Official髭男dism Tour 19/20 -Hall Travelers- @グランキューブ大阪 201911/1

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて聴いたのはたしか「What's Going on?」か「犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!」だったか。正直なことを言うと、その時のヒゲダンはテレビで紹介されることもあれど(たしかメジャーデビュー以前に関ジャムで「ゼロのままでいられたら」が絶賛されていた。今思えば先見の明があったなあ)、なんかパッとしないなあ、と思っていた。

転機が訪れたのは昨年10月。FM802で聴いた「Stand By You」のフックに惹かれ、「Stand By You EP」を聴いた。そこで自分がヒゲダンに抱えていたイメージが一気にひっくり返された。こんなに豊潤な音楽性を持っているバンドだとは想像もしていなかったし、まさに

 

「結果1発で180度 真っ白な歓声に変わるぞ」

 

という言葉が現実になったのである。

そこからのヒゲダンの爆進っぷりは説明するまでもないだろう。来年3月には大阪城ホールを含むアリーナツアーが決まっているなど、名実ともにスターダムへ駆け上がった。そしてここまでヒゲダンが支持を集めるようになったのは、先述したようなフックの効いたフレーズが多用されるようになったこととは無関係ではないだろう。ヒゲダンはただのポップスでは終わらないバンドだった。

 

そんなヒゲダンがグランキューブ大阪にやって来た。今日は2daysの初日。実はメジャーデビュー以前からひっきりなしにツアーを行っている、バリバリのライブバンドであるだけに、期待せざるを得ない。

 

開演時間を少し過ぎた頃、およそロックバンドのコンサートのものとは思えない厳かな深紅の幕が上がると、既にメンバーはスタンバイしており、その佇まいを見据えた人から大歓声を上げていく。1曲目は「イエスタデイ」。雄大なストリングスがこれから始まる旅の前夜の高鳴りを思わせる演出は、最新アルバム「Traveler」と同じ流れだ。最初は鳴っていた手拍子もいつの間にか止み、誰もが藤原聡(Vo,Piano)の歌声に酔いしれているようだった。

続いてホーン隊も登場し、

 

「走り出せ フリーダム」

 

と「Amazing」で火をつける。音源ではエレクトロな印象のあるこの曲だが、やはりライブとなると小笹大輔(Gt)の重厚なリフと松浦匡希(Dr)の生のビートが合わさってよりヘビーな印象を与えてくれる。

「Tell Me Baby」ではやはり長尺のセッションパートも加わり、小笹と楢崎誠(Ba)が同時にお立ち台に登壇するなど、臨場感のある演奏で会場を呑み込んでいった。

 

「久しぶりの大阪で今のヒゲダンをしっかり見せたいと思います」

 

と挨拶すると、「115万キロのフィルム」でハッピーなムードに…かと思いきや、流れるように

 

「笑っちまうよな」

 

とドスのきいた歌で「バッドフォーミー」、「Rowan」と続ける。幸せのてっぺんから一気にどん底へ突き落とすような流れを見ると、やっぱりヒゲダンはいい子じゃないんだなあ、と感じられる。

しかしその後は再び「ビンテージ」で温かなムードを取り戻す。この曲もそうだが、ヒゲダンの楽曲は今という瞬間にフォーカスした楽曲はそれほど多くない。これから訪れる未来や人生が明るくなるように、という願いが込められている楽曲群は、きっとこれから時間が経てば経つほど味が出てくるのだろう。

 

「ここから後半戦、みんなで楽しんでいきませんか!」

 

と会場に発破をかけると、とびきりポップな「最後の恋煩い」ではハンドクラップを促す。少し間が空いて、楢崎がバックバンドのサックス担当と二人っきりになり、「ゼロのままでいられたら」をサックスソロでしっとりと演奏。そのままベースをバックに任せ、楢崎がサックス、さらにはボーカルとして前に躍り出る「旅は道連れ」へ転がっていく。この曲では小笹もボーカルを担当したり、松浦が合いの手を入れたりしているのだが、ヒゲダンは本当に4人とも歌が上手い。小笹は前半はマーチングバンドのように太鼓を叩いていたなど、マルチプレイヤーっぷりも健在だ。

「ブラザーズ」 では楢崎がバックバンドを前方に呼び込み、サビのリズムに合わせてステップを踏む。松浦のドラムソロが挟まれたり、藤原が音楽隊のようにメンバーを引き連れたりとハイライトの多い楽曲だが、ステージにいる全員が笑顔で、心の底から音楽を楽しんでいる様子が伝わってくるし、それが客席に伝搬していってるのもわかる。

 

