cinema staff BEST OF THE SUPER CINEMA JAPAN TOUR @梅田CLUB QUATTRO 2019/11/9

本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨年にデビュー10周年を迎え、来年は地元の岐阜で2日間にわたる自主企画を控えるcinema staff。9月にはインディーズ期とメジャー期に分けて2枚組ベストアルバムをリリースしており、このツアーはそのベストアルバムを引っ提げてのものだ。

自分が彼らを初めて知ったのは「望郷」の頃から。それから程なくして大型タイアップがついたことも含めて、ずっと彼らを追いかけ続けてきた。

しかしライブに関しては、彼らが大阪でライブをするときは謀ってるのかと思うぐらいほぼ毎回予定が被りまくっていて、これまで全く行くことができなかった。やっと去年のアルカラとのスプリットツアーで初めて見れたぐらいだ。もちろんワンマンは初めて。

 

開演時間丁度にフロアが暗転すると、SEに乗せて4人が一人ずつ登場。三島想平(Ba)はロンT、辻友貴(Gt)と久野洋平(Dr)はTシャツと動きやすそうな服装だが、飯田瑞規(Vo,Gt)はただ一人ベージュのジャケットを羽織っており、3人とは違って凛とした雰囲気を放っている。

そんな飯田が桃色の逆光に照らされながら

 

「行け 僕を放て 細いその目 開けたら新世界だ」

 

と歌い出すと、彼の合図で一気に照明が点き、「新世界」からライブが始まった。決して広くないクアトロのフロアが一気に開け放たれていくようなドラマチックな楽曲。ベストアルバムに収録されている新曲だが、最新のシネマが一番かっこいいということをこれでもかと証明しまくっている。

続いて「GATE」。残響ブームにあった当時のロックシーンにおいて、cinema staffの名を轟かせたきっかけとなった一曲だ。メンバーも勿論だが、サビを大声で歌うオーディエンス一人一人にとっても思い入れが深いことだろう。

 

「その孤独と手を取り合う あなたはとても美しい。

 でも、未来と手を取り合うあなたは更に美しいでしょう。」

 

というフレーズを考えついた三島は本当に天才だと思うし、彼の紡ぐ言葉がとても大好きなのだが、そんなフレーズを合図に疾走するサウンドに切り替わる「望郷」をはじめとして、彼らは故郷への思いが込められた楽曲がとても多い。この日のMCでも来年に開催するOOPARTSの宣伝をし、飯田が

 

「今年できなかった分パワーアップしてます。岐阜の伝説になるかも……」

 

と自信を覗かせていたほど。そう言われると、いつか彼らの出身である岐阜にも行ってみたいと思わせてくれる。

 

辻のエッジィなギターを皮切りに「白い砂漠のマーチ」でさらに勢いづけると、「daybreak syndrome」「君になりたい」と懐かしい楽曲が続く。

飯田の煽りから飛び込んだ「西南西の虹」は自分がcinema staffを知ったきっかけになった曲だ。とびっきりノイジーなのだが、そんな轟音の最中にいても飯田の歌は楽曲の芯となり、一筋の道標のように響いてくる。これこそがcinema staffの強みだ。

間髪入れずに

 

「俺達に奇跡はいらない!」

 

と「奇跡」では今日この日の思い出を茜色に染め上げる。何もかもをかなぐり捨てていく衝動性を生み出しているのは、久野のキレキレのドラムを軸とした爆発力のあるサウンドだ。

更にこの曲では中盤に辻がドラムスローンを持ち出し、飯田の隣に設置して座り込むという場面も。4人の中で一番自由奔放なステージングをしている彼だが、そんな彼の突然の行動をスタッフは顔を綻ばせながら見守っていて、チームの空気の良さを感じることができた。

 

MCではベストアルバムの話題になり、österreichの高橋國光と共作した「斜陽」の話へ。飯田が山中湖で行われたレコーディングの様子を

 

「楽しかったよね」

 

とメンバーにも共感を求めるも、なぜか全員と目が合わず、会場が微妙な空気になる。それで動揺したのか、飯田がキーボードを弾く次の「Name of Love」では伴奏がミスしまくって一部がアカペラになってしまっていた(その後にはちゃんと久野と相互で「ごめん」と謝りあっていた)。でもこういう狂いがあるのがロックバンドのライブだし、「珍しいな」って感じで笑い飛ばせるのもロックバンドならではだな、とも思うわけで。

 

その後はちゃんと調子を取り戻し、「制裁は僕に下る」「シンメトリズム」と初期のダウナーな楽曲が続く。飯田の美しい歌声はこういう内省的な世界観もすごく似合うし、「新世界」やこの後に演奏された「HYPER CHANT」のようなスケールの広い楽曲を凛としたメロディで彩ったりもする。本当に類い稀なボーカリストだな、と思うし、そんな彼を活かしまくっている三島の楽曲群も本当に素晴らしい。

