SUPER BEAVER『都会のラクダ ″ホール&ライブハウス+アリーナ″ TOUR 2019-2020 ~スーパー立ちと座りと、ラクダ放題~』 @神戸ワールド記念ホール 2019/11/30

※本記事には現在進行中のツアーのネタバレがございます。この先の閲覧は自己責任でお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今年はライブMVも公開しつつ、春先からひたすらツアーしまくっているSUPER BEAVER。3月からライブハウスもホールも回ってきた今ツアーは、今日と明日に神戸ワールド記念ホール、来年初頭に代々木体育館でのアリーナクラスのワンマンを迎えて完走となる。武道館以来の大きなハコでのワンマンとなる神戸ワールド記念ホールでのライブは、彼らにとって今年最後のワンマンだ。

 

厳かなワインレッドのカーテンを後ろに控え、開演時間になるとオレンジの後光に照らされながら4人がステージに登場。柳沢亮太(Gt)の爪弾くギターに合わせて渋谷龍太(Vo)がゆっくりと

 

「一寸先が何なのか 一体明日がどうなのか

一瞬なんて一瞬で 考える間もなく過ぎ去ってく」

 

と「世界が目を覚ますのなら」が始まる。その歌声にバンドサウンドが合流すると、一気に視界が開けてステージ両脇のスクリーンに4人が映る。上杉研太(Ba)はじっくりとメロディを支える渋いベースを弾き、藤原"31才"広明(Dr)は時折笑顔を見せている。

 

「ようこそ神戸!ようやく来ることができました!」

 

と渋谷が勢いよく挨拶すると、始まりは「青い春」から。サビ前の手拍子を満足そうに受け止めながら

 

「歌おう!」

 

とシンガロングを求める。バンドが120%で演奏すればお客さんはそれ以上で返してくる。この熱量のキャッチボールが彼らのライブならではだ。

フェスとかでやると渋谷がシーッと口をつぐむように指示することもある「閃光」も、やっぱりワンマンだからしっかりと静寂の空間が生まれ、それによって激しい演奏とのコントラストが際立つ。紆余曲折はあっても彼らにとって15年はあっという間だったんだろうな、とこの曲を聴くと思うし、自分も何か今すぐアクションを起こさなければ、と奮い立たせられる。

 

「今日を楽しみにしてきた人がこれだけいるんですよ!柳沢くんよろしく」

 

とテンションを持続させたまま柳沢の踊るようなギターが耳を引く「ラブソング」では、普段クールな演奏をしているというイメージがあった上杉がお立ち台に立って「俺が手本だ!」と言わんばかりに目一杯ハンドクラップをする。ビーバーの楽曲を手がけているのはほとんど柳沢だが、その楽曲を伝えるためのアツさをバンド全員が共有しているということがよくわかる。

 

「皆さんまだまだ体が硬いようですね!今から神戸をダンスホールに変えますんでしっかり体を動かしてください!

いいですか?ダンスホールの条件はただ一つ。全員が踊っているということです!」

 

と「irony」の跳ねるビートで会場を温め切ると、そこに「正攻法」をぶち込むという秀逸な流れ。ここからは赤いカーテンが降りて鉄骨と照明が剥き出しになったステージ後方に4面のスクリーンが現れ、それらが上下に動きながら時にビジュアライザーとして、時に歌詞をでかでかと叩き出す役割で機能し始める。アリーナならではの演出だし、遠目に見ると「おお、アリーナワンマンっぽい」となるのだが、こういう演出がなくても彼らのサウンドは既にアリーナクラスの会場を掌握する力を持っていることがここまでで十分に伝わってきている。

そのビジュアライザーがバスドラムの四つ打ちと同じビートを刻み出すと、

 

「わかってると思うけどな。束になってかかってくるな、お前一人でかかってこい!」

 

と「秘密」では再びシンガロングを巻き起こす。皆が声を上げるのではなく、一人一人が思い思いの声を上げ、叫び、幸せに手を叩き笑う。彼らのライブはいつだってこうして心をさらけ出してもいいと思えるほど間口が広くて、温かい。

たまたま持ってきたパンツから数年前のCOMIN'KOBEのリストバンドが出てきたという渋谷。今年こそ神戸ワールド記念ホールでやるのは難しくなったカミコベだが、今もなお全国から志をもったバンドが集う場所なのは変わらないし、ビーバーもその一員としてずっと神戸でライブをし続けてきた。

 

「新しい出会いも増えたけど、志半ばで辞めていった人も、もう会えなくなった人もいる」

 

というMCはきっとそんなカミコベの首謀者である松原裕氏のことも指していただろうし、15年目で始めてのアリーナワンマンはきっと彼にも見てもらいたかったことだろう。

そんなMCを経て始まったのは「まわる、まわる」。インディーズに移って以降、彼らはそれまでのほとんどの楽曲に自ら決別を下してきた。そんな彼らが今こうしてメジャー時代の楽曲をやったことについて、渋谷は

 

「時間がたてば昔の曲も受け止められるようになってきた」

 

と語っていた。まさに、

 

「時間が解決してくれる」

 

その言葉通りだ。

ここで多少のごたごたがあったものの、観客を一度席に座らせて(今日はアリーナもスタンディングではなかった)落ち着いた雰囲気で「your song」、「人として」を披露。ツアータイトル通り、立ちだけでなく座りのスタイルでも楽曲の魅力を引き出してみせた。キャッチボールばかりでなく、一人一人が曲を受け止めてそれぞれの形に還元するという作業が丁寧に行えるのがこの座りの時間だったのだろう。

