FM802 30PARTY Eggs Presents MINAMI WHEEL @アメリカ村一帯 2019 2019/10/14

大阪のラジオ局、FM802が毎年開催しているMINAMI WHEEL。大小さまざまなライブハウスがひしめくアメリカ村一帯を巻き込み、400組以上のアーティストを呼び込むという、関西最大規模のサーキットイベントだ。
今年はFM802が30周年ということもあり、3日間開催される予定であったが、初日、2日目は台風の影響により中止。自分はもともと初日に参加する予定だったのだが、中止になったことが思ったより悔しくて、行く予定ではなかった3日目の今日に強行スケジュールながらリベンジすることを決めた。



・中村佳穂(BIGCAT)

1日の幕開けを飾るアクトは各方面から褒めちぎられまくっている中村佳穂。ラブシャではAimerと被ってしまっていたので、念願の初ライブだ。
SEなしでバンドメンバーと共にふらりと現れた中村は枯れた花束を腕に抱えている。

「台風大丈夫でしたか?この花束は友人の結婚式に渡そうとしてたものでした。…音楽は衣食住とは別だから、こういう災害の時には無力だと感じることもある。それでも、楽しむときには楽しんで、無気力な時に作った音楽が何かを生み出すと信じていくしかないと思います」

と思いを語った。このMCだけでも、彼女がどれだけ真摯に日々音楽と向き合って生きているかが充分に伝わってきた。

「この日の一音目に私を選んでくれてありがとう!」

と「GUM」からライブはスタート。普通、ライブというとMCと演奏はきっちりモードを変えて臨むアーティストが多いように感じるが、彼女にはそのような境界線が見当たらない。流れるように言葉を紡ぐし、MCがいつの間にかメロディをなぞっている。音楽を奏でているのではなく、音楽と一体化しているような神秘性を感じる。
「アイアム主人公」では中村佳穂BANDを紹介しつつ、

「ダウン」「戻って!」

の号令でバンドサウンドを自在に操る。更には「5」「1」など彼女のアドリブで数通りのキメを決めるのだが、「56」と無茶な数字でもキッチリこなしてみせる所にバンドの確かな技術と集中力の高さを感じさせられる。出演する名義上では「中村佳穂」だが、実質目の前でライブをしているのは「中村佳穂BAND」なのだ。

「Trust you」

と切実な歌が響く「q」を経て「LINDY」でフロアを心地よく揺らすと、ラストは「きっとね!」。終始笑顔で、本当に楽しそうな姿にこちらまで顔が綻んでしまう35分だった(MASAHIRO KITAGAWAのコーラスも最高!)。

中村佳穂の楽曲は、歌詞もメロディも誰も思いつかないようなアイデアで溢れている。端から見れば、彼女の音楽は既存のジャンルやスタイルへの破壊と創造のアプローチに満ちていると感じられそうなものだが、たぶん彼女はそんなに深くは考えていない。
例えるなら、既存の遊びに思いつきで新たなルールを追加したり、今までのルールを思いつきで無視したりしながら楽しさを追求していく子供のような純真無垢さが、彼女のオリジナリティを生み出しているのだろう。
そう考えると、各方面からの評価が高いのも納得である。



・osage(BEYOND)

ライブハウスの地下にライブハウスがあるという位置づけのBEYONDに登場したのは、実力のあるバンドを数多く輩出してきたmurffin discsのオーディションでグランプリを獲得した実績のあるosage。黒幕が開くと同時にメンバーが一人ずつ登場すると、「セトモノ」でライブをスタートさせた。
山口ケンタ(Ba,Vo)はベースボーカルなのだが、こういうバンドはベースラインがシンプルで味気のないものになってしまいがちなのに対し、このバンドはベースもよく動いている。それがよりグルーヴ感を生み出していたし、何より山口の歌声がいい。かなり好き嫌いの分かれそうなクセのある声だが、楽曲のノスタルジーを何倍にも引き上げていると感じる。

