THE ORAL CIGARETTES PARASITE DEJAVU ~2DAYS OPEN AIR SHOW~ DAY1 <ONE MAN SHOW> 2019/9/14

デビューから5年が経ったが、今やシーンを代表するモンスターバンドとなりつつあるTHE ORAL CIGARETTES。彼らの地元である関西であり、例年では毎年HEY-SMITHの主催フェスが開かれる泉大津フェニックスを会場とし、初日をワンマン、2日目をフェス形式にするという挑戦的なイベントを開催した。このレポは初日のワンマンのもの。

会場に着くなり、蔦の絡まったオブジェが至る所に設置され、書道家が当日にパフォーマンスした一枚絵、ライブペイントやファッションブースの展開など、あらゆるカルチャーに焦点を当てた景色が並ぶ。まるで野外に美術館ができたような感覚だが、この一つ一つがオーラルを形作った血肉であることがわかる。
ステージにはイベントタイトルがでかでかと掲げられ、白い結晶と植物がシャンデリアのような姿を形成した巨大な装飾物が飾られる中、開演時間になると、まずはいつも通りの

「一本打って!」

から。ラブシャの時はテンプレートの文章だったが、今回はちゃんと陰アナっぽくなっていたので安心した。

「お前らがオーラル第2章の生き証人やぞ!」

山中拓也(Vo,Gt)が息巻くと、いきなりの「BLACK MEMORY」で開幕。リリース当時からこの曲はライブの締めを担当してきた場面が多かっただけに、この選曲には驚いたが、

「Get it up」

というフレーズが連なる曲なのでこのポジションも合っているのかもしれない。最初の一音から深く、深く自分たちの世界に引っ張りこむ手腕はさすがのものだ。

続いて「What you want」で会場をバウンスさせるのだが、山中だけでなく、鈴木重伸(Gt)、あきらかにあきら(Ba)、中西雅哉(Dr)の全員、一瞬一瞬の動きがアートになりえるような優美さをまとっていて、演奏している姿に目が離せない。ライブにおいて総合的なアート性を求めている今のオーラルのモードがメンバーの立ち振舞いにも表れているし、こんなに絵になるバンドは他にいない。

まだ2曲しか演奏していないにも関わらず、山中は満員の会場を一望して

「この景色を5年前から思い浮かべてました」

と感極まる。
5年前、KANA-BOONがこの場所でワンマンを行ったのだが、ライブ前に関西の若手バンドの曲をノンストップでDJするという時間があった。オーラルはそこでリリースされたばかりの「起死回生STORY」が流れていた。あの時は大勢の中の1バンドに過ぎなかったオーラルが、ワンマンでこのステージに立っている。音の説得力、ライブの迫力、歌詞やサウンドの趣向からして、今やオーラルの真似をできるバンドは世界のどこを探してもいない。

映像にも目が離せない「WARWARWAR」から、デビュー当時はセトリに必ず組み込まれていた「N.I.R.A」と懐かしい曲が続くと、「GET BACK」からは徐々に日暮れが近づくにつれて照明の激しさも増してくる。惜しげもなくカップリング曲も披露するということは、第2章に入る前に過去を振り返るという今回のライブの趣向を表しているのかもしれない。
「GET BACK」には

「いつかは君の答えになってみせるよ」

というフレーズがあるが、オーラルにとっては今ここに集まってくれた人達の存在こそが答えなのだろう。

いよいよ夕陽が沈んでいく様をハイテンションで眺めていた山中は、前日にあきらから

「ここまでつれてきてくれてありがとう」

と個人LINEが来たことを明かす。そういえば彼らはメジャーデビューして上京してから、しばらく共同生活を営んでいた。メンバー間の信頼関係は折り紙付きだ。

「奈良と大阪といえば近鉄やないですか。近鉄に怪しい駅あるやないですか」

と「瓢箪山の駅員さん」では初期のオカルトな一面を見せつつ、爽やかな原曲から一転して穏やかなムードを漂わせる「LIPS (Redone)」では

「この街の灯が消えてしまうから」

というフレーズと同期するように夜の帳が降りていった。

「ワガママで誤魔化さないで」は今後のオーラルの中でどんなポジションを担うことになるのか、未知数の可能性を秘めていた曲だったが、やはりこの日も中盤のターニングポイントとしての役目を全うすると、キラーチューン「カンタンナコト」では会場が一斉にヘドバン。思えばこの曲をやり始めた当時、山中が