 

久野の弾幕のようなドラミングが高揚感を煽る「優しくしないで」、「第12感」を経て、MCではいつもより男性客が多いことに触れつつ、

 

「みんなのおかげでロックバンドやれてます、ありがとう」

 

と感謝を告げる。今でこそベストアルバムというのは年にたくさんのアーティストが趣向を凝らしながらリリースしてきているが、当然のことながらベストアルバムをリリースするというのは簡単なことではない。そもそも数々のロックバンドがこうしてライブを続けてこれていること自体が奇跡に近いのに、コンスタントに最新の音源をリリースし、その度にちゃんとそれまでの自分達を超えていったという自信が積み重っていなければ至ることができないポイントでもあるわけで。そこにcinema staffも到達したということが本当に嬉しいし、バンドを続けてくれてありがとう、とこちらこそ感謝を告げたくなる。

 

「自分のために歌ってくれ!」

 

と「HYPER CHANT」でシンガロングを巻き起こすと、ラストスパートは最初期のアルバムに収録されている「AMK HOLLIC」から。ここまであまり立ち振舞いに感情を乗せてこなかった飯田が、衝動的なサウンドに乗っ取られたかのようにギターをかき乱す。ボーカルもがなり気味だし、彼は一度火が点くと抑制しきれない、本当はアツいタイプのボーカリストなのだろうか。

 

「俺達がスーパーロックバンド、cinema staffだ!!」

 

と三島がシャウトしたのはスーパーロックバンドのテーマソング、「theme of us」。前のMCで飯田は

 

「これだけ世の中にロックバンドが溢れてる中で、よく見つけてくれたね!」

 

と語っていたが、そんなMCを経て聞く

 

「僕はあの日に曲がり角を曲がらなくて だけど今の僕もそんなに悪くないな」

 

というフレーズはいつも以上にグサリと突き刺さる。一瞬の選択の積み重ねでこうしてcinema staffに出会えたことが本当に嬉しいし、ベストアルバムをリリースするまで追いかけてこられたこともとても幸せなことだな、と感じられた。

 

最後はツアーにも帯同している高橋國光を3人目のギタリストに迎え(しかもポジションはセンター)、

 

「この曲が生まれたことでいろんなことが精算できた」

 

という「斜陽」を披露。あのベストアルバムの曲順で聴いてもそうだし、この曲を聴くとどうしても胸が苦しくなる。自分の内側に、自覚はないけれど確かに自分自身が重ねてきた思い出に支えられているような感覚が生まれる。

その思い出の正体を掴むことはできないけれど、そこから溢れてくる暖かさにどうしようもなく涙が流れそうになる。

冒頭の「新世界」もそうだったが、これもまたシネマの最新曲。つまり彼らはまだまだ古くなる存在ではないし、これからもずっと最高を更新し続けてきてくれるだろうな、という予感を感じられた。

 

アンコールでは久野と飯田がハイネケンを開けつつ、高橋も再び登場。

 

「ツアー2公演目だけど、千葉の時は僕らより早く会場入りしてた」

 

と三島も語っていたが、メディアやライブなどの露出がほぼないにも関わらず、高橋國光という人物は本当に愛されているな、というのをメンバーとのやり取りから感じた。

自分はthe cabsのことはあまり知らないが(plentyに中村一太が加入したときに「すごいドラマーが入ってきた」と感じたのが初見)、自分の後ろにいた人達はライブが始まるまで元cabsの首藤義勝が活動しているKEYTALKの話をしていたし、これだけ支持を集めているのには理由があるはず。今日のライブを通してcabsも聴いてみようかな、と思わせてくれた。

そんな穏やかな雰囲気のアンコールはösterreich名義でリリースされ、飯田がボーカルをつとめた「楽園の君」から。今日のセトリの中で唯一ベストアルバムに収録されていない楽曲だったが、この選曲からも高橋への愛が感じられた。

最後は

 

「偽物だって構わない!俺達には今しかない!」

 

と飯田が前半のクールさはどこへやら、といった叫びから「first song(at the terminal)」へ。もちろんこの曲も高橋がギターを弾き、ただでさえ鋭利なシネマのサウンドがより強靭になる。

 

「もっとたくさんの人にシネマを知ってほしい」

 

と自慢げに語っていた三島の目はすごく輝いていたし、きっとこの場にいる誰もが同じ事を感じているはずだ。

だからこそ、2019も2020も、その先も、ずっとダイヤモンドを磨き続けていってほしい、と思うのだ。