんて歌詞が書けるのは地平線の先に実際に辿り着いたミスチルぐらいだろう。「ラララ」のパートをスタジアム全体で歌っている様は既にクライマックスのようなのだが、ここまでまだ4曲。改めてこのツアーがとんでもないスケールで展開されているのがよくわかる。

 

小春(チャラン・ポ・ランタン)によるアコーディオンが楽曲の新たな色を引き出した「Sign」を終えると、早くもセンターステージに移動するために小休憩が挟まれる。しかし観客を暇にさせまいと、ムードメーカー鈴木が率先して盛り上げようとしているのがとてもいい。しゃべるだけで歓声が上がる中川敬輔(Ba)と田原健一(Gt)にもいじりを仕掛け、その様子を微笑ましく見ているメンバー達からも、バンドがどれだけいい状態なのかが伝わってくる。

 

センターステージに8人の音楽家が集うと、ホールツアーのテーマソングだった「ヒカリノアトリエ」を披露。自分はこのツアーのドーム側に参加していたのだが、野外で聴くこの曲は何にも代えがたい心地よさがあっただろうなあ、ととても羨ましくなる。小春のコーラスもいい味を出している。

続いてセンターステージに4人だけが残ると、「君がいた夏」へ。デビュー曲であり、ミスチルとしては珍しく季節の歌、という特別な一曲を9月という夏の終わりに聴けた現地の人達はなんて幸せなんだろうか。

 

ピアノをバックに始まったおなじみの「innocent world」では銀テープがスタジアムを彩り、

 

「いつの日もこの胸に流れてるメロディー」

 

ミスチルは25年でどれだけ生み出してきたのだろうか、と思いを馳せてしまう。しかしもうリリースされて25年以上経つのに、なんてエバーグリーンなメロディをしているんだろう。

そしてミスチル最大のヒット曲「Tomorrow never knows」へ続くという豪華すぎる流れ。しかもこの曲もサックスパートは生演奏。今までは小林武史やSUNNYがキーボードでフレーズを代替していて、それもそれで素晴らしかったのだが、やはり生音は比較にならない迫力がある。

 

センターステージに桜井が一人立ち、

 

桜井和寿が作った曲に人格があるとして。25周年を迎えたミスチルに歌ってほしいと言うんです。だから俺が代わりに歌います」

 

と音楽と対話してるような語りからアコギと共に届けられたのは「Simple」。

 

「10年先も20年先も 君と生きれたらいいな」

 

という言葉はMr.Childrenからの真摯なメッセージであると同時に、我々ファンからMr.Childrenへ向けた真摯なメッセージでもある。

 

その後ステージが暗転し、自然界の求愛行動を英語でナレーションしたドキュメント、家族連れもいるのに「発情」なんて言葉を使いながら髪盛りセットを薦めるテレビショッピング、「恋とは」について外国の少年少女のコメントが紹介されたラジオと謎のムービーが続き、なんか壮大な曲が始まるのでは、と思わせて(実際に「未完」ツアーでは壮大なムービー後に「進化論」が歌われた)、「思春期」というワードと共に牛の鳴き声が聞こえてきた…ところで髪盛りセットを装着した鈴木がスポットを浴びる。

そう、「思春期の夏 ~君との恋が今も牧場に~」だ(なんと22年ぶりの演奏とのこと)。まだミスチルがブレイクする前のアルバム「KIND OF LOVE」に収録されていた、鈴木がリードボーカルを歌うという今となっては貴重すぎる楽曲。まさかこの曲がセットリストに組み込まれると予想できた人は一人もいなかったのではないだろうか。

しかしきっと、何気なくYouTubeを見ていたMr.Childrenをあまり知らない人からしたら、この曲は開いた口が塞がらなかっただろうな、と思ってしまう。

 

「キュンキュンしてるかー!」

 

と叫ぶ鈴木の姿はさぞかし強烈なインパクトを残しただろう。

 

その後、桜井が衣装を変えて帰ってきたところで「365日」へ。当時、詳細を伏せてリリースされた「SENSE」のリードトラックだった楽曲だ。さっきの曲は何だったのか、と思うくらい、演奏も演出も真っ直ぐな形で届けられると、前半の締めくくりはドラマのおかげでリバイバルヒットも起こった「HANABI」。

 

「臆病風に吹かれて 波風がたった世界を どれだけ愛することができるだろう?」

 

またも今の状況を言い当て、問いかけたようなフレーズが放たれて、ライブ映像の前半は幕を閉じた。

 

序盤のMCで桜井は

 

「過去のどのライブよりもいいやつにしたい」

 

「みんなの期待を超えてみせる」

 

と話していたのだが、ここまでの時間でそれを実感させる有言実行っぷりがこのバンドのモンスターっぷりを物語っている。

実際、自分は幸運なことにミスチルのツアーはほぼ毎回参加できているのだが、「前の方がよかった」と感じたことはほとんどない。むしろ最近はどんどん若返っていっているようにも感じさせる。やはりMr.Childrenは唯一無二にして、日本のシーンに君臨すべくして君臨しているバンドなのだなと突きつけられた前半戦だった。

 

後半戦は明日。

Aimer Hall Tour 19/20 “rouge de bleu” ~bleu de rouge~ @フェスティバルホール 2020/2/14

 

 

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「rouge de bleu(赤と青)」というタイトルを掲げ、昨年からロングランのツアーを回り続けているAimer。来月には「Fate」の映画との3作連続タイアップとなるシングルを控え、直近のシングルと相まって昨年リリースした傑作アルバム「Sun Dance」「Penny Rain」でたどり着いた到達点のさらに先へ進もうという意思を強く感じられる中でのワンマン。大阪では2days、今日はその初日だ。

 

大阪のホール会場の中でもとりわけゴージャスで上質な音楽が似合う(クラシックやフィルハーモニーのコンサートも行われている)フェスティバルホールという場所もAimerのアーティスト性とピッタリなのだが、そんな場内が暗転し、幻想的なSEが流れ始めると、暗闇の中で先にバンドメンバーがスタンバイ。中央に設けられたスロープの奥から遅れて白と黒のドレスをまとったAimerがゆっくりと現れると、照明が星空のように輝く中で「星が消えた夜に」からライブはスタート。普通ならアーティストが目の前に現れた時点で拍手が起こるものだが、もはやそんな暇すら与えないかのごとく、

 

「多分 君は少し強がりで」

 

という歌い出しから一気に会場を自身の世界へ包み込んでいく。自分はかれこれ1stアルバムの頃から彼女の動向を追いかけ続けていたが、当時の彼女はとにかくバラードを歌えば右に出る者はいないというイメージだった。そのイメージは今でも健在であり、彼女の声で

 

「大丈夫だよ 大丈夫だから」

 

なんて歌われたら自然と涙がこぼれてくる。少し前に移動してきて夜の始まりを告げる「Sailing」と続くあたり、どうやら今日のライブは静から動への転換を一つのコンセプトとしているようだ。

実は今日の公演には「bleu de rouge」という副題がついていたことを明かしたAimer。そんな副題が設けられていたなんて初耳だったが、どうやら2daysならではの試みのようだ。「bleu」サイドでは深い夜の歌を、「rouge」サイドでは熱を帯びた曲をピックアップしたと説明し、

 

「さらに深い青の曲を」

 

と「Blind to you」でさらにディープな世界へ潜っていく。

 

「いつだって傍にいて こらえきれず泣き出したって 闇の中をかすかに照らすよ

 そうやって生きてきた君のためだけの ポラリスになりたい」

 

と歌う「ポラリス」、何度も自分を

 

「ここじゃないどこかへ 誰も知らないどこかへ」

連れ出してくれた「夜行列車~nothing to lose~」と思い出の曲が続く。いや、思い出というより、今現在も自分を救ってくれている曲たちだ。「夜行列車~nothing to lose~」ではAimerがかつて自身の声を失った過去が赤裸々に綴られているが、きっとAimerがそうした体験をしなかったらこの曲は生まれなかっただろうし、自分もAimerと出会うことはなかったのかもしれない。彼女自身が過去にケリをつけるように歌った歌が、自分を、自分だけじゃないたくさんの人を救ってきたのだ。

 

ここでAimerがそれまで座っていた客席を煽り、立ち上がるように促すと、それに合わせて全員がスタンドアップ。ステージ上部には時計が現れ、さらに手拍子を織り交ぜながら、当時は唯一アルバムの中で異色を放っていた「AM○○」シリーズから最もダンサブルな「AM04:00」へ。

「bleu」のパートはずっと座って見ているものだと思っていたので、これには少々驚かされたが、その後の「Stand By You」でも手拍子を促し、サビでは手を掲げさせ、そしてその手を左右に大きく振る、というAimer主導のアクションが続いたことにはまたしても驚かされた。

 

だんだんと楽曲の空気が青から赤に移りゆくのを感じさせる中で、「Sun Dance」に収録されたとびきりポップな「We Two」はバンドメンバーに合わせてジャンプすることを要求し、手は終始Vサインでサビではぐるぐる回すという振り付けを指南したり、曲中は忙しなくあちこちを駆け回るという、かつてのAimerでは考えられないほどアクティブな楽曲だ。本人は曲終わりにゼーゼー言っていたけど、そこまでするのは

 

「楽しかったですか?」

 

という問いかけに笑顔で答える客席が見たいからだろう。かつてバラードばかりを歌っていた人がこんなに能動的に、自身から働きかけるような姿を見せるようになるとは誰が想像しただろうか。前半はコンサートのようだった今日の公演は、気づいたらライブになっていた。

 

