My Hair is Bad presents サバイブホームランツアー @Zepp Osaka Bayside 2019/9/6

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最新アルバム「boys」を引っ提げて今日もツアーを回り続けているMy Hair is Bad。ライブハウスを主戦場としているバンドではあるが、今やこうして大阪で一番大きなライブハウスで見れる機会すら貴重になりつつあるのは、昨今のロックバンドのジレンマか。Zepp Osaka Baysideでライブをするのは早くも3回目だ。

 

最初にステージにセットされていた椎木知仁(Vo,Gt)のギターは、いつものレスポールではなく水色のテレキャスター。boysの楽曲はほとんどがこのギターで弾かれていた。開演時間ちょうどになると椎木、山本大樹(Ba)、山田淳(Dr)が揃って登場。ひとしきり身体を伸ばした後、ドラムセットの前で拳を交わすと、「君が海」で勢いよくスタート。MVが出た当時は今年の夏がどんな夏になるのか、想像が膨らむ曲だったが、

 

「この夏が最後になるなら」

 

という歌詞の通り、9月になっていよいよ夏の終わりが迫ってきたこの時期に聴くと、あの時とはまた違った感傷が襲ってくる。

 

マイヘアの楽曲は過去の思い出をリアルの肉体に乗せて、今この瞬間耳にした人に追体験をさせる。その体験は自分自身が本当にそんな経験をしていたかのようで、時に目を背けてしまいたくなるようなリアリティーがあるのだが、「君が海」はどちらかというと白昼夢の中で見聞きした話の追体験のようにも聴こえる。

 

「バンドを続けていくために変化していく」

 

と「hadaka e.p.」のインタビューで口にしていたバンドの、さらなる進化が垣間見えた。

 

「青」に続いて「グッバイ・マイマリー」では

 

「大阪!遠慮はいらないぜ!」

 

とフロアに火を点けると、それに呼応するかのように力強い拳が3人に向けられた。フェスなども含めて、もうライブを見るのは5回目ぐらいになるのだが、ライブハウスで見るのは今日が初めて。熱量は変わらないが、ホールと違うのは、スタンディングフロアの群衆が椎木側に集中していることだ。

 

前半は歌詞を飛ばしたりするなど、椎木の声は本調子ではなさそうだったが、最初のMCを経て「虜」に入る頃にはだいぶ温まってきたようだった。アルバムでは最後の方に収録されている曲だが、

 

「物語の始まりはこれから」

 

という歌詞を聴いて、このポジションに据えられたのが納得できた。

 

スリーピースバンドのベースは、ギターの細かいフレーズが少ない分技術が求められがちだが、 「浮気のとなりで」「ドラマみたいだ」とミディアムチューンが続くゾーンでは、山本のベースがいかにこのテンポの曲たちをうまく引き立てているかがよくわかった。

 

本音を隠し続ける二人の関係が切ない「観覧車」から「戦争を知らない大人たち」、更に神聖なストリングスが流れる「化粧」と続ける展開は、生々しいドキュメンタリーを見ているようで、黙って見ているこちらの心まで裸にさせられていくようだ。衝動的なギターロックというイメージのある彼らだが、スローテンポの曲はどれも味があるし、ロックバンドとしての懐の深さを感じる。

 

「あっという間に半分も経っちゃった」

 

と少し寂しげに語った椎木は、この夏山本に誘われて皆でバーベキューをしたエピソードを披露。せっかくだから椎木が今日は奢るということを宣言すると、山田が号泣し、

 

「なんで泣いたのって聴いたら、椎木の男を見たからって」

 

と話す椎木に、泣いてねえよー、とマイクを通さず叫んだ山田。毎回思うが、彼は本当に声がでかい。

 

マイヘアの誇るキラーチューン達が唸りを上げる中盤戦は「真赤」からスタート。赤い照明がいくつも会場を貫くなか、椎木は

 

「本当は思い出したくないんだ」

 

と叫んでいた。バンドにとってはブレイクのきっかけとなった曲だが、彼にとっては歌う度に自らの傷を抉るような感覚なのだろうか。

 

しかしそんな感傷はものともせず、

 

「ドキドキしようぜ!」

 

と「アフターアワー」が始まると、会場の熱はトップクラスに。中には待ってましたと言わんばかりにダイブしてくる人も。

「愛の毒」「クリサンセマム」と短いナンバーを続けると、勢いはそのままに

 

「ついてこれないなら置いていくだけだ!」

 

と「ディアウェンディ」をお見舞い。山田の切れ味抜群なドラムは年を追うごとに迫力を増してきている。彼がいなければこの高揚感は生まれてこないといっても過言ではない。

山田に続いて椎木がハードコアのような鋭いリフを刻む「lighter」では、照明も赤を中心に激しく明滅する。3人の演奏が素晴らしいのは当然として、マイヘアのライブの魅力の一つはこの照明にある、と自分は初めてライブを見たときから思っている。