FM802でも聞いたことあるでしょ?」

と「Greenback」をかき鳴らすと、

「こういうサーキットイベントは人の移動が激しいから、アップテンポな曲を続けていかないといけない。でも僕らはあえてこの3曲目にバラードを持ってきました。あなたの最高を更新します」

と「スープ」を披露。彼らがバラードにも自信を持っていることがよくわかるし、実際バラードでも勝負していけるメロディの強さを持っている。

メロディがいい、とは便利な言葉だなあとは思うが、彼らの紡ぐメロディは、思い出の中のほんの一瞬のワンシーンを鮮明に切り出す美しさを帯びている。最新アルバムから演奏された「アナログ」は、過去を美しく精算できない不器用な彼らだからこそ生み出せるノスタルジーの真骨頂を見た気がした。

「僕等は大丈夫さ」

と強がるように歌う「ウーロンハイと春に」でライブは終了。この声がもっと広く届けばいいのにな。



・ヤングオオハラ(SUNHALL)

「SUNHALL」という名前の通り、陽性のメロディを引っ提げ登場したのはヤングオオハラ。ハローユキトモ(Vo,Gt)はリハの時から蛍光色のシャツを着ているため、暗くてもめちゃくちゃ目立っている。何となく鬱屈とした空気がある地下のライブハウス空間では異様な明るさだ。
「Y.M.C.A.」のゴキゲンなリズムに乗って登場すると、「新」、「Magic」からスタート。彼らを見るのは列伝ツアー以来だったが、今年は色んなイベントやフェスに呼ばれることが多かっただけに、しっかり場数をこなしてきたことがよくわかる音の力強さだ。
しばらくスマホを持たずに無人島にいたというユキトモは、帰ってきたらラグビーの話題に乗り遅れたことを明かしつつ、

「日本暗いよな。明るく、楽しくやっていこうぜ」

と語った。一見チャラチャラした風貌だが、大変な今だからこそ少しでも明るい気持ちを生み出したいという、しっかりと筋の通った意志がこのバンドにはある。

「アイラ・ビュー」でピースフルな空間を作り出すと、「サマタイ」では打ち込みも駆使してSUNHALLに夏をカムバックさせる。

「ダンスナイトをもっと」

というフレーズは日本が明るくなるように、と願いをかけているようだ。

「何もかもをぶち壊す爆音がほしい!」

とキラーチューン「キラキラ」ではバンドサウンドが更に強靭になっていたことが嬉しかったし、これからもこの曲と共にヤングオオハラの成長を追いかけ続けていきたいと思えた。

しかし、列伝ツアーで見たときはまだどんな色に染まるのか未知数なバンドだったが、J-POPに通じる正統派な楽曲もあれば、打ち込みを組み込んだワルなサマーチューンもあり、

「一緒にいい時代作っていこうな」

とバンドの決意と覚悟を感じた「美しい」ではパンクスの衝動を炸裂させたかと思えばシンガロングできたりと、本当に一言で言い表せない多様なバンドだ。
まだまだこのバンドには誰も知らない、正体不明の可能性があると信じている。日本暗いしさ、ダンスナイトをもっと。



・lical(club vijion)

アメリカ村一体から少し離れた北堀江に居を構えるclub vijionに出演したのはlical。プログレやポストロックを武器としている辺り、残響レコード大好きな自分にはドンピシャな音楽性だ。

「色んな思いがあってミナホに来てるんだと思います。でも今からの35分は、どうか私だけを信じて」

と轟音の響く「群青的終末論」でスタート。ジャンルがジャンルなだけに、メンバー一人一人のスキルが非常に高いし、rina(Vo,Gt)の歌声は時にサウンドと一体化したり、その中から鋭く突き抜けてきたりと変幻自在だ。