そんな前半、青と赤の転換点を担ったのは「Torches」。まさに夜の歌でありながら、光の要素も持ち合わせている、このツアータイトルにピッタリな楽曲だ。物販では今日から新たに松明型のLEDライトが販売されることがアナウンスされており、次々にオレンジのライトが灯されていく景色はとても幻想的だった。しかし今日トーチを掲げていたお客さんは7割ぐらい。残りの公演ではもっとたくさんの人が持ってくれるようになるだろうか。

Aimerも同じく松明を掲げながら静かに、しかし力強く歌い上げると、松明を持ったままスロープの奥へ。するとスロープがどんどんせり上がっていき、Aimerを完全に隠した所で前半パートは終了。

 

スロープはそのまま二面の照明になり、バンドメンバーによる「これ本当にAimerのライブなの?」と思うほどハードなセッションで幕間を繋ぐと、照明が真っ赤に染まったところで再びスロープが下降していき、奥から今度は黒に白と赤のアクセントを加えた衣装のAimerが再登場すると、疾走感のある「STAND-ALONE」で「rouge」パートの始まりを告げる。

そこからはもう全く別人のライブに来たようで、ハードなサウンドの「Black Bird」では目を刺すような真っ赤な照明と同時にステージ全体に炎が点り始める。「Penny Rain」では土砂降りの雨に打たれる様をこれ以上ないくらいに表現していた同曲だが、こうして炎と共に見せられると「rouge」の要素ともピッタリで、つくづく彼女の歌は幅が広いな、と感じさせる(「真っ赤な太陽」というフレーズもあるし)。

 

「あわれみを下さい」

 

という歌い出しから悲鳴のような歓声も上がった「I beg you」もまた、Aimerのダークサイドを極限まで研ぎ澄ませた、業火のような赤さの曲だ。

 

「やがてキラキラ夢の中」

 

の部分で一段とギアを上げて声を張り上げるのもそうだし、

 

「ねえどうか傍にいて」 「愛してる」

 

という使い古されたフレーズすらも狂気的に聴かせる様は全てが圧巻だった。この歌はまさにAimerに歌われるべくして歌われているのだろう。

しかし観客がハンドクラップ担当で参加した「Daisy」、「コイワズライ」では一転して優しい歌を響かせる。直前の「I beg you」とのギャップがすごかったが、この振り幅こそAimerが培ってきた世界に二つとない力だろう。どんな曲を歌っても、Aimerが歌えばAimerの歌になるのだ。

 

再び観客を立たせる動作が「We Two」のデジャヴを感じさせた「3min」ではリズミカルなトラックに乗せてまたしてもステージの隅から隅まで移動し、あちこちに手を振りながら歌う。さらにスキマスイッチが手がけたことでめちゃくちゃ爽やかなアレンジになった「Hz」では

 

「いけますか大阪ー!?」

 

と元気よく煽るばかりでなく、

 

「拳を掲げてください!」

 

とも促す。武道館以降、Aimerのライブがこのようなモードになっているのは知っていたが、正直演者も観客ももっと控えめにやっているものだと思っていた。しかし実際にはそんなことはなく、Aimerはノリノリだしお客さんもノリノリ。まるで武道館よりずっと昔からこのモードでライブしていたかのようだ。ここでもまた、聴かせるパートから参加してもらうパートへ、まさに静から動への移行が如実に表現されていた。

そんな彼女の開放的なムードが会場一体となって表現されていたのが「ONE」。赤というより白というか、まさに太陽のような光あふれる瞬間を経て、Aimerは最後のMCでこう語った。

 

「今、私は新しい夜の中にいます。一度は「DAWN」というアルバムで夜明けを迎えて、光の中で歌っていました。でも心の中では8年前の、眠れない夜に寄り添いたい自分がいたのも事実です。

 光の中で歌うことで、たくさんの「あなた」に力をもらって、昔より強くなれたと思います。だから今度はまた夜を歌うことで、皆のことを守りたい。私にはこれしかないから」

 

「DAWN」リリース時のインタビューで、

 

「夜は明けたけど、いつかまた新しい夜が訪れる時が来る」

 

と彼女は語っていた。なるほど、どうやらその夜の時間が今まさに彼女の中に訪れているらしい。記事の冒頭、「「Sun Dance」「Penny Rain」でたどり着いた到達点のさらに先へ進もうという意思」というのは新しい夜のことだったのだ。

しかし「STAND-ALONE」や「Torches」を聴けば、それがただの原点回帰でないことは明らかだ。たくさんの出会いや別れを経験して、今再び夜に向かおうとしている彼女の姿はどこか勇ましく、かつてのアルバムにあった息を潜めているような感覚は感じられない。

 

「私にはこれしかないから」

 

の「これ」とは音楽のことだ。光の中で、彼女の音楽は見違えるほど頼もしくなった。ライブ本編は、そんな彼女が

 

「初めて強さを与えてくれた曲」

 

と紹介した「RE:I AM」で締め括られた。もちろん今日のライブは楽しかったし、感動した。でもそれ以上に、Aimerのこれからがますます楽しみになった。かつて自分が惹かれたAimerの描く夜の世界に、それもあの頃とはちょっと違う新しい夜の世界に飛び込んでいけるから。これから彼女はどんな歌を紡いでいくのだろう。

 

アンコールではツアーTシャツに着替えたAimerがバンマスの野間康介と共に登場。Aimerに代わって名前を叫ばれるほど愛されている野間の機材が黒い椅子と並列に並べられ、これから二人だけでアンコールに臨もうとしていることがうかがえる。しかしAimerはなかなか曲に行かず、大阪のおススメ料理を訊いたり(どうやら今大阪ではスパイスカレーが流行ってるらしい)、

 

「自転車で来たの?」

 

と地元の人に訊いたりとかなり長く話をしていた。彼女曰く、今日は緊張していていつもよりMCがグダグダだったらしいが、そんな中で彼女は何度も何度も

 

「ありがとうございます」

 

と口にしていた。本編のMCでも、終始丁寧な言葉で自分の思いを届けようとしていた。それはAimer自身がどれだけ真摯に音楽と向き合っているか、どれだけ一つ一つの出会いを大切にしているかを如実に表していた。そして今日まで彼女の歩んだ道筋はそんな誠実さの積み重ねだったのだと。

彼女の紡ぐ世界観や声に惹かれている人が多いと今まで感じていた。でも今日のライブを見て、ここに集まった人はそれだけでなく、みんながAimer自身の人柄に惹かれて集まっていたのだと感じた。ミステリアスなイメージのある彼女のそんな一面を知れたことが、何よりもライブに行ってよかったと思える要因だった。

 

ようやく始まったアンコールでは来月にリリースされるシングルから「marie」を披露。ピアノのみというシンプルなアレンジになったことにより、Aimerの歌の美しさを十二分に堪能できる素晴らしいアレンジだ。ところで「marie」は「RE:I AM」と同じくAimerのアナグラムになっているのだが、これには意味があるのだろうか。

「カタオモイ」もまた、同じくミニマムなアレンジになっただけでなく、アコギのフレーズをピアノが担うことで新たな魅力が引き出されていた。

 

「愛してる」

 

と最後のフレーズは「I beg you」と同じなのに、意味が全く違って聞こえるし、同じ人が歌っているとは思えない。本当に不思議なシンガーだな、とつくづく思う。

最後は

 

「始まりの歌」

 

と紹介された「六等星の夜」をもって、彼女はまた夜の世界へ向かっていった。しかしこれから始まる夜の物語はきっと、Aimer自身が星のない空に輝く光のように、誰かの夜を支えていくものになるのだろう。曲が終わり、最後の挨拶が終わっても、彼女は名残惜しそうにステージの端を何度も行き来していた。これほど音楽に対して、音楽を聴いている誰かに対して誠実に向き合える彼女だからこそ、またライブに来たくなると強く思えるのだろう。そう感じた。

 

Aimerを初めて知ったのは「Sleepless Nights」がリリースされた頃だった。当時の彼女はとにかくアルバムのタイトル通り、眠れない夜へ向けたバラードにおいては右に出る者はいないというイメージだった。

それから「RE:I AM」を始めとした澤野弘之との出会いにより彼女の世界が徐々に開けてきたこと、長い夜が「DAWN」で明けたこと、野田洋次郎やTakaといった凄腕ミュージシャンとの出会いから「daydream」が生まれ、武道館でのライブで「ONE」を初めて歌ったことで彼女が光をまとい始めたこと。その全てを見てきた。楽曲が幅広くなっただけでなく、アニソンシンガーというイメージからも完全に脱却した。今や彼女の名は海外にも響き、名実ともに唯一無二のシンガーとして存在感を放っている。

 

そんな彼女の歴史を知っているからこそ、ワンマンに行くのは今回が初めてだったのだが、最初から最後までずっと感慨深かった。それに、彼女がこれから向かおうとしている先がより明瞭になった。これからも自分の夜には、Aimerがずっと寄り添い続けてくれるのだろう。

ライブ終盤、Aimerは

 

「またAimerのライブに来てやってもいいかな~…って人はどのぐらいいますか?」

 

と問いかけていたが、その答えは迷わず「yes!」だ。

嘘とカメレオン 2MAN TOUR「へのへのもへじ」@梅田Shangri-la 2020/2/10

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年の初ライブは梅田Shangri-laにて、嘘とカメレオンとネクライトーキーのツーマン。先日ニューシングルをリリースした嘘とカメレオンが、リリースツアーとして東名阪を回っている対バンツアーの中日、大阪公演だ。

嘘とカメレオンは最後にライブを見たのはたしかメジャーデビュー前、オープニングアクトとして炎天下の野外で強烈な印象を残した2017年のMORNING RIVER SUMMIT以来。ちょうど「されど奇術師は賽を振る」のMVが話題となり、初めてのミニアルバムのリリースを控えていた頃か。それからかなり時間が経ったが、バンドはメジャーデビューし、まさに進化の渦中にいる。あれからどれだけ成長しているのだろうか。