「頭振るぞ」

とヘドバンを煽っていたのが驚きだったし、「オーラルってそういう方向性の曲もやるのか」とも思っていたが、ワンマンで一斉にヘドバンしているこの景色は絶景だ。
山中は

「野外でやることの大変さを知って、フェス主催してるバンドがリスペクトできました」

とこの日に至るまでの苦労を語ると、書道やライブペイントといった、今までにはなかったパフォーマンスを催したことに手応えを感じる。そしてその一環として、ライブ前にもパフォーマンスしていたヒューマンビートボクサーのKAIRIがステージに呼び込まれた。サイレンのような音からDJのスクラッチ音まで、たった一人で泉大津フェニックスを虜にしたKAIRIは、

「みんなが待ってたやつやります!」

と「DIP-BAP」のビートを刻み出す。すると山中もそこに乗っかり、山中の歌、KAIRIのビート、お客さんのコーラスという3つの声だけでワンフレーズを歌い上げた。そして今度はメンバーも参加し、まさにKAIRIがリアルで打ち込みを担当したかのような「DIP-BAP」で会場を沸かせる。
この5年で目まぐるしい変化を遂げたオーラルだが、個人的にはこの「DIP-BAP」こそが、彼らの進化と個性を決定付けた一曲だと思っている。

「オーラルは一生ついていって間違いないバンドだから!」

とKAIRIからの熱い言葉を受け取り、「ハロウィンの余韻 (Redone)」からは最新のオーラルを展開するゾーンへ。
次の「僕は夢を見る (Redone)」もそうだが、

「自分の表現したいことに楽器の制限は外してやっている」

と山中がインタビューで語っていた通り、あきらがシンセベースを操って重厚なビートを生み出すなど、今回リアレンジされた楽曲は決して既存のオーラルのスタイルとは全く異なっている(何年か前のインタビューで山中は「ミドルテンポの曲が響くようになったら強いと思う」といった趣旨の発言をしていたし、その時の伏線を回収しているように感じる)。「バンドなんだからバンドサウンドで勝負してほしい」という意見を持つ人からしたら、今回のリアレンジは突拍子だったのかもしれない。
だが、これこそが常に常識を壊そうと進化を続けてきた彼らの現在地である。中には彼らの目まぐるしい進化についていけなくなった人たちもたくさんいるだろうし、自分の周りにも「昔のオーラルの方が好き」という人がたくさんいる。それはそれでいいんだろうし、きっとオーラルはこれからも歩幅を合わせてくるつもりはないだろうから、我々は最新の彼らが一番かっこいいのだ、と信じ続けるしかない。
でも今日この場所にたくさんの人が集まったということは、オーラルは今でも、いや今が一番かっこいいという何よりの証明だろう。

「オーラルは一度も跳ねたことがない。ブームを起こしたこともない。でもそれでいいと思うんです」

と山中はバンドの歩みを語る。そして、

「ロックは弱い人が奏でるもんやと思うんです。俺は弱い。でもみんなに寄り添えるなら弱くてもいい。どんだけ苦しんでもいい。俺は絶望を力にできるから」

と力強く語りかける。MC中には涙ぐむ声も聞こえた。
ロックはいつの時代も負の感情をエネルギーとして鳴らされてきた音楽だ。社会情勢への反発であれ、うまくいかない恋愛へのあれこれであれ、根本は同じだと自分は思っている。でも売れるためには陰の部分を隠し、明るく振る舞おうとしてきたバンドもたくさんいた。
でもオーラルはそうしなかった。そうできなかったのかもしれないけど、オーラルがこれまで包み隠さずな音楽を鳴らし続けてきたことで、救われた人がどれだけいるのだろうか。