ハンドクラップを煽りながら「ワールドエンドサイレン」を鳴らすと、「four side effect」ではサビまで無機質な同期音のみで構成されており、静と動のバランスの良さを見せつける。演奏もそうだが、それに合わせて目まぐるしく転換する証明の鮮やかさも彼女らの世界観を後押しする。

「私は自分のことしか歌えないから」

と、時に寝転がりながら叫んだりしていたrinaは、余計な干渉を受け付けられない儚さと不安定さに溢れている。そんな彼女の映し身かのように「yellow iris」「nyctalopia」と内省的な世界が続くと、最後は「拔文」。
rinaのワンマンバンドである感じは否めなかったが、再びこのジャンルが脚光を浴びる日が来てほしいものだ、と切に願っている。



・Amelie(SUNHALL)

再びSUNHALLに戻り、次はAmelie。ミナホに出演するのは4年目だ。

「どうもー!」

と威勢よく挨拶すると、シリアスなメロディの「ライアーゲームじゃ始まらない」で勢いよくスタート。そして「手と手」へ続くのだが、ヤングオオハラに続いてこのバンドもまた、SUNHALLという舞台がよく似合う陽性のバンドであることが、元気一杯なMCでもよくわかる。mick(Vo,Gt)の歌声はギターロックに負けないぐらいパワフルだ。

来月リリースされるミニアルバムから、ラジオでもまだオンエアされていないという「月の裏まで」を初解禁すると、

「今はもう会えなくなった人へ作った歌」

と前置きして「ノンフィクション」へ。音楽があれば、何気ない日常もドラマチックになるということを、Amelieは証明してくれる。シンガロングを起こした「手紙」から

「まだまだできる!だって可能性はゼロじゃないから!」

と「ゼロじゃない」では性急なビートに合わさってmickの切迫した歌声が響く。

ラストはこちらも力強い言葉が届けられる「朝は来る」。

「来年はBIGCATに出たいなー!」

と彼女らは語っていたが、彼女らの歌は既にBIGCATにも充分に届くスケールを持っているはずだ。だからまた来年、更にでっかくなったAmelieを見たい。可能性はゼロじゃないから。



・Suspended 4th(AtlantiQs)

Amelieが終わってすぐに駆け付けたものの、既にAtlantiQsはいつ入場規制がかかってもおかしくないほどの満員っぷり(実際、自分が入ってすぐに入場規制がかけられていた様子)。今日ここまで、ライブが始まって少ししてからようやくフロアが埋まってきた感じのアーティストが多かっただけに、開演前からこの動員数は異常だし、おかげでステージが全く見えない。
ここまで注目を集めているのは、今夏にPIZZA OF DEATHからデビューしたSuspended 4th。リハの時点で一線を画すエグい音を鳴らしまくっており、ただならぬ雰囲気を作り出していた彼らは「INVERSION」から襲撃開始。ストリートライブで叩き上げられてきた、触れるだけで怪我しそうなキレキレのサウンドが武器ではあるが、みんながサビの歌詞を歌えているぐらいに彼らの楽曲が浸透しているのが恐ろしい。
思わず頭を振り乱したくなるようなヘビーな縦ノリはKing Gnuに通じるところもあり、「Vanessa」では

「さあ踊れ」

と鶴の一声でフロアを自在に揺らしまくる。みんなのノリ方が均一じゃないのも、様々なカルチャーを吸収してきた彼らの音楽を体現しているようだ。

終始ハイテンションな会場が更に沸騰したのは「ストラトキャスター・シーサイド」。全ての楽器が主役をもぎ取らんと突っかかってくるこの荒々しさが、彼らの凶悪な音楽性そのものだ。曲中には

「旅してくるわ!」

と間奏から長い長いセッションタイムへ。常に全楽器がソロをやっているのか?と勘違いしそうなほどテクニカルなセッションが何分やったかわからないぐらい続き、再びサビに戻ってくる展開は圧巻。正にねじ伏せる、という表現がぴったりの、凄まじいアクトだった。