 

中盤のMCではメンバー一人一人に話してもらうつもりが、藤原だけ忘れ去られる展開に。そんな藤原を含めて3人が

 

「気持ちいー!」

 

とアリーナに大声を響かせると、渋谷も負けじと

 

「夢叶えさせてもらっていいですか?」

 

とワクワクした表情で話し、

 

「アリーナ~!」

 

と叫ぶという自らの夢を叶える。明日も同じ会場でワンマンがあるが、これをするのは今日限りだとのこと。そんなお茶目な振る舞いが繰り広げられた後は藤原のパワフルなドラミングから轟音を炸裂させ、「歓びの明日に」から後半戦の火蓋を切ると、

 

「一歩踏み出す勇気を与えたいと思います!」

 

とここで再びビジュアライザーが発動して「予感」のダンサブルなビートでアリーナを揺らす。昨年にリリースされた曲ではあるが、15年目のバンドが作ったとは思えないほどフレッシュな無邪気さや無鉄砲さに溢れている。それはこのバンドの生き様そのものが楽曲に体現されているという証拠だろう。しかしこの曲、よく聴くとどのパートもそれなりに難しいことをやっている。

渋谷がスタンドマイクの前に陣取って歌う渾身の「27」は、最新アルバムの楽曲ではないながらも今年の彼らを引っ張っていった楽曲だったといえる。それは年始にMVが公開され、CMソングに抜擢されたという背景もあっただろうけど、やっぱりバンドが今この曲を届けたいと本気で音を鳴らしているからこそでもあるだろう。

 

「ロックスターは死んだ」

 

と歌う渋谷は、風貌だけじゃなく存在感まで、紛れもなくロックスターだ。

 

ここでステージ上部の照明が降りてくると、客席側を照らすように斜めに傾き、その先頭にミラーボールが降臨する。となれば次の曲はもちろん「東京流星群」だ。

 

「見える?」

 

と渋谷は問いかけていたが、ミラーボールが見たこともないほどの光を反射し、流星群を降らせていた一瞬のシーン、もちろん見えていたとも。

3年前に某冬フェスで彼らを見たときもこの曲をやっていたのだが、ボーカルが籠もりすぎてどんな言葉を叫んでいるのかわからなかった。でも今ははっきりと聴こえる。一人一人の声が星を降らせている。

 

「今日の歓声を絶対に忘れません!」

 

と渋谷は叫んだ。自分も絶対に忘れないと思う。

 

「何のために生きてるのかなんて答えられる人はいないと思うし、俺も何で歌っているのかちゃんと説明できない。でも今日みたいな日のために歌ってきたんじゃないかなって、そう思います」

 

と満員の会場を見渡した渋谷は

 

「あなたは俺たちが歌う理由です。俺たちがステージに立ち続ける理由です。これからもかっこいいバンドであり続けますので安心してついてきてください」

 

と締め括り、「全部」を届けた。こういう大事なことを包み隠さず、背伸びせずに真摯に伝え続けてきたことが、一度はゼロからのスタートを切りながらもバンドがアリーナ2daysを売り切った結果に繋がったんだろう。

 

自分もそうだが、今日この会場にいる人で彼らをメジャーの頃から応援していた、という人はきっと少ないだろうし、きっとここ数年で知ったという人ばかりだろう。だけど、そんな人たちにも積み重ねてきた言葉が響いている。端から見れば遅咲きのバンドだと思われがちだが、これまでの15年の全部が今のビーバーの楽曲を築き上げているのだ。

 

そんな万感の最中で、最後に鳴らされたのは「美しい日」だった。今日までの道のりが最短だったとは微塵も思わないけど、こうして誰もが美しい日を噛みしめいている。そんな瞬間に立ち会えたことを思うと、やっぱり自分は彼らに出会ってよかったな、と思うし、自分ごときが彼らの歌う理由になるのなら、人生捨てたもんじゃないよな、とも思うのである。

 

「秘密」のシンガロングが交錯する中でアンコールとして再び登場した4人は開口一番、

 

「次のアンコールの1曲が終わったらまたそれぞれの人生です。でもその道が太くなったり細くなったり、危うくなったり安全になったり、その先でまたこうして会えたらいいなと思います」

 

「俺らの曲はあなたには届くけど、あなたの大切な人にまでは届かない。そういう風にできてるから。だから後は任せたぜ」

 

と告げ、「ありがとう」へ。常に大切なことは素直に言葉にしてきたバンドだからこそ、そんな彼らが歌う

 

「ありがとう」

 

には本当に説得力がある。今日集まった人たちの、それぞれの大切な人にこの言葉が伝わっていけばいいのにな、と思いを馳せたくなるし、自分も身近な人たちのことを思い浮かべてしまう。そんな想像力を掻き立てる力がこのバンドにはあると、改めて思い知らされた。

 

アリーナ公演はまだ3つ残っているけど、最初のアリーナ公演は今日が最初で最後。そんな一日をあくまでもこれまでの延長線上に置きながら、そのスケール感を見せつけてみせた2時間だった。

今日のライブを見る前は、数年後の彼らはアリーナツアーでも十分やっていけそうなバンドだな、というイメージを持っていた。でも今日のライブを見ると、やっぱり彼らはライブハウス育ちで、ライブハウスで生きていくバンドなんだな、と改めて思えた。アリーナツアーなんてでっかいことは求めなくていいのかもしれない。次はライブハウスで。