 

先攻はネクライトーキー。おなじみのポップなSEに合わせて元気よく飛び出してくると、和やかなムードを切り裂くようなカズマ・タケイ(Dr)のスネアの連打からまずは「ジャックポットなら踊らにゃソンソン」を投下。相変わらず濃い髭と更に長くなった髪の影響でメジャーアーティスト感ゼロの朝日(Gt)はいきなり頭をぶんぶん回しながらギターをかき鳴らし、のっけからエンジン全開なのだが、対照的に客席はまだ様子見状態。想像以上にアウェーな始まりとなったが、それでもイントロで歓声が上がった「めっちゃかわいいうた」では後半のパンキッシュなアレンジで徐々に熱を上げていく。

 

先日リリースされたメジャーデビューアルバム「ZOO!!」からまず披露されたのは「夢みるドブネズミ」。MVや音源はかなりポップな仕上がりとなっているこの曲だが、やはりライブで演奏されると硬派なサウンドとむーさん(Key)が操る曲の随所に散りばめられた効果音たちのギャップがいい意味で面白い。特別なことは特にやっていないはずなのにライブならではのアレンジになっている。

続いてネクライトーキー史上最難度の技術を要する「ぽんぽこ節」はレディクレで演奏した時の手探り感はほぼなくなっており、月末から始まるツアーへ向けてかなり仕上がっていっている印象。それでいていい意味での緊張感が残されており、ツアーを経てどれだけブラッシュアップされていくか楽しみな一曲だ。

 

嘘とカメレオンとはサーキットイベントで一緒になったことはあったが、対バンは初めてと語ったメンバー。特に朝日は以前、渡辺壮亮(Gt)とディープな話題で盛り上がり、もっさ(Vo,Gt)に驚かれたといった関係性を打ち明けていたが、ネクライトーキーは去年も緑黄色社会フレデリックといった初めましてのバンドから対バンに誘われていた。決して社交性が高いバンドではないけれど、それでもこうして対バンに呼ばれるのは5人の音楽が魅力的だから。だからネクライトーキーに声をかけた嘘とカメレオンはすごくセンスがいいと感じるし、自分も嬉しくなる。

 

MC明けの「夕暮れ先生」ではドラムと他の楽器とのズレが気になったが、すぐに持ち直して久しぶりの「がっかりされたくないな」へ。朝日はかつて

 

「ネクライトーキーの真の良さはバラード」

 

とどこかのインタビューで語っていた気がするが、その発言も納得できるほど素晴らしいメロディだし、もっさの歌が更に胸を締めつける。そういえばこの曲を初めてライブで聴いた1年前のワンマンもこの場所だったし、その日のライブではアンコールでむーさんの正式加入が発表された。あれからもう1年が経つのか。

 

静寂の中でもっさが朝日のギターのボリュームを徐々に上げていくというおなじみの始まりで大歓声が上がった「許せ!服部」では1サビ終わりからの急激なギアチェンジでフロアを熱狂させていく。そして間奏では

 

「ワーンツースリーフォー!」

 

といつもより長いタメの後、なんと嘘とカメレオンの「百鬼夜行」のイントロをぶっこんでくるというサプライズ。しかもむーさんによる銅鑼の音の再現まであり、とクオリティもバッチリ。これで一気に火のついた客席はもはや様子見など一切なしであり、もっさに合わせて顔も知らない服部へ向けて声を投げかけるのだった。ちなみに一大サプライズを終えた朝日は

 

「うっす(笑)」

 

と照れ臭そうに笑っていた。

 

またも朝日によって渡辺壮亮のお腹は意外と固いというカミングアウトがされた後、バンドは最新曲「北上のススメ」をドロップ。これもまた「ぽんぽこ節」のように細かなフレーズの多い変則的な曲だが、それらをこなしていっている5人の演奏力は確実に向上してきている。それは次の「こんがらがった!」にもちゃんと反映されており、曲名に反してバンドの演奏はバッチリ噛み合っている。

正直、今の時点でも頭一つ抜いて安定感のある演奏を見せてくれるバンドだと感じるが、それでも

 

「今の私たちの技量でメジャーに上がってもすぐコテンパンにされそうな気がする」

 

とむーさんがインタビューで語っていたりと、バンドは全く油断していないどころか自分たちを過小評価しているようにも感じる。それは5人全員が心のどこかで「自分から音楽を取られたら何も残らない」という危機感を感じているからだろうか。とにかくネクライトーキーが音楽にかける熱量は桁違いであり、だからこそこうして技術の向上にも躍起になっているのだろう。

 

終盤は必殺の「オシャレ大作戦」で梅田をヘヘイヘイさせると、ラストは「遠吠えのサンセット」。たとえどれだけバンドが大きくなってメインストリームに乗っかることがあっても、満たされている人は感じることができない、夕焼けに向かって走り出しながらどうしようもない激情をぶつけるこのマインドがずっとバンドの中にあり続けてほしいな、と願うし、ネクライトーキーならその心配はいらないだろうな、とも思える、そんな一瞬だった。月末からは自分たちのツアーが始まる。ツアーでも、ちょっとイカレテル夢をたくさん見せてくれ。

 

 

 

後攻は嘘とカメレオン。まずは怪しげなSEに合わせてメンバーが現れ、準備万端のフロアを煽っていく。その中でも特に尖った口調でフロアを睨む渡辺壮亮(Gt)と、一人だけファンタジーの世界から飛び出してきたような出で立ちのチャム(.△)(Vo)による

 

チャム(.△)「嘘とカメレオン」

渡辺「始めまぁす!」

 

の掛け合いで口火を切ると、「0」で一気に勢いを加速させていく。斜めに向いて腕を組みながら頭をぶんぶん降るチャム(.△)の佇まいは妖艶さすら感じさせるが、かつては「あの歌い方ではライブで声が聴こえない」と言われたりしていたし、実際に2年半前に見たライブでは、5曲程の持ち時間でも彼女の声はかなりバテていた。

しかしさすがにあれからずっと歌い続けていればもちろん歌は上達するもので、続く「binary」では呪術的なボーカルで追い打ちをかけ、歌メロに特化した「パプリカはポストヒューマンの夢を見るか」ではバンドの音に負けない芯のある歌声を聴かせてくれる。以降も、今日は最初から最後まで安定感のあるボーカルを見せてくれた。

 

渡辺が水分補給と称して2ℓのコーラを掲げる様もなんだか懐かしい(いったいこの人は年間どれだけのコーラを消費しているのか。そろそろタイアップとかしてもいいのでは?)中、ネクライトーキーのメジャーデビューを祝うメンバー。

 

「今一番脂が乗っているこの時期に二つ返事で出演してくれました!ありがとうございます。…今「お前の方が脂乗ってるだろ」って思った奴おるやろ!」

 

と渡辺がセルフツッコミをかまし、「脂が乗っているのはどっちだ」と言わんばかりに彼のキレのあるボーカルが先導する「JOHN DOE」ではコール&レスポンスも鮮やかに決めてみせる。終始攻撃的な姿勢の渡辺だが、

 

「ありがとう!」

 

と声を出してくれた客席への感謝も忘れない。

ミドルテンポな「鳴る鱗」で緩急をつけると、再び疾走感のある「ルイユの螺旋」へ。渡辺はネクライトーキーのことを

 

「珍しく自分から仲良くなりたいと思えたバンドだった」

 

と語っていたが、

 

「どこへ向かうんだろう?出口のないループの輪

 終わりはない 影が迫る」

 

と攻撃的なサウンドの中に深く暗い孤独が根ざしているのを感じさせる嘘とカメレオンの世界が、ネガティブな感情をエネルギーに昇華するネクライトーキーと共鳴していたのかもしれない。そう考えると、この対バンは実に似た者同士が惹かれ合って生まれた必然的な組み合わせだと言える。音楽性だけでなく、両バンド共にリードギターのステージ上での振る舞いも、感情を爆発させるスタイルでかなり共通項が多い。

 

百鬼夜行」のイントロを銅鑼の音も含めて完コピしてくれたことに感激した渡辺は、お返しと言わんばかりにもっさの声まねで「許せ!服部」のコール&レスポンスの部分を歌い、会場を笑わせる。そしてすっかりそれにハマったのか、観客にコール&レスポンスの一部を委ねたまま次の曲へのカウントを始め、「テトラポットニューウラシマ」へ(その後チャム(.△)に「テンポ全然違うじゃん!」と突っ込まれていた)。チャイニーズのカウントが可愛らしい曲だが、

 

「物語の主人公っていつも寂しそう」

 

のフレーズにはついハッとさせられる。そんなチャム(.△)の儚いフレーズが随所に漂う「Lapis」では2年半よりもたくさんの人が手を左右に振っていて、チャム(.△)はそんな光景を愛おしそうに眺めている。こちらまでハッピーなムードが伝わってきそうな一幕だった。

更に「アルカナ」で上質なバラードを聴かせ、嘘カメが勢いだけのバンドではないことを証明すると、

 

「本物見せたるわぁ!!」

 

と渡辺が吠えて「百鬼夜行」でラストスパートへ突入。渋江アサヒ(Ba)は狭い空間の中でもしっかりベースを弾いたまま回転するなど、視覚的にも盛り上げていくと、バンド最大のアンセム「されど奇術師は賽を振る」へ。

間違いなくこのバンドの代表曲だが、今日のライブを見ていると、この曲だけ異様に盛り上がっていた、なんてことはなかった。それはつまり、彼らはこの2年半で「されど奇術師は賽を振る」だけのバンドではないということを証明してきたということ。次に披露された最新曲「モノノケ・イン・ザ・フィクション」もまた、彼らの新たなキラーチューンとなりえるパワーを携えた曲だし、そうして彼らはどんどん過去の自分たちを超えていくつもりなのだろう。2年半ぶりに見た彼らは、メジャーという戦場に揉まれ、より強靭なバンドへと成長していた。