 

「人間は嘘を見破れる。お客さんは舐められない。だから最高の本気を見せに来た!」

 

と即興の叫びが繰り返される「フロムナウオン」の臨場感は、CDで聴いてもライブDVDで聴いても味わえない(CD音源はリリースされてないが)。

結局のところ、どれだけ素晴らしい作品がリリースされても、ライブでその魅力を発揮できなければロックバンドは生き残ることができない。グッズを買えば買うほどバンドに利益が届くという話もよく聞くが、それだけロックバンドはライブに重点を置いて生活している。現場に来る人を何よりも大切にしているから、一つ一つの現場に全身全霊を込めている。

「フロムナウオン」の数少ない固定の歌詞の一つに

 

「わからないまま時は過ぎ」

 

という一節がある。今日の「フロムナウオン」が彼らにとって、お客さんにとって何点だったのかはわからない。でも、年間を通して常にライブをこなし続けているマイヘアが、今もこうして最前線でサバイブし続けてきたのは、この「フロムナウオン」を幾度となくバッチリ決めてきた積み重ねがあるからだ。だからこうしてツアーで大阪に来てくれるときは足を運びたくなるし、マイヘアはずっとそういう存在であり続けてくれると思っている。

 

「故郷の歌を歌います」

 

と始まった「ホームタウン」は、彼らの出身である新潟・上越の景色が幾重にもイメージされる曲だ。だいたいこういう故郷に向けた曲というのは、聴いている人が自分の故郷を重ねられるという魅力がある。しかしこの曲に映されている風景は紛れもなく上越のもので、他の何にも代えがたい言葉や空気に満ち溢れている。非常にパーソナルな曲だからこそ、新潟以外の土地で演奏されたのには驚いた。

 

アリーナツアーでも披露されていた「芝居」が演奏されると、曲のスケール感に合わせてこのライブハウスも同時にスケールアップしたかのような感覚に陥る。今の自分は映画のどのシーンにいるのか、自分の周りにいる人たちはどんなシーンで生きているのか、つい思いを馳せてしまうし、願わくは今のシーンが予告編であることを願っている。まだまだロックバンドを見続けたいし、2020年、2030年と続いていく未来をロックバンドと共に生きていきたい。

 

「この夏にここで出会えてよかった!」

 

と3人が笑顔をこぼしながら「いつか結婚しても」が始まると、常々

 

「歌える人は歌ってくれ!」

 

と言い続けていた椎木の思いが成就したのか、歌詞を口ずさんでいる人の数はこれまでで最も多かったし、その数は最後のサビ前に椎木がマイクから離れて会場に歌詞を任せられるようになるまでとなった(歌詞は微妙に惜しかったけど)。何よりも3人が楽しそうな表情をしているのがいい。

 

「笑ってくれよ!」

 

と椎木は言っていたが、同じように我々もマイヘアの笑顔を望んでいる。

 

この時期と相性抜群な「夏が過ぎてく」では

 

「ワンツー!」

 

の掛け声もバッチリ決まり、ラストへ向けてボルテージが高まっていく。最後は「告白」で締め括られたのだが、ここでも椎木は歌詞を会場に委ねる。遂にマイヘアのライブでこんな景色が見れるようになったか、と感動してしまった。

 

アンコールの声に応えて再び3人がステージに戻ってくると、思い思いにメンバーの名前が叫ばれる。その中から山田に話が振られると、彼は珍しくマイクを通して

 

「モンハンやりてえ」

 

と本音を呟いた。良く言えば着飾らない彼らの姿も含めて、マイヘアのライブの魅力だ。

 

「もう1曲新曲やります」

 

と語って歌いだしたのは「舞台をおりて」。

 

「せめて今夜は 昔の話はしたくなくて

これからどうしていこうとか話して 振り返らずに終わろう」

 

という歌詞からは、今までのマイヘアとは違う、未来を見据えた意志を感じる。前作「次回予告」以降、マイヘアはある意味で前向きなバンドになった。今回のアルバムは楽曲の幅広さが広がった作品だったが、それよりもメンバー自身の心が成長したことがこのアルバムに直結したのだろうと感じた。こうした流動的な心情の変化が如実に楽曲に現れるのが、ロックバンドの面白さだ。

 

最後に演奏されたのはアリーナツアーの1曲目を飾っていた「惜春」だったのだが、この曲でも

 

「忘れるために 先を急ぐんだ」

 

とバンドの目線は未来へ向けられている。「フロムナウオン」の途中で椎木は

 

「最新が最高でありますように」

 

と語っていた。もちろん今のマイヘアは最高にかっこいい。でも来年には更にかっこよくなったマイヘアを見れるだろうし、再来年には更にかっこよくなったマイヘアがそこにいるはずだ。その未来を一緒に追いかけていきたい。先ずはさいたまスーパーアリーナへ向けて、彼らの「サバイブ」と題したツアーは始まったばかりだ。