一旦暗転し、アメリカっぽい煽りが静寂を突き破ると、ヒゲダンで最もハードな「FIRE GROUND」が高らかに鳴らされる。開演前には今日再結成が発表されたMy Chemical Romanceが流れていた(もしかしたら「Pretender」の歌詞とも掛けていたんだろうか)が、藤原や小笹は元々はこういうハードな音楽を趣向していた関係。そんな二人のルーツがふんだんに発揮されたナンバーだが、やはりこの曲の主役は小笹。

 

「うちのギターを聴けー!」

 

と楢崎が号令をかけると、ステージ中央で片膝をつきながらメタラーばりの高速フレーズを連発する小笹はまさにギターヒーロー

 

「大阪まだまだいけるよな!?」

 

とテンションはそのままにホーンアレンジが豪勢に彩る「ノーダウト」をぶっ放つと、さらに「Stand By You」でもホーン隊を組み込んだアレンジを披露。もちろん手拍子もコール&レスポンスもバッチリだ。最後には客電も灯り、会場と共に我々の心までパッと明るくなったようだった。

 

メンバーに一人ずつスポットライトが当たり、丁寧に始まったのは「Pretender」。ヒゲダンという存在を多くの人に知らしめた名曲中の名曲なのだが、最新アルバムを聴けば、彼らが売れたきっかけは「Pretender」だけではないことが分かると思う。もう去年の時点で彼らのポップセンスは覚醒モードに突入していたし、「Pretender」はその過程にたまたまリリースされていたに過ぎなかったと。オレンジの光が会場を照らす様子は、きっとアリーナで聴いたらさらにスケールアップしているんだろうな、と予感させた。

最後は

 

「今日が終わるのが悲しいから 朝日よ2度と出てこないで」

 

とバンドの切実な思いが放たれる「ラストソング」。上述した歌詞だけを見ると悲嘆的な楽曲なのか、と思ってしまうが、歌詞と正反対にサウンドは夜明けをイメージさせる温かなムード。

確かに今日が終わるのは悲しい。けれど朝日が昇るからこそ、我々はまた会うことができる。そんな真逆の感情を実に見事に表現した楽曲だった。アウトロが流れながら深紅の幕が下りてくる様は、ヒゲダンと我々が否応なしに引き離される切なさもあったけれど、どこか希望を含ませられる余地のある、そんな終わり方だった。

 

ある意味ロックバンドっぽくない、ドラマチックな締め方をされたライブは、アンコールで再び幕が上がって早速曲が始まるという形で再開。かなりラフな格好になった4人は、「愛なんだが…」とここに来て1stミニアルバムの収録曲を披露。もちろん喜んでいた人もたくさんいたが、

 

「この曲知ってる人?」

 

と藤原が聞くとそんなに手は上がっていなかった。アルバムのリリースツアーとはいえ、こういうことが続くと昔の曲はどんどんやらなくなっていくんだろうか。

 

MCでは来年3月に大阪城ホールでライブをすることにも触れ、サカナクションのワンマンの時に城天でストリートライブをしていたということを告白(知らない人のために説明すると、大阪城ホールの前には長いストリートがあり、大阪城ホールでのライブがある日にはライブ帰りのお客さんをどうにか捕まえようとたくさんのアーティストが路上ライブをやっている。SCANDALとかは城天出身として有名)。そして自分達も憧れていた舞台にようやく立つことができる喜びを爆発させていた。

 

小笹や楢崎も忙しなくステージを動き回り、サイドステップのリズムを伝搬させていった「異端なスター」を経て、

 

「大阪といえばこの曲歌わなあかんやろ!」

 

と最後は客電を灯したところに「宿命」を投下して鮮やかにフィニッシュ。

 

「明日があるなんて考えていないです!」

 

と絶叫する藤原の歌もそうだが、本当にヒゲダンは音楽に対して、そして我々リスナー一人一人に対してとんでもなく誠実な姿勢で向き合っているバンドだな、と再認識する。だからこそ、彼らの曲は自分の心に届いた、と感じさせられる。曲を終えて名残惜しそうに去るメンバーの姿からも、そんな彼らの誠実さが垣間見えていた。

 

今後、ヒゲダンはもっともっと日本中に愛されるバンドになるであろう、という確信を持つことができた。しかもただ愛されるだけじゃなく、長い年月を通して愛されるバンドになるであろう、と。

 

それはもちろん楽曲の質が素晴らしい、ということもあるけれど、こうやってライブを見れば、いい人達がいい曲を鳴らしているからこそである、ということが一目瞭然なのだ。当たり前だが、こういうバンドこそが評価されるべきだと本当に思うし、ヒゲダンに仮に「ノーダウト」や「Pretender」といったセンセーショナルな楽曲がなかったとしても、売れるべくして売れたバンドであるのだな、とも思えてしまう。

 

これはもう大阪城ホールも行くしかないし、これからもライブに通い続けるしかない。そんな一日だった。ヒゲダンとは長い付き合いになりそうだ。今日の思い出もビンテージ、なんて言えるまで、これからもよろしく。