 

アンコールでは彼らは初夏に全国ワンマンツアーを巡ることを発表。さらにロックバンドがツアーをするということは…?と今後の企みを仄めかす一幕も。そんな決意表明も含めて「N氏について」を全力でぶちかまし、ネクライトーキーとの共通項がたくさん見つかった初のツーマンは幕を閉じた。

 

 

 

ライブ前はこの2組の組み合わせが不思議な感じがしていたが、ライブを見てみるとやはりプレイヤーとしても、音楽家としても、マインド的な面で通じている部分がたくさんあった。それはライブを見なければわからなかったことだろう。

何が言いたいかというとやはりロックバンドはライブを見てナンボだということ。というわけで今年もたくさんライブに行けたらいいな。

FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY 2019 DAY3 @インテックス大阪 2019/12/27

3日目。例年はもう既に終了しているレディクレだが、今年は3日間の開催。長いような短いような。

 

 

 

緑黄色社会(R-STAGE)

 

今日のトップバッターは緑黄色社会。去年はANTENNAのトリとして出演していたが、今年は映画やドラマの主題歌を手がけるなど活躍が認められ、ステージもワンランクアップだ。

これを見るのも最後か、とオープニング映像を見ながらちょっと寂しくなっていると、その間にメンバーが全員スタンバイしており、ジングルの鳴り終わりと同時にpeppe(Key)の紡ぐ美しいピアノの旋律から「想い人」でスタート。「視線」からスタートした去年同様、バラードを1曲目に持ってくるあたりが4人のチャレンジング精神を伺わせる。しかもオープニング映像であれだけ

 

「声を上げよ!拳を上げよ!クレイジーになるのだ…!」

 

と煽っておきながらである。

 

今月まで行われていたツアー同様、真っ白な衣装に身を包んだ4人がじっくりと演奏していくのだが、長屋晴子の歌声はやはり大きな場所であればあるほど力強く響いていると感じさせる。音のバランスも今まで見てきたなかでトップクラスにいい。

 

いつの間にか

 

「ルラララ」

 

のパートで観客の声がたくさん混じるようになった「始まりの歌」とトップバッターらしい選曲から「逆転」では展開の多いサウンドに呼応するかのように照明が目まぐるしく変化する。半年前の緑黄色夜祭でも披露されていたが、やはりツアーを経たことが大きいのか、見違えるほど楽曲が骨太になっているのを感じた。

緑黄色社会の最大の武器は長屋の歌なのだが、それを支えるバンドメンバーも捨て置けない。例えばpeppeのピアノやキーボードはこのバンドにとって切っても切れない存在だし、「想い人」は小林壱誓のギターソロがなければ成立しない楽曲だ。「Bitter」では穴見真吾がベースを使ってDJのスクラッチ音のようなものを加えてアクセントをもたらしているし、「Alice」ではサポートをつとめる比田井修のドラムがかなりアレンジを凝られていて、こちらもまたライブならではの聴かせ方をさせてくれる。あくまでも人懐っこいポップスを貫いているが、バンドらしさは損なわれていない。これが緑黄色社会の最大の持ち味だと自分は感じている。

 

イントロから歓声が上がったのはドラマ主題歌にも抜擢され、4人のブレイク前夜を告げる「sabotage」。力強いストリングスに負けじと声を張り上げる長屋との構図は、さながら豪雨の中を突き進んでいく様を示しているかのようで思わず胸が熱くなる。

そして今日のライブで最も驚かされたのはラストに歌われた「あのころ見た光」だった。新たにライブ版のイントロが付け加えられていたのもそうだが、間奏のコール&レスポンスの部分を長尺にし、しかも色んなレパートリーのコールを要求していたのにも驚かされた。その中にはさらっと「sabotage」のメロディをなぞったものも。これだけ進化と挑戦が詰め込まれていたなら前のツアーに行っておけばよかった。

 

「Bitter」の親指と小指を立てる独特の振り付けが広い会場だといまいち浸透していなかったり、まだまだな部分はあるけれど、いずれ彼女らの歌がもっとたくさんの人に届くようになるまで時間はかからないだろうし、Z-STAGEにたどり着くのも時間の問題だろう。そう感じられた万感のライブだった。

 

 

 

BIGMAMA (L-STAGE)

 

レディクレには常連、かつFM802とも特に縁の深いBIGMAMA。今年はL-STAGEでの出演。レディクレで見るのは2015年以来だ。

荘厳なSEが高揚感と緊張感を高めていく中、スーツをばっちり着こなした5人が登場。バンドの屋台骨であるリアド偉武(Dr)の脱退が発表されてから初めてのライブということもあり、何だか見ている側も固唾を呑んで見守っている感じがする。そんな空気を

 

「RADIO CRAZYにようこそ。ご案内します、新世界へ!」

 

と「荒狂曲 "シンセカイ"」のスリリングな展開で急変させていくと、「ワルキューレの非行」ではさらにヘビーなサウンドを響かせる。序盤のこの2曲、そして先程までライブをしていた緑黄色社会の長屋晴子と共演する予定、ということは今日のBIGMAMAは完全にRoclassickモードのようだ。その予想通り「Swan Song」でレディクレをバウンスさせると、こちらはかつてFM802の番組ともコラボレーションしていた「神様も言う通りに」というレディクレならではの選曲。

 

そして「LEMONADE」のイントロと同時に、緑黄色社会の長屋晴子を呼び込んで同曲を披露。今年、この二組はスペシャの対バン企画で初共演していたのだが、それがきっかけでこのフィーチャリングが実現。長屋の歌声はバイオリン・東出真緒の旋律にぴったりである。 さらにもう一曲、ということで前回の対バンでも長屋を招いて歌われていた「No.9」へ。この曲を聴くと一気に年末という感じが伝わってくるし、来る新年が楽しみになってくる。金井政人と長屋の歌のハマり具合はそんな予感をさらに高めさせてくれる。

 

大阪をはじめとしたご当地バージョンが何通りもリリースされ、ヘビーローテーションにも選ばれた「MUTOPIA」とこれまたFM802ゆかりのナンバーを届けると、「高嶺の花のワルツ」、「誰が為のレクイエム」と駆け抜けるまでMCは一切なし。リアドの件についても全く触れなかった。それは言葉で伝える必要はないとメンバーが判断してのことだろうし、その代わりに彼らは音楽をメッセージとして飛ばしてみせた。

ただただ、今の自分達を焼き付けてほしい。そんな気概がステージから伝わってきた。しばらくBIGMAMAのライブには行っていなかったが、これは来年のツアーに行くしかない。

 

 

 

フレデリック(Z-STAGE)

 

去年に引き続きZ-STAGEに呼び込まれたのはフレデリック。先日には大阪でツアーファイナルを終えたばかりだ。

 

フレデリック、始めます」

 

を合図に、初っ端から大量のレーザーが飛び交う「飄々とエモーション」でライブが始まるのだが、三原健司(Vo,Gt)はもちろん堂々とはしているものの、ワンマンの時よりもかなり感情が昂っている。その姿は歌いながら冷静さと本能の間で葛藤しているかのよう。そしてそんな自身の状態を

 

「みんなさっきのバニラズ見ましたか?(たくさんの手が上がる)すごかったですよね。俺も泣きながら見てました。

あいつらは壁を乗り越えて進化していたんです。だから俺達もこの1年を無駄だったと思わせたくないんです!バニラズ超えたいんですよ!」

 

と、プリティの怪我を乗り越えて復活した盟友、go!go!vanillasへの明らかな対抗心をもって説明していた。

フォーリミやオーラルもそうだが、フレデリックらの世代のバンドはフェス文化の黎明期にデビューし、その文化の中でお互いをリスペクトしながらもライバル視し、切磋琢磨してきた。だからこそどのバンドも「他のバンドには負けたくない」という思いが人一倍強いし、その精神をもって各地のフェスでたくさんの人を巻き込んできた。

 

「切り裂いて切り開いて行けNEW SCENE」

 

というフレーズ通り、そんなフレデリックらの世代の持つ熱量がシーンを変えてきたことを告げる「シンセンス」からは妖しい照明がインテックス大阪に集まった人々を音楽の中へ「逃避行」させていく。そしてワンマン同様に長尺のシンガロングパートが加えられ、今の彼らがやりたいことの中核を担っている「イマジネーション」ではこの日最大級のシンガロングを響かせていく。前回のZeppで聴いたときも圧巻だったのだが、やはりこれだけの人が集まるとさらに楽曲のスケールが大きくなる。横浜アリーナではどんな景色が生まれてしまうのだろう。

 

今年は「フレデリズム2」をリリースし、高速ダンスロックからの脱却と進化をもってフレデリックフレデリックらしさを新たに定義してみせた。前半はそんな新たなフレデリックの様相を濃密に押し出したセットリストだったが、

 

「レディクレ、遊ぶ?遊ばない?遊ぼうぜ!」

 

と「KITAKU BEATS」からは「オンリーワンダー」と、フレデリックの歴史を支えてきたダンスナンバーがずらりと並ぶ。そしてやっぱり最後は

 

「ごめん、さっきはオンリーワンダーとか言ってたけど、今日だけはナンバーワンになりたい!!」

 

と健司が叫んだ「オドループ」。音を止めてもカスタネットパートの手拍子が完璧に決まってしまうのは、彼らがこの曲をもって戦い続けてきた証拠だった。 地元でのライブ、そして同世代に刺激された後のライブということもあり、今日のフレデリックは前編に渡ってイマジネーションを刺激しまくる痛快なライブだった。一体彼らはどこまで進化してしまうんだ。