燃え盛る怒りをサウンドに落とし込んだ「5150」からは、「PSYCHOPATH」、さらに極彩色の照明が踊る「狂乱 Hey Kids!!」とダークなキラーチューンが連なる。「PSYCHOPATH」の映像には複数の目玉がこちらを向くシーンがあったように、彼らの音楽は時として目を逸らしたくなるほどリアルだ。でも目を逸らしたくなるということは恐怖という感情があるからだし、オーラルはそんな感情の機微を大切にしてきたバンドだ。
今回リアレンジ版として披露された曲も、「狂乱 Hey Kids!!」のような激しい曲も、どちらかが良いという問題ではない。根本は全く同じだし、どちらも今のオーラルには必要不可欠なパーツなのだと再認識した。

「今近くにいる人は出会うべくして出会ったんやで。ないがしろにすんなよ」

と語った「See the lights」では、

「あなたと過ごした時間には「ありがとう。」の言葉が溢れてる」

のフレーズに涙ぐむ人も。やはりオーラルが一番伝えたかったことは、今目の前に集まってくれた、このイベントを作ってくれたスタッフ達、そしてメンバーからメンバーへの感謝だったのでは、と思った。それがさらに顕著に出たのがこの日一番のハイライトを生み出した「LOVE」。
デビューして1ヶ月弱だった頃、所属レーベルのカウントダウンイベントに出演した時に何故か「起死回生STORY」がセトリに入っていなくて、異例のアンコールを引き起こしたこと。翌年の列伝ツアーでそのリベンジを果たしたこと。ラブシャのステージで山中がポリープ手術を行うことを告白したこと。

「すごいボーカリストになって帰ってくるから!」

という言葉通り、「FIXION」という傑作を引っ提げて帰ってきたこと。満員の武道館で「LOVE」を歌ったこと。大阪の冬フェスで一年間かけて育ててきた「ReI」を大合唱したこと。この曲を聴いていると、その歴史の一つ一つがフラッシュバックしてきて、気づいたら涙が止まらなかった。
ロックバンドは常に自分自身と対峙し、自分自身との闘いを乗り越えてきた存在だと思っていた。だが、山中はオーラルを

「人と人との繋がりでここまで来た」

と語っていた。この「LOVE」も、そうした繋がりがなければ生まれなかった曲だ。

個人的には本編最後の曲はこの「LOVE」だったと感じた。実際にはこの後に「容姿端麗な嘘」をやって本編を終えたのだが、この日の「容姿端麗な嘘」は、今まさにオーラルが第2章に足を突っ込んだことを明確に示していた。きっとこの曲も、これからのオーラルを支えてくれる心強いパートナーになってくれるだろう。

アンコールではワンマン恒例のまさやんショッピング(次はもっと大きな会場でやりたいとも宣言)を経て、徐々に満月が見え始めてきた頃合いにロザリーナが呼び込まれ、ライブ初披露だという「Don't you think」を披露。
ロザリーナの歌を山中の声が低音で支え続けるこの楽曲は、オーラルがロックバンドとしての既存の概念を超えつつある瞬間を表していた。サウンドも歌詞も、目の前の事象に留まらず、もっと広い視野を見据えたもののように感じる。

「何を言われても俺達は初心を忘れないんで!」

と最後に演奏されたのは「起死回生STORY」。オーラルは本来はBKWを掲げてきたバンドだし、そのBKW精神に惹かれた人もたくさんいただろう(少なくともフェスシーンなどではBKWされる側に回った気もするけど)。
しかし今の彼らはもっと大きな事象に目を向けている。それは今日のライブを見た人ならわかるはず。わかったはずならば、我々はそれをこれからも追いかけていくだけである。

最後に写真を撮るときも、

「今までフェスとかで冷たくしてごめんな!今日のためやったんや!」

と上ずった声で話した山中。途中のMCでも言っていたように、オーラルは決してヒット曲に恵まれたわけでもないし、平坦な道を歩んできたわけではなかった。だからこそ、共に歩んできた人達との信頼関係は絶大なものになった。その関係はこれからも一筋縄では揺らがないだろう。来るべき第2章はどんなSTORYが描かれるんだろうか。