「来年はBIGCATでお願いしまーす」

と鷲山和希(Vo,Gt)は話していたが、来年はもっととんでもないバンドになっていそう。



・WOMCADOLE(BIGCAT)

メジャーデビューを直前に控えた滋賀発のスーパーロックバンド・WOMCADOLEがBIGCATに登場。リハからもっと前に来い、と客席を挑発しまくると、

「心を寄越せ!」

と「人間なんです」でいきなりクライマックスのような展開に雪崩れ込む。安田吉希(Dr)の打ち鳴らす鋭いドラミングはそれだけでも大迫力だし、彼がこのバンドの勢いをブーストしまくっているのは間違いない。

続く「絶望を撃て」でも、エッジなサウンドが炸裂しまくる。頭音の爆発力は、My Hair is Bad04 Limited Sazabysに通じるところがあるし、ロックバンドのライブならではの鋭さを備えている。彼らこそがライブバンドと呼ばれるにふさわしい。

アルク」「独白」と休むまもなくエネルギッシュな楽曲が続くと、MCで樋口侑希(Vo,Gt)はアルバムのリリースを告知。しかしメジャーデビューするとは言わなかったのが彼ららしい。

「何か一つでも誇りになるものを見つけて帰って下さい」

と樋口は語ったが、関西にこんなにカッコいいバンドがいてくれることが何よりの誇りだ。

刹那の瞬間を詰め込んだ「アオキハルヘ」ではエモーショナルな一幕を見せつけ、

「新曲やります!旗を掲げ続けろ!」

と始まったのは「FLAG」。こんなにカッコいい曲を引っ提げてメジャーに行くのならば、もう我々は心配することは何もないだろう。

「悲しみも苦しみも全部燃やしてしまえよ!」

と本編最後は「ライター」。最後まで一度も立ち止まることなく駆け抜け、完全燃焼した35分だった。来年の今頃には、BIGCATすらもオーバーしてしまう程の支持を集めるようになっているのではなかろうか。



・あいくれ(DROP)

あっという間だった一日を締め括ったのはあいくれ。開演前、黒幕の後ろから登場したゆきみ(Vo)は本編でやる曲のコーラスを練習し、

「その調子でよろしくお願いします!」

と再び黒幕の中へ。こうした一幕を見られるのもサーキットイベントならではか。

アイデンティティ」からあいくれを知った自分にとって、このバンドはバラードのイメージが強かったのだが、「回顧展の林檎」を筆頭にプログレの匂いのする「リビルド」とアップテンポな楽曲が続いていく。流れるように美しいファルセットを歌うゆきみのボーカルは、疲れた身体によく染み渡る。

ライブ中、ゆきみは何度も

「出会ってくれてありがとうございます」

と語っていた。今年のミナホも二日間とも中止になってしまったように、時に予期せぬ事象が出会うはずだった存在を消し去ってしまうこともある。そんな中でこうして音楽を通して、あいくれだけでなく様々なアーティストと出会えた我々は、彼女の言うように奇跡の最中に生きているのかもしれない。
そんな奇跡がまた起きるように、「グッドバイ」を演奏してライブは幕を下ろした(本当はこの後に「やってられないよ」をやっていたらしいが、体力が限界だったので帰ってしまった)。



こういうサーキットイベントに行くのは初めてだったのだが、今まで行かなかった要因の一つにタイムテーブルの情報量の多さがあった。ミナホのように大量のライブハウスをジャックするとなると、満足のいくタイムテーブルを組めるのか?という心配があった。
しかしそこは長年続いているイベントなだけあって、割とスムーズに回ることができたし、振り返れば一日中どこかしらのライブハウスにいた気がする。

そのおかげで本当に色んな音楽と出会えた。こうして出会いの場を与えてくれるFM802にはリスペクトしか感じないし、できればまた来年、今日みたいな一日が作れたら幸せだな、と思う。

でもやっぱりミナミの街は怖い…。