 

 

 

SUPER BEAVER(Z-STAGE)

 

5年前にANTENNAに初出演して以降、着実に一つずつステージを大きくしていった15年目のインディーズバンド、SUPER BEAVER。今年は遂に最も大きなステージ、Z-STAGEでの出演である。

 

でかでかとバンドのロゴがZ-STAGEに現れると、SEに乗せて4人が登場。今年の彼らを引っ張っていった楽曲といっても過言ではない「27」でライブは幕を開けた。そのまま「閃光」まで一気に駆け抜けると、

 

「LIVE HOUSE ANTENNAからやって参りました15年目のインディーズバンド、SUPER BEAVERでございます!」

 

と「青い春」では手拍子を要求しつつ、瑞々しい衝動を爆発させる。さすがにANTENNAに出演していた頃とはセットリストはガラリと変わっているが、ステージが大きくなっても芯の部分は何も変わっていない。4人全員が一人一人の目を見て歌い、その奥へ訴えかけるように音を届けようとする。ただそのことをバンドはずっと守ってきた。その結果が今日のZ-STAGEなのだろう。

赤と緑の照明がギラギラと瞬く「正攻法」では人差し指をチラチラと左右に振る渋谷龍太を筆頭に、これぞビーバー、というよりこれぞロックバンド、と呼ぶべき鋭利なサウンドが突き抜ける。一転して「予感」ではダンサブルなリズムにとびきりポップなメロディが乗り、会場を楽しい方向へ連れ出していく。決してロックが主流とはいえない昨今のトレンドの中で、これだけ純粋なバンドの音楽がたくさんの人に届いているという事実はそれだけで嬉しくなるし、トレンドがどうとかは関係ないのだな、と思い知らされる。

 

「俺たちの音楽は現実逃避のためにあるんじゃない。現実と向き合うためにあるんだよ。

嫌なことを置いていくんじゃなくて、来年に持っていって、それも全部含めて自分だと思えるようになればいいんじゃないかな」

 

と渋谷は語った。それはこの3日間でどのアーティストも口にしなかった言葉だった。捉えようによっては厳しい言葉にも聞こえるだろう。でもSUPER BEAVERを語る上では至極真っ当な言葉だと感じたし、そんな言葉の後に続いた「人として」の金言に溢れた歌詞の説得力をより強めていた。 そんな時間を締め括ったのはフェスで演奏されるのは珍しいのでは、と感じた「嬉しい涙」だった。

 

「ああ 僕らの歓びは 絶えず歌い続けた歌を あなたまで口ずさんでいる今日で」

 

来年も、ビーバーの歌がたくさん聴けたらいいな。

 

 

 

・[ALEXANDROS](Z-STAGE)

 

こちらもレディクレの常連、[ALEXANDROS]。川上洋平FM802ではMUSIC FREAKSのDJをつとめていたこともあるなど、802とは切っても切れない関係だ。

いきなりユニバーサルミュージックのロゴが出てくるなど、映画が始まるのでは、と思わせるスタートから、楽曲のパーツが散りばめられたエレクトロなSEに合わせて3人とキーボードのRose、ドラムのリアドがスタンバイ。そして始まったのは「Run Away」だ。これまでもフレーズの一部を引用したライブ版のイントロが加えられることが多かったこの曲だが、このままアルバムに収録してほしいぐらい絶妙なアレンジが毎回施されているのがすごい。そして川上の伸びやかな歌声はやはり大きな会場では何倍にも膨れ上がって観客と共鳴していく。スタジアムロックという言葉があるが、[ALEXANDROS]の場合はメンバーの佇まいもスタジアム級だ。

 

シームレスに音を繋げたまま川上が白いジャズマスターを手に取ると「Starrrrrrr」では眩いばかりのメロディと旋律がZ-STAGEを彩る。すると聞き覚えのある音色が用いられた打ち込みから始まったのは久々に聴く「Stimulator」。そのデジタル感を引きずるように、今年から磯部寛之(Ba)のベースも白井眞輝(Gt)と同じフライングVになり、より一層メタルバンド感が増した「Kick&Spin」とアルバム「Me No Do Karate.」のナンバーが続く。当時は雑草魂が投影されまくっていたこの頃の楽曲たちも、今となっては聴こえ方が変わって彼らの清々しいほどのロックスター像を見せつけるかのようなスケール感をまとっている。

 

今年はツアー中に磯部が負傷したり、絶対的なドラマーであった庄村聡泰が持病で離脱するなど、受難が続いた彼ら。だがバンドは歩みを止めることなく、短いスパンで新曲を発表してきた。そんな1年の最後に発表されたのが「Philosophy」。川上はアコギを手に取り、スクリーンには先日行われた「18祭」に書きおろした歌詞が投影されるのだが、

 

「下向きながら 目線上げて睨む方が僕らしいや」

 

というフレーズは誰かを意識したものではなく、[ALEXANDROS]の生き方そのものだ。

 

「Philosophy」もそうだが、今年の彼らの楽曲は青さや刹那性が特に強く表出していたように思える。そんな刹那性が発揮された「あまりに素敵な夜だから」は

 

「どうした? 私はまだこんなとこで終われない」

 

とオシャレなメロディの中に確かな情熱の火を感じる、彼ららしい新境地のナンバーだ。 そんな彼らが

 

「帰りたくないよー!」

 

と叫びながら大阪で最後に鳴らしたのは「ワタリドリ」だった。ここにいる全員を眩い光の先へ導いていくような彼らの力強さと、その裏に見え隠れするパーソナルな葛藤、それでも

 

「傷ついた大阪を笑わせたいから」

 

と歌う彼らの姿に、今年も胸を打たれた。

 

「ロックは優しいものだ」

 

と以前誰かが言っていた気がするが、そういう意味では[ALEXANDROS]はこれからもずっと自分にとって、いつまでも青いメロディを響かせてくれる最強のロックスターだ。 しかし最後の 「アレキサンドロスでした」 とパワポか何かで即興で作ったみたいなフォントの文章はよくわからなかった。

 

 

 

・ネクライトーキー(LIVE HOUSE ANTENNA)

 

3日間の最後、そして今年のライブ納めはネクライトーキー。今年はむーさんが正式加入し、石風呂時代の楽曲をリアレンジしたミニアルバムのリリースもあり、ツアーを行えば全箇所ソールドアウト、と大活躍の1年だった。そんな1年の締め括りとして出演するレディクレには初登場だ。今年はこれまで3本のライブを見てきたが、フェスの場で見るのは初めて。

 

ワンマンのキャパを考えたらANTENNAは場違いだろうと思うほどの人の多さの中で、おもちゃ箱をひっくり返したようなポップなSEに乗せてメンバーが現れるのだが、朝日(Gt)は自身のスマホで満員の会場を撮影していた。コンテンポラリーな生活の頃からずっとホームにしてきた大阪でこんな景色が見られるのは、彼自身も思うところがたくさんあるだろう。

 

タイトルに反して音楽への愛を歌った「音楽が嫌いな女の子」からライブが始まるのだが、相変わらずこのバンドはCD音源とライブでの演奏が桁違いに違う。朝日は叫びまくりながらギターをかき鳴らすし、藤田(Ba)とカズマ・タケイ(Dr)の骨太なリズム隊は安定感と存在感を兼ね備え、その上でむーさんはカラフルなサウンドを自在に操る。そんな個性の洪水のような中で、もっさ(Vo,Gt)の歌声は決してそれらにかき消されることなく、むしろその中でいちばん目立っているのではないか、と思うほど突き刺さってくる。

皆殺しのメロディでANTENNAに爪痕を残しまくった「こんがらがった!」に続いてもっさがお立ち台の上に立ち、

 

「よ~!」

 

とお腹を叩く仕草を見せると、「ポンッ」という抜けのいい音から最新曲「ぽんぽこ節」へ。何度かライブでも披露されているとはいえ、やはり演奏の難易度が高いのか、一人一人がひたすら自分のパートに集中しまくっている。自分達が作った曲を披露しているというよりは、「ぽんぽこ節」という楽曲にネクライトーキーが挑んでいるみたいな構図だ。ツアーが始まる頃にはもう少し余裕のある姿が見られるだろうか。最後のサビ前にお立ち台の上でお腹を拳で叩きまくる藤田がとてもかっこよかった。

 

そしてこちらも最新曲、昨日802で解禁されたばかりの「夢みるドブネズミ」。自分達のことをドブネズミに投影し、ネズミ年となる来年に向けての覚悟や決意が随所に表れていて、サビはめちゃくちゃキャッチャーなのに胸が熱くなる。これからのネクライトーキーを担っていってくれる楽曲になるだろう。

 

前回のツアーでは6分以上に及ぶ一大エンターテイメントとして度肝を抜いた「許せ!服部」がフェスバージョンになるとどうなるか気になっていたが、藤田のうねるベースを合図に楽曲が一気に加速すると、

 

「ワンツースリーフォー!」

 

を観客に委ねてかなり短めにフィニッシュ。この曲単体で楽しませるというよりは、後の流れを重視したことでいい感じの尺に収まっていたように感じる。そして勢いはそのままに今度は

 

「5!」

 

から始まるカウントダウンから必殺のキラーチューン「オシャレ大作戦」へ。

 

「レディクレヘヘイヘイ」

 

と聴くと、改めてネクライトーキーがレディクレに呼んでもらえたという事実がとても嬉しいし、もっと大きな場所でヘヘイヘイしているところを見たい、と思わせてくれる。そして今日もカズマ・タケイのドラムソロ、むーさんのキーボードソロもばっちり決まっていた(リハの時にオーケストラヒットの音を出したら笑いが起きてたけど)。

 

そしていよいよバンドの遠吠えがたくさんの人に聴こえるようになったことを感じさせる「遠吠えのサンセット」で激情を爆発させた5人。初のレディクレの舞台を鮮やかなポップスと鋭利なロッで染め上げてみせた。

ANTENNAステージはL-STAGEと繋がっており、この後のL-STAGEにはキュウソネコカミが待ち構えていたため、アンコールはないかと思われたが、それでもアンコールを求める声にメンバーも大急ぎで登場。

 

「さっさと終わらせてサカナクション見に行こう!(笑)」

 

と朝日があっけらかんと締め括り、「めっちゃかわいいうた」で今年最後の

 

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈」

 

をバッチリと決めてみせた。

来年はいよいよメジャーデビュー。めちゃくちゃかっこいい5人がメジャーの力を得てしまったらどうなってしまうのか些か末恐ろしくはあるが、きっと5人なら大丈夫だろう。ネクライトーキーがレディクレの、そして日本のロックシーンの天下を獲る日はすぐこそ。これからもイカレテル夢をたくさん見せてくれ。

 

 

 

 というわけで初の3日間開催だったレディクレは終了。今年はL-STAGEとZ-STAGEに巨大ディスプレイが設置され、ビジュアライザ的な映像演出がなされたりしていた。あのステージセットだけを見ればCDJともいい勝負ができそうな豪華さだ。正直うまく使いこなせてないと思えるアーティストもいたが。 3日間の開催、最初は長いかな、と思ったが、やはり終わってみればあっという間。それもそのはず、どのバンドも関西でのライブ納めとあってめちゃくちゃ気合いが入っていて、どのバンドも今年ベストクラスのライブを見せてくれたからだろう。 そしてそんな気合いの入る場所を毎年提供しているFM802は本当に凄い。これだけ大規模なフェスを作り出せるラジオ局はFM802くらいだ。 それはラジオがまだまだ時代遅れなメディアではないことの証明。これからも末永く続いて欲しいから、来年もまたこの場所で。

 

FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY 2019 DAY2 @インテックス大阪 2019/12/26

レディクレ2日目。今日は雨が降っていていつもよりかなり気温が低い。しかしレディクレは室内フェス、しかも会場は半袖でもいけそうなほど暑いので雨も気にならない。

今日の目玉はもちろんGLAY。そもそもGLAYが何かしらのフェスに出演すること自体が初めてなのではないか、と思うぐらいには貴重。それもこれもJIROがFM802でDJをやっているから。まあGLAY見てないんですけど。

 

 

 

ヤバイTシャツ屋さん(Z-STAGE)

 

4年前にオーラルの裏でANTENNAを真夏の熱狂空間に変え、それから毎年ステージの規模を大きくしてきたヤバイTシャツ屋さん。遂にZ-STAGEに到達である。もう既に規制がかかりそうなほどたくさんの人が集まる中、昨日と同じく飯室大吾が登場した前説では

 

「昨日はロットンのステージ、餅つきとやって、そろそろ自分達の音楽を鳴らしたいんじゃないかとウズウズしております!」

 

と勢いよく紹介され、オープニングムービーを経て元気よく登場。

 

「おはようございまーす!」

 

と挨拶もいいところにさっそく「あつまれ!パーティーピーポー」で満員の会場を踊らせていく。よくヤバTのライブは頭を空っぽにして楽しめると言うが、彼らはそれだけでなく、空っぽになった頭に「楽しい」をぎゅうぎゅうに詰め込んでくる。だからライブを見ているときは邪念が生まれないし、実は数あるバンドの中でも最も集中できるライブをできていたりする。

「Tank-top of the world」からは「鬼POP激キャッチャー最強ハイパーウルトラミュージック」、そして関西のローカルネタだからこそ意味がわかってコール&レスポンスがさらに盛り上がる「喜志駅周辺なんもない」、さらに今年最大級の

 

「キッス!」

 

コールがこやまたくや(Vo,Gt)の声をかき消しそうなほど響く「ハッピーウェディング前ソング」までほぼノンストップ。少しでも多くの曲を詰め込もうとする彼ららしい戦い方だ。

今年はフェスでもトップバッターをつとめることが多かった彼ら(こやまはMCで「楽屋来てもまだ誰も来てないのが悲しい」と愚痴をこぼしていた)。朝一、といってももう時刻は正午を迎えようとしている中、MCになるとしばたありぼぼ(Ba,Vo)はなぜかひそひそ声で話しはじめる。

 

「みんなまだ起きてないから…びっくりさせようや」

 

と寝起きドッキリを計画。しかし

 

「やっほー」

 

も囁き声で言うというボケで会場がいい感じに温まると、

 

「デカい音出すぞ!」

 

と「Tank-top Festival 2019」で再開。

 

「今年のFM802ヤバイTシャツ屋さんの関係は、まさにこんな感じでした!」

 

と最新曲「癒着☆NIGHT」に繋げると、「無線LANばり便利」ではフェスという楽しい場に来ているはずなのに

 

「家 帰りたい Wi-Fiあるし」

 

の大合唱を起こさせるという異様な、しかしだんだんとスタンダードになりつつある光景を生み出す。ヤバTのライブはいつもこんな感じでひたすら楽しいが連発されるのだが、

 

「ヤバTの曲を世界で初めて流してくれたラジオ局がFM802でした!ばんちゃん(DJの坂東さえか)がキュウソのセイヤさんにCD渡してくれて、それで見つけてもらいました。

音楽で受けた恩は音楽で返したいと思います!」

 

という「ヤバみ」前のMCは思わずグッと来た。FM802としても、地元関西で生まれ育ったバンドが今や毎年紅白に出れるのでは、と期待されるほど大成してくれたことが本当に嬉しいだろうし、坂東さえかはこの景色を見てどんなことを感じるのだろうか。

そんなこやまの恩返し宣言の通り、ラストの「かわE」までほぼノンストップ、時間ギリギリまでフルに用いたセットリストを持って、ヤバTは初のZ-STAGEを完遂してみせた。これから何度も立つであろうこのレディクレの舞台で、ヤバTは今年一番の輝きを見せてくれた。

今年は様々なフェスで初のメインステージを経験し、サンリオピューロランドでのワンマンなど彼ららしい挑戦がたくさんあった。そしてそれは来年も続く。次は志摩スペイン村で。

 

 

 

SCANDAL(L-STAGE)

 

今年はプライベートレーベル「her」を設立し、一気にバンドのイメージを刷新したSCANDAL。けたたましいエレクトロなSEに乗せて4人が現れると、新たなSCANDALの方向性を示した「マスターピース」からライブはスタート。さらに「Fuzzy」と繋げていくことで、今の彼女らがやりたいことは何なのか、ということをはっきりと観客に示していく。2年前にも一度レディクレのステージで見たことがあるが、その時とはメンバーの立ち振舞いや楽曲の雰囲気が別物だ。何というか、しがらみから解放されたというか、優等生バンドというイメージから脱却したというか。

 

しかし「瞬間センチメンタル」の間に違和感が生じる。ここまで割と音響がいいはずのL-STAGEでHARUNA(Vo,Gt)の声がなかなか聴こえない。そのことについて、MCでははっきりと

 

「今日は思うように声が出ない」

 

HARUNAは告白。しかし全く出ないというわけでもないのでライブは続行。HARUNA自身も最後まで歌いきることを宣言したが、すぐさまMAMI(Gt)とTOMOMI(Ba)が

 

「(HARUNAがダメなところは)私たちも歌うからね」

「今日はレディクレバージョンということで!」

 

とカバーに入ったのがこのバンドの絆の深さを感じさせた。

 

「みんなが絶対好きそうなやつです!(笑)」

 

と自身を覗かせた「A.M.D.K.J.」からはHARUNAがハンドマイクで堂々と歌う「最終兵器、君」と最新曲が続く。この辺りは今年はひたすら「ロックバンドであること」に振り切り、数々のライブ猛者とも対バンを繰り広げてきた彼女らの経験値がしっかり活かされている。ニューアルバムはかなりパンチの効いた1枚になりそうだ。

思えばこの頃から今のSCANDALの雰囲気に通ずるところがあったなあ、と改めて感じさせた「テイクミーアウト」からは

 

「みんなに任せたー!」

 

と「STANDARD」では散弾銃のように連発されるコール&レスポンスを完璧に決めてみせる。そしてラストは

 

「いつだって思ってたイメージに届かない」

 

と悩みや覚悟が現れた歌詞が今のバンドの現状をよりリアルに刻名している「SCANDAL BABY」。中盤からはメインのマイクをTOMOMIが完全に奪い去り、スペシャルバージョンで届けられた。

 

「本当はいつもあなたにわかってほしいと思ってたよ」

 

というフレーズがあるが、今なおSCANDALに偏見を持っている人は少なからずいるかもしれない。でもそういう人たちも、今のSCANDALのライブを見たらそんな偏見は消し去ることができるだろう。それぐらい今の彼女らは目指す像がはっきりとしている。ライブ後、「可愛かったー」と話していた人がいたけど、もう可愛いだけじゃ終わらない。

 

 

 

04 Limited Sazabys(Z-STAGE)

 

レディクレには2年ぶりの出演となる04 Limited Sazabys。では去年は呼ばれていなかったのかというとそうではなく、去年はHIROKAZとRYU-TAのギター2名が体調不良になってしまい、やむを得ず出演をキャンセルしたのだった。

それだけに今日の彼らはリベンジに燃えていていつも以上にやる気満々。まずは超満員のZ-STAGEに向けて最強のキラーチューン「monolith」をぶちかますと、KOUHEI(Dr)が中指を立てて闘争心を刺激しまくる「fiction」、そしてフェスでやるのは初めてでは?という「Montage」からすっかりフェスのセトリにも定着した「Alien」まで休憩なし。

ラジオ局主催のフェスらしく、DJ風にアレンジされたMCでは昨年のっぴきならない理由で欠場してしまったことを詫び、

 

「某先輩にカバーしていいっすか?って聞いたら快くオーケーもらったんで聞いてください!FM802、2018年のヒットナンバー!」

 

と披露されたのはまさかの「栞」。元々はFM802が毎年やっている春のキャンペーンソング、ということでクリープハイプ尾崎世界観が書き下ろし、それをGEN(Ba,Vo)をはじめとした豪華ボーカリスト達で歌い上げた曲だ(あいみょんUNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介、sumikaの片岡健太なども参加していた)。まさにレディクレでしか聞くことのできないフォーリミアレンジ版に会場が沸き立つと、さらに上を目指して

 

「Crazy Crazy なりたい」

 

と「Warp」、「Kitchen」とフォーリミ流ポップスを盛大に打ち上げると、

 

「続いては~、04 Limited Sazabys2014年のヒットソング!」

 

とこれまたラジオDJっぽい前口上から「swim」へ。本当にテンポが良く、不純物が一切入らないスムーズな流れでライブを進行させていくのは彼らの売りだ。

 

今でもラジオ局はYouTubeでMVが公開されたり、サブスクで先行配信が始まる前からそのアーティストの最新曲をオンエアしていたりするし、特にFM802は世界最速で楽曲が解禁されたりすることも多い。次に披露された久々の「Terminal」も、FM802で初めて解禁された曲だった。ラジオゆかりのMCや選曲から、フォーリミがラジオをどれだけ愛しているかがたっぷり伝わってきた40分だった。

 

自分が今現在好いている音楽は最近こそYouTube経由で知り得たりすることが多いが、ほとんどはスペシャから知り得たバンドだ。しかしフォーリミと出会ったのはどちらでもなく、FM802だった。5年前、たまたまFM802でオンエアされた「monolith」を聴いて彼らに一目惚れした。あの時FM802を聴いていなかったら、もう少し彼らと会うのが遅かったかもしれない。

だからこそ、こうしてFM802を通して出会ったフォーリミを、FM802の主催するフェスの一番大きなステージで見れることがとても嬉しい。来年もこの場所で。

 

 

 

9mm Parabellum Bullet(R-STAGE)

 

今年は久々のアルバム「DEEP BLUE」をリリースした9mm Parabellum Bullet。今年はR-STAGEでの出演だ。

会場に着くとかみじょうちひろ(Dr)のダンサブルなビートと昨日はイエモンをカバーしていた菅原卓郎(Vo,Gt)の歌謡的なメロディが耳を引く「反逆のマーチ」を既に演奏中。ライブを見るのは初めてだったが、15年目を迎えたバンドなだけあって安定感は抜群。特にかみじょうちひろのドラム捌きは目を見張るものがある。

 

しかし驚かされたのは最新アルバムから披露された「Beautiful Dreamer」「名もなきヒーロー」の2曲。音源ももちろんだが、それよりはるかに音圧が凄まじい。やはり自分はロックバンドはライブが良くてなんぼのものだと思っているので、ライブ化けする曲がたくさんあるのはバンドにとって心強い。9mmは最新アルバムの曲でさえそうなのだから、こうして今でもフェスで活躍しているのだろうな、と感じさせた。

 

9mmの放つ音はロックバンドらしいアツさを持っている反面、冷たい刃のように鋭利で冷徹だ。それが特に感じられたのが「太陽が欲しいだけ」、そしてキラーチューン「Black Market Blues」。一つ一つの音が聞き逃せない鋭さを持っているから、オーディエンスも腕を上げたりハンドクラップをしながらも、めちゃくちゃステージに集中している。集中しなければこの音と向かい合えなさそうだからだ。

ラストの狂騒的な「Punishment」も圧巻の一言。遅かったかもしれないが、改めて彼らの地の強さを痛感したライブだった。まだまだ聴けていない曲もたくさんあるから、来年もまた生き延びて会いましょう。

 

 

 

阿部真央(L-STAGE)

 

昨年に引き続きL-STAGEに登場したのは阿部真央。ジングルが鳴ると既にバックバンドはセッティング済み。暗闇の中からふらっと阿部真央が現れると、アコースティックギターを手に取り、荒々しいストロークから始まったのは「デッドライン」。歌というより叫びのような切迫した歌声が、アコギ一本の上に乗っかってL-STAGEを一瞬で支配していく。やはりこの人の歌声は唯一無二だ。

そしてヒリヒリとした空気を持続させたままバンドメンバーが合流して「ふりぃ」に繋げるのだが、昨年のこのステージでの彼女のセットリストは「Believe in yourself」から「ふりぃ」の流れだった。前に来る曲が違うだけでこんなに雰囲気が変わるのか、と驚かされる。

 

「レディクレ、元気ですか?」

 

とMCで問いかけるも、反応はイマイチだったらしくさらっと流すと、来月にニューアルバムをリリースすることを告知。するとハンドマイクになり、そのアルバムから「お前の求める私なんか全部壊してやる」を初披露。彼女は何度かこういう反骨心に溢れたロックナンバーをリリースしてきたが、この曲はまさしく阿部真央史上最もロック、かつ怒りのエネルギーが充満しまくっている。バンドの演奏もさっき見た9mmが手がけたのかと思うぐらいエッジが効いていて、それに合わせて彼女もヒールでピョンピョン跳ねまくる。

 

「すごい…人生で初めて中指立てちゃった」

 

と自身の振る舞いを振り返ると、さっきは

 

「踊ってくれますか?」

 

と煽っていたのに

 

「暑い?だったらじっとしていて下さい」

 

と自由奔放。再びアコギを背負ってポップな「どうしますか、あなたなら」を届けると、弾き語りでは「未だ」をこちらも張り詰めた歌声で歌い上げる。こうして緊張感のある曲が続くのは正直フェスで歓迎されるものではないが、今の彼女はまさに「お前の求める私なんか全部壊してやる」というモードなのだろう。今年はベストアルバムをリリースしたからこそ、こうして振り切ったライブを行えているのかもしれない。

 

しかし張り詰めたムードはここで終わり。ラストは観客に歌詞を委ねる「モットー。」、そして「ロンリー」では笑顔も見せた阿部真央

数年前まで、阿部真央の歌は同年代へ向けた女子の、女子による、女子のための歌、というイメージがあり、どうも近寄りがたい雰囲気にあった。しかし今はフェスの舞台でもたくさんの人に彼女の歌が届いている。それは彼女の歌がまだまだ古いと言われるには早すぎることの証明だ。

 

 

 

THE ORAL CIGARETTES(Z-STAGE)

 

一昨年はB'zなどの大物が多数出演するなかでトリを任され、見事にその役目を全うして見せた。その時期に発足していた「ReI project」の一環として、昨年は一般参加者から公募を募り、ステージの上で「ReI」を歌い上げた。といったように、毎年のようにその年のレディクレのハイライトを築き上げてきたのがTHE ORAL CIGARETTES。個人的には今の日本のシーンで最もすごいライブを見せてくれるのがオーラルだと思っているが、レディクレでのオーラルはいつも以上の力を発揮してくれる。それを知っているから、やはりこのバンドは見逃すことができない。

 

今年は地元・関西の泉大津フェニックスで野外イベント「PARASITE DEJAVU」を開催した彼ら。そのとき同様テンプレート文章になった「一本打って!」を経て、サイレンにも似たSEに乗せてメンバーがゆっくりと定位置に着く。すると仲西雅哉(Dr)の四つ打ちから繰り出されたのは「ワガママで誤魔化さないで」。山中拓也(Vo,Gt)はさっそくタンバリンを手にし、サビでは腕を左右に振るのだが、もう観客全員が山中の一挙手一投足を真似している。次にGLAYが控えているにも関わらず、まるでこのZ-STAGEに集まった全員がオーラル目当てに集まっているかのようだ。

 

スクラップを模した歌詞が投影される「カンタンナコト」で会場を縦に揺らすと、ここで先程まで音波神社でライブをしていたロザリーナを呼び込む。同じ日に出演しているからやるかな、とは思っていたが、やはりロザリーナを迎えて披露されたのは「Don't you think」。山中は

 

「ロックバンドがフィーチャリングとかなかなかやらないっしょ?」

 

と言っていたが、こうしたコラボができるのもフェスならではだ。そしてこれだけのオーディエンスを目の前にしながら自然体で振る舞うロザリーナも度胸が据わっている。

冬フェス前にリリースされた「Shine Holder」からはキラーチューン祭りと言わんばかりに、幾度となくこのフェスをクレイジーに仕立てあげてきた「狂乱 Hey Kids!!」、挑発的な打ち込みサウンドが襲いかかる「容姿端麗な嘘」、この日一番の大合唱が響く「BLACK MEMORY」を連続でドロップ。

本当にオーラルはライブの完成度が高い。それは1曲1曲が死角のないサウンドメイキングを施されているから。ロックバンドのライブにありがちな「荒削りなサウンド」というものが一切なく、それでいて生々しい。楽曲の面でもそうだが、ライブでも完全に「オーラルにしか作れない空間」を作り上げている。他のバンドにはなかなか真似できない所業だ。

 

ラストは関西への感謝も込められた「LOVE(Redone)」。一瞬でピースフルな空気に変えてみせ、やはり今年もオーラルのライブの凄さを実感させた。

来年はニューアルバムのリリースも決定している彼ら。一体どこまで進化してしまうんだ。

 

 

 

打首獄門同好会(R-STAGE)

 

R-STAGEに登場したのは打首獄門同好会。既にその人気はお茶の間にまで浸透しており、CDJでは最大級のEARTH STAGEへの出演が決まっている。しかし意外にもレディクレには初登場。そしてCDJのステージは年越し後なので、実質レディクレが彼らにとってのライブ納めである。

会場の外から流れてくる「島国DNA」を聴き、どんどんステージに向かう人の足が早くなっていくのにも同情しながら会場に着くと、最前列ではやはりマグロが投入され、不規則に跳び跳ねている。スクリーンにはVJ風乃海が操る映像が投影され、ギターの音を聴かせたくてわざとボーカルを抑えている大澤会長(Vo,Gt)に代わって歌詞も見せてくれる親切っぷり。しかしスクリーンを見ずとも歌詞を口ずさんでいる人がめちゃくちゃ多いのにも驚かされる。

ちょうど晩飯時の時間帯に歌われる「ニクタベイコウ!」による魚&肉のコンビで食欲をそそらせた後は、

 

「どうも、この3日間で最もスクリーンの使い方がもったいないバンド、打首獄門同好会です(笑)」

 

と自己紹介。というのもR-STAGEのスクリーンは縦長の長方形なのだが、VJが流す映像ではアスペクト比が足りておらず、スクリーンの大半が真っ黒のままライブが進行していた。しかしMCの時はきっちりメンバーの笑顔が映される。

 

「来年はいよいよオリンピックイヤーということでね、みなさん来年もたくさん頑張って、経済を回して、日本全体を盛り上げていきましょうね!

では次の曲をお聴きください、「はたらきたくない」」

 

と爆笑を誘うと「はたらきたくない」では全国民の思いを代弁するかのように歌う。

 

「さっき働きたくないと言ったが、いやいや俺はむしろ、布団の中から出たくない!」

 

とまたも大澤会長の巧妙なフリから、今度は

 

「さむい」

 

の絶叫が響く「布団の中から出たくない」へ。どちらも否定形から入る曲だが、最後には

 

「はたらきつかれたね」

「布団の中から出てえらい」

 

と優しさを滲ませるのが彼らの人柄のよさを伺わせる。そして大澤会長は喋りがめちゃくちゃ上手い。

しかし

 

「本日12月26日は何の日かご存知ですか?そう、今年最後の二郎の日です!」

 

と「私を二郎に連れてって」、「きのこたけのこ戦争」とまたしても食べ物関連の曲が続いたのはこの後フードコートへ向かわせるレディクレの策略だろうか。

 

まさかのパンクアレンジが高揚感を加速させた「おどるポンポコリン」のカバーを終えたところで、

 

「皆さん、現在時刻は17時50分でございます。そう、もうすぐ隣のZ-STAGEに白でも黒でもないGLAYが出る時間帯でございます!なのでR-STAGEでは白いお米の話をしましょう!」

 

と最後に皆が待ち構えていたあの曲の前フリ。そして

 

「2020年が大豊作な一年になりますように!皆さん、ご唱和下さい!」

 

と「日本の米は世界一」を高らかに響かせ、初のレディクレのステージを大団円に導いてみせた。

みんなが知っている曲をみんなで大きな声で歌う。フェスならではの光景がそこには広がっていた。ライブ中も、ライブが終わったあとも、誰もが笑顔になっていた。

 

そしてライブ後、GLAYに向かう人もたくさんいたが、フードコートに向かう人も負けないぐらいたくさんいた。やっぱりこの時間帯の出演はレディクレの策略だったのではないだろうか。だったら次はお昼時にでも、Z-STAGEで。

 

 

 

東京スカパラダイスオーケストラ(L-STAGE)

 

今年はFM802と同じく30周年を迎えた東京スカパラダイスオーケストラ。これまでも斎藤宏介や横山健といったボーカリストを連れてレディクレのステージに立っていた彼らだが、今日のゲストボーカルは04 Limited SazabysのGEN、そして先程までZ-STAGEでライブを行っていたGLAYのTERUだ。TERUがゲストボーカルで呼ばれるなんてレディクレぐらいではないだろうか。

 

夏フェスではえんじ色のスーツをまとっていたメンバーだが、今日は白いスーツで登場。谷中敦はハットを被っており、相変わらず渋い。

さっそく「DOWN BEAT STOMP」でパーティーを始めると、「スキャラバン」、そして今年リリースされてセットリストにも定着してきた「遊戯みたいにGO」と続けているうちにL-STAGEに次々と人が集まってくる。スカパラのグッズを身につけている人は少ないけれど、色んなアーティストグッズを身につけた人が一堂に介する。これがスカパラだ。

 

「今年のスカパラは30年で一番忙しい1年でした!みなさんへの感謝を込めて、2003年の大ヒットナンバーを!」

 

茂木欣一(Dr)が甘い歌声でも魅せる「銀河と迷路」へ。今年この曲はトリビュートアルバムで04 Limited Sazabysによってカバーされていた。しかしここで披露されたのは茂木がボーカルをつとめるバージョン。ではGENは何を歌うのか…と思っていると、曲の途中でGENが呼び込まれ、そこからフォーリミ版の「銀河と迷路」へ繋げるという新旧メドレー形式。これは予想外であった。

今年はGENのみならず、Official髭男dismなど後輩ともたくさんコラボしてきたスカパラ。こうやって様々な世代と触れ合っていくことが、「PARADISE HAS NO BORDER」という彼らの哲学をより強めているのだろう。

 

まさにスカパラを体現するワードとなった「PARADISE HAS NO BORDER」を経て呼び込まれたのは、ライブを終えたばかりのTERU。そういえばTERUもトリビュートアルバムに参加していたっけ、とここで思い出し(津野米咲亀田誠治ピエール中野と共に参加していた)、披露されたのは「美しく燃える森」。同じ日にはこの曲のオリジナルバージョンを歌っていた奥田民生も出演していたが、TERUの歌はもう色気がすごい。後にも先にも彼の歌が聴けるのはもうこれっきりだろう。最後に抱き合っていたTERUと谷中の絵はとても美しかった。

もう一人ぐらいシークレットゲストがいるかな、とも思ったが、ゲストボーカルはここで終わり。30年目を迎えたからこそ力強く響き渡る「Glorious」、そして「ペドラーズ」を経て大阪での30年目のライブは幕を閉じた。

 

今年はトリビュートアルバムもリリースされ、同じく30年目を迎えたスペシャ習志野高校吹奏楽部とのコラボもあり、桜井和寿チバユウスケといった大物たちとタッグを組んだ新曲やオリジナルアルバムのリリースもあったりと盛りだくさんだった1年。谷中は

 

「30年で一番忙しい1年だった」

 

と語っていたが、来年以降ももっと彼らの描くパラダイスに連れていってほしいものである。

 

 

 

・Saucy Dog(L-STAGE)

 

L-STAGEのトリを託されたのはMUSIC FREAKSの新DJにも就任したばかりの石原慎也(Vo,Gt)擁するSaucy Dog。去年のレディクレはR-STAGEのトップバッター、今年の夏フェスでも割と早い時間帯での出演が多く、爽やかな楽曲からも朝のイメージが強かった彼らだが、まさかトリをつとめることになるとは。

口笛交じりのSEが夜というより日暮れというか、1日の終わりを感じさせる雰囲気の中でバンドのロゴが後ろに現れると、3人がふらっと登場。

 

「Saucy Dog始めます!」

 

と石原が元気よく挨拶すると、「雀ノ欠伸」からライブが始まるのだが、その瞬間、彼らがトリに選ばれた理由がわかった気がした。何せ楽曲から漂ってくるエンディング感がすごい。最後の最後まで盛り上げ続けていく、という今までのフェスの雰囲気とは違い、「1日お疲れ様」とここにいる全員を労うかのような温もりがある。間違いなくこの空気はSaucy Dogにしか作れないものだ。しかもステージに立つ3人の佇まいが見違えるほど頼もしくなっている。

 

昨年のヘビーローテーションナンバー「真昼の月」からはそんな優しさから一転、「ナイトクルージング」、彼らの躍進を決定付けた「ゴーストバスター」とアップテンポな楽曲が続く。そんな流れは

 

「嵐の中を手探りでさ 僕らは走って行くよ」

 

と地元のフェスでトリを任された覚悟を歌ったかのような「Tough」を含めて、

 

ユニコーンとかアジカンとかと並んでて。正直、めちゃくちゃ不安だった」

 

と語った石原たちの不安がそのままセットリストに表されているかのようだ。

「バンドワゴンに乗って」でそんな流れはいったん終わり、「コンタクトケース」では極上のバラードをL-STAGEに響かせる。彼らはフェスの場でもこういったバラードでも勝負できるバンドだ。そういった面では、今の盛り上げ重視なフェスの雰囲気において、彼らの存在はフェスへの新たな価値観を提示してくれそうな予感がしている。

 

ラストはとびきりにアットホームな「スタンド・バイ・ミー」で終わり。「いつか」はやらなかった。でもそれは「いつか」がなくても素晴らしいライブを成立させることができる、というバンドの成長を示すものでもあった。「いつか」をやらなかったからだろうか、今日のサウシーは不完全燃焼だった、とぼやいていた人がいたけれど、今日の彼らは地元でのライブ納めとして素晴らしすぎるライブをしてくれたし、

 

インテックス大阪でワンマンしてみたいなあ」

 

と呟いていた石原の夢が叶う日も、そう遠くないのかもしれない。

 

 

 

というわけで2日目終了。やはりラジオ局主催のフェスだけあって、どのアーティストもラジオへの愛が深いことがたくさん伝わってくるし、誰もがラジオの持つ可能性を信じている。だからこそ、自分ももっとラジオが好きになるし、もっと信じてみたくなるのかもしれない。

そんなことを感じた2日目だった。